北村薫「覆面作家」シリーズ第2弾『覆面作家の愛の歌』あらすじとネタバレ感想

「覆面作家の愛の歌」のあらすじと感想をまとめました。

先輩編集の雪絵さんが異動になり寂しくなるかと思いきや、新たな登場人物も出てきて一層賑やかになった第2弾でした。

「覆面作家の愛の歌」書籍概要

  • 覆面作家の愛の歌(1995年9月/角川書店)
  • 覆面作家の愛の歌(1998年5月/角川文庫)
  • 覆面作家の愛の歌(2002年10月/ C★NOVELS)
  • 覆面作家の愛の歌(2019年7月/角川文庫)※新装版

 

覆面作家のお茶の会

千秋との打ち合わせ中の新妻邸に、「推理世界」のライバル誌「小説わるつ」の編集・静 美奈子が乱入してきた。ゆくゆくは「わるつ」にも執筆してほしいという。覆面作家として千秋の素性は明かしていないのに何故突き止められたのか不思議に思う岡部だったが、岡部と顔かたちがそっくりな双子の兄・優介の口から洩れていたのだ。

静が持参した手土産・パティスリー・スズミのサンマルクは行列ができるほどの人気というだけあり絶品だった。パティスリー・スズミは、フランスで修業を積んだ鈴見藤一郎が開いた店で、現在は息子の藤一とその妻・明美も一緒に切り盛りしている。静と明美は高校時代からの親友であり、ケーキに関してのセンスが天才的な明美がサンマルクのレシピを作り、技法的な部分は夫が手掛けて出来たのがサンマルクだった。

静は鈴見家で起きている、少し困った事件を話題にした。還暦を過ぎてもまだ現役の藤一郎はサンマルクを絶賛し、修行し直してくるといい翌日から禅寺に籠ってしまったのだという。半年経っても戻ってこず、明美夫婦が出向いても和尚に一喝され追い返されたというものだった。藤一郎が籠ったのは彼の幼なじみの寺で、朝方早くに奥さんが車で送っていったらしい。

その話を聞いた千秋は、パティスリー・スズミへ行きたいと言い出し、明美の夫から話を聞くと、その足で藤一郎のいる禅寺へ向かうことになった。その道中、岡部は千秋が呟くのを聞いた。「……ツジン、ジケンだな、こいつは」

禅寺の前には、藤一郎の幼なじみだというその村の村長・医者・和尚とともに、藤一郎の妻が待ち構えていた。

 

「…ツジン、ジケン」は殺人事件ではなく、活人事件でした。登場人物全員がいい人ばかりで、人知れず苦境に立たされていたパティスリー・スズミの窮状を救うため、今回の騒動を起こしたことが分かりました。千秋の介入により、状況は良い方向へと向かうようです。

覆面作家と溶ける男

双子の兄・優介がげっそりと疲れていた。ある少女誘拐殺人事件を追っているのだが、もう一件、同様の誘拐が起きていた。仕事中に千秋に岡部と間違えて呼び止められてカメラマンをさせられ、その流れで静の甥っ子と一緒に写真を撮ったという優介は、岡部経由で手渡されたその写真を見て驚く。甥っ子の顔が、誘拐された2件の少女とそっくりの雰囲気だったからだ。

誘拐犯には好みの顔があるらしいと連絡を受けて甥っ子宅へと向かった静と岡部は、彼とその友達が遭遇した、白い車に乗った怪しい男から声をかけられたという話を詳しく聞くことにした。

ワゴンカーの男は下校中の甥っ子に声をかけ、血液型を訪ねたという。その数日後、友人が一人で下校中にも姿を現し、甥っ子を呼んできてほしいと頼んできた。いかにも怪しい男だったが、友達とのやり取りの最中に雲が出てきて空模様が変化すると、雨を恐れるかのようにあわてて車の窓を閉めて逃げて行ってしまった。甥っ子は以前男から「血液型占いでA型の人に頼んでラブレターをポストに入れてもらうと恋が実る」と頼まれたので、男の恋愛を助けるつもりで手紙の投函を引き受けたことがあった。男が甥っ子を呼びだしたのは、2通目の投函を頼むためだと分かった。

男が姿を見せたのはいつも晴れた日だった。雨を嫌がったのは家に干した洗濯物が気になったのだろうと静と岡部は、誘拐とは無関係だったと胸をなでおろす。

千秋との原稿の打ち合わせの最中、他愛ない世間話のつもりでその話を口にした岡部だったが、千秋の顔色は変わっていた。空が晴れているのを見て、岡部はわけが分からないまま千秋に連れられて、下校する甥っ子の通学路を張り込むことになった。

 

男は誘拐犯でした。ある目的のため甥っ子を利用していたのです。雨をいやがったのは、雨が降ると男の目的が達成できなくなるからで、甥っ子に目をつけたのは、犯人の好みの顔だったからという理由でした。千秋の機転により誘拐犯は捕まり、犯人宅から誘拐されていた女の子は無事保護されました。

覆面作家の愛の歌

「小説わるつ」でも覆面作家が執筆してくれることになったという静に誘われて、ある劇団のお芝居を観に行くことになった。そこは演出家の南条の才能が人気の劇団で、静の出版社からも近々南条のエッセイ集が出るのだと言う。だが今は別のスターも生まれたらしい。それが岡部もその演技に感動した主演女優・河合由希だった。

静の手配で劇団の製作・中丸と千秋の対談に立ち会った岡部は、一週間後、兄の優介から河合由希が殺されたことを知らされる。中丸は由希のフィアンセで、南条は由希の元恋人だった。由希が殺された深夜、二人は一緒に劇団事務所にいたことが互いの証言で明らかになっていた。

静から千秋が名探偵だと吹き込まれていた中丸が、新妻邸に相談にやってきた。事件のあった日に自分とずっと一緒にいた南条が犯人ではないかと思えてならないのだという。

事件の起こる少し前、南条と中丸はバーで飲んでいた。由希と結婚することを改めてきちんと南条に報告しておきたかった。南条は上機嫌で紙ナプキンの上に大きな唇の絵を描くと、演出家らしく「君たちに特大の接吻を贈る、SSサイズでない、大きなLLサイズだ」と言った。

その後の2人の行動は、

  • 20時頃、南条が中丸にバーから由希に電話をかけさせ、打ち合わせしたこととがあるから12時に由希の方から事務所に電話をかけるよう伝えた。
  • 21時頃、南条と中丸が事務所に戻り再び酒盛りが始まる。
  • 0時頃、南条が別の劇団員に電話をかける。由希からかかってきた電話を中丸が取り、通話を終えた南条に渡す。2人は次の作品について話し合っていた。
  • 電話を終えた南条はお腹が空いたといい買い出しに出た。その後気に入った煙草がないから探すので遅くなるから、先に寝ていいという電話が中丸に入り、中丸はソファで朝まで眠ってしまった。

という流れだった。由希が殺害されたのは深夜0時頃。その時刻に池袋の事務所にいた南条が、埼玉の上尾にある自宅にいた由希を殺害するのは不可能と思われている。

南条が劇団員にかけた電話は間違いなく0時だったし、由希が事務所に電話を掛けた時刻も0時で間違いないことが彼女の通話記録から証明された。

だが中丸は、時計の針に細工が仕掛けられており、自分は南条のトリックに騙されているのではないかと疑っていた。

千秋は、南条が唇の絵を描いた時に吐いたセリフに嫌なものを感じ、岡部と静の手配で南条のエッセイ集出版パーティーに潜り込むことになった。

SSサイズではなくLLサイズの接吻を……というのは、「KISS」の綴りを「KILL」に置き換えたもの、つまり暗に殺意を表明したものだと思われた。

 

南条が犯人で間違いありませんでしたが、埼玉で由希が殺されていた時、池袋で彼女のフィアンセと一緒にいたという、いわば恋のライバルの証言という鉄壁のアリバイを持っています。

シェークスピアが得意という演出家ならではの複雑なトリックを、見事千秋は解き明かし南条のアリバイを崩しました。小難しすぎて、あまり理解できませんでした。

物語最後の締めとなる、イ・ムジチのくだりが好きです。

 

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人見知りで内気なお嬢様・千秋の活動の場もだんだんと広がり、少しずつ岡部との関係も変化しつつある絶妙なところでシリーズ第2弾は終わりました。次が楽しみになる一冊です。