市井豊の「聴き屋」シリーズ第2弾『人魚と金魚鉢』あらすじとネタバレ感想まとめ

市井豊さんの「人魚と金魚鉢」のあらすじと感想をまとめました。

他学部から完全に切り離された都内の隅っこに位置するT大学芸術学部に通う聴き屋体質の柏木君を中心とした日常系ミステリー第2弾です。

タイトルに惹かれて手に取ったので、読み始める頃になってシリーズものだと気づきました。が前作を知らなくても読むのに支障のない短編集でした。

「人魚と金魚鉢」書籍概要

聴き屋シリーズ2冊目となる短編集。「青鬼の涙」「恋の仮病」「世迷い子と」「愚者は春に隠れる」「人魚と金魚鉢」の5作品を収録している。

  • 人魚と金魚鉢 (2015年2月/ミステリ・フロンティア)
  • 人魚と金魚鉢(2018年2月/創元推理文庫)

青鬼の涙

祖父の七回忌の法要のため家族5人で父の実家へと向かった柏木は、口数も少なく厳しい態度で接してくる祖父を苦手とし、あまり交流をしていなかった。だが祖父は「青鬼さん」と親しみを込めて呼ばれ、地元の人たちから頼りにされていたらしい。幼いころ一度だけ屋根裏部屋で泣いていた祖父を姿を思い出したものの、理由は分からない。法事に集まった地域の人たちの話や幼いころの自分の記憶をかき集め、柏木はなぜあの日祖父は泣いていたのかを探り始めた。すると嫌われていると思っていた祖父の意外な素顔が浮かび上がってくる。

 

「泣いた赤鬼」を彷彿とさせるようなタイトルですね。愛情表現が苦手な人だったようです。小学生だった柏木に祖父を理解するのは難しかっただろうと思いますが、もう少し大人になるまでおじいさんが長生きしていたら2人の距離は縮まったのだろうなと思いました。

恋の仮病

心理学部の教授に乞われ、一週間分のランチの食券と引き換えに、柏木は聴き屋として聞いたエピソードを一つ、心理学部生たちの前で披露することになった。それは一か月ほど前、罰ゲームである女子学生に告白をさせられた男子学生と、恋愛の練習相手としてその告白を受け入れたカップルの話だった。男の方は女性に対し誠心誠意謝らなければと考え、女の方は柏木に話を聞いてもらって喜んでいたという。2人は既に別れているだろうという学生に対し、柏木は現在進行形でこのカップルは付き合っていると答える。教授は、この話の焦点は何なのか学生らに問う。

 

柏木は聴き屋としての失敗談ということでこのエピソードを選んだようです。恋愛において人の気持ちは永遠ではないという話を、いい意味で裏切ってくれる話でした。心理学部の教授が軽くていい味出しています。

世迷い子と

人気上昇中の天然系子どもタレント・不破良介のマネージャー兼叔母で柏木の所属するサークル「ザ・フール」のOB三門が、柏木の話を聞きつけて相談にやってきた。良介がバラエティーの撮影中、急に青ざめて逃げ出し近くの池に落っこちてしまったという。幸いケガもなかったが、良介は何でもないと言い張り何に怯えたのか口にしない。柏木の聴き屋としての腕を見込んでの相談だったが、1回目の良介との面談は心を開いてもらえず失敗に終わってしまう。

数日後、別の生中継番組でも良介は何かを怖がりパニックに陥った。撮影時の状況や関係者の話、柏木の出した苺大福を苺と餡子と皮に分けて食べていた良介の姿を思い出し、柏木は彼が一体何に怯えているのか見つけることにした。

 

子どもは子どもなりに自分の状況を把握し、周囲とうまくやっていこうと頑張っているのだなと最後はほのぼのとする話でした(当の本人にすれば恐怖以外の何物でもないでしょうが)。

個性的で突飛な行動をすることが多い芸術学部生ですが、柏木君の周りには美少年フェチが多いのではないでしょうか。

愚者は春に隠れる

OB達が残していった部室の不用品をさくら公園で開催されるフリーマーケットで売ることになったザ・フールのメンバーは、交代で店番をしていた。だが客足も途絶えたことで居眠りをしてしまった柏木は、目を覚ますとおもちゃの手錠で先輩と繋がれていることに気づいた。犯人は川瀬。だが川瀬はフリーマーケットの売上金をかけた「かくれんぼ」をメンバーたちに仕掛け姿を眩ませてしまった。範囲はさくら公園の敷地内、フリーマーケット終了までに全員が捕まれば鬼の一人勝ち、密告ありのかくれんぼが店番の柏木達を残して始まる。密告で潰し合った結果次々と鬼に見つかるものの、肝心の川瀬だけが見つからない。川瀬の事前の仕込みによってかくれんぼへの参戦を余儀なくされた柏木は、川瀬以外の全員を仲間に引き込みローラー作戦をかけたものの、見つけることができなかった。

 

敷地を出るというルール違反を犯すと精神的にきつい罰ゲームが待っているので、川瀬がさくら公園内のどこかにいるのは確実です。人の認識の盲点を突いた場所に川瀬はいました。ラストシーンが最高でした。

人魚と金魚鉢

芸術学部音楽学科の選抜メンバーによる無料コンサートのため大ホールへと向かっていた柏木は、体調を崩してうずくまっていた音楽学科の浦口から、会場が大講堂へと変更になったことを聞かされる。誰かの悪戯か、大ホールのステージに泡が撒かれていたらしい。まるでコンサートの演奏曲「人魚と金魚鉢」の人魚を彷彿させるようだったという。「人魚と金魚鉢」は、浦口が心酔し師事している世界的ヴァイオリニストで教授の古林が作曲したものだった。

誰が何の目的でやったのか分からないまま、午前中のプログラムは終了した。昼休憩中、大講堂のステージかかっていた暗幕にスプレーで泡が吹き付けられる騒動が起きた。関係者らはコンサートに出演するため忙しく、犯人捜しは暇な柏木に任されることになった。午後の部が始まり古林と学生らによる「人魚と金魚鉢」も演奏された。客席の後ろにした柏木は、客らが古林の腕が落ちたこと、古林教授の辞任の話が持ち上がっているという声を耳にした。

 

やったことは騒動になりましたが責任は取るつもりだったようですし、深い愛情があっての事件でした。演奏を控えてしょっちゅう吐きそうになっている浦口君には、本番前に緊張しすぎないメンタルを持ってほしいところです。

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読みやすく、日常系ミステリーということで凄惨な殺人現場が登場するわけでもないので、安心して読むことができる1冊でした。

今回はシリーズ2冊目とのことなので、1冊目を探して読む予定です。楽しみです。