市井豊『予告状ブラック・オア・ホワイト』あらすじとネタバレ感想まとめ

ご近所専門探偵が身近な謎を解く「予告状ブラック・オア・ホワイト」のあらすじと感想をまとめました。ワーカホリックな透子がやる気のない探偵・九条のもとへ秘書として派遣されるところから話が始まります。四角四面で融通の利かない透子に読みはじめは息苦しさを感じましたが、話を追うごとに九条に影響されたのか柔軟性も出始め、九条とのやり取りにも貫録がついていく様子が楽しい一冊です。

「予告状ブラック・オア・ホワイト」書籍概要

ご当地探偵九条と秘書の透子による、ご当地レベルの事件のみを扱うミステリー短編集。「予告状ブラック・オア・ホワイト」「桐江さんちの宝物」「噓つきの町」「おかえりエーデルワイス」「絵馬に願いを」を収録している。

  • 予告状ブラック・オア・ホワイト (2019年2月/創元推理文庫)
予告状ブラック・オア・ホワイト ご近所専門探偵物語/市井豊

予告状ブラック・オア・ホワイト

派遣で秘書をしていた透子は、九条グループの会長の目に留まり孫が新たに開いたという探偵事務所に派遣されることになった。だが事務所唯一の探偵で所長の九条清春にはやる気がない。引っ越し時の段ボールは積みっぱなしで宣伝一つしていなかった。だが探偵事務所が入居するビルの1階の喫茶店でアルバイトをしているご当地アイドルの白川美優が、アイドル事務所を経営する叔父とともに相談にやってきた。美優が活動しているご当地アイドルユニット「ブラック・オア・ホワイト」に爆弾予告がきたという。手紙を読んだ九条が、脅迫状というより恋愛の告白の予告のようだ、爆弾予告に対する身辺警護はご当地レベルではなく県レベルの探偵がやるべきと覇気のなさを見せるのを強引に説き伏せ、秘書の透子が依頼を引き受けた。

予告日当日、地元のイベントでステージにあがるブラック・オア・ホワイトのスタッフとして会場を見張っていた2人は美優を盗撮している男を発見、追いかけたが逃げられてしまった。その際に男がぶつかった中年女性はなぜか2人に男が逃げたのとは別の方向を教えてくる。美優の相方・黒沢茜は美優ほどアイドル活動に対して熱心になれないと後ろめたさを告白してくる。そうこうするうち美優たちの本番が始まった。何も出来ないことを歯がゆく思う透子に対し、九条は依頼はすでに達成しているという謎の言葉を放った。

 

ご当地探偵・九条探偵事務所最初の事件です。三笠・五堂・七峰と並ぶ国内有数の大企業・九条グループの一族であるため、株やら不動産やらで働かなくても暮らしていけるそうです。また探偵事務所を開く前、九条が素人探偵として全国区で名を馳せていたことが書かれていますが詳細は分かりません。全国区でいることに情熱を失い、地域密着型のご当地探偵を名乗っている様子です。

今回はアイドル活動に対する爆破予告という物騒な事件でスタートしましたが、真相はそれほど物騒ではなく、盗撮少年も反省してお咎めなしに終わったようです。

桐江さんちの宝物

ご当地アイドルの片割れ・黒沢茜の祖母、黒沢志乃が依頼にやってきた。古くからの友人である桐江からの預かりものの箱の中身が何なのか調べてほしいという。箱には鍵が掛かっているが、その鍵は志乃が持っていて簡単に開けることができる。だが10日前に亡くなった桐江の思いを尊重したいので、自分が開けてもいいものか、そのまま遺族に渡すべきか教えて欲しいとのこと。桐江は骨董品屋の2代目で現在は息子が3代目をやっている。頑固で秘密主義、人に頼ることを嫌う桐江は生前、息子夫妻の思い出の白ワインを巡って嫁と大喧嘩をしたという。それ以来部屋に閉じこもり切りになり食事も自分で作って自室で食べるようになった。そして志乃に、ようやく完成した宝物だという箱(とその中身)を8日間だけ預かってくれと頼んできた。調べていくうちに2人はお金にしっかりしている桐江が、亡くなる数日前、八百屋でおつりを受け取らなかったことを聞いた。

 

箱の中には、頑固で職人気質だった桐江の思いが詰まっていました。一見何の意味もないような品が、九条の謎解きによって確かに宝物へと変身しました。不可解な桐江さんの行動にも全て意味があったのですね。依頼しなければ誰にとっても意味をなさない品物だったことを思えば、口づてに知った探偵に依頼をした志乃さんのお手柄です。

噓つきの町

営業時間が終了し、探偵事務所が入居するビルの1階喫茶店「ウィディール」でコーヒーを飲んでいた九条と透子は、透子が作成した報告書みたいなホームページと四つん這いになった酔っ払いのおじさんの尻に棒が刺さったイラスト(透子曰く「猫」とのこと)について話し合っていた(主に九条が批判し透子が抗弁していた)。すると喫茶店の外に貼られた報告書みたいな探偵事務所のチラシを目にした男がやってきた。この町に住むオリンピック出場の柔道選手・山本龍雄の慰労会に参加しにやってきたが慰労会は延期になっていた、山本の家に行こうとすると止められ色々と話をはぐらかされる。彼らはこぞって自分に嘘を付いている、この町は嘘つきだと言い募る男は、彼らの嘘を暴き山本の居所を突き止めてほしいと依頼した。折しもこの日は商店街の祭りで夜店がずらりと並んでいた。九条の言いつけで嘘の境界線を知るため、2手に分かれて聞き込みをはじめた。結果、商店街の連中のみが嘘をついていることが判明した。九条によると顔の馴染みの志乃や骨董品屋すら嘘をついているという。聞き込みを終え喫茶店へと戻ってきた2人は、さきほど山本と病院で会ったという親子連れの話を聞いた。商店街の連中がこぞって嘘を付いた理由、それは山本のための嘘だった。

 

九条と透子の掛け合いもこのあたりからこなれて面白くなってきました。商店街の人たちが揃って嘘を付いた理由という小さな事件でしたが、そこで見聞きした小さな事象を積み上げていって見事謎を解きました。伏線といいその後の展開といい、「寛容さを身につけた」透子のセリフが素晴らしいこの話が、今回一番面白かったです。

おかえりエーデルワイス

動物公園のリスザルの檻の前に不審者がいたという依頼の電話を受けて無理やり九条を引っ張って現場へ向かった透子は、依頼人で飼育員の犬飼からリスザルの檻である金網がコの字型に切られているのを見せられた。8匹いるリスザルは無事だった。不審者は大きなリュックを背負っており犬飼に見つかった途端逃げてしまった。もしかするとリスザルを盗みに来たのかもしれないという。ちょうど何日か前にローカルテレビで公園のリスザルが特集され、事務所に譲ってほしいという電話が掛かってきたことがあった。もしかしてその人物が不審者なのかもと危惧する犬飼や透子に対し、ざっくりと検証を行った九条は「泥棒は自分のやったことを後悔して謝罪に来る」というだけだった。言葉通りその直後、例の不審者が大声で謝罪しながら走ってきて、落ち葉に足を滑らせて昏倒したと連絡が入った。男のリュックの中には檻に入れられた9匹目のリスザルがおり、意識不明のまま男は「エーデルワイス」と呟いた。

 

テレビに映ったリスザルに一目ぼれした男が起こした事件でした。あまりにも安直で浅はかな行動だったと思いますが、園長をはじめ動物好きの人たちの暖かい対応により警察沙汰にはならずに済んだようです。

絵馬に願いを

労働意欲が薄く仕事をえり好みする九条の仕事ぶりに神仏に頼りたくなった透子は、金ごまミルクアイスをエサに甘いもの好きの九条を川崎大師へと連れ出すことに成功した。参拝し絵馬を奉納しようとしたところ、ある参拝客の声が聞こえてきた。自分の絵馬がなくなっているという。男は九条の知り合い一水充だった。彼は一水グループを潰されたと九条を恨んでいるが、九条がご当地探偵をしていると知ると絵馬を探してほしいと依頼してきた。頑なに嫌がる九条を説き伏せ2人は絵馬の行方を調べ始めた。そのうち怪しい3人が浮かび上がってきた。同じ工場に勤めている田永流星、日浦玲人、中林翔真だ。どうやら翔真は2人からいじめを受けているらしい。いじめの鬱憤から他人の絵馬の願い事を塗りつぶして自分のものにしたのではないかと推理した九条だったが、喫茶店に落ち着き一水と透子が連絡先をやりとりする場面を目にした途端、推理ミスだと叫んで店を飛び出していった。

 

3人の参拝者は手ぶら、ポケットに怪しそうな膨らみなどもない、誰かが持ち去った様子もないのに忽然と消えた絵馬の謎を追う回でした。頭文字が三、五、七、九と短編ごとに順番に登場する大企業グループの中で一だけがないなと思っていたら、解体したグループの一族として一水さんが出てきました。素人探偵時代の九条の功績によって解体の憂き目にあったようで、九条を恨んでいるといいつつも一緒にお茶をしたりと、明るい(?)恨みでした。本人を目の前に堂々と恨んでいる事を公言するくらいなので、元々人はいいのでしょうね。

 

良いキャラだと思うので一水さんにはぜひレギュラー化していただき、続編も出してほしいところです。