市井豊「聴き屋」シリーズ第1弾『聴き屋の芸術学部祭』あらすじとネタバレ感想まとめ

市井豊さんの「聴き屋の芸術学部祭」のあらすじと感想をまとめました。

先にシリーズ2冊目の「人魚と金魚鉢」を読んでいたため、日常系ほのぼのミステリーかと思っていたら、4作品中2つで殺人事件が勃発していました。

ほのぼのとはかけ離れた事件であるものの登場人物たちは全員が魅力的で、そちらでほのぼのする一冊でした。

「聴き屋の芸術学部祭」の書籍概要

聴き屋シリーズ第1弾。人に話しかけられやすい柏木君がその体質を利用してさまざまな謎を解く短編集。「聴き屋の芸術学部祭」「からくりツィスカの余命」「濡れ衣トワイライト」「泥棒たちの挽歌」の4作品を収録している。

  • 聴き屋の芸術学部祭 (2012年1月/ ミステリ・フロンティア)
  • 聴き屋の芸術学部祭(2014年12月/創元推理文庫)
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聴き屋の芸術学部祭

T大学芸術学部文芸学科2年の柏木は、芸術学部祭で所属する文芸サークル「ザ・フール」のサークル誌の販促として隣で「聴き屋」を開いていた。ただ人の話を聴くだけだがリピーターは多い。休憩中、友人の川瀬、度が過ぎた消極性の先輩とともに美術棟に足を踏み入れた。美術棟では学生たちによる突発的な企画が催されている。美術学科の展示の手伝いで先輩と別れてまもなくのこと、突然火災報知器の音とともにスプリンクラーが作動した。

火事だと一斉に逃げ出すなか柏木と川瀬は、機械制御室のスイッチが人為的に操作されているのを確認した。どこからも火が出た様子はないものの念のため校舎内を見て回ったところ、三階で丸焦げになった水浸しの遺体を発見した。

被害者は写真学科の4年生。突発企画として、1年間の学部の風景を撮った写真を展示していたところを襲われたらしい。事件に遭遇した人間や被害者の知り合いなどがこぞって柏木の元へやってきて興奮を吐き出して去っていくなか、集まった情報をもとに事件を組み立てていく。

 

個性的な人間ばかりが集まる芸術学部での学部祭、出てくる登場人物たちも個性豊かです。死者が出たということで学部祭は中止、警察も出張る大騒動になる中、大学のそばにある行きつけの喫茶店に腰を落ち着け事件を推理していきます。写真学科性を殺害した犯人とスプリンクラーを作動させた人物は、事件として繋がってはいるが別人と結論付けていく論理的な過程が読んでいてわくわくしました。川瀬と柏木のコミカルなやり取りもまた楽しい一作でした。

からくりツィスカの余命

演劇サークルを主宰する主演女優の月子の過度のいたずらによって、脚本家が後半部分を明らかにしないまま逃亡した。このままでは他大学との競演公演に間に合わない。女王様気質の月子によってなぜか脚本の残りの部分を埋めることを強要された柏木は、月子から更に「ハッピーエンド以外認めない(死亡者ゼロを所望)」「主人公ツィスカが活躍しなければならない」「塔に閉じ込められている姫巫女も救わなければならない」という制限を課せられる中、途中まで書かれた台本の読み合わせをしながら作者のオリジナル脚本のオチを推理していく。

脚本のタイトルは「からくりツィスカの余命」。人形に命を吹き込める森の魔女が倒れ、人形たちに危機が訪れた。一か月に一度命を吹き込んでもらわないと動けなくなる人形たちは、国によって保護され塔の中で過ごしているという魔女と同じ力を持つ姫巫女に会うため、ツィスカを街へと向かわせた。だが街では姫巫女の力が衰えているという噂が流れており、この機を狙い今まさに隣国が攻めてこようとしていた……というストーリーだった。

 

前作の「聴き屋の芸術学部祭」に登場した陰気で弱気な先輩も巻き込まれ、月子に叱咤されつつ台本の読み合わせを行った柏木は、脚本の中に仕掛けられていた「あること」に気づきます。からくりツィスカの余命は無事に上演され、本番をそっと見に来ていた脚本家からも正解の言葉をもらった柏木でした。

濡れ衣トワイライト

「ザ・フール」の部室で居眠りをし4限目をほぼ丸々寝過ごしてしまった柏木は、部屋が冷えているのに気が付きエアコンのスイッチを入れたが作動しない。オンボロすぎて壊れてしまったらしい。やってきた黒猫と戯れながら4限終了のチャイムを聞いた数分後、模型部の牧野がやってきた。部として認められるぎりぎりの5人で活動している模型部の紅一点・成田の製作中の模型がひっくり返されて破壊されており、第一発見者の牧野に疑いがかかったのだ。牧野は事情を話しながら勝手にコーヒーを淹れ、寒いと言いつつリモコンを操作する。すると壊れたと思われたエアコンは温風を吹き出しはじめた。

模型部の部室を狙っている他のサークルの仕業かもと部活動を把握している副会長に尋ねたところ、可愛がっている黒猫のクロちゃんを引き取りにやってきた副部長は空き部屋に余裕はあるといい、部室を見回っていて忙しいと去っていった。その際、一度「ザ・フール」の部屋にも来たが、柏木はよく眠っていて起こしても起きなかったと教えてくれる。

牧野、成田以外の模型部の残りは3人、音楽学科でしょっちゅうサングラスをかけては外しをしていたのが災いして階段から転げ落ちて負傷した渡辺、映画学科の気は優しくて力持ち、実家でボヤ騒ぎを起こして枕を抱えて飛び出したという宮本、牧野と同じ放送学科で4限目は牧野と同じ授業を受けていたがトイレに寄って部室に行くのが遅くなった部長の菅原。話を聞いた柏木は故意ではなくアクシデントで起こった事件だと見て、その中の一人に確認をとった。

 

読み流していた部分がすべて伏線でした。牧野君のふざけた性格と冷ややかな柏木君とのやりとりにすっかり見逃してしまいました。犯人……アクシデントで模型を壊してしまった人物は消去法で絞られ、犯人自身も素直に認めたようです。

泥棒たちの挽歌

芸術学部祭でのサークル誌の売り上げの使い道は、箱根の温泉旅館へ行くことに決まった。2台のレンタカーに分乗して旅館へと到着したメンバーたちは、温泉、宴会と盛り上がる。そのなかで柏木は、最近出没するという少年窃盗団の話を地元の住民から聞いた。女子の部屋で酔いつぶれた男連中を30分かけて男子用の部屋と運んだ柏木は、川瀬の誘いで冷えた体を温めるべく露天風呂へと向かった。

露天風呂へと向かう途中、旅館の3階にある男子部屋へと向かって壁をよじ登る怪しい人影を見つける。捕まえた二人組は、柏木らと同い年くらいの男たちだった。隙をついて逃げた二人組を追った柏木と川瀬は、小道で男たちが躓いて転んだものの正体を知り驚く。腹部にナイフを突き立てて絶命した若い男だった。体の上には落ち葉や犯人ともみ合った時に壊したと思われる庭園灯のガラスが散っていた。110番しようとする川瀬だったが、二人組にナイフを向けられ自分たちがこの殺人に関わっていないことを証明しろと強要される。

その後、小道の先にある露天風呂で刺殺された男を発見、柏木達の隣部屋の成金風の宿泊客だった。川瀬と柏木自身も同じく身の潔白を証明しなければならない立場だったため、ここで一体何が起きたのかを考えることになった。

 

最終的に遺体は2つでは済みませんでした。のどかな温泉地の風景が一変する事件ですが、警察に通報する前にやむをえず犯人や犯行の状況を推理するという状況になってしまったため、ところどころ緊張感のない会話が挟まり、あまり凄惨な雰囲気にはなっていませんでした。

「なぜ」の部分は、男同士の恋愛に情熱をもやす「ザ・フール」の後輩、梅ちゃんがキーパーソンになっていました。

窃盗をたくらんだ二人組、テツとヤスは性根は悪くなさそうなので、しっかりと更生してほしいところです。

 

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結果的に順番を逆に読んでしまった「聴き屋シリーズ」ですが、特に問題はなく楽しめました。もちろん最初から読んだ方が人間関係の把握はスムーズだったかと思います。

第3弾もその次も出してほしいシリーズです。