東川篤哉「鯉ヶ窪学園探偵部」シリーズ第3弾『放課後はミステリーとともに』あらすじとネタバレ感想

鯉ヶ窪学園探偵部シリーズ「放課後はミステリーとともに」のあらすじと感想をまとめました。探偵部副部長の霧ケ峰涼が主人公の8つの短編集ですが、本文内にちょっとした仕掛けがあるので初めての方は1話目から順番に読んでいくのがおすすめです。

「放課後はミステリーとともに」書籍概要

鯉ヶ窪学園探偵部シリーズ3冊目となる短編集。「霧ケ峰涼の屈辱」「霧ケ峰涼の逆襲」「霧ケ峰涼と見えない毒」「霧ケ峰涼とエックスの悲劇」「霧ケ峰涼の放課後」「霧ケ峰涼の屋上密室」「霧ケ峰涼の絶叫」「霧ケ峰涼の二度目の屈辱」の8作品が収録されている。

  • 放課後はミステリーとともに(2011年2月/実業之日本社)
  • 放課後はミステリーとともに(2013年10月/実業之日本社文庫)

霧ケ峰涼の屈辱

探偵部副部長の涼は生物教師の石崎に顧問になってもらうという依頼のため、生物教室のあるE館を訪れた。E館は上から見ると「E」の形をした建物で、3つの横廊下と1つの縦廊下があり横廊下の端にそれぞれ玄関口がある。生物教室と視聴覚教室は一番上の横廊下に面している。涼は一番下の横廊下の玄関から入り生物教室を目指していた。だが目的の石崎はおらずそのまま一番上の横廊下の玄関から帰ろうとしたとき、玄関そばの視聴覚室に明かりが見えた。不審に思った時、視聴覚室から何者かが飛び出し涼を突き飛ばして縦廊下の方角へと逃げていった。騒ぎを聞いて生物教室から出てきた生徒とともに不審者を追いかけた涼は、縦廊下と真ん中の横廊下のあたりで警備員と合流した。3人で一番下の横廊下から外に出ると、そこには用務員がいた。用務員は誰もここを通っていないと証言をした。鍵の掛かっていない教室を探したがいない。不審者はどこに消えてしまったのか。芸能部がある鯉ヶ窪学園には、芸能人らも参加する修学旅行や体育祭の記録が保管されており、不審者はそれを狙ったものと思われる。そんな時、用務員が何者かに頭を殴られ重体となった。

 

3つの玄関口のどこかから犯人が逃げたはずなのに3つとも逃げた痕跡がないという謎に、エアコンという言葉に敏感に反応する霧ケ峰涼が挑みます。が、探偵役は顧問を引き受けてくれた石崎先生です。発信者と受信者の認識の違いを逆手に取ったトリックでした。

霧ケ峰涼の逆襲

学校帰りに偶然見かけた白猫を追って廃屋に入った涼は、カメラを構える不審人物・藤瀬を見つけた。彼は芸能記者で向かいの建物に住む劇団員の水原真由美と芸能人の安藤タケルの密会現場を張っていたのだ。安藤が真由美の部屋に入ってから4時間以上経つと藤瀬はいう。藤瀬が見張るのは玄関側でベランダ側には仲間が張っているので見逃すことはない。藤瀬と涼が見守る中ワンボックスカーがやってきて真由美の部屋の玄関先に停まった。運転席から赤いジャンパーの男は後部座席に向かって言葉をかけるとそのまま車体の向こう側に姿を消した。続いて白いジャンパーの男が後部のハッチを跳ね上げ出てきた。手には脚立を持っている。玄関扉開き男たちが部屋へと入っていく気配がした。まもなく脚立を担架に見立てた赤と白のジャンパー男たちが出てくるとワンボックスカーで去っていった。担架に乗せられていたのは真由美だった。以来真由美の部屋に動きがなくなった。赤と白のジャンパー男と安藤が入れ替わっていたのではないかと不審がる藤瀬と涼に、真由美から室内の捜索許可が出た。(安藤+真由美)+(赤+白)-(赤+白+真由美)=1人の筈だが、真由美の部屋には誰もいなかった。

 

2人が密会しているところに2人の人間が現れ、3人が部屋から出ていった。残る1人は忽然と姿を消し部屋のどこにもいないという謎に涼が挑むのですが、謎を解くのは顧問の石崎先生です。安楽椅子探偵です。一人の入れ替わりトリックを見事解いて事件は無事解決……とならず、もう一事件ありました。入れ替わりトリックが行われている時間帯、真由美と同じ劇団の看板女優襲撃事件です。芸能記者の目から逃げるための単純な入れ替わりトリックと思いきや別の大きな事件が裏に潜んでいたという、今回の本の中で一番面白い作品でした。

霧ケ峰涼と見えない毒

クラスメイトで学級委員の高林奈緒子の依頼で、彼女が居候している先の家主・門倉新之助のところに屋根瓦が落ちてきて避けた拍子に転倒して左腕を負傷するという傷害未遂事件を調べることになった。新之助は会社経営を息子夫婦に譲ったものの、資産の名義は新之助のままだったため息子夫婦に狙われている様子がうかがえた。門倉家には新之助のほかは息子夫婦とその遊び人の道楽息子、家政婦、居候の奈緒子の6人が暮らしている。新之助に話をきくため部屋を訪れた奈緒子と涼は、もがき苦しむ新之助を発見した。新之助はコーヒーに毒がと告げて救急車で運ばれていった。コーヒーは家政婦によって、新之助、息子夫婦、道楽息子の4人分淹れられており、夫婦と子どものコーヒーからは毒は検出されず、また新之助のコーヒーからも毒は出てこなかった。新之助の部屋から青酸カリを包んでいたと思われる紙が発見され、彼の自殺という見方が出てきた。ではなぜ新之助は無毒のコーヒーに対して「毒が入っている」と指をさして訴えたのか。

 

全員がコーヒーに毒を入れるチャンスがあったものの、肝心のコーヒーとカップからは毒は出てこなかった。新之助はいったいいつ毒を仕込まれたのかという謎に涼が挑みます。けれど結局謎を解くのは奈緒子でした。犯人は青酸カリの包み紙を残すことによって自殺に見せかけようとしたのです。青酸カリは劣化していたため毒素が弱まり、新之助は一命をとりとめました。

霧ケ峰涼とエックスの悲劇

地学教師・池上冬子の指導のもと数年ぶりの流星雨の観測のため夏の夜に学校に集まっていた涼らは、西恋ヶ窪緑地、通称エックス山の近くで緑色の発光体が無軌道に動いているのを目にした。UFOだと興奮する冬子についてエックス山へと向かった涼は、UFOが不時着(?)したらしき周辺の民家の畑の真ん中に倒れている女性を発見した。綺麗にならされた畑には彼女のものと思われる不規則な足跡のみがあった。倒れていた女性の首には糸状のもので絞められたあとがあった。殺人未遂事件だった。女性は西原恭子といい冬子の学生時代の同級生だったため、発見者の冬子は事情を聞くためにと警察へ同行されていった。翌日の地学の授業はなくなるかと期待した涼の思いとは裏腹に冬子は学校に出てきていた。だが6時間目、涼たちのクラスの地学の授業は自習となっていた。昨晩の事件の真相に迫る買い物をするため、冬子が授業をサボってハンズに買い物へ行ったからだった。そして涼に日暮れになったらエックス山に来るように告げる。

 

首を絞められた女性が綺麗にならされている畑の真ん中で倒れていた。畑に入ったと思われる足跡は千鳥足の本人のもののみという不可能犯罪にチャレンジします。探偵役は池上冬子先生です。UFOオタクの冬子先生の体と命を張った事件再現シーンは必見です。いいキャラしているので冬子先生にはぜひレギュラーになってほしいところです。

霧ケ峰涼の放課後

体育倉庫の窓から煙のようなものを見つけた涼と奈緒子が中を覗いてみると、不良の荒木田が掃除道具を入れたロッカーに隠れていた。どうやら煙草を吸っていたらしい。騒ぎを聞きつけた生活指導の柴田もやってきて、涼と奈緒子は荒木田の喫煙の証拠を一緒に探すことになってしまった。だがボールのカゴや跳び箱の中を見てもみつからず柴田も荒木田を停学にするのは諦めた。放課後、校門で待ち伏せていた荒木田は涼に用事があるといい、涼の好物であるベーコンの入った大きなハンバーガーを礼だといって奢ってくれた。奢られる理由が分からない涼だったが、荒木田と別れたあと芸能クラスの小笠原玲華に声をかけられ、お好み焼き屋でごちそうになりつつ玲華の求めるまま荒木田とのやり取りを話して聞かせた。話を聞き終わった玲華は体育倉庫へ行くという。ついて行った涼は、玲華の推理通り跳び箱の細工を見つけた。跳び箱の中には盗撮用の小型カメラが仕込まれており、荒木田の隠したと思われる煙草とジッポーも見つかった。隠しカメラは女子更衣室へ向けて設置されていた。カメラごと壊してしまおうという玲華に対し、涼は嘘をついたりしてどういうつもりなのかと問う。

 

煙草の消失トリックを解いたのは玲華でしたが、涼は彼女の言動の不自然さから、まだ事件として表面化していない事件を解決しました。一匹狼タイプの不良の荒木田ですが、涼が跳び箱に隠した煙草を見なかったふりをしてくれたと思いお礼にごちそうしてくれるという、なかなか義理堅い人物でした。

霧ケ峰涼の屋上密室

放課後、奈緒子との待ち合わせ場所である裏門へと向かっていた涼は、教育実習生の野田栄子の後ろ姿を見つけ一緒に歩きだした。大きな椎の木の側で栄子が息を吸い込むような仕草をしたあと足を二、三歩踏み出した時だった。栄子の頭上から何かが落ちてきて一瞬で彼女を圧し潰していった。落ちてきたのは加藤美奈、涼の隣のクラスの女子高生だった。屋上からの自殺を頭に思い浮かべた涼は、悲鳴を聞いてやってきた奈緒子にあとをまかせ屋上へと走った。屋上へと向かう階段の踊り場にいた1年生は、10分ほどここにいるが誰も通らなかったと証言した。屋上には誰もおらず、手すりのそばに美奈の鞄が落ちていた。美奈は屋上から飛び降り、栄子の上に落ちてきたのだ。椎の木がクッションになって助かった。だが意識を取り戻した美奈は自分が自殺するはずがないと言う。彼女が落ちてきたのは午後4時半頃、だが美奈が屋上へ行ったのは4時だという。空白の30分に何があったのか、お見舞いに来た栄子の病室で女性刑事と話をしていた涼は、ようやく目を覚ました栄子が女性刑事に対して「その時間自分は化学準備室で同僚の実習生と一緒にいた」と恐怖に満ちた口調で言うのを聞いた。

 

落ちた衝撃で4時以降の記憶を失っている美奈は、何者かによって屋上から突き落とされました。だが落ちてきた時間帯、屋上から誰もおりてはこなかった。一体犯人はどこに消えてしまったのかという謎に涼が挑むことになるのですが、謎を解くのは女性刑事・烏山千歳でした。完全犯罪になっていたところでしたが、犯人が墓穴を掘る形で全容が明るみに出てしまいました。

霧ケ峰涼の絶叫

クラス対抗戦のためバスケの練習にと朝早く登校した涼は、陸上部の朝練にきていたクラスメイトの宮下綾乃から日付を間違えていることを指摘される。手持無沙汰になった涼が花壇のあたりでぼんやりしていると、綾乃が慌てた様子で走ってくる。走り幅跳びの足立駿介が砂場で倒れているという。命に別状はなさそうだが運ぶのを手伝ってほしいといわれ一緒に校庭へと向かうと、たしかに砂場の真ん中に駿介が倒れていた。砂場には駿介の足跡と、駿介のもとを往復する綾乃の足跡だけが残っていた。だが保健室に運ばれた駿介はいきなり後頭部を殴られたと主張した。お調子者の駿介によってワトソン役を振られた涼は、自称新時代のスーパーヒーロー足立駿介とともに、新時代探偵コンビを組んで犯人捜しをすることになった。駿介を殴りたい人間は陸上部に大勢いた。中でも駿介が新部長になったとたん退部して野球部へといった2人が怪しいと主張する駿介にしたがって野球部へと出向いた涼は、駿介が昏倒した時間帯、彼らには野球部のミーティングをしていたという鉄壁のアリバイがあることを知る。

 

自信過剰すぎて人望のない被害者、犯人の足跡が残されていない現場、被害者の駿介が容疑者だと一方的に決めつけた人物たちの鉄壁のアリバイという、事件だか駿介が騒いでいるだけなのか分からない事件に涼が挑むことになります。今回は自力で謎を解きました。

霧ケ峰涼の二度目の屈辱

美術部の森野の頼みでモデルを引き受けることになった涼は放課後、E館にある美術室へと向かっていた。Eの形をした建物の一番上の横廊下に面した美術室へ入ろうとした涼の耳に、ドシンという重量感のある音が聞こえてきた。中に入ってみるとミロのビーナスに圧し潰された荒木田が倒れており周囲には赤い液体が広がっていた。驚愕する涼の背後で人の気配がした。学ラン姿の怪しい人影は涼に体当たりをすると美術室を飛び出していった。追いかけて廊下へと飛び出した涼は、やってきた森野とぶつかりかける。森野によると怪しい人物は縦廊下へと逃げていったらしい。真ん中の横廊下に人影がないのを見た涼はそのまま一番下の横廊下へと向かって角を曲がった。その途端、生徒会役員室から出てきた山浦和也とぶつかる。山浦を連れたまま一番下の横廊下の玄関へ向かうと、外には3年の女子生徒がおり誰もここを通らなかったと証言した。真ん中の横廊下へと引き返した涼は、玄関口にいた1年の女子に学ラン姿の男を見なかった尋ねると、制服を着た男子もそれ以外の人間も誰も通っていないと返ってくる。念のためトイレも確認すると、窓の外で隠れ煙草を吸っていた1年生は誰もトイレの窓から出ていった者はいないと証言した。一番怪しい山浦は学ランを着ていなかった。犯人は一体どこへ消えてしまったのか。

 

再びE館にて犯人消失事件がおきました。謎に挑むのは当事者の一人である涼ですが、謎を解くのは探偵部顧問の安楽椅子探偵、石崎先生でした。犯人のある勘違いによって荒木田はミロのビーナスの下敷きになってしまいましたが、赤い液体は絵の具で荒木田自身はピンピンしていました。前回は用務員さんが重体に陥ったため警察沙汰になりましたが、今回はそこまで大事にならずに済みそうです。

 

今回の話は1話目と全く同じ舞台設定でありながら全く違うトリックが使われているという、ミステリー好きの心をくすぐる短編でした。

 

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