囲恭之介『千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖』あらすじとネタバレ感想

囲恭之介さんの「千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖」のあらすじと感想をまとめました。

大正時代を舞台とした怪奇ミステリーということですが、あまり時代を感じることはなくスイスイ読み進めました。面白かったのですが探偵役の白比丘尼の見た目が少女、髪の色が白という大正時代でも今の時代でも人の目を引きやすい特徴を持っているにも関わらず、事件にまつわる人々が一切気にしていない様子なことに、最後まで違和感が残りました。

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千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖

時は、大正8年。秦野財閥の四男・孝四郎は、父の命令であるものを得るため、謎の少女・白比丘尼と共に、孤島で行われるオークションに参加することとなる。“千年探偵”と呼ばれる彼女は白い髪に葡萄茶式部姿で、自らを「人魚の肉を食べた不老の身」と言い、童女のようなあどけなさと老練な賢者の如き鋭さを併せ持つ、麗しき奇人で―。人魚伝説の残る孤島で起きる連続殺人事件の謎に挑む、怪奇ミステリー! 「BOOK」データベースより

  • 千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖(2019年7月/宝島社文庫)

第一章 雲色の怪人

大正8年春、秦野(じんの)孝四郎は病床に伏せている父親・秦野財閥会長の秦野零明の命で、食べると不老不死になるという「人魚の肉」を探すため白比丘尼という女性を探していた。零明の恩人で秦野家の守り神であるという白比丘尼は、人魚の肉を食べ1000年の時を生きており、さまざまな知識を有しあらゆる問題を解決してきたことから千年探偵と呼ばれているらしい。零明と愛人である母親の間に四男として生まれたものの、一族から疎まれて追い出され貧乏暮らしを余儀なくされたうえ半年前に母を亡くした孝四郎は、見つけ出した人魚を零明には渡さないという復讐をするため、零明の命令を受け入れ人魚探しをすることになった。

ようやく見つけた白比丘尼は、年の頃は14、5歳、小柄で華奢な身体に雪のように白い長髪の女性だった。彼女の住まいである椿庵まで追いかけた孝四郎が人魚の肉を一緒に探してほしいと交渉すると、あっさりと受け入れられる。早速孝四郎は、一昨日の新聞に掲載されていた「人魚のミイラ」が出品されるというオークションの広告を白比丘尼に見せる。日付や主催が不和男爵だと書かれているものの会場が分からないという孝四郎に、彼女は広告の情報から「大灯台島」だと推理する。

第二章 奇岩城

大灯台島は不破男爵家が所有する孤島で、定期船がないためオークションのために用意された漁船に乗り込み孝四郎たちは島を目指した。今は廃灯になり無人の島だが、かつては5人の灯台守が常在していた。島を中心に渦を巻くような海流があることから遭難事故が絶えず、近隣の漁村からは人魚が出て惑わしているという噂がまことしやかに流れていたらしい。そして32年前、5人の灯台守が一斉に消えるという集団失踪事件が起きて世間を賑わせた。島の宿舎は食器が並べられていたりトランプが置かれていたりと日常と変わらない状態だったにもかかわらず、人間だけが忽然と姿を消した。その後新聞社が灯台守の一人・宗形喜蔵の書いた喜蔵日誌を秘密裡に入手し新聞に載せた。当時の天候とは真逆の荒天だと綴ってあったり人魚の誘惑という記述があったりと内容は支離滅裂でまるで狂人の奇書だった。

漁船に乗り合わせた人々=オークション参加者は、孝四郎の腹違いの兄で孝四郎と白比丘尼に敵意を抱いている秦野三津雄、篁家の伯爵夫人・織枝と書生の乙丸桐彦、開業医の日下部佑、怪奇画や春画を得意としている画家の真珠花エ門、成金の相場師・宍戸長治だった。白比丘尼は正体を秘密にするため、孝四郎の遠縁の椿と名乗った。

大灯台島では不破松之丞が迎えた。松之丞は勘当されていたもののスペイン風邪で兄弟が次々と他界、急遽呼び戻されて後継者となった人物で、お調子者で激しやすく目下の人間には情けをかけないらしく、若い頃には粗相を働いた使用人を折檻で責め殺したらしいと今回のオークションのために雇われた使用人・御厨初と塁から聞く。活発な姉の初と大人しい妹の塁は一卵性のそっくりな姉妹だった。

オークションは初日は骨董品類、二日目に大灯台島の権利書などの不動産と二夜に渡り開催されるため参加者たちは二泊三日の予定で島に滞在することになる。用意された個室に荷物を運び終えた孝四郎の元に松之丞が訪れ、広告に忍ばせた会場を当てたのは孝四郎だけだったとして松之丞の父親が今わの際に残した言葉「ニジハ ニンギョノ ハラワタ」の謎を解いてほしいと持ち掛けられる。報酬として孝四郎が人魚のミイラを競り落とした場合、落札額から二割引き、滞在中に遺言の謎を解けば三割引きを提示される。

だが夕食後にオークションが始まると宍戸が根こそぎ競り落としていき、最後まで粘ったものの人魚のミイラも宍戸のものとなる。オークション後は松乃丞の意向で宿舎内のカフェで全員が寛ぐことになった。使用人は初と塁だけで深夜帯は初一人で切り盛りするらしく人手が足りず、料理人の梶原友護も給仕を手伝っている。3人で全ての客の接待を賄っているらしい。夜11時、疲れて一人だけ先に自室に戻った孝四郎は叩きつけるような雨音のなか眠りについた。

深夜2時近く、孝四郎は桐彦に声をかけられ覚醒した。伯爵夫人のために睡眠薬を貰いに日下部医師の部屋を訪ねるところだったという桐彦にこんな場所でどうしたのかと問われ、夢遊病であることを告白する。父親への復讐というストレスから孝四郎は夢遊病を発症していた。だが診て貰った日下部によると、多重人格の可能性もあるという。そんな人物が人魚のミイラに執着したのが気がかりだと日下部は言い始めた。

第三章 人魚は眞夜中に唄う

翌朝、白比丘尼から人魚のミイラを譲ってもらうよう宍戸に交渉してはと言われ、孝四郎は三津雄と釣りをしている海岸へと行く。そこには茫然としている宍戸と三津雄と、海に浮かんでいる不破松乃丞の水死体だった。訃報を聞いて海岸に駆け付けた面々が騒ぐ中、人魚という言葉を聞いた孝四郎は思わず松乃丞の父親の言葉を呟き、全員から冷たい目で見られ三津雄に何のつもりだと怒鳴られた。話し合いの結果、日下部と白比丘尼が簡単な検死を行うことになる。遺体を宿舎まで運んで調べた結果、死因は溺死だったものの頭部に数度殴打されたあとがあった。また衣服のボタンが無くなっている等の争った跡も見られたことから、他殺と見立てられた。全員が息を飲む中、早朝の担当だという塁の姿が見えないと初が訴えた。

全員で塁を探すうち、孝四郎は灯台の裏手で水が滴る音を聞く。見上げると灯台の最上階から吊るされた塁がいた。雨が降り始める中、男性陣が塁を下すため灯台の螺旋階段を登った。外へと繋がる扉を開けた途端、雨が勢いよく内部に吹き込んでくる。全身も床もびしょぬれになりながら塁を宿舎へと運び、再び日下部と白比丘尼が検死を行う。初は自室で休ませることになり伯爵夫人が付き添った。初と伯爵夫人以外の全員が待つ中、白比丘尼と日下部が戻ってきた。塁の死因は何者かによって何度か首を絞められたことによる縊死、両手首にも縄状のもので絞めらえていた跡があったという。また塁の個人的なことだと断ったうえで塁が男性だったことが明かされた。料理人の友護も初耳だしおそらく松乃丞も知らなかったと思われた。

朝食の席で2人を殺害した犯人についての議論が行われ、一人だけ先に部屋に戻りアリバイが証明できない孝四郎に疑いがかかる。緊迫する話を中断させるためか桐彦が伯爵夫人を迎えに行くと席を立った。戻ってきた伯爵夫人は初は眠ったといい、塁の部屋の前に落ちていたという1枚のトランプ(スペードの2)を手にしていた。何かに気づいた白比丘尼が部屋を飛び出した。追いかけた先は松乃丞の部屋の前で、扉と床の隙間にはスペードの1が挟まれていた。桐彦によって孝四郎が夢遊病で屋敷を徘徊していたことが暴露され、日下部により孝四郎の中にいる別の人格が犯行を行ったのではと推論が披露され、孝四郎は2人を殺害された犯人として宿舎の裏手にある古びた納屋で外から閂をかけられ夜を過ごすことになった。

第四章 時間に進路を取れ

日下部に渡された睡眠薬を飲み眠っていた孝四郎は、翌朝勢いよく納屋に踏み込んできた日下部と三津雄に起こされる。一緒にやってきた白比丘尼以外の全員が孝四郎を忌まわしそうな目で見ている。納屋の扉が開いており床には拳銃が転がっているといわれるが孝四郎には身に覚えが全くない。三津雄達に引きずって行かれた先は、頭を撃ち抜かれて死んでいる宍戸の部屋だった。ベッドの周りにはオークションの落札品が散乱しており、人魚のミイラに至っては腹部を上下に切り裂かれ無残な姿になっていた。部屋の前にはスペードの3があったという。

夢遊病の自分が殺ってしまったのかと疑心暗鬼に陥る孝四郎を三津雄は警察に引き渡すと息巻く。それを更に焚きつけたのが日下部だった。軟禁は手ぬるかったと言い、敵を排除しなければ自分たちの命が危ういと言葉巧みに先導し全員がそれに同意しかけた時、白比丘尼が一喝した。日下部は孝四郎を庇う白比丘尼が納屋の閂を開けた共犯者と言い切り、彼女に襲い掛かる。身を挺して白比丘尼を庇った孝四郎は傷を負いながらも全員の隙をついて2人で逃げ出した。宿舎と灯台とをつなぐ渡り廊下を駆けていた孝四郎は水に足元が滑り派手にころんだ。灯台内は湿度が高く塁を下すときに吹き込んだ雨が至る所に水たまりを作っていた。悪態をついた孝四郎だったが、転んだあたりにせり出している何かに気が付く。絨毯を捲ると跳ね上げn扉が現れ暗がりが覗いていた。2人は暗闇の先に賭けて地下へと降りて行った。

ジッポーの明かりを頼りに進むと隠し通路の先には部屋があり、何かの実験を行っていたと思われる痕跡が残っていた。人魚のミイラを所持していたことからも不老不死の秘薬と想像する孝四郎に対し、白比丘尼はオークションに出品されていたミイラは猿の死骸と魚の死骸を繋ぎ合わせた偽物だと言い切り孝四郎を愕然とさせた。部屋は進むにつれ砂を踏む音に変わってくる。ほのかな光が見え鉄製の扉を開けた先は、この島にはないと思われていた砂浜、いわゆる隠し入り江だった。砂浜で見覚えのある松乃丞のボタンを見つけた2人は、彼の殺害現場がこの場所で、殺害されたあと海に放り込まれ海流にのって遺体が表の海岸まで運ばれたと気が付いた。つまり松乃丞を殺した犯人は隠し入り江の存在を知っており、おそらく口封じのために2人を追いかけてここにやってくるはず……犯人との遭遇前に灯台へ戻ろうとした2人だったが時遅く、犯人と思われる足音や撃鉄を起こす音を耳にする。絶体絶命の中、白比丘尼の提案で一か八かで孝四郎たちは海に飛び込んだ。

波に飲まれながらも何とか白比丘尼を抱えて船着き場の漁師小屋に身を隠すことができた孝四郎だが、激しい疲労感に襲われ何者かの足音が聞こえてくるにも関わらず意識を手放した。

第五章 悪魔の所在

焚火の音に目を覚ますと両手首を縛られていた。足音の主は三津雄だった。海岸の見張りを任されたという三津雄は日下部の熱に浮かされたような言葉を完全に信じたわけではなく、日下部と完全に手を組んだわけでもなく、本当に孝四郎が人を殺していたら許さないが、真犯人が別にいるのであればそれを見逃すのはできないと持論を述べた。つまり縛られてはいるが匿われてもいる状況らしい。目を覚ました白比丘尼は、三津雄に塁が殺害された時間の孝四郎のアリバイを証明してみせると、今の状況のままだとジリ貧になると言い、事態を脱却するため日下部達の前で真犯人を告発するという作戦を提案した。そして協力者として初を味方に引き入れることにした。

三津雄の協力で漁師小屋へやってきた初は白比丘尼の話を聞き全面的に協力してくれることになり、初と塁の秘密=祖父が喜蔵日誌の喜蔵であったことを明かした。32年前の集団失踪事件の真相を暴き喜蔵を救うため、募集していた女給に申込み大灯台島に潜り込んできたのだ。意気込む初に危険だからと塁は女装して潜入した。初から、先代の不破男爵が飛鳥から平安時代にかけて強い関心を持ち蒐集していたと聞いた白比丘尼は考え込む。そして海水に濡れた服の着替えをと頼み初と三津雄を小屋から出した。2人きりになった孝四郎は、白比丘尼からこの島に来たのは2回目で喜蔵のことも知っていると明かされる。今自分達が巻き込まれている殺人事件は、32年前の集団失踪事件に関わりがあるようだと白比丘尼は言った。

当時、大灯台島には夜な夜な華人や政界人が訪れていた。目的は会員制の秘密サロン・阿片だった。阿片の所持や使用、売買は政府によって禁じられているため、この島を拠点に密かに密輸も行われていた。事件が起こった日も何人かの顧客が島にいた。白比丘尼は島に潜入したものの地下通路は発見できなかったという。喜蔵のことは協力者である内通者・不破家の密輸に加担させられていた漁師から聞いたのだという。灯台守の喜蔵は内部告発を目論んだものの捉えられ薬漬けにされた。喜蔵日誌はその時に書かれたものらしく度々登場する人魚とは新型阿片の名称ではないかと白比丘尼は口にした。

初が孝四郎たちに内通したとバレて人質になった。初の殺害をほのめかされて日下部達が待ち受ける場所へと向かった2人は、桐彦の部屋へと連れて行かれた。そこには部屋の中央にできた血だまりの中で蹲った桐彦と、スペードの4のトランプがあった。孝四郎たちが姿をくらましていた時間帯に刺殺されたとのことだった。桐彦は遺書めいたものを残しており、そこには犯人である孝四郎と白比丘尼とこれから落ち合うという一文もあった。遺書は桐彦の字に間違いはないという。桐彦の靴の辺りを見ていた白比丘尼は、釈明をしてはどうかと言う日下部に対し、釈明する必要はない、なぜならこれから真犯人を告発するのだからと言った。

第六章 千年探偵の紡ぎ糸

連続して起こった4人の死について、白比丘尼は論理的に犯人を解き明かし、32年前の集団失踪事件と今回の事件がどうかかわっていたのかを明らかにしていった。告発された犯人は逃げたものの、最終的には自ら幕引きを図った。

一連の事件が決着し、落ち着いた頃、孝四郎は白比丘尼のいる椿庵を訪ねた。そしてなぜ今まで見向きもしなかった父親の零明が唐突に自分を会長秘書に任命し、人魚の肉を手に入れるため白比丘尼を探して助力を乞うように命じたのか、真意を彼女にぶつけた。そして改めて父親の意志ではなく自らの意志で人魚を探すと言い、白比丘尼とのパートナーシップが再び成立した。

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大正時代っぽい雰囲気は少なかった気がしますが、あちこちに伏線がちりばめられていて最後には島全体の謎と一連の殺人事件の謎が綺麗に解き明かされるというすっきりした一冊でした。

最初はムカつく人物として登場した三津雄ですが、意外といい面も間抜けな面もありいい味を出していました。続編が出るのなら準レギュラーあたりに据えて欲しいなと願います。