宮部みゆき「三島屋シリーズ」第1弾『おそろし』あらすじとネタバレ感想

ミステリー小説も書かれる宮部みゆきさんの人気シリーズ「三島屋」シリーズは、時代劇ホラーです。本自体は厚みがありますが、どれも短編集なので読みやすく、読み終わった後に様々な思いがよぎってくるシリーズの一つでもあります。

ホラーといってもそれほど怖くはありませんので(人の心の闇にふれてぞっとする話もありますが)、ぜひ読んでいただきたい本です。

スポンサーリンク

おそろし 三島屋変調百物語事始(ことはじめ)書籍概要

17歳のおちかは、ある事件を境に、ぴたりと他人に心を閉ざした。ふさぎ込む日々を、叔父夫婦が江戸で営む袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働くことでやり過ごしている。ある日、叔父の伊兵衛はおちかに、これから訪ねてくるという客の応対を任せると告げ、出かけてしまう。客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていき、いつしか次々に訪れる客のふしぎ話は、おちかの心を溶かし始める。三島屋百物語、ここに開幕。「BOOK」データベースより

  • おそろし 三島屋変調百物語事始(2008年7月/角川書店)
  • おそろし 三島屋変調百物語事始(2010年6月/新人物ノベルス)
  • おそろし 三島屋変調百物語事始(2012年4月/角川文庫)

第一話 曼殊沙華

急な商いのため出かけてしまった三島屋夫婦に代わり、姪のおちかが急遽お客様をもてなすことになった。黒白の間にやってきた建具商の<藤兵衛>は、三島屋の庭に咲く曼殊沙華(彼岸花)を異様に恐れるのだった。そしておちかに、花を恐れる原因となった13歳年上の兄の話を始める。

 

三島屋シリーズ最初の話です。風変わりな百物語を始めるきっかけとなった話で、おちかの中に変化が生まれはじめる記念すべき第1話です。親代わりになってくれていた頼もしい兄が人を殺め犯罪者になってしまった。それが原因で藤吉(若い頃の藤兵衛)にはなかなか奉公先が決まらない。刑期を終えて戻ってきた兄を疎ましく思っているところに兄の死の知らせがきて……という、いきなり重い話でした。

胸の内に詰まっているものを吐露することで、次の一歩に踏み出せる。そんな浄化作用があると知らせるような話でもありました。

第二話 凶宅

本格的に三島屋での百物語が始まりました。初めての客は草履問屋・越後屋に身を寄せている美しい女性<おたか>。錠前直しで生計を立てていたおたかの父は、百両という大金に目がくらみ、末っ子のおたかを含め一家でとあるお屋敷に移り住むことになった。その屋敷は人を取り込んでしまう屋敷で、おたかだけが助けられたのだが…。

 

この話だけでは真に完結はせず、最終話の「家鳴り」へと縺れ込みます。「凶宅」というからにはホラー要素たっぷりの血みどろの恐ろしい話かと構えていましたが、不可解な怪異が起こるにとどまりました(人によってはそれも怖いと思いますが)。父の師匠の尽力によっておたかだけが助かったのですが、魂は家に置きっぱなしとなり、まだまだ屋敷に捉われたまま。

なんだかすっきりしない感じがしました。師匠の清六さんだけが頑張った話という印象です。

第三話 邪恋

おちか自身が過去を語ります。おちかの実家・川崎の旅籠「丸千」では大勢の人が働いていた。おちかと年の近い松太郎もその一人で、10歳の頃崖から落ちて助かった後は、おちか達と兄弟同然の暮らしをしていた。おちかに許嫁ができた。同じ川崎にある旅籠の息子で、松太郎に対し鬱屈した思いをもっていた吉助は、おちかと逢引をしているさなかにやってきた松太郎に対し雑言を浴びせ始める。

 

結局松太郎が吉助を手にかけ、自身も自殺してしまうという話です。今の感覚で言うと、松太郎の気持ちに一切頓着しなかった「丸千」の両親が元凶という気もします。兄弟同然に育て、松太郎を引き取りたいという人を断るくせに家族という線を超えさせず、放蕩息子だった吉助に当てつけるためだけにおちかとの結婚を嘯いたりするのです。おちか自身も、松太郎が捨て子だからと線を引いてしまいます。丸千にとって松太郎は都合が良い存在だったのでしょうが、当の本人からすれば拾ってもらった恩はあれど、やりきれない気持ちもいっぱいだったのだと思います。それらが噴き出すきっかけを作ったのが吉助です。吉助にも理はありますが、鉈を持ち出すのはやりすぎです。気に入らないからと使用人に暴力をふるうのが当たり前だった時代もあったのでしょうね。今の時代に生まれてよかったです。

第四話 魔鏡

三島屋のベテラン女中おしまが昔奉公していたお店の末娘<お福>が幼い頃の、兄と姉の話。幼い頃療養のため外に出されていた姉が美しく成長して戻り、実の弟(兄)と恋に落ちたことから始まる悲劇。二人の仲が両親に知られ引き裂かれようとしたことから姉は自殺。その後も不幸が次々と連鎖したように襲い、とうとう家が潰れてしまったという話。

 

松太郎と吉助のことを自分のせいだと思い塞いでいるおちかに、「悪いのは誰のせいでもない」と諭す話でした。兄弟としての時を過ごしてこなかった姉と兄が恋に落ちるのは確かに誰のせいでもない、でもお福の実家が潰れてしまうきっかけを作った「鏡」については、明らかに兄の意思(妄執、悪意の類)だと思いました。最初は姉のことを兄をたぶらかす悪女かと思っていましたが誤解でした。兄の豹変ぶりの方が怖いです。

第五話 家鳴り

「凶宅」のその後です。百物語を語り捨てる・聞き捨てるというスタイルではなく、おちか自身が怪異の現場へ赴き、屋敷に捉われたままのおたかの魂も取り返すという変則な話です。あの世の出来事かなと思わせるような、今までの百物語に登場した人たちほぼ総出演です。

 

一冊目の最終話ということで、ひとまず大団円を迎えましたという形でしょうか。私自身があまりファンタジーに慣れていないせいか掴みどころがなく、置いてけぼりを食ったような印象を受けました(みんなが力を合わせて悪を撃退する/悪から逃げるという、好きな人には好きな話だと思います)。どことなく消化不良でした。

この世とあの世を行き来する「商人」が初登場し、おちかと相対します。凶宅も商人の相手先の一つだったのですね。

 

 

江戸時代が舞台ですが人の心に深く入り込んでいるストーリーなので、今の世の中でも十分起こり得そうな話も多いです。

怪異やあやかしといっても、結局引き起こすのは人ですし、一番怖いのも人なんだなと思わせられました。おちかの過去をつづった「邪恋」が一番印象深い一冊でした。