東川篤哉『伊勢佐木町探偵ブルース』あらすじとネタバレ感想

東川篤哉さんの「伊勢佐木町探偵ブルース」のあらすじと感想をまとめました。

親の再婚で義理の兄弟になった私立探偵と県警の刑事が、でこぼこなやり取りをしながら結果的に裏で事件を解決するというのが基本形態のようです。主人公桂木の舎弟・真琴がいい味出しています。

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「伊勢佐木町探偵ブルース」書籍概要

横浜の老舗商店街・伊勢佐木町にひっそりと事務所を構える私立探偵・桂木圭一。時代遅れなスカジャンを愛用する舎弟・黛真琴を引き連れて、港町で起きる重大(?)事件の調査を生業にしている。ある日、知らぬ間に再婚していた母親の新居を訪ねると、そこは山手の大豪邸。お相手はなんと神奈川県警本部長で、しかもその息子は伊勢佐木署のイケ好かないエリート刑事だった…!やたらと現場で鉢合わせる義兄弟、このビミョーな関係一体どうなる!? 「BOOK」データベースより

  • 伊勢佐木町探偵ブルース(2019年8月/祥伝社)

過ちの報酬

横浜の伊勢佐木町で探偵事務所を構える桂木圭一は、底抜けに能天気な舎弟の真琴とともに元は中華料理屋と思われるある廃屋を張っていた。依頼人はクラブ「胡蝶」で働いている高森涼子、溺愛するペットの猫・ノロちゃんを探してほしいというものだった。アパートからノロちゃんが逃げ出して以降、涼子は月・火と自力で探し続けたが駄目だったため依頼に訪れた。いったんはノロちゃんらしき猫を廃屋に追い詰めたものの逃げられた2人は、涼子のアパートの近くにいるのではないかと考えそれらしき白黒の猫を見つけて追いかけたものの、二人組の男女に邪魔されて逃してしまった。二人組は伊勢佐木署の刑事で、近所で一人暮らしの老人が何者かに刺されて亡くなった事件を追っており桂木と真琴を不審者として話を聞きかけたが、桂木が名前を名乗ると男性刑事の方が態度を翻し去って行った。

その後桂木と真琴は児童公園にいた小学生から、ノロちゃんらしき白黒の猫が車に轢かれた事を聞く。念のため涼子から入手したノロちゃんと首に巻いたリボンの写真も見せたが間違いないと言う。桂木は涼子の元へ行きノロちゃんが事故で命を落としたことを報告すると、かなり落ち込んでいたようだが後日改めて報告書と請求書を郵送すると無事涼子から依頼料は振り込まれた。

桂木の母親は小料理店を営んでいたが、いつの間にか常連客の一人と再婚したらしい。義理の父親と会うべく桂木は初めて母親の住んでいる再婚相手の家へと向かう。そこは高級住宅街の中に建つ要塞のような豪邸だった。中小企業の社長かと思っていた再婚相手は代々警察官僚を輩出している名家で現在の神奈川県警本部長、その息子も現職の刑事だという。義弟がいたことに驚く桂木の目の前に、ノロちゃん探しで桂木達に職質をしかけた男性刑事が現れた。彼こそが母親の再婚によって桂木の弟になった一ノ瀬脩だった。ぎこちないながらも会話を交わした桂木は、一ノ瀬から彼らの追っている事件の被害者は天涯孤独の老人で特にトラブルもなく、最近頻発している空き巣狙いの窃盗犯と運悪く鉢合わせしたため殺害されたという情報を得た。

真琴が「胡蝶」へ行ってみたが涼子が既に辞めており、気になって行ったアパートにもずっと帰っていないらしいと聞いた桂木は、涼子の部屋へ向かう。確かに郵便物やチラシがポストに溜まっている。確認のためアパートの裏に回りベランダの窓から室内を覗き見るともぬけの殻なのがカーテンの隙間から見て取れる。またカラーボックスの上にてっぺんに目玉のようなものが付いた円筒形の奇妙な物体を見つけたものの、チャイムの音がしたため急いで部屋から離れた。チャイムを鳴らした三人組の男達は大声で名前を呼んだりドアを蹴りつけたりと素行の良くない連中だった。

「胡蝶」に向かった桂木は、涼子が男に貢いで借金を作っていた事、昼間はコンビニでバイトもしていた事などを聞き出すと、続いてバイト先のコンビニで昼の休憩中に突然腹痛を訴えて早退しそのまま電話一本で辞めてしまった事を聞いた。涼子の猫好きはコンビニでも知られており休み時間はスマホで猫の動画をよく見ていたという。涼子が早退した日と胡蝶を休んで猫を探していた日は重なっていた。また辞める直前、涼子はコンビニに来るスキンヘッドの男を気にしていたらしい。タイミング良く来店していたたスキンヘッドを尾行した桂木だったが、バレていたらしく殴られて気を失い、目を覚めた時には倒れ込んでいた路地裏で白黒の猫に頬を舐められていた。死んだと思っていたノロちゃんだった。

桂木は母親経由で一ノ瀬の携帯番号を聞き出すと、彼らが捜査している窃盗犯の中にスキンヘッドの男と特徴が一致する人物がいるかどうか尋ねる。機密情報だと口を割らない一ノ瀬だったが、桂木との取引だと言い桂木の持つ情報と引き換えに桂木と合流して動くことになった。一ノ瀬とともにスキンヘッド男の住まいを張っていると、マンションから男が姿を現しふらふらとどこかへ歩き去って行く。尾行しなくていいのかと尋ねる一ノ瀬だったが、桂木の目的はスキンヘッド男の近くにいるだろう別の人物……猫の復讐のためにスキンヘッド男を狙っている高森涼子だった。涼子はある映像をきっかけにノロちゃんが死ぬ原因となったスキンヘッド男に復讐をしようと考えていたのだった。

 

桂木達が誤って溺愛するノロちゃんが死んだと報告したため、涼子は復讐を決意しました。なぜ涼子がスキンヘッドを狙ったのか、また今回の猫の捜索が一ノ瀬たちが追っている独居老人殺害事件とも繋がっているのですがどうこの2つを繋げたのか、桂木の推理によって明らかになりました。

尾行の顚末

弟の雅美に秘密の交際相手がいるのではないかという疑いがあるので探ってほしいと姉の上杉麗香の依頼で、桂木達は会社から帰る上杉雅美を尾行することになった。雅美はエリート会社員で許嫁がいるにもかかわらず、一人暮らしをしている部屋に若い女が出入りする姿を目撃されていた。

仕事を終えた雅美はスーツ姿のまま女性向けのブティックで花柄のワンピースを購入後、公園のトイレへと入っていった。出てきたのは背の高い女性と見覚えのあるワンピース、雅美の部屋を出入りしているという若い女性は、雅美自身が女装した姿だったと判明した。食事をしたりナイトクラブに行ったりと尾行を続けながら麗香に報告をするとすぐに行くという。やってきた麗香は雅美を店から強引に連れ出すと怒りながら弟を殴り倒した。

半月ほどして桂木の事務所に一ノ瀬と、彼とコンビを組む女性刑事の松本がやってきた。半田俊之という男について話を聞きにきたという。強請りをやる自称フリーライターの半田に過去悪徳探偵の汚名を着せられた桂木が腹立たしさをぶちまけると、その半田が殺されたことを知らされる。半田の事務所兼住居がある雑居ビルの3階の玄関先で腹部を刺され失血死していたのが発見され、被害者に恨みを持つ人間を洗ううち桂木もリストアップされたらしい。降りかかる火の粉を払うため、桂木は半田の事件に首を突っ込む。行きつけのスナックで常連客のバイト先に半田がやってきたことがあるという情報を得る。衝立越しに半田は若い男をネチネチと強請っており、強請られていた若い男が上杉雅美だと常連客は証言した。

母の再婚先と向かった桂木は、一ノ瀬と事件について話し合う。警察でも既に雅美の存在を認識しているが彼は犯人ではないという。その根拠となる情報について口を噤む一ノ瀬に何とか「冴島探偵社」というヒントを貰った桂木は、顔なじみのその事務所から半田の殺害された時間帯、雅美には尾行がついており完璧なアリバイがあることを知った。依頼人も依頼内容も伏せられたが、おそらく麗香が雅美の尾行を依頼したのだと推察できるものだった。冴島探偵社では依頼内容も事件当時雅美がどういう行動をとっていたかなどは一切明かさず、アリバイだけを証明したらしい。桂木は半田の入居していたビルの4階の店主から、半月前のある日の夜、半田が白いワンピース姿の女と大声で言い争う声を聞いたという証言を得る。半月前といえば、ちょうど桂木達が雅美を尾行していた時間帯だった。その話を聞いた桂木は、半田殺しの犯人がやはり雅美だったことを確信した。アリバイトリックを見破った桂木は、雅美が犯罪に関わっていることを伝えるため上杉邸へと出向いた。

 

アリバイを崩し犯人を見つけた油断からか、犯人側の逆襲を受けて生命の危機に晒された桂木でしたが、一ノ瀬のおかげで何とか助かり事件も解決しました。

家出の代償

高級住宅街に住む三田園夫妻に呼ばれた桂木たちは、家出した高校生・三田園拓也を見つけ自宅に連れ戻すという依頼を受けた。三田園家では父・母・拓也のほかに大学に通うため地方からやってきて居候している塚原詩織が暮らしていた。今回の依頼は、母親が再婚し義理の父親ができて以降家庭内でうまくいかなくなっての家出かと思われたが他にも事情があった。拓也には近所に住む一人暮らしの祖父・天馬耕一の殺害容疑も掛かっているらしい。犯人は窓ガラスを割って家に侵入すると天馬を刺し殺し、室内を物色して金目の物をことごとく奪って逃走していた。母親によると拓也は、中学時代の家庭教師・岩本を慕っており何かあれば彼を頼るのではないかと言うが、家庭教師が終了した今現在は居所も連絡先も分からない。

早速桂木は三田園家の近所に住む義弟の一ノ瀬を尋ねると事件の詳細を聞く。天馬の遺体を発見したのはやはり近所に住む40代の天馬の甥で、天馬を訪ねたところ玄関が施錠されておらず寝室はもぬけの殻、リビングにもいないと心配して探し奥の和室で血まみれで倒れている天馬を見つけた。

桂木達はまず岩本の行方を探し出すと彼のアパートを張った。案の定岩本の部屋に転がり込んでいた拓也が暇を持て余してゲームセンターに向かうのを尾行すると、クレーンゲームをする拓也を捕まえた。拓也が狙っていたサイのぬいぐるみをいつの間にかゲットし気前よくプレゼントする真琴とともに喫茶店で話を聞く。拓也は家出をすることを伝えるため祖父の家に寄っていた。だが寝室に祖父はおらず、岩本の家に行くとメモを残すと枕元にあった携帯型の音楽プレイヤー(拓也が祖父に貸していたもの)を持って家を出た。祖父は音楽プレイヤーでラジオを聞いていたのではないかと拓也は話した。その後拓也を連れて三田園家へ行こうとしたが、隙を見てサイのぬいぐるみを真琴に投げつけられ逃走を許してしまう。一旦見失ったものの悲鳴を聞いて駆け付けると、腹部を刺され持っていたボディバッグを奪われて倒れている拓也がいた。

一命は取りとめたものの拓也の意識は戻っていない。捜査にあたる一ノ瀬を連れ、桂木は天馬の甥に話を聞きに行った。甥によると遺体発見時、天馬の枕元には小さなラジカセはあったものの拓也の残したメモはなかったらしい。また天馬が睡眠時無呼吸症候群で病院に通っていることも知った。次に岩本に話を聞きに行くと拓也は音楽プレイヤーではなくスマホで音楽を聴いていたという。桂木が岩本に話を聞いた直後、岩本の部屋に泥棒が入った。が何も盗まれていないという。桂木は、拓也を刺した人物と岩本の部屋に泥棒に入った人物は同一で、その目的は拓也の持つ音楽プレイヤーではないかと考えた。天馬はラジカセでラジオを聞いていた。つまり音楽プレイヤーは別の目的で使用されていた可能性が高く、睡眠時無呼吸症候群の天馬は自分の寝ている時の呼吸を記録していたのではないかと思われた。犯人はおそらくまだ目的の音楽プレイヤーを見つけていないと考えた桂木は、拓也が一体どこにプレイヤーを隠したのかと頭を巡らせた。

 

犯人より先に音楽プレイヤーをゲットした桂木達は、犯人に侵入された天馬がとっさに犯人とのやりとりを録音した会話という決定的証拠を掴み、無事に犯人逮捕にこぎつけました。拓也も無事に意識を取り戻しました。

酷暑の証明

8月の猛暑のなか、ホテル経営者の若王子勝信から妻の美幸の浮気調査を頼まれた桂木と真琴は、観光にやってきた旅行者という小芝居を繰り広げながら美幸を尾行していた。夫の懸念通り美幸は横浜中華街の飲食店で男と会っていたが、通常の不倫とは様子が異なり鞄から取り出した茶封筒を男に渡していた。美幸の見張りを真琴に任せて男を追った桂木だったが、そのまま野球観戦をするらしく横浜スタジアムへと姿を消していき素性は分からずじまいだった。茶封筒の中身が気になるものの浮気ではないようだと若王子に報告すると、また美幸が男と会う可能性が高いとして引き続き調査を続け男の正体を探ることになった。

路肩に停めた車内で若王子邸を張りつつスマホでニュースをチェックしていた桂木は、気になる記事を見つけ一ノ瀬に連絡を取った。若王子敏江という老女が自宅で熱中症のため亡くなったというニュースだった。一ノ瀬によると、病気がちで自宅療養中だった敏江の部屋のエアコンの設定を猛暑日にも関わらず本人が高めにしていたため死亡したもので、事件性はないという。桂木は美幸と敏江の死を関連付けてみたものの、作為はなかったと一ノ瀬は言った。

再び美幸が例の男と会った。今度は仲睦まじい様子で並んで歩いていたが、2人が向かったのは大型の多目的トイレだった。籠もることしばし、男が一人でトイレから出てくるとドアレバーをハンカチで念入りに拭いている。嫌な予感を覚えた桂木がトイレへと向かうと、何かを察知した男が逃げ出した。追いかけるか美幸を待つか…トイレのドアを開けた桂木の胸元に背中にナイフが突き刺さった若王子美幸が倒れ込んできた。

警察での執拗な取り調べを受けている最中、一ノ瀬の助け舟が入った。美幸の容態は予断を許さない状況だという。犯人を見つけると息巻く桂木は、美幸が何らかの手を使って敏江を殺害し、それを見られた男を殺そうとして逆に刺されたという推理を一ノ瀬に聞かせた。桂木と一ノ瀬は、若王子家の家政婦から通報は家政婦だが最初に敏江を発見したのは居候の木田という男だという証言を得た。事件当時若王子邸にいたのは木田とお手伝いの女性、美幸の3人だったという。次に木田に話を聞くと、痔の薬を貰いにいくため救急箱の置いてある敏江の部屋を訪ね、室温の高さが気になって家政婦にもう少し涼しくした方がいいのではないかと伝えたららしい。その時敏江はベッドの上にいたが、眠っているものだと思っていた。木田はその日、庭師が来ていたと証言した。また座薬はトイレで開封したものの、敏江の件でバタバタしはじめたため恐らくトイレにそのまま落として使わず仕舞いになったとのことだった。

造園業者で当時若王子家の敏江の部屋の室外機が止まっていなかったか確認している最中、桂木は美幸と会っていた男に背格好がそっくりな人物を見つけた。庭師の見習いだという高橋は、室外機は普通に動いていたと証言したが明らかに態度がぎこちなかった。造園会社を出たところで、美幸が亡くなったと真琴から連絡が入った。

高橋には桂木の顔がバレてしまったため、こっそりと真琴主導で尾行をすると夜の横浜の埠頭で女と待ち合わせをしていた。ナイフを手にしている高橋に女性が殺されないよう奮闘した桂木達だが、肝心の高橋に逃げられてしまう。だが桂木をこっそり尾けていた一ノ瀬によって高橋もお縄になった。

 

女性は高橋の共犯者でした。美幸が敏江の部屋で細工をし熱中症を誘発させた証拠を掴んだ2人は彼女を強請っていたようです。

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探偵&刑事というコンビですが片方が生真面目なせいか、2人のやり取りにコメディー色はあまり強くありません。その分、舎弟の真琴がギャグパートを担当しているようでした。有能なのかいまいちなのか判断がしづらい桂木探偵事務所ですが、シリーズ化するのなら続編も読んでみたいです。