北山猛邦「名探偵音野順の事件簿」シリーズ第2弾『密室から黒猫を取り出す方法』あらすじとネタバレ感想

北山猛邦さんの「密室から黒猫を取り出す方法」のあらすじと感想をまとめました。

引きこもりの名探偵ですが、2冊目ともなると探偵業に慣れたのか割と遠出をしていました。今回もまたトリックにこだわった犯人が多かった気がします。

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「密室から黒猫を取り出す方法」書籍概要

完全犯罪のために必要不可欠な密室が、あともう少しで完成するというその瞬間、部屋の中に黒猫が入り込んでしまった!犯行計画を崩壊させかねない黒猫を密室から取り出そうと悪戦苦闘する犯人の前に、たまたま世界一気弱な名探偵が現れて…表題作をはじめ、蝋燭だらけの密室殺人を描いた「クローズド・キャンドル」など五編を収録。キュートでコミカル、しかし心は本格ミステリ。名探偵音野順、第二の事件簿。「BOOK」データベースより

  • 密室から黒猫を取り出す方法(2009年8月/東京創元社)
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密室から黒猫を取り出す方法

田野は上司の福中を自殺に見せかけて殺害するという完全犯罪を達成するため、入念に準備を進めてきた。密室内で首吊り自殺に見せかけるため出張先で最適なホテルを選び、密室トリックや証拠隠滅も完璧だった。だが福中を手にかけいよいよ密室を作ろうと扉を閉めようとした矢先、黒猫がするりとドアの隙間を通り抜け室内に入ってしまった。あっと思った時には密室は完成し、糸でつないだ証拠品を窓から取り出そうにも猫がじゃれついているのか失敗してしまった。悶々と夜を過ごしたものの、翌朝は計画通り福中と連絡が取れない風を装い心配そうにする田野の元に、ホテルの従業員から福中が首を吊って亡くなっているという一報が入った。

白瀬と音野は大学時代の先輩の恩に報いるため、彼の妻がオーナーを務めているホテルで黒猫探しを行うことになった。1年ほど前からホテルに住み着いているらしく、目撃情報があがるものの捕まらない。一度は塔の中にまで追い詰めたものの、3階の何もない部屋に入っていったはずの猫は忽然と姿を消し、すぐに本館から猫の目撃情報が出たということがあった。まるで瞬間移動したかのようだったという。

ホテルに到着した2人は岩飛警部と出会う。使っていない別館の塔で宿泊客が亡くなったとのことだが、警部は単純な自殺だと考えていた。黒猫探しを開始した2人はまもなく先輩たちの娘の千里が、ホテルの自室でこっそり黒猫を飼っていたことを突き止めた。そのさなか、音野が黒猫が瞬間移動した謎について思いついたことがあると言う。

自殺で処理しようとしていた岩飛警部は2人をあっさりと塔の中へと入れてくれた。現場は閂で施錠するタイプのドアで、室内からしか閂をかけることができないため、遺体発見時従業員らは斧やバールを使ってドアを壊したという。部屋に落ちていたバネに不自然さを感じた音野は、閂を操作するために使ったものではないかという。つまり第三者によって外から閂がかけられた=殺人事件ではないかと考える。

現場の状況について関係者は何も知らないと聞いた音野は、犯人が自ら名乗り出るよう罠を仕掛け、そうとは知らない田野はバネを回収するため夜の塔に忍びこんだ。

 

福中と一緒に密室に閉じ込められた黒猫は、あるトリックを使って現場から逃げ出しており、従業員たちが遺体を発見した時点ではすでにいませんでした。つまり犯人以外、黒猫の存在を認知していなかったことになります。そのことを知らない田野は、自ら黒猫のことを口にして自ら犯人であることを証明してしまいました。

人喰いテレビ

珍しく岩飛警部から電話がかかってきたと思ったら、「被害者がテレビに食われるのを見た」という目撃者がいるのでその相手をしろという呼び出しだった。殺人事件の目撃者たちはUFO研究会のメンバーで、お祈りを始めたり泣き喚いたりオカルト雑誌を広げ始めたりと現場が混乱しているらしい。

事件は3つあるロッジのうちの1つで起こった。1人で宿泊していた男が翌朝異様な状態で発見された。雪が降る中上半身が裸、右腕が切断された状態で雑木林に放置されていたのだ。凶器は不明だがある程度重みがあり固いもので何度も頭部を殴ったらしい。その夜、別のロッジに泊まっていたUFO研究会が、問題のロッジを窓越しに見ていた。砂嵐が流れるテレビを見ていた被害者の男が、ゆっくりとテレビに近づいたと思った次の瞬間、男の頭と右腕が画面の中に消えてしまったらしい。その時は男はYシャツを着ていた。いかにも怪しいグループだが、証言に嘘があるようには思えなかった。またオカルト雑誌によると、5年前にも同じ人喰いテレビの目撃情報があったらしい。

被害者が宿泊していたロッジを見た音野は、テレビ台がずらされていることに気づく。台は重いため簡単にはずれないはずだった。また地下室が殺害現場だと判明していた。備蓄倉庫になっている地下室の奥の壁が一部えぐれており、音野は今回の殺人事件と関係があると思うと言う。音野はUFO研究会の代表に、昨晩大きな音がしなかったかと尋ねると、突然映画が何かが流れているようなテレビの大音量が聞こえてきたと返ってきた。返事を聞いた音野は、人喰いテレビの謎が解けたと言った。

 

人喰いテレビの目撃者がUFO研究会の面々だったせいかオカルトじみた事件になりましたが、実際はごく普通(?)の殺人事件でした。上半身の服を脱がせたのも右腕を切断したのも、すべてがある物を隠すための犯人の工作でした。

音楽は凶器じゃない

見えないダイイング・メッセージ」事件で知り合った女子高生の笹川蘭から、通っている女子高で6年前に起きた殺人事件について話があった。音楽室は、職員室の窓から出入りが良く見える位置にあった。数学教師が職員室で作業していたところ、音楽教師の藤池と3年生の落合彩が音楽室へと入っていく姿を見た。その約1時間半後、ガラスが割れる音を聞いた朝本が見に行ったところ、倒れている2人の姿を発見した。落合は一命を取り留めたが、藤池はすでに死亡していた。落合によると、2人は進路相談のため音楽室へ行き、そこに潜んでいた何者かに突然襲われたのだという。

音楽室は荒らされており、当初は強盗目的かと思われたが、盗られたものは楽器も含めて何もなかった。一度は落合が疑われたものの凶器が見つからず、未だに解決しないまま、音楽室は「使われない音楽室」となったらしい。話を聞いた音野は、その時点で分からないのは凶器だけだという。窓ガラスを割るという不自然な行為から、事件は落合彩の自作自演だと指摘した。問題は「バットのようなもの」だというどこからも見つかなかった凶器だった。

蘭のはからいで日曜日に殺人事件現場となった音楽室へと行った白瀬と音野は、当時のものがあらかた処分されている中、蘭から事件当時の部屋の様子などを聞いていく。そして凶器を特定した。だが凶器はすでに落合によって5年前に処分されていることが判明しただけだった。

 

凶器は奇想天外なもので、珍しく犯人は捕まりませんでした。藤池を殺害した動機は、おそらく音楽大学への推薦を渋られたから。藤池を殺害した落合は、別の先生に推薦状を書いてもらい無事に音大へと進学したようです。それどころか来年の春から母校の音楽教師として赴任することが決まっているそうです。なかなか肝が据わっています。珍しく犯人が完勝した事件となっています。

停電から夜明けまで

母親が年上の資産家と結婚したもののその後急死した。義父とは養子縁組をしているので戸籍上の相続権はあったが、兄のペンタも弟のシロも20歳を過ぎても働くこともしないため、一銭の遺産もやらないと宣言されていた。2人は義父を殺害することに決めた。

雷雨になると、屋敷が年に一度あるかないかの割合で停電になることを利用した暗闇の中での殺害計画だった。屋敷中の電気が落ちると復旧に半日はかかる。家中の明かりや懐中電池などをあらかじめ使えないようにしておけば、屋敷の人間や来客は同じ部屋に集まる。そこに2人も集ったように見せかけ、ペンタだけが別の場所で待機しパソコンのテレビ電話機能を使ってあたかも皆と一緒にいるように思わせる。トイレなどで部屋の出入りを利用して、ペンタがこっそりとシロに西洋鎧の剣を渡し、暗闇に紛れて白が義父を殺す、という内容だった。誰の視界も閉ざされる中、暗視ゴーグルをつけたペンタとシロだけは、屋敷内を自由に動き回れた。何度も練習をし、計画は完ぺきだった。

待ちに待った停電が訪れた決行日、屋敷にはペンタとシロ、義父、住込みの世話人である下畑のほか、3人の客がいた。銀行の常務、弁護士、オーケストラ指揮者。指揮者の音野要は初めての客で、義父とはオセロゲームで知り合ったと言う。ペンタが決行前の一服で気を落ち着かせた後、首尾よく部屋の中と外に別れた2人は、こっそりと連絡を取りながら殺害の機会をうかがっていた。

いよいよ次にトイレに立つ人物の隙をついて凶器の受け渡しを行おうとしたところ、屋敷に車がやってきた。音野要の客らしい。慌てたペンタは西洋鎧に剣を戻そうとしてバランスを崩し、廊下に鎧をぶちまけてしまった。鎧をそのままにし何とか来客らから身を隠したペンタは一息つく。来客たちは怪訝そうに鎧にかがみこんだものの、そのままにして立ち去った。

来客は白瀬と音野順だった。真っ暗闇のなか白瀬は自己紹介するものの、引きこもりで人見知りの音野はろくに声を発さないばかりか、2人と離れて勝手に壁伝いに歩き始めてしまうのが暗視ゴーグルでもよく見えた。白瀬が音野順は一流の名探偵だというと、義父はどのくらいすごいのかと問い、要が一言も喋らず黙っていても犯人を告発することができると返す。

夜明けが近づいた頃ようやくチャンスがやってきた。義父がソファに横になるらしい。ペンタから受け取った剣を構え、横たわる義父の上に振りかぶった瞬間、要がシロの名を呼んだ。未だ暗闇の中、剣を下ろそうと言う要にシロは動揺した。とっさに暗視ゴーグルを隠し言い逃れを試みたものの、最後は「一言も喋らず黙っているだけ」の音野順によって、犯行が明るみに出てしまった。

 

「一言も喋らず黙っていても犯人を告発することができる」という要の言葉が、気持ちよいくらいピタリとハマった短編でした。凄い。ペンタとシロの兄弟は屋敷を追い出されて別の場所で暮らし始め、弟は就職したものの兄は夢を追い続けて無職のままのようです。殺害計画が露見したきっかけはペンタの煙草でしたし、家を追い出されても危機感持ってなさそうですし、情けない兄です。

クローズド・キャンドル

行きつけの図書館のそばにある高い塀でぐるりと囲まれ中が見えない謎の土地の周囲をうろつきながら小説の構想を練っていた白瀬は、見知らぬ女性に不審者だと勘違いされ声を掛けられた。小説家だと言っても信じてもらえなかったが、名探偵の助手という言葉に女性は反応した。女性は鈴谷花澄といい謎の土地の住人だった。不可思議な密室を作って自殺した父の事件について、琴宮と名乗る押しかけ探偵がやってきてあちこち引っ掻き回すので追い返してほしいという。琴宮のそばには比之彦という男がメモを取りながらべったりとくっついていた。

琴宮は花澄の父親の死は殺人だと言い、3千万円で事件を解決すると豪語して花澄と対立していた。花澄に言われて琴宮と話をつけに行った白瀬だったが、逆に翌朝10時までに音野を屋敷に連れてこなければ3千万円を琴宮に払うという約束をしてしまった。3千万のペナルティーを科された白瀬は、音野のいるマンションへと戻り一蓮托生と事件のあらましを話して聞かせた。

建築家の花澄の父、鈴谷氏はアトリエと呼ばれる空っぽの部屋で首を吊って死んでいた。アトリエの出入り口は2か所でどちらも施錠されていた。片方の扉の外には火のついた蝋燭が立てられており、ドアのすぐそばの内側にも4本の蝋燭が立っていた。また床一面にも火が付いたりついてなかったりする無数の蝋燭が立てられているという異様な空間が作られていた。もう片方の扉の前には円卓が置かれており、円卓を取り囲むように大きな蝋燭がずらりと並んで立てられていた。そして円卓の中心あたりに、天井の照明器具から太いロープが垂らされ、その先に鈴谷氏がぶら下がっている状態だった。蝋燭は内装も手掛ける鈴谷氏が特注したもので、大きいものだと数百時間は燃え続けるという。

事件のことを岩飛警部に聞いたところ、鈴谷氏は精神科に通っており普段から睡眠薬を常用していたらしく、遺体からも睡眠薬の成分が検出された。また娘を虐待しているという匿名の電話が福祉施設に入ったが警察は動かなかったとのことだった。白瀬が会った花澄は、とても虐待されるようなタイプではなかった。

翌朝、寝坊した音野が時間に間に合わず不戦敗で3千万円払うわけにはいかないと体調不良で遅れてくると言い訳する白瀬に対し、琴宮は自分の推理を披露してみせた。琴宮によると花澄には澄玲という双子の姉妹がおり、早業で双子の入れ替えトリックを行った。犯人は花澄だという。屋敷に引きこもって部屋から出ない澄玲の存在を認めたものの、花澄は殺していないと主張する。勝手に事件を解決し花澄を警察に突き出そうとする琴宮だったが、澄玲に連れられようやく音野が現れた。同じ引きこもり同士感じるものがあったのか、庭をうろついている音野を発見し案内役を買って出たようだった。

関係者が全員揃う中、音野は全員のアリバイを崩し、蝋燭と円卓を使った密室トリックの謎を暴いていった。

 

蝋燭密室殺人の本当の犯人が捕まり、琴宮は悔しがることもなく音野と握手を交わし、あっさりと屋敷を出ていきました。全体的に偉そうな態度と言い、自信家なところと言い、読んでいて何となくメルカトル鮎を思い出しました。

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単行本化していない雑誌掲載作品がいくつかあるようですが、第3弾は出ないのでしょうか。できれば一冊にまとめてほしいところです。