宮部みゆき「三島屋シリーズ」第3弾『泣き童子』あらすじとネタバレ感想

宮部みゆきさんの「三島屋シリーズ」3冊目のあらすじと感想をまとめました。百物語とひとくくりにはできないくらい幅広いジャンルの話が、今回も盛り込まれていて満足の一冊です。

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「泣き童子(わらし) 三島屋変調百物語参之続(さんのつづき)」書籍概要

三島屋伊兵衛の姪・おちか一人が聞いては聞き捨てる変わり百物語が始まって一年。幼なじみとの祝言をひかえた娘や田舎から江戸へ来た武士など様々な客から不思議な話を聞く中で、おちかの心の傷も癒えつつあった。ある日、三島屋を骸骨のように痩せた男が訪れ「話が終わったら人を呼んでほしい」と願う。男が語り始めたのは、ある人物の前でだけ泣きやまぬ童子の話。童子に隠された恐ろしき秘密とは―三島屋シリーズ第三弾!「BOOK」データベースより

  • 泣き童子 三島屋変調百物語参之続(2013年6月/文藝春秋)
  • 泣き童子 三島屋変調百物語参之続(2016年6月/角川文庫)
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第一話 魂取の池 たまどりのいけ

おちかと同年代の年頃の娘<お文(おもん)>は、祖母の実家近くにある「魂取の池」の話を始める。魂取の池には悋気の神様がいて、カップルが揃ってその池に姿を映すと仲を引き裂いてしまうという。若い頃の祖母が二度に渡って魂取の池に姿を映したところ…。

 

カップルの仲を引き裂くジンクスを持つ池、というのは現代でもどこかにありそうです。語り手の少女が許嫁との結婚を控えているだけあり、悲壮さはなく、まるで女子会を見ているようでした。

好きな相手の気持ちを試すようなことをしてはいけない、縁のある人を大切にしなさい、という戒めの話です。祖母がいやいや結婚した旦那さん(お文の祖父)、一度も女性にもてたことがないという不細工(?)ですが、人が良さそうでちょっと可愛いところもあって、結局生涯仲良く寄り添ったようで、それもまたこの話を明るくしてくれています。

第二話 くりから御殿

三途の川の途中で戻ってきたという白粉問屋の主人<長治郎>、体調を心配するおかみさんがこっそりと別室に控えている中、長治郎はおかみさんにも耳にたこが出来るほど聞かせたという、幼い頃に村を襲った山津波で幼馴染を失った話を始める。

 

いつも4人一緒だったのに自分一人だけが生き残ってしまったという思いに捉われ続けた長治郎が、津波のあと身を寄せたお屋敷で体験した不思議なお話です。きっと現代にも通じる話、というより甚大な自然災害に見舞われる今の日本でも、多くの人が長治郎と同じ思いをしているのではないかなと思わせられました。

津波で身寄りを失ってしまった長治郎ですが、周囲の人たちに恵まれて長生きしているからこそ、過去の出来事が後悔としてずっと心の中に残ってしまったのでしょうね。

第三話 泣き童子 なきわらし

約束もなしに三島屋を訪れた飛びこみ客は、隠居した差配(大家)だった。70歳に見えるほど老け込んだ白髪の男の年齢は55だという。今にも倒れそうなほどやつれた尋常ではない状態で、男はとある理由で火のついたように泣きわめく幼子にまつわる話を始める。

 

短いですがぞっとする話です。何一つ救いがない話で、自由奔放にわがままに生きて遊び人に捨てられた男の娘(おもん)については因果応報でしょうし、娘の過ちを正せず隠し通してきた男自身にも非があるので別にいいのですが、何の咎もない利発な少女やその家族を襲う不幸は、あまりにも悲惨で目を覆いたくなるほどでした。可哀そうなのは、何も知らずおもんを嫁に貰ったお家ですね。

男の白髪の理由は、マリーアントワネットでした。実際にこんなことが我が身に起こったら怖いでしょう。男の場合、自業自得でしょうけど。

第四話 小雪舞う日の怪談語り

いつもは三島屋の「黒白の間」で一対一で聞き語りをしているおちかが、招待されて初めてよその百物語の会へと出向きます。三島屋と懇意にしている十手持ちの<半吉>を含め4人の語り手による百物語と、百物語の会場への道すがらにおちかが体験した不思議な出来事。

 

1つ目は「逆さ柱(家を建てる時に柱を天地逆にした)」をしたかもしれない家で起きた怪異。まさしく百物語といった目に見えない力による怪談でした。

2つ目は渡ってはいけない橋を渡ってしまった女性の話。橋代として寿命を差し出すのですが、子を思う母の気持ちが伝わってくる話でした。幸せを感じた怪談でした。

3つ目は千里眼の母を持つ武家の老人。人の病が見えるという能力を出世に生かそうとした両親の失敗談と、その能力を受け継いだと話す老人が打った一芝居が痛快でした。肝煎役(主催者)の食えない性格もなかなかいい感じで、レギュラーになってほしいくらいです。

4つ目は「4=死」に通じるからと形だけ飛ばして、ラストが半吉親分が駆け出しの頃の体験談で、影法師が現れて体を触るとその部分が真っ黒になって最後は死んでしまった男の話。影法師の正体は、おそらく男が権力を振りかざして弱い者をいじめをしていた時の被害者(亡者)かと思われます。因果応報。

今回の百物語の会には手習所の若先生・青野利一郎も同行し、おちかといい雰囲気に見えたのですが。なかなかうまくいかないものです。

第五話 まぐる笛

お国訛りが抜けない若侍<赤城信右衛門>の母親の話。「まぐる」という人を食う巨大な化け物を退治する力を持った母が、実際にまぐるを倒した話。幼い頃ひ弱だった信右衛門は、静養のため遠縁の住む村に預けられることになった。その村にまぐるが現れ次々と犠牲者が出、退治のために呼ばれたのは、なんと信右衛門の母だった。

 

今までは関わらなければそれほど被害もないあやかしが多かったのですが、今回は積極的に人を襲いにやってくる化け物の話でした。読みながら、まぐるの姿を「もののけ姫」のダイダラボッチに変換してしまいました。まぐるを退治できる唯一の方法、まぐるを操る「まぐる笛」という指笛を吹ける能力をもった女性の話でした。

第六話 節気顔 せっきがん

小間物屋のおかみ<お末>が幼い頃、放蕩の限りを尽くし出戻ってきた伯父の秘密の仕事を知った話。お末の家の裏庭にある物置に慎ましく住み始めた伯父・春一は、二十四節気(春分、夏至など)がくると必ず一日中出かけてしまう。その理由が、その日一日だけは別人の顔に変わってしまうからだとお末一家は知ってしまう。

 

別人の顔になると声まで変わってしまいます。「商人」を名乗る男と取引した春一は、二十四節気が来るたびに死者の顔と入れ替わるのです。春一は自分に宿る死者の顔を見知っている人を探し、一日中歩き回っていたのです。仕事を続ける春一の影はどんどん薄くなっていき、最期を迎えるのですが……本人にとっては満足した最期だったようです。

「商人」は、1冊目の『凶宅』に登場するこの世とあの世を行き来して商売をするというあの人です。凶宅では悪人として描かれていましたが、今回はそうでもなかったです。怪しい存在なのは確かですが、単にビジネスライクに徹する人なだけなのかもしれません。

 

「泣き童子」という一番ぞくっとする話が表題作になった3冊目でした。個人的には「節気顔」が一番好きです。悪側とも善側とも言えない、ニュートラルな話でした。