今村昌弘『屍人荘の殺人』あらすじとネタバレ感想

今村昌弘さんの「屍人荘の殺人」のあらすじと感想をまとめました。

鮎川哲也賞受賞作、クローズドサークルというフレーズに惹かれて読み始めたら、いきなりとんでもない方法で建物内に閉じ込められてしまいます。どこかでどっきりの種明かしがされるのかと思っていたのですが、最後までその設定のまま話が進み、その設定が密室殺人の最大のトリックになっていたという意表を突くミステリーでした。

「屍人荘の殺人」書籍概要

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け―。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!「BOOK」データベースより

  • 屍人荘の殺人(2017年10月/東京創元社)
  • 屍人荘の殺人(2019年9月/創元推理文庫)

あらすじ

たった二人だけのミステリ愛好会の葉村と会長の明智は、名探偵と名高い美人の比留子の付き添いという形で映画研究部の夏合宿に参加することになった。映画研究部は去年の合宿後に自殺者が出ており、今回も脅迫状めいた脅しでキャンセルが相次いでいたため、合コンじみた合宿へ参加する女子が不足していたためだ。

合宿先のペンションは映画研究部のOBが無料で提供してくれるもので、3人のOBが合宿に参加することになっていた。映研の部長・進藤は、不足する女子学生を自分の恋人や比留子を参加させることで、OBの要求に応えようとしていた。

一方ペンションの近くでは、5万人が集まるといわれるロックフェスティバルが開催されようとしていた。そこにパンデミックを起こすため、数人の男たちが細菌兵器を手に紛れ込んでいた。

合宿初日、バーベキュー中に葉村の腕時計が行方不明になり手癖の悪いOBの一人に疑いがかかるというトラブルが起きたものの滞りなくスケジュールはこなされ、男女のペアでの肝試しがはじまった。だがその最中に異常が起きた。赤黒い血を顔や服にべったりと貼り付けた何十人もの人間が突然襲い掛かってきた。細菌によってゾンビ化したロックフェスの参加者たちだった。命からがらペンション内に立てこもった学生たちは、1階をゾンビの侵入を許したため切り捨て、バリケードと防犯扉で2・3階に避難して救助を待つことにした。その際、何人かの学生が犠牲となり、葉村の時計を盗ったと思われるOBや明智、進藤の恋人もそのなかに入った。

ゾンビに噛まれた人間もまたゾンビになる。恋人を失い半乱狂になった進藤は自室に閉じこもった。生き残った人間らも、管理人の菅野が1時間ごとに見回りをすることになり、それぞれの部屋でゾンビに警戒しつつ一夜を過ごすことになった。

翌朝、映研の重元が、進藤の部屋の扉の下に「ごちそうさま」と書かれた紙を見つけた。マスターキーで入った室内には、顔を中心にいくつもの噛み跡を残して息絶えた無惨な状態の新藤がいた。明らかにゾンビに襲われたと思わる遺体だった。室内には「いただきます」の紙があった。建物の外はゾンビに囲まれた密室、カードキーで開閉する部屋は鍵が掛ったままという二重の密室の中でゾンビに噛み殺されるという状況だったが、立てこもった空間内のどこからもゾンビは見つからず、生存者の誰かが何らかのトリックを使ったものと思われた。

比留子からワトソン役への誘いを受けて断ったものの、明智というホームズを失った葉村は、比留子とともに、ゾンビに詳しい重元からレクチャーを受けつつ不可解な進藤の死について検討を重ねる。

また去年の合宿に参加したという映研の高木から、OBのうち2人が合宿中に付き合い始めた女子学生をその後手酷く振り、1人が退学、1人が自殺したという経緯を聞く。高木は今回の合宿に参加する気はなかったが、女子を確保するために進藤によって大人しい静原が参加を承諾させられていたため、渋々付いてくることにしたらしい。

更に翌朝、2階のエレベーター内でOBの一人、立浪の惨殺体が発見された。また体力に限界がないゾンビたちによって2階の非常扉が破られた。ペンションは一つのフロアを中扉によって3区画に分けることができる。非常口側の中扉でゾンビの侵入を一時的に防いだものの、非常口側の部屋だった比留子と高木の2人が自室から出られない状況となり、2階の比留子の真上の部屋、ゾンビを警戒して籠城し続けていたOB・七宮の部屋の窓から縄梯子を下ろして2人を救出した。

立浪の遺体発見前夜、何者かによってコーヒーに強力な睡眠薬が入れられていたらしく、コーヒーアレルギーの葉村と、コーラしか飲まない重元、籠城していた七宮以外の全員が眠らされていたため、夜は1時間ごとに行うという菅野の見回りができなかった。夜の行動を全員ですり合わせるものの、犯行が可能な人間は見つからなかった。

頭をさんざん殴られた立浪の遺体には、またしてもゾンビに噛まれたとしか思われない跡が残されていた。ドアの鍵とドアガードで阻まれた立浪を部屋からエレベーターへとわざわざ移動させ、ゾンビが殺したような跡を残した人間が生存者の中にいる。比留子は犯人の意図が分からないという。ゾンビに襲わせたいのであれば、エレベーターを使わなくても非常口の側に眠った立浪を放り出し、非常扉の鍵を開けてゾンビを中に入れれば解決する。

再度進藤の部屋を調べた比留子は、血が飛び散った室内でベッドの布団の上だけでなく、内側にも血が付着していることに気が付き、葉村に鞄の中を写真に撮っておくよう言いつける。比留子は、誰がどうやって進藤と立浪を殺したのか分かった。

3階もゾンビに突破された。3階にある倉庫に逃げ込み、そこから屋上へと抜けて救助を待つしか手立てはなかった。全員が倉庫へと逃げるものの、避難を呼びかけても七宮の返事がない。不安を感じ屋上からビデオカメラを垂らして窓から部屋の様子をうかがうと、苦しんだ様子で倒れている姿が映っていた。またもや密室内で殺されたらしい。

生存者は、管理人の菅野、映研の重元、名張、高木、静原、比留子、葉村。自分を助けたために明智が犠牲になったことを気に病んでいたらしい静原が、比留子に対し3人を殺した犯人が分かっているのなら教えてほしいと言い始めた。

 

犯人はOBに対して強い憎しみを感じていたため、ゾンビという得体のしれない存在に囲まれながらも、それらをうまく使う方法を思いつき実行に移していました。

比留子によって3人がどうやって殺されたのかは解明され、パンデミックによって封鎖されていた一帯でしたが救助が間に合ったようです。

 

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「屍人荘の殺人」はクローズドサークル物+館です。登場人物も多く、それぞれのキャラの動きと建物の見取り図を照らし合わせなければ解けない、複雑なトリックが使われていて読み甲斐がありました。

クローズドサークルといえば、孤島や天災によって孤立した建物や地域というイメージでしたが、まさか細菌兵器によってゾンビに囲まれて孤立するとは思いもよらない設定でした。

細菌兵器でゾンビ化させるという設定だけは力技だった気がしますが、ただ孤立させるだけでなく、ゾンビの特性を踏まえて密室殺人の中にうまく「ゾンビ」という存在を取り込んだのは面白かったです。ここまでゾンビを活躍させるミステリーはなかなかない気がします。

ゾンビが出てきた時点でギャグかホラーに移行するのかと思ってしまいましたが、ゾンビという特殊設定を使った本格ミステリーでした。