今野敏「安積班」シリーズ『炎天夢』あらすじとネタバレ感想

今野敏さんの「炎天夢」のあらすじと感想をまとめました。

テレビドラマの「ハンチョウ」シリーズと言えば分かりやすいですね。安積班シリーズは数多くある今野さんのシリーズの中でも一、二を争うくらい大好きなシリーズです。テレビの方はシーズン6で止まっていますが、今でも新作を読む時は当時のキャストが頭の中で動いています。以前のままのキャスティングでの新作ドラマを切望しています。

「炎天夢」書籍概要

グラビアアイドル・立原彩花の死体が江東マリーナで発見され、近くのプレジャーボートで被害者のものと思われるサンダルが見つかった。船の持ち主は、立原が愛人との噂がある芸能界の実力者、プロダクションサミットの柳井武春だという…。芸能界の闇に、安積班が立ち向かう! 「BOOK」データベースより

  • 炎天夢 東京湾臨海署安積班(2019年6月/角川春樹事務所)

 

あらすじ

江東区の海上で水死体の一報が入った。相楽率いる強行犯第二係が火事の現場へと出向いてしまっため、一係の安積班が向かうことになった。被害者は島谷彩子、グラビアアイドルの立原彩花だった。被害者のサンダルがマリーナに係留中のプレジャーボート内で見つかった。船内のコードで首を絞めて殺した後、海に投げ込んだらしい。ボートの持ち主は柳井武春、組関係や政治家、警察関係ともかかわりを持ち、芸能界で絶大な権力を誇るドンともいえる存在だった。柳井は彩子がお気に入りで、たびたびボートに乗せていたらしい。

早速柳井の事務所へと話を聞きにいった安積だったが、自身が元ヤクザでその繋がりや力を存分に振るって今の地位を手に入れたと黒い噂の絶えない柳井からは、彩子に関する情報はほとんど得ることができなかった。柳井は午後8時に自宅に戻って以降、外出はしていないと言う。

柳井の系列の所属事務所でも手掛かりらしいものは得られなかったが、彩子のマネージャーや社長が何か隠しているような気配を安積は感じた。

臨海署に捜査本部が設置され、捜査一課からは佐治係長の班がやってきた。捜査一課時代の相楽の上司で、安積に対して敵対心を持っているらしく馬が合わない。また安積は、多忙のため捜査本部にめったに顔を出すことのない刑事部長の白河がいることを不思議に思い、また捜査会議内での部長の発言から、白河と柳井の関係を疑う。

安積は、あとで合流してくる二係の相楽、佐治、管理官の池谷と4人態勢で捜査本部にあがってくる情報の整理を担当し、村雨以下部下たちはそれぞれ捜査一課と組んで外に出ていった。

彩子の司法解剖先がようやく決まり、安積は遺体との面会を望んでいた彩子の所属事務所へ連絡を入れる。やってきたマネージャーは、彩子の遺体を見た後、何かを決意したかのように彩子と柳井が噂通り愛人関係だったことを認めた。

安積班の須田が石黒雅雄というタレントが気になると報告にきた。石黒は以前柳井の事務所からの移籍を巡ってトラブルを起こしており、移籍予定先の社長が火事で亡くなったあと、独立という形で柳井系列の事務所を立ち上げていた。また柳井のプレジャーボートと同じマリーナに、石黒も船を係留していた。気になるので石黒のことをもっと調べたいという須田の意見は、捜査会議兄で一課長の鶴の一声で許可が出た。

石黒は1年ほど前、麻薬の所持、使用で逮捕されたことがあり、その際にマネージャーが責任を取らされてクビになっていた。そのことで柳井に腹を立てていたという噂のある人物だった。

安積が白河刑事部長と柳井の関係を気にしているのを受けて内々に調べていた相楽の部下から、白河と柳井の間にはゴルフをする付き合いがあるという報告が上がってきた。

安積のもとに目黒署時代の先輩・海堀が訪ねてきた。今は継続捜査を担当しており、13年前の芸能事務所社長の変死事件を単独で調べていた。石黒の移籍騒動の際に火事で亡くなった社長の事件だった。石黒の移籍を巡り、社長の身の安全が脅かされるような発言が柳井の口から飛び出していた矢先のことだった。死体の状態から他殺の疑いがあるにもかかわらず問題にされなかった事件について、海堀は上からの圧力を疑っていた。当時事件を担当した所轄署の署長は白河。海堀は13年前の犯人として柳井に疑いを向けており、刑事部長に知られないよう柳井の取り調べをしたいので便宜を図れと安積に無茶を頼んでくる。

警察組織内において先輩の頼みは断れない。できる限りのことをすると約束したはいいが困り果てた。

捜査本部の意見は2つに分かれていた。邪魔になった愛人を殺したとする柳井を本命とみる捜査一課長派と、柳井以外の犯人の可能性を探っている白河部長派。柳井に恨みを持ち愛人を殺すことでその一部を晴らそうとしたとする石黒の線を追う須田やそれに協力する村雨、柳井が今引っ張られると海堀との約束の板挟みになって困る安積は白河派、管理官や佐治は課長派などと相楽はからかった。大方の見方は柳井だったが、ヤクザを使ってどうとでもできる柳井があえて自分の船を殺害現場に選ぶのはおかしいという須田の意見にも一理あった。

映像分析を担当する部署から、事件当夜の分析結果が知らされた。午後7時過ぎと8時頃の2回柳井がマリーナの防犯カメラに映っていた。マリーナに来た時と帰った時と考えらる。また彩子の姿も午後11時前にカメラに映っていた。つまり彩子がマリーナにやってきた時、柳井はすでにいないということになる。捜査一課長は防犯カメラに石黒が映っているか確認するよう指示を出した。

安積班の水野が、組んでいる刑事とともの有力な情報を持ってきた。長年芸能記者をやっている男で、安積が柳井と彩子の愛人関係の真相を尋ねると、信ぴょう性はあるが確定ではないとあいまいなことを言う。ただ2人が言い争いをしている姿を目撃していた。水野たちは裏をとるため更に別の目撃者のところへと行った。

また安積は、柳井の運転手や芸能関係者から柳井と彩子の愛人関係を否定するような証言を得る。彩子のマネージャーによって確定したかに思われた二人の関係をふたたび見直す必要が出てきた。

マリーナ内に入るためには、オーナーカード、共同オーナーカード、クルーカードのいずれかを持っていなければならない。カードの記録から、事件当夜の午後10時過ぎ、石黒のクルーカードが使われていたことが判明した。

その後石黒本人の口から、クルーカードの持ち主が元マネージャー・寺岡だと判明した。ただ石黒逮捕に激怒した柳井にクビにされて以降、所在は不明らしい。

捜査会議で須田たちがひっそりと追いかけていた線がにわかに浮上し、中だるみしていた捜査本部内の空気が一変した。寺岡の捜索に人員が割かれ全国への指名手配もかかった。防犯カメラの映像からある程度まで地域を絞れたものの、そこから先は手掛かりがない状態だった。だがいつものごとく持っている男・須田の予想どおりの場所で寺岡の姿が発見された。逮捕令状の到着をまち、潜伏先で寺岡は確保された。

取り調べは佐治と安積が指名された。疲れ果てた姿の寺岡だったが黙秘を続けていた。寺岡が急浮上する前は柳井に話を聞きにいくつもりで刑事部長から許可を得ていた安積は、佐治に促され、取り調べの突破口を開くため柳井の元へと行った。

 

まとめ

柳井から聞き出した話をもとに寺岡と対峙した安積は、寺岡に犯行を認めさせることに成功しました。

犯行動機は、柳井にクビを切られたことを恨み、けれど本人が大物すぎて手が出せないから愛人を殺すことにしたという小物感あふれるものでした。また柳井自身によっても愛人関係は否定され、寺岡の思い込みだけでターゲットにされた彩子は本人に非のない理由で殺されるというやりきれない結果となりました。

また柳井に気に入られたらしい安積は、海堀と柳井の面会も取り付けます。13年前の真相は白河部長本人の口から語られ、その事件をきっかけに柳井と白河の間で交流が始まったことを2人ともが認めていました。

 

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安積班シリーズの楽しいところは、日頃ライバル視し反発しあう間柄の人たちが、一つの事件を解決することにより一度そこでわだかまりをリセットするところです。

別の事件が起きたらまた反目しあうのでしょうが、事件解決という区切りでお互いの労をねぎらい合える関係性はいいなぁと思います。あと安積班の信頼関係ですね。今回は黒木と桜井がほぼスルーされて存在感ゼロでしたが、見えないところで頑張っていたことでしょう。

癒着を思わせるよううな怪しげな白河刑事部長と柳井さんでしたが、2人とも助演男優賞ものの男前でした。痺れました。

安積班シリーズの新作はもちろんですが、ハンチョウシリーズの新作も見たいです。