麻耶雄嵩『貴族探偵対女探偵』あらすじとネタバレ感想

麻耶雄嵩さんの「貴族探偵対女探偵」のあらすじと感想をまとめました。

シリーズ2作目となります。1冊目は貴族探偵の活躍でしたが、今回は新米女探偵が貴族探偵に張り合って事件の推理をするという短編になります。最後の最後に驚きの仕掛けがありました。

貴族なので推理すら使用人が行うというユニークな設定と、使用人たちの推理力が魅力的なシリーズです。

「貴族探偵対女探偵」書籍概要

新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む!事件を解決できるのは、果たしてどちらか。精緻なトリックとどんでん返しに満ちた5編を収録したディテクティブ・ミステリの傑作。「BOOK」データベースより

  • 貴族探偵対女探偵(2013年10月/集英社)
  • 貴族探偵対女探偵(2016年9月/集英社文庫)
  • 貴族探偵対女探偵(2017年5月/集英社みらい文庫)

白きを見れば

尊敬する師匠の後継者として独り立ちした新米探偵・高徳愛香は、骨休みのためにと友人の紗知の別荘に招待された。地下室に曰く付きの古井戸を持つ風変わりなガスコン荘には、院生として大学に残っている紗知の後輩たちも滞在していた。紗知の案内で地下室へと向かった愛香は、蓋の開いた井戸のそばで死んでいる男を見つけた。滞在中の後輩の一人、笹部だった。死亡時刻は夜中の3~4時頃と見られた。凶器は近くに転がっていた鉄パイプ、愛香が振りかざしてみると梁に当たった。梁には犯行時に付いたと思われる凹みがあった。また井戸には紗知のコートのボタンが浮かんでいた。犯行後、犯人は笹部の血だまりを踏んだようで、スリッパに付いた血の跡が階段に向かって点々とついていた。

午前3時30分から10分間ほど雷による停電が起きていたことが分かった。

容疑者はガスコン荘の滞在客。男子学生の畦野、女子学生の朱美と千明、千明の恋人だという年上の髭面の男・亀井。愛香より10センチ背の低い紗知は、鉄パイプが梁に届かないことから容疑から外れた。犯人は紗知に濡れ衣を着せるためコートのボタンを井戸に投げ込んだらしい。また千明と畦野は仲が良く、千明に振られた笹部がストーカー化しかけていたことが分かった。

愛香は、言動のあやしさと時間的にも犯行可能な人間であることから、亀井を犯人として指摘した。

だが亀井は悠然とした態度を崩さないまま、愛香が推理を披露中にも繋いでいた携帯電話の相手・使用人に向かって、道路が事故で閉ざされ孤立しているガスコン荘へ来るよう命じ、自分は貴族探偵だと名乗った。そしてヘリコプターで到着した使用人に、正しい犯人を指摘するよう言った。

 

使用人はすらすらと事件を解決し、愛香の推理は失敗に終わりました。小さな失敗はあったものの犯人を間違えるという大きなミスは今回が初めてだったようです。

色に出でにけり

恋に奔放なお嬢様の玉村依子には複数の恋人がいた。一人は会社員の中妻で、もう一人は大学講師の稲戸井。依子の家に招待された2人は、もう一人恋人が来ることを知らされる。お互いの存在は容認しているものの依子を独占したい稲戸井は、積極的に依子の家族にもアピールしていた。その日の滞在者は、依子、中妻、稲戸井、依子の兄・豊、依子の父・規明、義母・示津子、1歳の弟・礼人、ベビーシッター、遅れてくるという依子の新たな恋人の9名だった。

稲戸井は生年月日と姓名判断を組み合わせたオリジナルの占いを得意としていた。規明、示津子と良い結果が出て場が和んでいたが、礼人の番になると態度が急変した。結果は悪くないと言いつつも計算に使っていた手帳をパタンと閉じてしまう。悪い結果でも気にしないという規明らに気をつかわれても最後まで煮え切らない態度のまま、部屋へと戻って行ってしまった。

翌朝、稲戸井の遺体が見つかった。携帯に遺書らしき言葉を残し、あてがわれた部屋の洗面室のドアノブで白いタオルで首を吊ったものだったが、水色のタオルの繊維も首から見つかり、占いの小道具だった手帳も奪われていることから、他殺だと考えられた。

死亡推定時刻は午後9時半頃。9時10分頃に友人宅へ遊びに行ってしまった豊を除いて、明確にアリバイがないのは中妻だけだったが、恋人が疑われることに心を痛めた依子は、過去の事件で知り合った愛香に探偵の依頼をした。

玉村邸にやってきた愛香は、依子の新しい恋人が貴族探偵だと知って驚くと同時に反発心も覚えた。殺害と自殺の偽装を同時に行えばアリバイがないのは中妻一人だが、時間をあけて別々に行ったとすれば犯行が可能な人間はいる。稲戸井を殺した犯人として、愛香は貴族探偵を名指しした。貴族探偵は、依子に紹介して連れてきた自分の料理人に対し、真犯人を見つけるよう命じた。

 

殺害と偽装を別々に行ったというところまでは愛香の推理で間違いなかったようですが、その後の犯人に至る過程にミスがありました。占いによってとんでもない秘密を知ってしまったために稲戸井は命を狙われたのでした。

むべ山風を

仕事の依頼で訪れた大学で、愛香は貴族探偵とメイドが淹れてくれたお茶を飲む羽目に陥っていた。探偵は恋人である准教授の瞳に誘われて発光する茸を見に来たようだが、その瞳が教授に呼ばれ待ちぼうけを食っていたのだ。戻ってきた瞳と3人で茸を見るために研究室を出たところで悲鳴を聞いた。駆け付けた先の部屋で、院生の大場がテーブルに突っ伏すような恰好で死んでいるのを発見、首にロープが巻かれた状態だった。足元には若竹色のラインのカップが割れていた。

現場となった部屋には給湯室が備えられており、カップに入れられたラインの色によって使う人が決まっていた。シンクには洗剤の入った洗い桶があり、その中にはそれぞれ水色、ピンク、黒のラインのカップがあった。学部生男子、学部生女子、来客用だ。若竹色は院生が使うカップだった。また紅茶のティーバッグが2つ分別せずに捨ててあったことから、被害者は犯人と紅茶を飲んでいたことになり、1か月間の熊本出張から帰ったばかりで少し前に始まったゴミ分別が徹底されていなかった人間に容疑が絞られた。助手の仁田、院生の原木と潤子、学部生男子の三島と大仁の4人だった。また被害者は同じ研究室の女子学生と付き合っており、彼女に一方的に振られた原木が出張先の熊本で荒れていたことが分かった。

愛香は時間的に犯行が可能な人間、熊本出張していなくてもゴミの分別を知らなかった人間が犯人だとして貴族探偵を名指しした。探偵は、自分がティーバッグの紅茶を飲むと思われるのは心外だと怒りだし、メイドに真犯人を推理するよう命じた。

 

またもや愛香の推理は外れました。途中まではいいのですが、最後のツメに入ると貴族探偵憎しで思考が鈍るようです。

幣もとりあへず

ガスコン荘事件以来オカルトに目覚めた紗知の付き添いで、愛香は願い事を叶えてくれる”いづな”様がいるという浜梨館別館へ宿泊することになった。月に1度だけいづな様の宿泊客を受け入れているらしく、この日は金谷広成、赤川和美、平野紗知、有戸秀司、下北香苗、田名部優紀の6名がいづな様の儀式の参加者だった。香苗の恋人だという付き添いの男は、なんと貴族探偵だった。

夕食後、事前に書いていた願い事の紙を燃やすという儀式を済ませたあとは、いづな様が出るという温泉に、1人30分の持ち時間で順番に浸かり部屋で朝まで過ごす。その間、6人の宿泊客たちは奥館に閉じ込められ、付き添いの愛香と貴族探偵は表館に泊まる。一番最後にやってきた田名部優紀の名前に聞き覚えのあった愛香は、その名前がある人気サイトの女性の恋人の名前としてたびたびHP上に登場していた事、そのうち恋人に振られ邪険に扱われた女性が自殺をした事、過激な一部のファンが田名部優紀を恨んで探し出そうとしている事などを話して聞かせる。

翌朝、奥館にやってきた女将が浴場の片隅で赤川和美の撲殺死体を発見した。奥館の鍵は女将しか持っておらず外部から侵入した形跡もない。犯人は5人の中にいることになる。6人の部屋割りは、予約順に赤川と田名部が一人部屋、紗知と香苗、金谷と有戸が相部屋となっていた。

夕食時に髪についた甘煮がまだ残っていたことから、被害者は浴場に入った直後に殺されたこと、女将を共犯者にして奥館の鍵をあけた後に理由をつけて浴場に入ることができた人物として、愛香は貴族探偵を犯人だと指摘した。

探偵は憤慨し、自分の運転手に正しい犯人を推理しろと命じる。

 

物凄く複雑な叙述トリックが使われていて、一回読んだだけでは理解できませんでした。

赤川和美(女)と田名部優紀(男)は事前に名前の入れ替えを行っていて、赤川和美(男)、田名部優紀(女)が正しいことになります。ですが作者の仕掛けた叙述トリックによって読者は被害者を赤川和美(女)だと思いながら読むのですが、作中の登場人物は田名部優紀(男)が被害者だという認識で話が進みます。この時点ですでにややこしいのですが、名前の入れ替えがあったということから、実際の被害者は赤川和美(男)になります。

実際に読まないと理解できない短編ですね。読んでも頭がこんがらがりますが。

なほあまりある

匿名の依頼人から通常の倍の報酬でウミガメの産卵地・亀来島へと愛香は渡った。匿名の怪しさを疑ったものの、亀来島は個人所有の孤島で、所有者が有名な富豪・具同家であったことから危険はないだろうと結論付けた。島には、所有者の直系の孫・真希、真希の従兄弟の弘基と佳久、佳久の先輩・葉子、弘基の親戚・奈和の他、玉村依子とその恋人の貴族探偵、世話係の平田がいた。依子は真希の友人らしい。金持ちの集まりらしく雰囲気は終始和やかだった。

ある夕食時、葉子が過去に遭遇した雨の日のひき逃げ事件について口にする。その時は分からなかったものの、昼間の急激の雨でずぶぬれになったことから記憶が刺激され、犯人の顔を思い出したらしい。被害者に同情する葉子は犯人が自首してくれらたらと語った。

愛香の泊まった別棟の2階は女性に割り当てられ、並びで5部屋が埋まっていた。

翌朝、本棟の使用人用の部屋で平田の遺体が発見された。迎えのクルーザー以外では島への出入りは不可能なため、内部に犯人がいるとしか思えない状況だった。まだ眠っている葉子と奈和を起こしに行った愛香は、葉子が死んでいるのを発見する。葉子、平田の順で殺されたらしい。

自分が探偵だと明かした愛香は依子の協力のもと捜査を始める。貴族探偵は自分では推理をしないし、してくれる使用人は側にいない。そのうえ殺人事件が起きて怖がり、熱を出してしまった奈和の介抱をしていて推理などまるでする気がない。

今度こそ推理を間違えてはならないと愛香は気を引き締める。

バラに詳しい依子が、別棟の5部屋に飾られているバラは部屋によって全部違う種類だということに気がついた。また葉子の部屋のバラだけ、なぜか花が壁の方向を向いている。探偵の小道具で犯人が触っただろう箇所の指紋が拭き取られていることが分かった。また鏡台に紅茶がこぼれていたこと、椅子を含めいくつかの箇所が水で濡れていたことなどから、愛香は犯行時間帯に葉子の部屋に貴族探偵がいたことを指摘する。

紅茶のこぼれた後は、貴族探偵が好んでいるコッタボスという紅茶を投げる遊戯(恋占い)、濡れた椅子は他人とレインコートを共有できない潔癖性のある探偵が雨に濡れながらテラスにいることを選んだ結果だと指摘。貴族探偵も反論はしなかった。

さらに愛香は、犯人は葉子を殺害したあと、どの部屋にどのバラが飾ってあるのかを知る平田の口も封じる必要が出たという2人目の殺害動機も推理していく。

 

最後の短編で初めて愛香の推理が当たりました。ようやく探偵としての面目躍如です。

匿名の依頼人は依子だと思っていた愛香でしたが、最後になかなか腹立たしい事実を知らされたようです。

 

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名を知られた実力者の探偵が後継者に指名した、という割に推理のツメが甘く犯人を間違えてばかりの愛香に違和感を覚えましたが、推理の流れや話の展開は面白かったです。

女探偵ばかりか怪盗マダムとの対決もあるようなので、早く単行本化してほしいものです。