伊坂幸太郎「陽気なギャング」シリーズ第1弾『陽気なギャングが地球を回す』あらすじとほんのりネタバレ感想

「陽気なギャングが地球を回す」のあらすじと感想をまとめました。

4人の銀行強盗の話です。陽気なギャングというタイトルについているだけあって明るく銀行強盗を行い、そして逃走中に車ごと強盗したお金を奪われていきます。ギャングといっても本業ではないようです。素人が寄り集まって大金を手に入れると仲間割れしそうなものですが、この4人はうまくやっているようですね。

ジャンル的にはミステリーではなく「長編サスペンス」となっていますが、立ちはだかるいくつもの難問をどう解決するのか、まるでミステリーの謎解きを読むようにワクワクします。悲壮感などはほぼないので、楽しく読める一冊です。

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「陽気なギャングが地球を回す」書籍概要

陽気なギャングシリーズ第1弾となる書下ろし長編もの。

  • 陽気なギャングが地球を回す(2003年2月/祥伝社ノン・ノベル)
  • 陽気なギャングが地球を回す(2006年2月/祥伝社文庫)

 

他人の嘘を見抜く、演説の達人、スリの名人、正確な体内時計……それぞれが特異な特技をもつ4人が「誰も傷つけない」銀行強盗を行うことにした。リーダー格の成瀬を中心に、計画通り4,000万円を手にして逃走中、近頃世間を賑わせている現金輸送車襲撃犯に遭遇、車ごとお金を奪われてしまった。

登場人物

  • 成瀬:人の嘘を見抜くことができる冷静沈着な市役所職員。用心深いリーダー格
  • 響野:喫茶店経営者。非常に弁が立ち、強盗時にはポリシーにそって演説を行っている。和泉のごとく喋り続けるがほとんどがでたらめだといわれている。コーヒーの腕前はいまいち。
  • 久遠:スリが得意。人間より動物の方が偉いと考えている。
  • 雪子:正確な体内時計を持つため、強盗時には信号に引っかからないよう車を運転することができる。
  • 田中:鍵の複製やナンバープレートなどの調達に長けている。フラッシュレスカメラや内側からは開かない車など変わったものを作ったりしている引きこもり。
  • 祥子:響野の妻で喫茶店を切り盛りしている。明るい。銀行強盗のことは知っている。
  • 慎一:雪子の息子。銀行強盗のことは知っている。
  • 地道:昔雪子と暮らしていたろくでなし。ある日借金を残していなくなった。

銀行強盗と死体

2週間後に銀行強盗を想定とした訓練が行われるという頃、彼ら4人はとある銀行に強盗に入ることに決めた。入念な下見と、逃走ルート、強盗中の演説内容などそれぞれが役割に沿って準備を進める。銀行強盗は、行員らに警報装置を押させないことが肝だ。奪うお金は4000万、一人当たり1000万の計算だった。銀行内にいる人間を手際よく一か所に集め響野が演説を行っている間、成瀬と久遠がスピーディーに金を奪う。入店してからきっちり5分後、計画通り大金とともに3人は雪子が待つ車へと身を滑らせた。雪子の体内時計に沿って青信号ばかりで街道を走り抜けている最中、思わぬ事態が起きた。急に飛び出てきた車にぶつかりかけたのだ。

相手の車は、巷で噂の現金輸送車強奪犯たちだった。拳銃の前ではなすすべもなく、4人は車ごと4000万円を奪われ、強奪犯たちは直前に襲った現金輸送車の金とあわせて合計1億4000万を手に入れたことになる。銀行強盗犯と現金輸送車襲撃犯がかちあうという非常にまれな出来事だった。

完全な無収入で終わった銀行強盗だったが、スリの名人・久遠が車を奪われる際、相手の運転手から財布を掏っていた。免許証から運転手の名前(林達夫)と住所が分かり、田中に依頼して鍵の複製が出来次第成瀬と雪子で様子見に行くことに決まった。

林の住むマンションへは先に成瀬一人が入っていったが、すぐに外で待つ雪子を携帯で呼んだ。部屋に入った雪子が見たのは、左胸を背中から刺された林の遺体だった。

林の部屋には固定電話があった。試しに成瀬がリダイヤル機能を使って電話をかけると、応じたのは響野だった。

中学校でのいじめと謎のX氏

成瀬と雪子が林のマンションへ行く数時間前、響野と久遠は喫茶店にいた。遊びに行くといって留守にした祥子に代わり響野が淹れた不味いコーヒーを啜っていると、雪子の息子・慎一から電話がかかってきた。「自分はいじめられるかもしれない」と謎の預言を残しまま喫茶店に姿を見せなくなっていた慎一は、雪子から響野の店に行くことを禁じられているといい、響野たちに誰かにつけられているかもしれないので来てほしいと頼む。

ショッピングモールで合流した3人は、慎一からクラスで起きているいじめの話を聞く。薫くんというターゲットにされている同級生を、同じクラスの数人とガラの悪い高校生たちがお化け屋敷みたいなパチンコ屋に連れて行ったらしい。殺されてしまうかもと心配する慎一の案内で、響野と久遠はパチンコ屋へ車を走らせた。車内で2人は慎一から最近雪子の様子がおかしいことを聞く。落ち着きがないそうだ。喫茶店へ近寄るなと言ったり、姿を見せない慎一を不思議がる響野たちに息子は試験中だと嘘をついたりと、確かに雪子の様子はおかしかった。だがその理由も分からないまま目的地に到着。2人は不良たちを難なく倒し主犯格の子をグルグル巻きに縛り上げ薫くんを救出した。そんな時声がした。

2人と慎一、薫くんの前に拳銃を構えた中年男が立っていた。廃墟のパチンコ店から逃げ出した子ども達から事情を聞いてやってきたという。どうやら男は、響野と久遠が子ども達を襲っているものの勘違いしているらしい。子どもを助けるつもりらしく慎一たちから離れろと命じてくる。だがパトカーの音が聞こえてくると、踏み込まれてはまずいと考えたのか男は拳銃をしまい出口へ向かう。その隙をついて久遠が男から何かを掏った。自分たちだけが残っている方が警察に説明がつけやすいと慎一に説得される形で、響野らも渋々現場を去ることになった。久遠が男からとったのは携帯電話だった。タイミングよく着信が入り電話が鳴りだす。自分の方がうまく対応できると響野は軽快に電話に向かって話しかけた「もしもーし」

掛けてきたのは成瀬だった。

合流した4人は今まで起きたことを突き合わせて話し合うことになった。響野から慎一が警察にいることを知らされた雪子が飛び出していき、残った3人で検証を続ける。廃墟のパチンコ店に現れたX氏も含め、成瀬チームと響野チームのどちらにも関わりをもつのは雪子だと成瀬は結論づけた。銀行強盗を終えたあとに車ごと襲われたのは偶然ではなく、雪子が関係しているのだろう。おそらく雪子にとって今回の銀行強盗の分け前は足りなかった。そもそも強盗の打ち合わせをしている時も車を襲われた時も雪子の様子がおかしかった、何か隠しているはずだと嘘を見抜く成瀬は言う。

再びの強盗計画

雪子は公園のベンチでX氏と会っていた。Xは借金を残したまま雪子と2歳の慎一を置いて逃げた男・慎一の実の父親だった。逃げ回ることは得意だが気が小さくて強い者にはすぐ巻かれる男・地道は、雪子が強盗の下見運転をしている最中に見かけて声をかけた。地道はいまも借金の取り立てに追われておりすぐさま雪子に泣きついた。うっかり地道に声をかけたことも、大金が用意できると口を滑らせたことも後悔してもあとのまつり、雪子は慎一を人質に4000万円用意するよう脅されていた。地道が借金をしている相手・神崎にそのことを話してしまったためだ。

冷徹で狡猾で神崎は、現金輸送車襲撃犯のボスだった。地道と殺された林も同じように借金をカタに襲撃を手伝わされていた人間だった。部屋に盗聴器を仕掛けられていたことを知った林が地道に相談をし、地道がそのことを神崎に告げ、神崎が林を殺したのだ。自分は盗聴器を仕掛けるのは得意なのだと地道は言い、隙をついて雪子に拳銃を向けた。

雪子をつけていた祥子の働きによって地道を捕えた成瀬たちは、今までの事件の全貌を知った。そして次なる計画を立てる。もう一度銀行強盗をしよう。計画が神崎に知られれば必ず邪魔をしてくる。響野、久遠の反対と、絶対に裏切るという雪子の激しい拒絶にも関わらず、成瀬は地道を仲間に入れて強盗をすると主張した。仲間にした方が裏切らないという。地道が林を山中に埋めているところを隠し撮りした写真を保険に、地道も仲間に加わることになった。前回襲った銀行とはさほど離れていない銀行をターゲットにしたため、前回とほぼやり方も逃走ルートも同じだった。地道の役割は何もしないこと。神崎にも強盗計画を漏らさない。ただ役割があった方が裏切りにくいと成瀬が考えたのか、連絡用の携帯電話を準備することだけは地道が引き受けており全員に配って回った。

地道と別れたあと、4人は響野の喫茶店に集合した。成瀬によると、地道が裏切ることを想定した本物の銀行強盗計画の打ち合わせだった。地道が参加した打ち合わせは偽物で、実際はもっと早く強盗に入るのだという。そうすれば地道が神崎に計画日を漏らしても邪魔は入らない。

銀行強盗日当日、計画通り顔を隠した3人が銀行へと入っていった。5分30秒後に出てくる3人を車で迎え逃げるのが雪子の役目だった。

校内で銃声と悲鳴が聞こえた。いつもと違う雰囲気に雪子が不安に襲われた時、後部座席に銃を持った神崎が乗り込んできた。地道が用意した携帯電話が盗聴器になっており、4人の計画は筒抜けだったのだ。誰かがドジを踏んだのかパトカーがやってきて銀行を囲み始めた。野次馬整理の為か、制服警官が雪子たちの方へもやってきた。

絶体絶命だった。

 

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ここから成瀬達の逆転劇が始まるのですが、今までに仕掛けられた伏線が見事に綺麗に回収されました。凄いです。「なるほど、あれがここで使われたのか」という全てが腑に落ちるシーンでした。探偵役はいないけれど、全てが一つに集約していって大団円に繋がるような流れだったと思います。人気シリーズな理由も納得です。

モブとして警察は出てきますが、銀行強盗やら現金輸送車強奪やらぶっそうな事が起きるわりに直接警察関係者が事件に関与してくることはありません。現実味は薄いですが、映画を見ているかのようなエンターテイメント性抜群の一冊でした。