喜多喜久『研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者』あらすじとネタバレ感想

喜多喜久さんの「研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者」のあらすじと感想をまとめました。

なかなか研究成果が出せず契約打ち切りの危機に瀕している研究者・円城寺が、契約延長を餌に2年前の万能細胞・PAX細胞の捏造論文事件での実績を買われ、再び起こった捏造論文の投稿者を内部調査で探し出すところから話が始まります。今回の捏造論文、2年前の捏造論文、論文執筆者の一人が殺害された事件と様々な要素が最終的に一つに集約されていく過程が面白く、一気読みした一冊です。

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「研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者」書籍概要

文部科学省・研究公正局の調査員・二神冴希。サイエンスを愛するが故に、彼女の追及は苛烈にして過たず真実を穿つ―。クビ寸前の研究員・円城寺は、研究所の内部調査を依頼される。二年前、捏造の疑惑で日本中を騒がせた万能細胞に関する論文。関係者の死と失踪で闇に消えたはずの論文を、何者かが再び投稿したという。円城寺の調査は難航するが、二神冴希の登場で、調査は大きく異なる展開を見せ始める…。「BOOK」データベースより

  • 捏造のロジック 文部科学省研究公正局・二神冴希(2014年12月/宝島社)
  • 研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者(2016年3月/宝島社文庫)

あらすじ

独立行政法人・興国科学研究所の一つ、フロントプロジェクトセンターでなかなか成果が上がらない研究のチームリーダーをしている円城寺は、センター長の東堂に部屋に呼び出される。クビ覚悟で向かうとそこには別の研究チームのリーダー・辰巳優梨子もいた。優梨子から見せられた論文の表紙を見て円城寺は驚く。「PAX細胞の真の発見」、論文の著者名には、辰巳優梨子、篠崎比呂登、永瀬美春の名が載っていたが優梨子が書いたものではないという。PAX細胞の存在は2年前、美春とGM(グループマネージャー)だった篠崎の名で発表されてまもなく論文の捏造が発覚、世間を賑わす一大事件へと発展し興国科学研究所内ではタブーとなっているものだった。その後美春は興科研を去り行方不明、篠崎は何者かに殺害され犯人は未だ捕まっていない。

東堂によると「PAX細胞の真の発見」は専門誌に送られた論文で、専門家の手によって書かれたもので、素人のいたずらとは考えにくいという。また論文内に使われている画像は優梨子のチームの実験室内の端末に保存してあるもので、一度も表に出したことがないものだった。優梨子のチームメンバー内に犯人がいる可能性が高い。2年前に調査委員を務めた実績を買われ、円城寺は自身の契約の延長と餌に優梨子のチームメンバー達から話を聞き、可能であれば論文投稿の事実を認めさせるという内部調査を請け負うことになった。

優梨子のチームは全部で4名、リーダーの優梨子、ベテラン研究員の赤松、海外の大学から興科研に移ってきた緒方、篠崎と同じ大学出身の相馬。円城寺は一人一人と面談するうえで質問事項をまとめた。➀今回専門誌に投稿された論文について、②辰巳優梨子チーム内の人間関係について、③2年前の論文捏造騒動について、④美春、篠崎について、⑤総科研について。総科研は興科研と特定国立研究開発法人の指定を争っている研究所で、国に指定されれば研究費の増額や裁量権の拡大が見込まれるため熾烈なデッドヒートが繰り広げられているところだった。円城寺はチームリーダーの優梨子、その後は年の若い順、最後にGMの峰岸に話を聞くことにした。

優梨子の証言:➀自分ではないし大学時代の先輩・美春が投稿したかどうかも分からない。実験への妨害を感じる場面もあるので、自分への嫌がらせかもしれない。②チームに来てから半年だが目立った衝突は起きていない。③他の研究者より早く論文にしなければという焦りからくる勇み足だったと考えている。④PAX細胞の存在を信じているため、闇実験(研究計画にない実験を隠れて)行っている。メンバーには気づかれていると思う。実験が成功すれば美春が戻ってくる気がする。⑤総科研とのパイプを持っていたり転職予定の人物に心当たりはない。

相馬の証言:➀自分ではない。②ベタベタしすぎることもなく反目しているわけでもない。優梨子の暴走(闇実験)に付き合う気はなく好きにすればいいと考えている。③今回の論文に関係しているのではないか。④篠崎は凄い研究者であの事件では美春の被害者だったと思っている。⑤特に心当たりはない。

緒方の証言:➀自分ではない。だが一か月ほど前端末を使っていた時に画面が真っ青になったことがあった。あの時ウィルスに感染し情報が外部に漏れたのではないか。②あまり深い付き合いはない。優梨子は未熟な面が目立つ。PAX細胞の実験がしたいならテーマを変更すればいい。しないのは覚悟が足りない。③④科学者は成果によってのみ評価されるべき。美春の暴走を止められたなかった篠崎が信頼を失ったのは当然。⑤総科研の知り合いから転職の誘いを受けている。

赤松の証言:➀円城寺が主犯、仲のいい相馬が共犯ではないか。②美春がチームリーダーだったころに比べよそよそしく会話が少ない。優梨子の研究者としての評価は低い。③PAX細胞というモチーフが同じなので2年前とどこかで繋がっているのではないか。➃2人は不倫しており痴話喧嘩の果てに美春が篠崎を殺したと思っている。⑤心当たりはない。

峰岸の証言:➀優秀な人間が書いた物と思われる。自分ではない。②人物像・研究内容ともに人事成績に直結するためノーコメント。③2年前の騒動に不快感を抱いていた人物の仕業と思うが心当たりはない。④篠崎が亡くなった後を継いでGMになったため、美春・篠崎とは面識がない。⑤心当たりはない。

報告書をまとめた円城寺は東堂に提出する。藤堂は、今回の論文執筆の犯人は5人の中の誰かだと考えており、優梨子のチームの人間関係の歪みから生まれた不満の表れだと思うと口にした。これで役目を終えたと思った円城寺だが、再び東堂の呼び出しを受ける。犯人がノーチェックで論文を掲載でき、誰でも無料で閲覧ができるサイトに例の論文を投稿したというものだった。おまけにPAX細胞の再現に成功したというメッセージが永瀬美春名義でマスコミに届いている。文部科学省に新たにできた部署「研究公正局」の人間が、実地調査にやってくると東堂は告げた。

文部科学省研究公正局・調査課の二神冴希がフロンティアプロジェクトセンターにやってき、円城寺が窓口を務めることになった。”犯人は不明であり外部の人間の可能性もある”という結論に終わった円城寺の報告書を読んだ冴希は、今回やってきた真の目的は調査のためではなく美春の行方を探し出すことだと言った。捏造を起こした心理を分析し抜本的な対策を打ち出すために必要だという。冴希は円城寺立会いの下、優梨子のチームメンバー達と1対1での面談を行い始めた。

相手の本音をさらけ出させる為という冴希の手法は非常に苛烈で、対面した全員をあらゆる理由を付けて篠崎を殺害した犯人扱いしていくというものだった。相馬は激昂して殴りかかろうとして円城寺に止められ、緒方は冷静さを保っていたものの苛立ちを隠しきれず、赤松は研究費の不正使用(業務上横領)を暴かれて血圧が上がり救急車で運ばれた。

元科学者で公正局員になる以前に論文の不正を暴くサイトを立ち上げていた冴希の才能に心酔する協力者は多いらしい。円城寺が何気なく口にした美春=優梨子説の検証のため、円城寺は協力者の一人ととも美春の実家に行くことになった。2年前の内部調査時、円城寺が美春寄りの調査報告を書いたせいか母親の覚えもめでたく、すんなり家に上がることができた。母親にも美春の行方は分からないらしい。円城寺が母親の話し相手をしている間、美春の指紋採取作業を行う。その後円城寺は冴希が峰岸と面談するのに立ち会う。円城寺には難攻不落に見えた峰岸だったが、冴希はいとも簡単にかつて期待をかけて良かれと思い熱血指導をしたのが仇になり部下を自殺に追い込んでしまった峰岸のトラウマを引き出した。最後は優梨子との面談だが、言いがかりに近い乱暴な冴希の物言いに憤慨し優梨子は部屋を出て行った。全員の面談を終えた冴希はこれから分析に入るという。

二日後、論文を執筆・投稿した人物が判明したと冴希から連絡が入った。円城寺に協力してほしいこともあるという。冴希の宿泊するホテルへ着いた円城寺は、執筆者の名前を聞き納得した。だが冴希の最終目的は美春の行方を突き止めることだといい、そのために円城寺には犯人の個人的な情報を集めるための協力してもらわなければならないという。

そして美春の実家で円城寺を隠れ蓑に指紋採取以外の作業も秘密裡に行っていたらしく、美春の潜伏場所を突き止めたと冴希は言う。美春の隠れ住むアパートで彼女と対峙した冴希は、2年前のPAX細胞論文の捏造の裏に隠された真実、篠崎殺害の犯人や今回の論文騒動がすべて繋がっていることを明らかにしていった。

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途中までが長いですが、その分文中にちりばめられた様々な事象が一つに集約していく過程の見事さが面白いです。篠崎殺害の犯人が明らかになるだけかと思っていましたが、2年前に発表されたPAX細胞の論文自体にも秘密があったことが明らかになる過程はただただ圧倒されました。

途中から登場する二神冴希というキャラが、有能なのですがライトノベル寄りっぽいスーパーウーマン設定で、そこを受け入れられるかどうかで小説の面白さに差が出そうです。