喜多喜久「科警研のホームズ」シリーズ第1弾『科警研のホームズ』あらすじとネタバレ感想

喜多喜久さんの「科警研のホームズ」のあらすじと感想をまとめました。

タイトルロールの科警研のホームズこと土屋が主人公ではない短編集です。主人公は科警研を去り大学で研究を行っている土屋を古巣に戻すために設立された科警研本郷分室に出向してきた3人の研修生のうちの一人、北上です。科警研の仕事にやる気を見せない室長の土屋ですが、研修生たちが行き詰った時にするアドバイスで、事件がするすると解けていく快感が味わえます。

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「科警研のホームズ」書籍概要

科学警察研究所・本郷分室にやってきた三人の研修生たちは、科警研の仕事に興味を示さない室長・土屋の態度に困惑する。かつての彼は科警研の研究室長を務め、鋭い洞察力と推理の切れ味で、警察関係者から「科警研のホームズ」と称されていたらしいが…。土屋にやる気を取り戻させるため、そして自分たちの成長のため、三人は科警研の所長・出雲から持ち込まれる事件の調査に邁進する。「BOOK」データベースより

科警研のホームズ(2018年11月/宝島社文庫)

残光のメッセージ

半年間の研修で科警研本郷分室にやってきた北上純也、伊達洋平、安岡愛美の3人だったが、室長の土屋は初日に挨拶に訪れたあとはずっと東啓大学の研究室にこもりきりで、仕事らしい仕事、研修らしい研修がろくにない。土屋はかつて32歳の若さで科警研の化学第一研究室の室長をしていた「科警研のホームズ」と呼ばれる凄腕のエリートだったが、ある鑑定ミスによる誤認逮捕の責任を取り科警研を去った。科警研の所長・出雲は土屋の才能を惜しみ科警研にカムバックさせるために独断で本郷分室を設立して3人を集め、土屋とともに未解決事件を解決することにより、土屋に科学捜査研究に対する情熱を取り戻させようとした。

本郷分室を訪れた出雲は、現在捜査中のある事件について鑑定してほしいものがあるとサンプルを置いていった。殺人事件で犯人は既に逮捕されている。だが動機に関して黙秘を続けているため、そこの解明を土屋達にしてもらいたいという。大学にいる土屋に連絡を取ると3人に任せると言われてしまった。事件はある一軒家で家主の美術品販売業・大岩栄治が書斎にあったブロンズ像で頭部を強打され死亡したというものだった。監視カメラの映像等から犯人は大岩に絵の販売を委託していたイラストレーターの豊原憲吾と判明した。豊原は撲殺後に何度も包丁で大岩を差しておりカーペットは血に塗れ、豊原の衣類に付着していた血液のDNAも大岩と一致した。

サンプルは小さな青い欠片だった。鑑定の結果、絵画から剥がれ落ちた油彩絵具だと分かり、ある画材店が販売していたオリジナルの絵具だと分かった。だが現場に絵具が剥落した絵はないため豊原が持ち去ったと思われる。北上と愛美が店から絵具の購入者リストを手に入れる一方、一人で動いていた伊達は捜査関係者から話を聞き、豊原には春に自殺した恋人・白坂すみれがいたことが分かった。すみれは名を知られていない画家だったが、画集を出していた。またオリジナル絵具の購入者リストにも名前があった。画集とオリジナル絵具の分析を行った結果、持ち去られた絵画までは判明したものの動機の解明には至らず行き詰ってしまった。

大学の土屋のもとへと北上が報告へ行くと、話を聞いた土屋はサンプルの欠片について別の鑑定法を試してみることをアドバイスし、その場で鑑定を行った結果、欠片から青い絵の具とは別の透明な絵具の成分を見つけ出した。面倒だが室長の責務として対処すると言った土屋は、後日豊原と1対1で話をする機会を作った。そしてすみれが自分の絵の上に透明な絵具で更に何かを描いたことを説明したうえで、事件当日に豊原と大岩の間でどんなもめごとが起こったのか推測し、豊原が黙秘を続けている理由も推理してみせた。

 

土屋の説得に応じた豊原は動機を語りました。土屋の鮮やかな手腕を目の当たりにした北上は、感嘆するとともに己の力不足を痛感したようです。

楽園へのナビゲーター

研修期間が2か月過ぎたが、3人の研修生たちは春の青い欠片の鑑定事件以降何も手掛けていなかった。時間を持て余していたところ、ようやく出雲所長から次の鑑定依頼が来た。事件が起きたのはとあるマンションの一室、午前0時過ぎに部屋の住人である前沢充の遺体が発見された。通報したのはペットショップ経営者の長門。前沢と電話していたところ突然応答が無くなり、心配して駆けつけると部屋の中に前沢が倒れていたらしい。死亡推定時刻は午後10時半頃、ちょうど長門と電話をしている最中だった。問題となっているのは前沢の死因。目立った外傷はなく、脳梗塞などの疾患もない。だがビジネス誌の編集をしている前沢にはインサイダー取引の噂があり、機密の漏洩を嫌った何者かによって殺された可能性もあるという。話を聞いた土屋は3人に丸投げした。

依頼を受けてから一週間、毒殺を視野に入れ前沢の遺体から採取した血液で思いつく限りの鑑定を行ったがいずれも毒性なしの結果が出た。マウスを使った愛美の鑑定も毒物の可能性はなし。手詰まりになってしまった北上は、食事を取りに外へ行き牛丼屋で土屋と出会った。牛丼を食べている間に話を聞くといった土屋は、北上の説明を聞き終わった後、3人が鑑定したのは前沢の肝臓が代謝したあとの無毒な血液ではないかと指摘する。翌日、土屋の助言を元に新たな仮説を立て検証を行った結果、伊達が請け負ったデータベース検索でヒットした物質が3つ残り、北上がそれらの物質を合成し、最後に愛美がマウスで検証し、前沢の命を奪ったのは法規制されていない未知の危険ドラッグだと分かった。

報告書を提出して3人の仕事は終了したが、愛美はこの事件の捜査に関わりたいと出雲に直談判する。そして伊達、北上の反対を押し切って、かなり強引なやり方で前沢の部屋からドラッグの痕跡を探し出し、見つけ出した物質を持ち帰った。担当警察からのクレームを受け、土屋は分室に姿を見せた。軽い注意で帰ろうとする土屋を引き留め、愛美は前沢の部屋にはドラッグの痕跡を消そうとした跡があったことから、供給源が第一発見者の長門と考えられること、飴や錠剤タイプでないことを話す。土屋はもっと掘り下げて考えるべきだといい、長門の経営するペットショップについての情報を求めた。また前沢の死んだ翌日、部屋の水槽の魚が全滅したことに引っかかり、妙だと思わないかと3人に問いかける。北上も抱いていた違和感から長門の偽装を見抜いた土屋の助言で、3人は水槽内に残る遺伝子の鑑定を進め未知の危険ドラッグの正体に辿り着いた。

 

ドラッグの過剰摂取?による死亡で殺人ではありませんでしたが、ドラッグの入手経路などが違法でした。

惜別のロマンチシズム

土屋が興味を引きそうな事件の資料を送ってもらい24時間以内に鑑定を引き受けるかどうか返事をするというシステムに変更して2週間、北上達3人が取り組みたい事件に出会った。被害者は2階建てアパートに住む小劇団の女優・吉富絵里奈。心臓にナイフを一突きにされており、顔の上には恋人から贈られた白いハンカチが被せられていた。犯人は部屋から逃亡したが近隣の監視カメラに映っていた。犯行時間帯、警察が駆け付けるまでに映っていた人物がその一人しかいなかったため容疑をかけられた。容疑者は蓮田佑志と蓮田健志の2名、一卵性双生児でどちらも絵里奈と付き合っていた。被害者の部屋や周辺から2人の指紋や足跡などは見つかったものの凶器のナイフは拭われており指紋は検出できなかった。またカメラの映像から双子の区別はできなかった。佑志と健志のどちらが犯人なのか。

証拠からDNA鑑定や歩容認証ができないと分かった3人は双子にポリグラフ検査(嘘発見器)への協力を依頼した。長時間による検査の結果、犯人しか知りえない事項の質問に2人ともが同じ反応を示すというデータが取れただけだった。同じ部屋で2人同時に検査を実施したため、あらかじめ示し合わせて合図を送り合いポリグラフ検査を乗り切ったと思われる。双子は恋人を殺した犯人を見つけ出すより、犯人を庇う方を選んでいた。検査は失敗に終わり、打つ手がなくなった北上は改めて事件の資料を読み込んだ。絵里奈はよほどうまく立ち回っていたのか、双子にはバレないよう2年間にも及ぶ二股生活を送っていた。北上は越権行為という言葉が脳裏をよぎりながらも、個別に双子に話を聞きに行く。そして最後に絵里奈が倒れている画像にモザイクをかけて加工したものを見せて反応をうかがった。健志が無反応だったのに対し、佑志は顕著な反応を見せた。

犯人は佑志だと確信した北上だったが、彼が犯人だと立証するための方法は3人で話し合っても見つからない。3人での限界を感じた伊達によって土屋が分室へとやってくる。報告を聞いた土屋は、絵里奈の顔にかかっていたハンカチに言及する。偶然にも佑志と健志は全く同じブランドのハンカチを絵里奈にプレゼントしていたため、どちらの贈り物かは分からない。ハンカチについて土屋が更に意見を求めるなか、北上は頭に叩き込んでいた双子に関する資料からある思い付きが閃いた。

 

なぜ絵里奈の顔にハンカチが被せられていたのか。それを出発点に土屋は犯人を決定づける証拠が残っている場所を推理していき、鑑定の結果事件は無事に解決しました。

伝播するエクスタシー

未解決事件の鑑定がメインだった本郷分室の3人のもとに現在進行形の事件の解決依頼が飛び込んできた。日本刀による連続通り魔殺人事件だ。すでに3人の被害者が出ており、昨日4人目が被害に遭ったとニュースで報じていた。急いで解決しないといけない事件のため、出雲所長から土屋に直々に依頼があり、室長の仕事に対してやる気のない土屋も引き受けた。

事件は4件とも雨の日に起きており犯人は自分に繋がる証拠を残していないため、警察は未だ検挙に至っていない。1件目は夜11時半頃、仕事を終えて帰宅途中の女性が振り向きざま刀で一刀両断された。2件目は夜10時半過ぎ、女性は肩を切りつけられたがタクシーが通りがかったおかげで犯人は逃走、襲われて唯一生き残った被害者となる。身長170センチ程度の男で、レインウェアにマスクをしていたが目元の印象から若そうに見えたと証言していた。3件目は医学部を目指して浪人中の男性、3件目だけが袈裟懸けではなく心臓を一突きにされて殺害されていた。家からスクーターに乗ってコンビニの駐車場に置いた後、なぜか徒歩でウロウロしていたことが分かり、被害現場のそばに美人の元同級生が住んでいたことからストーカー中に襲われたのではないかと考えられた。4件目は午前0時過ぎ、新入社員の女性が飲み会からの帰り道で襲われた。

伊達が今まで分かったことからコンピューターに犯人の自宅や職業、犯行が行われそうな場所を予測させるシステムを利用することにした。シミュレーションの結果は事件の捜査主任菅へも出雲に連れられて伊達自らが報告し採用された。自分の成果に自信を持っていた伊達だったが、北上からの電話でツイッターに5人目の被害者が出たらしいという情報が上がっていると知らされ動揺する。なぜなら今週は雨が降らないという予報がでているからだ。過去4件、雨の日しか通り魔は現れない。まもなく知り合いの刑事から5件目が起きたことを知らされた。

雨で血が洗い落とされていなかったため、犯行現場には犯人の靴に着いたと思われる血跡が見つかった。愛美の発案で警察犬による追跡を行うことになり、伊達が引退した人懐こいレトリーバーのピースを借り犯人の匂いを追った。引退しているもののピースは優秀で伊達と愛美はあるマンションに辿り着いた。だがそこは男性という犯人像とは異なる女性専用のマンションで首をかしげた2人だが、ピースはそのままある部屋の入口まで2人を誘導する。そこは女子柔道の元オリンピック選手・黒松響子の部屋だった。部屋にいた響子から話を聞くと、部屋のドアにネズミの死骸が入った袋がぶら下がっていたり、どこからか視線を感じたことはあるが直接何かされたことはないという。元警察犬による調査は不発に終わったが、伊達は響子が犯人を匿っているのかもしれないと念のため捜査本部に今回の状況などを報告した。

被害者の衣類に犯人の痕跡が残っていないかと調べている北上のところに土屋が現れた。改めて事件についての話を聞いた土屋は、3件目の医学部受験の浪人生の事件に違和感があるという。5件の事件現場で、3件目だけが犯人は被害者が着ていたレインジャケットを脱がして持ち去っていた。あらかじめレインコートで返り血を防ぐ準備をしていた犯人が、なぜ被害者のレインジャケットをはぎ取る必要があったのか。土屋の問いに対し、北上は犯人が着る必要があったためと考えた。そしてちょうど分室に戻ってきた伊達達に対し、土屋はデータの処理に手を加えてもう一度シミュレーションを試してみるべきだと進言した。

 

犯人は刀で人を切るという快楽の虜になっていました。そしてピースは引退後も優秀であることが証明されました。今回、土屋が科警研を辞めた原因となった鑑定ミスが、同じ科警研の職員による人為的なものと判明しました。結構な不祥事だと思うのですが時間も経ち土屋自身が気にしていないせいかさっくり流されていました。

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探偵役の土屋はほぼ安楽椅子探偵のようなポジションです。研修生として難問を前に四苦八苦する3人ですが、土屋の実力に圧倒されながらも前向きに成長していく姿がたのもしいです。

ラストで半年間という研修期限が1年に延長されたこともあり、続編が楽しみなシリーズになりました。