東川篤哉「烏賊川市」シリーズ第7弾『私の嫌いな探偵』あらすじとほんのりネタバレ感想

烏賊川市シリーズ「私の嫌いな探偵」のあらすじと感想をまとめました。ゆるい設定と軽い登場人物たちのおかげでコミカルなミステリーになっていますが、提示される謎は普通に難しいです。

本格的なミステリーは手に取りづらいという方にもおすすめの一冊です。

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「私の嫌いな探偵」書籍概要

烏賊川市シリーズ7冊目となる短編集で、「死に至る全力疾走の謎」「探偵が撮ってしまった画」「烏賊神家の一族の殺人」「死者は溜め息を漏らさない」「204号室は燃えているか?」の5作品から構成されている。

  • 私の嫌いな探偵(2013年3月/光文社)
  • 私の嫌いな探偵(2015年12月/光文社文庫)

死に至る全力疾走の謎

鵜飼探偵事務所が入居する黎明ビルの若きオーナー・二宮朱美は、真夜中にわずかな振動とともに踏みつぶされた猫のような叫び声を聞いた。気になって最上階の自室から外を覗くと、隣接する駐車場に大の字で伸びている見知らぬ男がいた。重症ではあるが命に別状はなかったその男は、頭に強い衝撃を受けたことによる一時的な記憶障害で昨夜のことは覚えていないという。当時駐車場での事件を目撃していたアルバイト学生によると、男はなぜか全力疾走で黎明ビルに向かって走っていき、そのままビルに激突したそうだ。

また近所の酒屋が事件の前夜、駐車場の上空にふわふわ浮かぶ黒い物体を見たらしい。そして鵜飼が、駐車場を挟んで向かいに建つビルの入居者・節約生活を送っている独居老人の家に一日中部屋の明かりをつけっぱなしなことに不審を抱いた。

隣をビルを張り込む探偵たちの前に不審な人物が現れ、小競り合いの末捕まった。その人物がチェーンロックを破った部屋からは、例の独居老人の死体が見つかった。

 

話の流れからいって全力疾走の男と独居老人の死には関係があります。現場の状況と、散りばめられている目撃証言を上手に回収していって、一体どういう経緯を辿って全力疾走男が出来上がったのかという事件の全貌を順序良く組み立てていく話です。不可解な現象がすべてきっちりと事件の一部になっています。非常に読みごたえがありました。

探偵が撮ってしまった画

朝の10時に自宅に来てほしいというメールを受け取り、大学生の小松綾香は佐々木教授宅の門前に立った。そこにはすでに同じ大学の青山教授と森准教授がおり、綾香同様メールで呼び出されたのだという。門から玄関までは前日に降り積もった雪で一対の足跡のみがあるだけだった。チャイムで呼び出しても応答がないのを不審に思った3人は家に上がり込み、2階の寝室で首にガウンの腰ひもが巻かれた状態で死亡している佐々木教授を発見した。自殺だという。

鵜飼はある女性から夫の浮気調査を渋々引き受け、浮気の証拠を撮影するため雪ダルマを隠れ蓑にして一晩中あるアパートを張っていた。うかつな対象者らのおかげで証拠写真を連写しまくり、顔もばっちり取れて無事任務を終えたかに思ったが、数週間後、依頼者の妻が夫が殺されていたと慌てた様子で探偵事務所に駆け込んできた。鵜飼が聞き出したところによると、慰謝料の支払いで離婚を渋っていた夫が、鵜飼の取った大量の証拠写真を見たあとに急に離婚に応じるようになったらしい。夫は鵜飼の写真に何を見つけたのか。

鵜飼の写真には、自殺した日の佐々木教授宅が背景に入り込んでいた。

 

密室殺人です。雪と密室は相性が良いようで色々な本で目にします。密室を作ったトリックはごく単純で、あちこちで使われ過ぎてトリックの候補から外れていそうなものだったのですが、それを見破った方法が秀逸でした。コミカルパートに騙されて読み過ごしがちですが、きっちりとそこにも伏線を張ってくるので東川さんの本は癖になります。

烏賊神家の一族の殺人

烏賊川市にある烏賊神神社(いかがみじんじゃ)の鎮守の森には2つの祠があった。イカが立っている図柄の「烏賊さまの祠」と、イカが逆さまに立っている図柄の「逆さまの祠」だ。宮司に呼ばれて長男・真墨の恋人の身辺調査を依頼されている最中の鵜飼と付き添いの朱美は、アルバイト巫女が慌てふためいてやってくるのに居合わせた。「逆さまの祠」で女性が刺殺されているというのだ。急いで現場へ向かった鵜飼と朱美だったが、「逆さまの祠」には遺体などどこにも見当たらない。烏賊神家の娘・伽墨、墨麗なども出てきてアルバイトの気のせいではないかという中、鵜飼はアルバイト巫女から、女性はうつぶせに倒れており背中には燭台が刺さっていたこと、祠にある逆さまの烏賊の銅像を手に持ちまるでキスしているかのような状態だったことを聞く。

巫女の案内で再び祠を見に行った2人は、祠の扉の向こうに血に染まった女性の遺体を発見した。宮司によると、被害者の女性は調査を依頼するつもりだった真墨の恋人だという。

その頃、神社の境内付近ではイカのゆるキャラ・剣崎マイカが撮影を行っていた。

 

遺体消失トリックとダイイングメッセージものです。謎に包まれる鵜飼達に代わり、ゆるキャラ探偵が事件の謎を解きます。イカのゆるキャラだけあってイカの生体に詳しいのです。

イカに関する勘違い(思い違い)を利用したトリックでした。烏賊さまだの逆さまだのと出てくるので混乱して途中放り投げそうになりましたが、イカについて一つ勉強になりました。

死者は溜め息を漏らさない

盆蔵山の中腹に猪鹿村。中二病を患っている少年は家へと帰る近道の山道を通っている最中、そばの崖から落ちてくる物体に出くわした。物体は人間の男で仰向けになったままピクリとも動かない。そしてぽっかりと開いた男の口から溜め息のような煙のようなものが吐き出されているのを見た。それは少しだが輝きを帯びていた。エクトプラズムだと結論付けた少年はパトカーのサイレンの音を耳にし、家に逃げ帰った。

被害者は一人で休暇でドライブに出かけていた市の職員だった。日が暮れて明かりがない中、足を滑らせて崖から落ちたらしい。警察の捜査に納得しない母親に調査を依頼された鵜飼と朱美が現場で聞き込みを行っている様子を物陰から追いかけていた少年は、鵜飼達に自分が見たことを話して聞かせた。

鵜飼達が、鵜飼を名探偵だと誤認識した制服警官の案内で通報者のところへ行くと、彼は竹ぼうきを逆さまに持って上空に掲げ、奇妙な動きを繰り返していた。事件当夜、崖の方から悲鳴が聞こえたので通報したのだというが、言動が少しおかしい。

何かに気づいたらしい鵜飼は夜になれば分かるという。朱美は猪鹿村を流れる小川のそばで鵜飼とともに、夜を待って時間を潰していた。その小川は烏賊川市を流れる烏賊川の支流の一つ・大王川の源流で、小さいながらも澄んでいた。

 

死者の吐いた溜め息の正体、竹ぼうきを手にした通報者の奇妙な動きという2つの謎が提示された短編でした。川にその謎の答えがありました。田舎ならではの事件でした。

204号室は燃えているか?

滞っている家賃の支払いのため嫌々ながら渋々恋人の浮気調査を引き受けた鵜飼と流平は、対象者・辰巳千昭を張っていた。辰巳はアパートの204号室に住んでおり、すぐそばには監視にお誂え向きの空き家があり、トタン板を張られた物干し台の隙間から204号室のベランダが良く見えた。

無断で空き家に侵入した2人の応援にやってきた朱美とともに、3人は辰巳の部屋にドレスを着た長い髪の女性の後ろ姿を見た。顔は分からないがこちら側を向く辰巳と抱き合うような恰好になりそのまま2人で倒れこんで視界から消えた。ラブシーンだと興奮する鵜飼と流平に呆れていた朱美は、204号室から火が出ているのを目撃した。通報とともに慌てて空き家を飛び出し救出に向かった鵜飼と朱美は、アパートのベッドの上で刺し殺されている辰巳を発見した。髪の長い女は煙のように消えていた。

事件発生時にアパートそばで豆腐を売っていた青年に尋ねると、204号室から出てきた人物はいなかったという。

その後、辰巳がある女性に振られた話を聞きつけた鵜飼は、振った理由を知り事件の全貌が分かった。

 

容疑者消失トリックです。部屋にいたはずの女性が、誰にも目撃されることなくいなくなっていたという謎に鵜飼たちがチャレンジします。辰巳に関しては何となく察しがつきましたが、消失トリックは分かりませんでした。

 

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笑いでけむに巻きながら伏線を張るというのが分かっていながら、いつも気持ちよく騙されます。そろそろ烏賊川市シリーズの新刊が読みたいです。

 

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