宮部みゆき「三島屋シリーズ」第6弾『黒武御神火御殿』あらすじとネタバレ感想

宮部みゆきさんの「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」のあらすじと感想をまとめました。

いままでおちかだった百物語の聞き手が、富次郎へと正式に代替わりしました。しゃんとしていたおちかに比べまだ頼りない気もする二代目聞き手ですが、これから成長していくのかなと期待させられる一冊でした。

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「黒武御神火御殿(くろたけ ごじんか ごてん)」書籍概要

そなたの罪を告白せい 恐ろしくもいとおしい極めつきの怪異と不思議。おちかに代わり、新たな聞き手は富次郎。心揺さぶる江戸怪談、新章突入―宮部みゆきのライフワーク新たな(変わり百物語)の幕が開く!「BOOK」データベースより

  • 黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 (2019年12月/毎日新聞出版)

泣きぼくろ

口入屋、灯庵老人の紹介でやってきたのは、富次郎と同じ寺子屋に通っていた豆腐屋「豆源」の八太郎だった。結婚して子どもが出来た八太郎は、すでに豆源は人手に渡っていると言い、そのきっかけとなった7~8歳頃に家で起きた一連の騒動について語り始めた。

豆腐屋の豆源は、八太郎の両親、長男夫婦とその子供、次男夫婦とその子供、三男、出戻りの長女、次女と許嫁の奉公人、別の店に許嫁がいる三女、四女のちぃ姉、末子の八太郎、住込みの女中と大所帯で日々仲良く忙しく暮らしていた。ある日の夜明け前、八太郎は男女が激しく言い争う声に叩き起こされた。次女の許嫁・奉公人の豆助の部屋の布団に寝乱れた様子の長男嫁がおり、次女が泣き喚くという修羅場だった。家族がやってきても兄嫁は艶然と笑い、悪びれた様子もなく豆助に迫ろうとする。頬を強く引っ叩かれ正気に戻った兄嫁だったが、騒動のことを全く覚えておらず迫ったことも身に覚えがないと主張する。間に人を立てなんとか場を収めた日のきまずい夕食時、八太郎の母親が長男嫁の左目の下に最近ほくろができたと指摘する。長男嫁が左目の下を触ると、ほくろはポロリと取れてしまった。八太郎は気づかなかったが、ちぃ姉はほくろが蚤みたいに跳ねて逃げて行ったという。豆助は別の豆腐屋で働くことになり、次女も豆助を追って家を出て行った。

しばらくして、ちぃ姉が次男嫁の右目の下にほくろができていると言いだした。翌日、手習所から戻った八太郎は、次男嫁が三女の夫である手代に迫っていると修羅場になっているのを知った。ほくろが取れた後に気を失った次男嫁は、目覚めた後やはり騒動の事は何一つ覚えていなかった。ちぃ姉はほくろの事を周囲に言ったが、作り話だと思われ信用してもらえなかった。

豆源の大人たちが一連の騒動が沈静化するのを待っていた頃、出戻りの長女が左目の下がちくちくすると掻き始めた。そして次の騒動が起きた。長女が父親の部屋に乱入していったのだ。普段と全く違うしどけない様子で父親に絡みつこうとするのを周囲が必死に引きはがそうとするも敵わない。ちぃ姉が長女に出来たほくろを取ってと叫び、母親が応じて長女の顔からほくろをむしり取った。長女は気を失い、目覚めた時は何も覚えていなかった。騒動のあと八太郎の父親は暑さやつれもあり、いつもよりげっそりとなり、ある日どこかへ出かけた後ぷっつりと姿を消した。長男を中心に豆腐作りは続けたが、豆源の味は落ちた。そして父親が消えてから1ヶ月弱が経った頃、父親の兄弟弟子だったという「豆長」の主人が豆源を訪ねてくると、父親が倒れて死にそうになっていると伝えた。

 

泣きぼくろ(の女の亡霊)に取り憑かれた一家の話でした。三度の不始末で一家離散、店も手放すことになりましたが、語り捨ての八太郎が現在幸せにやっている様子なので悲壮な雰囲気はありません。泣きぼくろの女の正体が不明なままなのは、少しモヤモヤします。

姑の墓

桜が見頃となった頃、商家のおかみか大おかみといった雰囲気の上品な佇まいの女性・お花が三島屋にやってくると、彼女の生家のある村で起きた恐ろしい出来事を語り始める。

花の実家は蚕を飼って絹糸を作る「かがり屋」を営んでいた。5つある棚主のひとつで、かがり屋でも村人たちが小作人として働いていた。かがり屋の裏山には小高い丘があり墓所となっているが、桜の開花の時期になると一帯が桜色に染まり絶景の景色が開けるという。5軒の棚主とその家族、雇人のまとめ役の棚頭や桑畑の小作人頭が集って花見をするのが村の習わしだったが、なぜかかがり屋の女性だけはその花見に参加できなかった。かがり屋の女達は花見の準備をして男達を送り出したあと、屋敷の中でささやかに宴を催していた。花が12歳の頃、かがり屋には祖父、両親、叔母のおりん、長兄、長兄の嫁のお恵、花が暮らしていた。お恵は城下町の糸問屋から嫁いできた娘で、二度の駆け落ち騒ぎで激怒した父親がかがり屋に押し付けてきた縁談だった。

初めは部屋に閉じこもりかがり屋に全く馴染もうとしなかった恵だが、花の母親やおりんの人柄に心を開いてからは、かがり屋は嫁姑の争いもなく仲良く蚕を育てながら暮らしていた。だが外から嫁いできた恵が、恒例の丘の上の花見にかがり屋の女性だけが参加できないことに不満を漏らしたのが始まりだった。丘の上から見る景色はうっとりするほどの絶景だというのに見られないのはおかしいというのだ。祖父はかがり屋の全員を集め、なぜかがり屋の女性だけが丘で花見ができないのか話した。祖父の曾祖父母の話だった。

まだ雇われ人だった曾祖父と曾祖母は惚れ合って一緒になり仕事に励んだ。一男二女の子宝にも恵まれ円満に暮らしていたが、息子が年上の嫁を娶った途端、曾祖母の態度が豹変し嫁いびりを始めた。周囲の制止にも耳を貸さず嫁をいびり続けた曾祖母は、嫁いで三年目で身籠った嫁を腹の子ども諸共殺そうとした。幸い大事には至らなかったものの殺しそこなった曾祖母は地団太を踏んで悔しがった。それを知った村長たちは曾祖母を小屋へ閉じ込めた。だが曾祖母は小屋を抜け出すと、墓所のある丘へ登りてっぺんにある桜の木で首を吊って死んだ。春が来て花見をすることになった。お腹の赤ん坊も大きくなり、死んだ姑の怒りが怖いと気乗りしない嫁をつれ花見をしようと息子や村人達は丘の階段を登った。だが最後の一段を登った途端、曾祖母の卒塔婆が真っ二つに折れ、誰かから押されたように嫁は階段を転げ落ちて行った。即死だった。その後、後添いをもらった息子は嫁を決して丘に登らせようとはせず、年を取って死ぬ間際、家族に決して嫁を丘に登らせるなと遺言を残した。

かがり屋では姑の墓が女たちを見張っている。納得した花や母親たちだったが、恵だけは丘の上で花見をしたがった。結局周囲を説き伏せ、花見ではなく墓所の掃除という名目で花たちは丘に登ることになった。墓掃除が終わりお弁当を広げながら丘の上から望む景色を堪能する。何事もなく終わったかに見えたが、帰宅しようと階段を下り始めた時だった。突然母親の顔から表情が消えると、一つ下の段にいた恵を突き飛ばした。階段を転げ落ちた恵は即死し、母親も置物のようになって水すら飲まなくなり、日ごとに衰弱し亡くなった。許嫁を亡くして以来結婚しないと言い張っていた叔母のおりんは村長たちの口利きで婿を取り、気づまりだった花は16才になってすぐに舞い込んだ縁談を受け村を出た。父と兄はお遍路の旅に出た。

花の婚家は厳しいものの花によくしてくれた。一男二女に恵まれ、花は亡くなった時の母親の年齢に追いついた。まもなく息子が嫁を取り自分は姑になるという花は、ずっと気に病んでいるというある悩みを富次郎に打ち明ける。それは子どもの頃に目の当たりにしたこの恐ろしい出来事にまつわるものだった。

 

階段から転げ落ちる描写のあたり、かなりぞっとする話でした。

同行二人

富次郎になってから三人目となる語り手は、50才になるという亀一だった。この大きな区切りに忘れられない昔話を語りにきた。

幼い頃から腕っぷしが強く腕白だった亀一は義父の仕事だった鋳掛けの修行をしたものの目が悪く続かなかった。その後亀一を引き受けてくれたのが町火消しの頭だったが、下働きの小僧の亀一には火消道具に触る事すらできない。おまけに他の火消し達からは虐められる。数年程我慢し続けたが18歳の時とうとう取返しのつかないいざこざを起こして逃げ出した。この時の逃げ足の速さを買われ、亀一は飛脚問屋で働くことになった。飛脚は亀一に合っていたらしく少しずつ信用を得て出世していき、走り飛脚として伊勢や讃岐あたりまで荷物を運ぶようになった。そして30歳の時、器量も気立ても良い若い嫁を貰うとすぐに娘も生まれ幸せな日が続いた。だが娘が2歳の頃、江戸で餓鬼風邪が流行った。母親、義父と続けざまに寝込み、嫁と娘も病に倒れ世を去った。いっぺんに両親と家族を失った亀一は失意の中で仕事に没頭しがむしゃらに走り続けた。走っている間は、江戸でみんなが元気に暮らしていると思えたからだった。

ある日亀一は、箱根峠を下った先にある休み処で一軒の茶屋が火事で焼け落ちているのを見かける。どうやら雷が落ちたらしい。いつも通りそばを走り抜けようとした亀一は、打ちひしがれている茶屋の老人や寄り添う男女らの姿を見た途端寒気に襲われた。気を取り直して走っていた亀一は、着流しに赤いタスキをかけ草履を履いた男が半丁(50m強)程離れた場所に佇んでいるのを見つけた。会釈をして走り始めた亀一だったが何故か気になって後ろを振り返りぎょっとした。赤いタスキの男がついてきていた。両足を揃えだらんと手を下した格好のまま、飛脚の亀一と一定の距離を保ちながらずっとついてくるのだ。お化けか物の怪の類に違いない。思い切って近づいてみると男の顔はのっぺらぼうだった。男は亀一以外には見えないらしい。常に半丁の距離を保ちながらあとをついてくる。そのうち、亀一の行く先々でボヤ騒ぎが起こるのに気が付いた。どれも大事には至らなかったが、亀一は男は落雷で火事になった茶屋で命を落とし亡霊になったのではないかと考えるようになった。

信じて貰えないと思いつつも荷物を運んだ先の取次所の支配人に亡霊に憑かれている事情を話すと、支配人はあっさりと信じてくれた。亀一自身が生気が抜けた幽霊のようになっているらしく、足元から伸びる亀一の影は、支配人の影の半分くらいの薄さになっていた。支配人は男を火事の起きた茶屋まで連れて帰れと言う。仕事を途中で取り上げられUターンさせられた亀一は、とんだ同行二人になったと毒づきながらようやく気が付いた。家族を失いいつ死んでもいいと思いながら走っていた亀一だったが、本当は命が惜しかった。茶屋に辿り着くと、店の女があっと声を上げた。彼らには男の亡霊が見えたのだ。亀一はそこで男の正体を知ることになった。茶屋の老人の息子だった男も、亀一同様妻と生まれて間もない娘を亡くし失意のまま赤いタスキで首を括って死んでいた。似た者同士だったから、男は亀一に取り憑いたのだと分かった。男を成仏させた亀一は、その後の人生を一人で生きてきた。そしてこの度、飛脚を引退したものの店のためにもうひと働きすることになり、区切りをつけるために三島屋にやってきたのだった。

黒武御神火御殿

袋物屋を商う三島屋に持ち込まれた質流れした古着や布の中に、印半天が混じっていた。半天の襟には「黒武」と染め抜かれ、背中には□に十字を重ねた印が入っている。質屋の女中・お秋の私物だという。百物語に何か関わるものではないかと調べたところ背中に当て布を見つけ、ほどいてみるとデタラメに並んだひらがながあった。おちかの婚家の貸本屋・瓢箪古堂に調べて貰うと、その文字の羅列はご禁制の耶蘇教(キリスト教)の唄だと分かる。半天の持ち主やお秋は隠れキリシタンなのかもしれない。お秋の真意が分からないまま日が経ち、富次郎のもとに大急ぎで百物語を語りたいという話が持ち込まれた。

やってきたのは裕福な商家の人間と分かる男だったが、四十路前だがすでに髪は真っ白、体のあちこちに酷い傷を負っており、一人で歩くのも苦労する様子だった。大きな火事に遭って熱気で喉をやられたと嗄れ声で男は甚三郎と名乗ると、お秋と印半天にまつわる話だと語り始めた。

どんなに叱られても博打をやめる事ができない放蕩息子の甚三郎は、お金を工面するため乳母が結婚して住んでいる目白へと向かっていると、いつの間にか深い森の中にいた。遭遇した化け物に追われるように逃げこんだのは、濃い霞で覆われた大きな屋敷だった。休ませてもらおうと声をかけるが返事はない。ようやく見つけた女中らしき女は、質屋で奉公しているお秋だといい、主人の言いつけで届け物をするため歩いていた所でここに迷い込んだと話した。その後、船大工で大酒飲みの老人・亥之助、薬種屋の番頭・正吉、地主の隠居の妻・おしげ、武士の堀口がそれぞれ迷い込み屋敷に集まった。常に霞に覆われ屋敷の周囲は化け物が闊歩しており出口はどこにも見当たらない。屋敷の中の食料や畑の野菜は食べても翌日には元通り。どうすることもできない怪異の屋敷から抜け出すため、甚三郎らは堀口をリーダーに手分けしてだだっ広い屋敷内を捜索することになった。屋敷内でぴったり6人分の印半天が見つかり、屋敷の主の意を汲んで全員で羽織ることになった。

印半天を着た6人はすぐに巨大な襖絵のある大広間を見つけた。襖絵には火山の絵が描かれており間もなく噴火を迎えるのかグツグツという溶岩を煮えたぎらせる音を立てている。絵とはいえ白い噴煙や流れ出る溶岩、鳴動や熱気までもが本物だった。襖絵の端には一枚分の板張りの扉がありその奥の短い廊下や壁、天井には数えきれないほどの手のひらや爪で掻きむしった跡が見えた。甚三郎達の前にも大勢の人間がここで溶岩に焼かれたのだろうと分かる。廊下の奥にはまた扉があるが開かない。甚三郎達が脱出するにはこの通路を通るしか道がないことが分かったものの、方法が分からなかった。

方法を模索していた頃、亥乃助が自分の借金のために娘たちを売ったことが分かる。その途端、悔い改めよという声とともに甲冑姿の侍が現れ亥乃助を切り殺した。襖絵の横の通路の扉が開く音と「あと四人」という声が響く。博打狂いの甚三郎を始め、ここには何らかの罪を犯した者が集められていると分かった。正吉の様子がおかしくなった。常軌を逸した様子でふらふらと屋敷を出ると怪魚のいる湖へと向かう。己の罪を告白しながら湖へと身を沈めていった正吉は、止めに来た甚三郎と堀口の前で怪魚に喰われて姿を消した。もう一枚扉が開く音がし、新たに出てきた廊下には古い文書が置かれていた。

文書と半天の背当てから見つかったひらがなの羅列から、屋敷の主がかつてキリシタン弾圧を受け罪人として島流しをされた人間だと分かった。襖絵の火山は流刑先の島のものだった。かつて自分が味わった苦悶を失意を、屋敷に集めた人間らに与えるのが目的らしい。これを境に食べ物がなくなった。そしておしげが突然現れたイナゴの大群に襲われ命を落とした。残ることも逃げることも断たれた甚三郎、お秋、堀口は、このまま死ぬより強行突破を目論みることになった。堀口には一か八かの策があり、自分の命と引き換えにしてでも甚三郎とお秋は脱出させると言い切る。その途中、甚三郎はお秋がおしげから聞いたというおしげの罪と、お秋自身の罪を聞いた。

噴き上げる溶岩を浴びながらも襖絵を切り倒す堀口を姿を確認しつつ死に物狂いで屋敷を脱出した甚三郎は、大やけどを負って倒れている所を救出され一命は取り留めたものの、やけどで人相や声が変わり手足の指を何本も失い、身弱になった。ようやく傷も癒え動けるようになったので奉公先の質屋を訪ねお秋とは再会できたが、亥乃助、正吉、おしげ、堀口は行方不明のままだった。脱出の際甚三郎の印半天は燃えてしまったが、お秋の半天は無事だったという。

それからしばらくして甚三郎が没したという知らせが三島屋に届いた。数日後、お秋が富次郎の所へとやってくると、印半天を預けた真意を話し始めた。

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小説のボリュームとしては1:1:1:3くらいでしょうか。表題作の「黒武御神火御殿」が一番長くて怪異の規模も大きいのですが、富次郎がおちかのように事件と関わることなく完全に聞き手として存在するだけだったせいか、あっさりとした読後感でした。

巨悪な呪詛が詰まったような屋敷の話でしたが、個人的にはメインのストーリーより、結婚したおちかのその後の様子が知れて良かったです。