堀川アサコ『これはこの世のことならず たましくる 2(旧「魔所」)』あらすじとネタバレ感想

堀川アサコさんの「これはこの世のことならず」のあらすじと感想をまとめました。

もともとは「魔所」として発行されていたものが、文庫版で改題されたようです。幸代視点だった1冊目とは異なり、さまざまな登場人物視点で書かれた短編集でした。

「これはこの世のことならず たましくる2」書籍概要

イタコ千歳シリーズ第2弾。エピローグの「逢魔が時」を含め「魔所」「これはこの世のことならず」「白い虫」「馬市にて」の4編で構成されている。

  • 魔所 イタコ千歳のあやかし事件帖2(2010年8月/新潮社)
  • 魔所 イタコ千歳のあやかし事件帖2(2013年10月/新潮文庫)
  • これはこの世のことならず たましくる 2(2013年10月/ 新潮文庫)
これはこの世のことならず たましくる (新潮文庫)[本/雑誌] (文庫) / 堀川アサコ/著

魔所

実家の母の依頼で千歳は七尾家へと出向き、そこで「孫を頼む」という老人の霊の言葉を聞いた。広大な土地を持つ七尾家の一つに「薫物御前」と呼ばれる次々と男を家に引き込んでは殺したという女の言い伝えと、彼女を祀るいわくつきの池や祠、小屋などがあり、怖がって寄り付く者はいないという。

七尾家には、代々長男だけが出来が良いというジンクスがあった。長男で紳士の庄太郎、金にならない脚本ばかり書いている次男の礼次郎、不良の三男・恭三。ほかにも多津という娘が彼女は養女だった。元々は薫物御前の土地に住んでいた一家の娘だったのが、両親が服毒自殺を謀ったため七尾家に引き取られることになった。多津は薫物御前を恐れておらず、幼い頃住んでいた小屋に入り浸り、土地の男たちを引き入れては奔放に密会をしていた。

数日後、礼次郎が千歳の元に相談にやってきた。恭三の恋人・芳子が何者かに誘拐され、七尾家に身代金要求の手紙が届いたのだ。恭三に恋心を抱いている多津の仕業に違いないという。千歳と幸代が小屋へと向かう途中、担架に乗せられた芳子をすれ違う。土地の人間たちも多津の仕業と考え小屋に乗り込んだところ、縛られている芳子を発見したのだ。芳子は衰弱し精神的に不安定になっていた。誰もいなくなった小屋で、千歳と幸代は木箱に入れられた多津の死体を発見した。鉈で滅多打ちにされ遺体は血の海になっていた。まもなく、三男の恭三が長男の庄太郎に伴われ自首をした。芳子と2人、お金のために狂言誘拐を企てたが、多津に見付かったため殺したのだという。

千歳の知らないうちに進んでいた庄太郎との縁談だったが、弟が起こした事件の責任をとって、庄太郎は芳子を嫁に貰うと宣言する。

周囲が庄太郎を賞賛するなか、千歳は「薫物御前」の所へ行くと言い出す。

 

長男だけが出来が良く残りはろくでなし、という周囲からの評価と実際の人物像が全く異なる事件でした。昭和初期の田舎ということもあり長男信仰が根強いのでしょうね。

人格者の化けの皮がはがれた事件ともいえます。

これはこの世のことならず

怖いもの知らずの悪戯っ子・時彦は、池に身投げをしようとした男・大柳新志を助けたことから仲が良くなり、新志の行きつけの貸本屋・ヒツジ屋で仲の良さそうな夫妻に大福もちをもらい、楽しいひと時を過ごした。

時彦には売れない画家の父がいたが病死し、いかがわしい劇場を経営する伯父に引き取られていた。父が描いたという「選ばなかった未来が見える絵『悲しみの門』」の話を聞いた新志は興味を抱き、時彦とその絵を探すことにしたものの、絵の行方を知る伯父は劇場の看板娘にプロポーズして振られそれどころではなかった。絵画は絵の具などと一緒に二束三文で屑屋に売られて燃やされていたが、肝心の絵だけは燃やされる直前に引き取られて行ったらしい。

千歳の所には、1歳で亡くなった息子のことで訪問する老夫妻がいた。息子は命日の日に不思議なことが起こると千歳に告げる。

また別の客がやってきた。関東大震災で腹違いの兄を亡くしたという男・泰治だった。震災後行方不明になっていた兄が八年後無事であることが分かった。だが皮肉なことに、無事を祝う大福もちをのどに詰まらせて死んでしまったのだという。泰治は持参した骨壺に収められている骨の真贋を見てほしいという。兄は妾腹の子だった。泰治は兄の婚約者を奪い自分の妻にしていた。その妻が兄のもとへ通っていると泰治は疑っており、骨が本当に兄のものなのか不審を抱いていた。

時彦と新志は「悲しみの門」を引き取ったサク子の家を訪れていた。人形師のサク子の家には夥しい数の花嫁人形があり、顔には切り抜かれた写真が貼られていた。その顔写真は泰治の妻だった。サク子は泰治の兄の母親であり、人形を死んだ息子に見立て結婚式を行っていた。狂気の現場を見た時彦は、新志を連れて逃げ出す。その先で京子に会った。

京子は伯父のプロポーズを断って劇場を辞めた娘だった。幼い頃、子守の仕事をしていたが不注意で子どもが亡くなるという事故を起こして逃げ、それから一人で生きてきた。伯父と暮らし始めた時彦に亡くなった子どもの面影を重ねて辛くなったらしい。時彦が戻ってくるよう説得しているところに、千歳のところへ来ていた老夫婦が通りがかる。京子は亡くなった彼らの息子の子守役で、夫妻は責任を感じて逃げ出した京子の行方をずっと案じていた。息子の命日、つかの間の邂逅に、本当に不思議なことが起きたと夫妻は喜んだ。

千歳と幸代はヒツジ屋に来ていた。ヒツジ屋の夫妻は、泰治の妻と亡くなった兄だった。サク子の人形の呪いにより、兄の魂は成仏できずに戻ってきて、呪詛の通り夫妻として暮らしていたそうだ。人形はすべて燃やされ、ヒツジ屋は店を開くことはなくなった。

 

時彦と新志、千歳と幸代、息子を亡くした老夫婦、兄の死に不審を抱く弟、プロポーズを断った娘、亡くなった息子のために人形を使って何度も結婚式を開いた母……と全てが繋がっていたという話でした。

白い虫

大柳家の住み込みのお手伝い・シエには寛七という恋人がいたが、遊び人の彼の評判はすこぶる悪く秘密の恋だった。ある日、シエを訪ねて大柳家に客人がやってきた。お洒落でハイカラな装いの貴婦人は、シエの憧れの同級生・花枝だった。だが彼女は自分は栄子だと名乗り、花枝はすでに死んでいると言う。その言葉を聞いたシエは、幼少時の白い虫のことを思い出す。

美人でお金持ちの花枝は、クラスでも人気者だった。一方栄子はそんな花枝に反発しクラスでも浮いた存在だった。おとなしいシエは栄子に付きまとわれ、友達というより子分のような扱いを受けていた。

ある日、栄子はシエに恋が成就するおまじないとしてシエの手のひらにドロップスの缶を傾けた。出てきたのは何かの白い幼虫で、嫌がるシエに強引に飲ませようとする。虫の効果をシエで試そうとしたのだ。袖口に虫を落としてどうにか誤魔化したシエだったが、その翌日、授業中に花枝が苦しみはじめ口から白い虫を吐き出し、そのまま亡くなった。例のおまじないを花枝もひそかに実行していたらしい。花枝には仲の良い男の子がおり、恋が成就したため虫によって殺されたらしい。そのことをなぜかシエはずっと忘れていた。

栄子は、花枝のようなふわふわした見た目になり若社長の細君に収まっていた。シエに夫の部下だという縁談相手の話を持ってきた栄子だったが、まもなく急死した。

栄子は花枝に憧れており花枝になりたかったのだ。白い虫を飲んでおまじないをかけた栄子の願いは叶い、だから死んだのだとシエは思う。栄子から白い虫を飲まされようとした時、シエが思い描いていた相手は寛七だった。もしあの時白い虫を飲んでいたら…とシエは思った。

 

大柳家のお手伝いさん・シエの話でした。

馬市にて

千歳は、そこそこ裕福な農家・むつ子の家に呼びつけられた。オシラ様がいなくなったので探してほしいという。オシラ様は馬とお姫様の2対でひとつの神様で、馬の人形の方が消えてしまったらしい。おかげで家の中から値打ち物が消えたり、納屋から大量の蛆が涌いたり、むつ子が馬面になったりと災難続きらしい。

また蝶子の失踪事件(紅蓮)でなじみになった辰蔵が、岩木川の馬市に出る女の幽霊の件で相談にやってきた。早速、幸代、安子とともに馬市へと出向いた千歳は、毎年馬市に出没するおスミと千次郎という美人局の話を聞く。幽霊は怖いがおスミ達が悪さをしないようにと見張っている辰蔵は、今年はまだ姿を見ていないという。

馬市は賑わっていた。見知らぬ少女と仲良くなった安子が、河川敷から人骨(頭)を掘り起こし騒動になった。埋まっていた場所からは頭蓋骨とカンザシしか出てこなかったが、そのカンザシはおスミの物だった。

むつ子がやってきた。千歳が真面目にオシラ様を探さないから亭主がおかしくなったのだという。むつ子の夫・臼作は気の強いむつ子の尻に敷かれ下僕のように言いなりになっている男だったが、朝新聞を見た途端血相を変え、残っている片割れのオシラ様を号泣して謝りつつ畑に埋め始めたらしい。千歳と幸代がむつ子の家へ行くと、臼作は近所の説得にも応じず納屋に閉じこもっていた。

結局臼作は納屋で首を吊ったが、縄が古くて体重を支え切れず、どすんと落ちておしまいだった。千歳たちはむつ子の娘から、臼作が浮気をしたせいで学校で嫌な思いをしている話を聞く。浮気相手の特徴を聞くうちに、その人物がおスミと重なる。そんな時、おスミの殺害容疑で警察が臼作を連行していった。美人局の片割れ・千次郎がひょっこり現れたので話を聞いたのだという。

納屋を調べていた幸代は、臼作が首をくくった梁にもう一つ縄を渡したような跡を見つけた。警察で黙秘を続ける臼作に、千歳は臼作は人を殺していないと言う。

 

臼作は確かに殺していませんでしたが、損壊と遺棄をしていました。馬市で見つかった頭蓋骨にまつわる事件は、行方不明になったオシラ様、おスミの事件、岩木川に出るという幽霊など一連の騒動とともに千歳たちの働きによって綺麗に解決しました。おそらく生きていくために美人局をして多くの人を騙してきたおスミが最後に選んだものがあれだったかと思うと、少し切なくなる話でした。

 

□□

前作に比べると千歳のイタコとしても活躍シーンが増えてきた続編でした。

その分ファンタジー色も強めの1冊となっていました。