堀川アサコ『たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖』あらすじと感想

昭和初期の青森を舞台とした「たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖」のあらすじと感想をまとめました。

双子の姉・雪子の残した幼い娘・安子を父親の実家である青森へと送り届ける幸代が、そこで出会った盲目の少女・イタコの千歳の世話係として家に身を寄せ、さまざまな事件と出会う話です。

「たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖」書籍概要

シリーズ1冊目となる短編集。「魂来る」「ウブメ」「インソムニア」「紅蓮」の4作品を収録している。

  • たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖(2009年10月/新潮社)
  • たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖(2011年5月/新潮文庫)
たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖 (新潮文庫)[本/雑誌] (文庫) / 堀川アサコ/著

魂来る

双子の姉・雪子の首つり体とその内縁の夫・酒田の刺殺体が見つかった。部屋の壁には男の血を使って流行歌「知ってしまえばそれまでよ…」という文句が書かれていたことから、雪子が男を刺し殺したあと壁に遺書を書き残して自殺したものと見られた。

雪子には幼い娘・安子がいた。かつて雪子と交際し、安子を妊娠したことを知って心中を試みた男の実家から、安子を引き取りたいという連絡があり、幸代は姪の安子を青森まで送り届けることになった。その道中の汽車の中、幸代は盲目の少女と出会う。

幸代と雪子は幼い頃、口減らしのために両親に売られ娼妓をしていた過去があり、安子の父親は青森の名家の息子だった。雪子と幸代を見下しつつも、家名のためだけに安子を引き取るという大柳家に本当に安子を渡していいものか、酒田の弟分・重樹の安子と3人で暮らそうという言葉を受け入れた方が良かったのではないかと悩む幸代の隣で、安子は張り子の犬で遊んでいた。犬の背には、学校に通えず独学でカタカナを習得した雪子の字で「サチヨ ノ カワイイ コイヌ」と書かれている。もともとは幸代の犬張り子だったものだった。

葛藤を振り切って大柳家に安子を預け、東京へと戻るため駅へと向かう幸代に、汽車で会った少女が声をかけてきた。大柳家の末娘の千歳で、イタコをしているという。目が見えないため生活の世話を幸代にしてほしいと言いながら駅まで送ってくれたものの、大雪のため東京行きの運休となっていた。

駅近くの宿をとった幸代は一人静かに姉の死へと思いを馳せ、あることに気が付いた。雪子は内縁の夫を殺していない。壁の字は雪子が書いたものではなかった。雪子は自殺ではなく、殺されたのだ。

 

東京でひっそりと暮らす幸代が、イタコの千歳と出会い、青森で暮らし始めるまでの話です。

安子の父親・大柳新志は雪子と心中を図って助かったものの精神を患い、青森の実家の座敷牢にいます。

当時最初に習う文字はカタカナで、学のない雪子が死ぬ間際にきれいなひらがなを書くはずがないこと、幸代の家にあった犬張り子がいつの間にか安子のものになっていたことから、それが可能な人物が犯人だと考えて警察に連絡を入れ、無事に犯人は逮捕されました。

イタコ千歳シリーズとありますが今回千歳は登場しただけで、主人公の幸代が事件を解決しました。

ウブメ

一人暮らしの千歳の家で、幸代と安子も一緒に暮らすことになった。今日の記事は東京で起きた連続強姦魔が逮捕されたというものだった。千歳のために新聞を読み上げる幸代たちの所へ千歳のいとこで高校教師の大柳高雄がやってきて、宮田須々子のコンサートへ行こうと誘う。

須々子は千歳の同級生でソプラノ歌手として成功していた。今回は地元での凱旋公演だった。イタコの仕事で行けない千歳に変わり、幸代たちは須々子の歌声を楽しんだ。その時出会った老婆・阿部タネの絞殺体が翌朝発見された。

千歳の元へ小作農の親子が相談にやってきた。体が弱く臥せっている嫁のリツが、タネを殺したと言っているというのだ。寝たきりのリツがタネの家まで往復できるわけもない。だがリツは事件発覚前からタネの殺害を口にしており、殺害時の状況や凶器などは警察の把握している通りだった。

リツにはタネを殺害する動機があった。タネはもぐりで中絶専門の産婆をやっており、ようやく生まれたリツの子を、お金がなくて暮らしていけないからという理由で夫と姑に依頼され殺していたのだ。

そんな時、須々子が手首を切って自殺を図り入院した。須々子は東京で捕まった強姦魔の被害者の一人であり、強姦魔から須々子のことが漏れるともうソプラノ歌手としてはおしまいだと絶望してのことらしい。だが幸代はそれを告白する須々子の様子に違和感を抱いた。

 

まるでリツが生霊を飛ばしてタネを殺したかのように見えた事件ですが、事実はもちろん異なりました。生身の人間の犯行でした。誰が事件の謎を解いたのかは曖昧にされていますが、犯人に最後通牒をつきつけたのは幸代でした。

インソムニア

大柳家から観桜会用の安子の服を仕立てたので取りに来いと幸代に連絡が入った。千歳と幸代が安子を引き取ったことから出禁を受けていたのが解除となったらしい。

千歳の元に福田という男が相談にやってきた。先代からの土地が何度も火事になるらしく、建物や店を変えてもダメで、先日もまた火事を出してしまった。何か悪いものが憑いているのではないかという。その土地で一番最初に火事になったのが「インソムニア(不眠症)」という屋号の妓楼だった。遊女上がりの女将が経営する小さな店で、女将は頑張っていたものの亭主がろくでなしで、道楽三昧の挙句火をつけたというものだった。

大柳家へ服を受け取った帰り道、幸代は道に迷いある妓楼に迷い込んだ。そこでは、ある男に騙されて湖でおぼれ死に人魚になった女、という先日ラジオで聞いたばかりの物語の続きのような人魚のミイラを大事に祀る妓楼の主の男と、その妻の妓楼の女将というインソムニアでの火事の事件そっくりな光景がはじまろうとしていた。

 

道に迷った幸代が、時間を飛び越えて「インソムニア」事件を体験するというファンタジー寄りの話でした。火を付けたのは主ではなく女将の方でした。

そして福田が千歳のところに相談にやってきたのには裏がありました。現実味のまるでない話でしたが、幸代と会ったことで新志が回復し座敷牢から出ることができるまでになったようです。

紅蓮

昔、新志には蝶子という名前の雪子や幸代そっくりな恋人がいた。だが新志は名家の生まれ、蝶子は女衒の娘だったため、両方の親から交際を反対されるというロミオとジュリエット状態だった。そんな中、ある日を境にぷっつりと蝶子は姿を消した。10年前のことだった。

蝶子とそっくりな幸代は、当時の蝶子を知る人たちからひっきりなしに無事を喜ばれては別人だと訂正するという、煩わしい状況になっていた。

千歳の元へ宮原という男が訪ねてきた。10年前、北風という剣術師範を殺害し通帳を奪って逃げた罪で服役中の息子が、病死したという報告だった。息子は無惨絵と呼ばれるいかがわしい絵画を売り歩いており、北風とその仲間たちは満月の晩に集まって無惨絵を楽しむという「満月会」を開催していた。息子は強盗のみ認め殺人は否認したが認められなかった。

座敷牢から自由の身となった新志が姿を消した。高雄と一緒に行方を捜す中、2人は蝶子の父親と会い、蝶子が失踪する前、父親に散々殴られていたことを知る。新志もやってきて、その当時のことを根掘り葉掘り聞いていったらしい。父親は、蝶子に新志以外の結婚相手をあてがおうとしていた。まもなく、その結婚相手・大下の遺体が見つかり、新志が自首してきたと警察から大柳家に連絡が入った。大下は満月会のメンバーであり、10年前の北風殺害事件の通報者でもあった。

幸代は、蝶子の父親の女衒時代の親分格を訪ねた。そこで蝶子と同じような境遇の弥生という人物が蝶子と仲が良かったことを聞く。弥生は10年前の当時、北風の妻だった。

父親に殴られて家を飛び出した蝶子は、弥生を頼って北風の道場へと行き、何かを見たのかもしれない。

警察が千歳の家を訪れ、庭から大下殺害の凶器である包丁を掘り出した。犯人の供述通りだという。犯人は宮原だった。獄死した息子の無実を信じ、北風を殺害した真犯人は大下だと思い込んでの犯行だった。まだ精神が不安定な新志は、蝶子の(親が決めた)婚約者を殺した犯人になりたかったため、嘘をついて自首したらしい。

幸代は弥生に会いに行った。弥生は荒れ放題となった北風道場に今も一人で住み続けており、蝶子のことはすでに亡くなっていると考えていた。

そんな頃、幸代は見知らぬ男に声をかけられた。当時満月会のメンバーだった一人で、やはり幸代を蝶子だと勘違いして、北風殺害の真犯人ではないのかと挑発してくる。満月会では絵を鑑賞するだけでなく北風の妻・弥生を無惨絵そっくりの恰好に剝いて楽しむという変態的なことも行っており、大下と結婚した暁には蝶子も同じ目に遭っていただろうから、動機は十分だというのだ。

一連の話を聞いた千歳は、幸代をともない北風道場へと赴いた。

 

10年前の北原を殺害した真犯人、蝶子の失踪の謎、宮原がなぜ今になって大下が北風を殺したと考えたのか、という連続したすべての事件がまとめて解決に至りました。事件当時、道場を留守にしていたという弥生も無関係ではありませんでした。

 

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基本的に主人公である幸代が、自身で見聞きしたことから犯人像を絞って推測していきますが、ところどころタイミング良く千歳がイタコの力を使ってサポートする、という印象のコンビでした。「イタコ千歳シリーズ」と銘打っているにしては、千歳の印象がとても薄い気がしました。幸代さんは好きなので、それで構いませんが。

第2弾もあるので、読むのが楽しみです。