宮部みゆき「杉村三郎」シリーズ第5弾『昨日がなければ明日もない』あらすじとネタバレ感想

宮部みゆきさんの「昨日がなければ明日もない」のあらすじと感想をまとめました。

シリーズ第5作目となりますが、離婚した杉村が資産家の竹中家の一角を賃貸して細々と探偵事務所を開いているという設定だけ理解していれば特に問題なく読めると思います。

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「昨日がなければ明日もない」書籍概要

杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザー。『希望荘』以来2年ぶりの杉村シリーズ第5弾! 「BOOK」データベースより

  • 昨日がなければ明日もない(2018年11月/文藝春秋)
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絶対零度

筥崎静子という女性が自殺未遂をして入院中の娘と会いたいが、娘の夫から面会を拒否されていると相談にやってきた。娘の名前は佐々優美、自殺を図り精神的に不安定だとメンタルクリニックに入院した。優美の夫・知貴は最初どこの病院に入院しているかも静子に教えなかった。そして見舞いに行った静子に対し、優美の自殺原因は静子にある、優美も静子に会いたくないといっていると一方的に電話で告げるだけで取り付く島もない。クリニックも夫の意向を汲み静子を追い返す。遠方にいる優美の弟・毅も同じ状況で無関係だから口出しするなとまで言われたらしい。東京電力の役員をしている夫は原発事故の対応で大変な時期なのでなるべく事を大げさにしたくないという静子の希望もあり、杉村は建前上毅を依頼人にして優美の現在の治療の状況の把握と、静子が連絡をとることができないのかはっきりさせるという内容で依頼を受けた。

佐々知貴の名前や会社名などで検索をすると大学OBで作ったホッケーの社会人愛好会の幹事をしていることが分かった。また毅に連絡をとると改めて調査を依頼される。毅によると昔から静子と優美は仲が良すぎるくらいの親子で、優美は家ではお姫様のような扱いで甘やかされ結婚してからも金銭的な援助も受けており、優美も静子に何かと相談していた、母娘間のトラブルは考えられないという。また毅は、俺様気質な知貴とはウマが合わず、就職に関しても知貴の的外れな助言を聞かず自分でやりたい仕事に就いた毅をけなし格下に見ている節のある知貴に対し、良い感情は抱いていなかった。

知貴に電話をかけても留守電になるばかりだったため杉村は知貴の会社へと向かった。優美の自殺未遂から1ヶ月、遠くから見る知貴は憔悴していた。次にクリニックに見舞いの花を届けに来た業者に扮して行くが受付で止められた。また毅から電話がかかってきて、探偵を雇った事に対し知貴が感情的に毅を罵倒してきたらしい。休日の土曜日、杉村は知貴の様子を張り込んだ。静子によると佐々夫妻が住む高級マンションは知貴の先輩の紹介で優美の希望とは程遠い条件のもので大喧嘩に発展していたが、結局知貴に押し切られて住み始めた。1日張り込んだが、コンビニに行った以外知貴は外出せず優美の見舞いにも行かなかった。日曜日、マンションにやって来た高級車に乗り込み知貴はどこかへ行ってしまった。撮影したナンバープレートから車の持ち主は高根沢という知貴がいるラグビー愛好会の代表だと分かった。フェイスブック上の愛好会のやり取りを見ていくと、高根沢はチームの練習など欠席するメンバーを叱責しており、語調はまるで恫喝のようなのが分かる。中でも最年少の田巻という男性が一番厳しく叱られていた。更に調べを進め、杉村は大学のラグビー愛好会のサイトで優美の自殺未遂と前後して田巻の妻が亡くなっていることを知った。

大学ラグビー愛好会サイトの管理人の城島に連絡を取り、杉村は彼女が飛び降り自殺したことを知る。また城島は、高根沢とその取り巻きが卒業後も大学のラグビー愛好会に顔を出しては威張り散らし気に入らないことがあればすぐに手をあげるトラブルメーカーだったことを教える。城島は田巻の後輩で、田巻が無理やりOBラグビーのメンバーにされていた事や、練習や試合後の打ち上げで自宅が会場になるのを嫌がって宅飲みは全て不参加にしていたことなどを聞き出す。OBラグビーは高根沢に絶対服従の愛好会で、知貴は高根沢の忠実な取り巻きの一人だった。田巻を慕っている城島は、現在行方が分からなくなっている田巻の居場所が分かったら教えてほしいと杉村に頼み、杉村も了承した。

クリニックの関係者が知貴と知り合いで、入院していない優美を入院していると偽っていることが分かった。おそらく高根沢の別荘にいるものと思われ、防犯カメラの映像から優美が監禁されることもなく普通に暮らしていることが判明した。また高校時代優美と仲が良く結婚式にも参列していた笠井いずみと連絡がとれた。いずみと優美は大学が別れても親しくつきあっていたが、優美に知貴という彼氏ができてから亀裂が入り始めた。すっかり知貴にのめり込み引きずられるように変わってしまった優美と疎遠になったが、いずみも優美のことを心配していた。

クリニックから知貴に連絡がいったらしく、静子の所へ切羽詰まった様子で知貴から電話がかかってきた。杉村との契約を打ち切るなら優美を実家に帰すらしい。そして自殺の原因は夫婦喧嘩だったと優美が静子の元に戻ってきた。請求書通りに調査料が振り込まれ杉村の仕事は終了した。城島との約束を果たすため、杉村は田巻と連絡をとることにした。職場には休職届を出したままマンションを引き払っており実家にも帰っていない。留守電に何度かメッセージを吹き込んだが反応はない。何としてでも田巻の行き先を見つけようと決意した矢先、高根沢が殺害されたというニュースが入った。

静子に電話を掛けてみると、高根沢の死を知った優美が知貴も殺されると取り乱しているという。筥崎家へ行こうとした杉村の家のチャイムが鳴った。ドアを開けると田巻が立っている。置物のように落ち着いた佇まいの田巻を室内に招き入れると、血で汚れた服を着替えたら自首するつもりだったという田巻は、杉村が一体誰から調査を頼まれたのか確かめたくなったのでここに来たといい、妻の自殺の原因となった事件や高根沢たちに対する復讐を決意したいきさつを感情を交えず淡々と語っていった。

 

自殺した妻の復讐というシンプルな構図ながらも壮絶な事件でした。殺害の証拠などを全て所持している田巻に頼まれ、杉村も警察まで付き添いました。依頼人の静子さんには悪いですが、優美にも同情できません。

華燭

杉村は竹中夫人からある披露宴の付き添いを頼まれる。結婚するのは宮前靜香。駅前のコサキモーターバイクの一人娘・小崎加奈の従姉だという。加奈の母・佐貴子は実家の宮前家とは絶縁していた。佐貴子が25歳、靜香の母で佐貴子の妹・佐江子が20歳の時、佐貴子は結婚式当日に新郎が佐江子とともに逃げるという経験をした。その時佐江子は妊娠しており(のちの靜香)2人の両親は赤ん坊を理由に佐江子の味方になったため、佐貴子は実家とは完全に縁を切っていた。だが靜香が加奈の通う中学の職員だったことから従姉同士の交流が始まり結婚式の招待状も送られてきた。絶対に出ると言い張る加奈に負け、小崎夫妻に代わり竹中夫人と杉村が加奈の付き添いで参列することになった。

披露宴会場となるホテルでは1時間違いで2組のカップルの式が行われる予定で靜香達は後の方だった。参列者の控室があるラウンジへと向かった3人は満員電車の車内のように人が溢れているのに驚く。最初の組で何らかのトラブルが起き式も披露宴もまだ始まっていないらしく、しびれを切らした人たちが式場の係員たちに食って掛かっている様子も見受けられた。また靜香たちの方も様子がおかしい。ホテル内の店も人で溢れているだろうと部屋をとって一旦落ち着いた後、杉村と加奈が様子を見にラウンジへ行くと靜香たちの受付では一旦受け取った祝儀を返しているという。どうやら結婚式はなくなったらしいが誰に聞いても事情が分からない。そんな時ホテルの片隅でしゃがみこんでいるウェディングドレス姿の女性を見つけた。靜香たちより先に式を挙げる予定の花嫁・菅野みずきが杉村達に助けを求めたため、竹中夫人のいる部屋へと連れていくことになった。

親の借金をカタに40歳以上も年の離れた男と結婚させられそうになっていたみずきは、実の親も味方になってくれない中、誰の目から見ても確実に結婚をぶち壊すために当日の逃亡を企てた。だがどこかに隠れて着替えようと人目を避けてウロウロしているうちに足を挫いて困っていたところに杉村達が通りかかった。みずきは親族達が諦めて引き上げるまで部屋で待ち、その後街を出て遠方の友人を頼ることになった。

靜香の結婚も中止になり、新郎新婦の友人たちが披露宴で出されるはずの料理を食べていた。そこに混じった3人は、結婚が取りやめになった原因が新郎の元カノが押しかけてきたためだと知る。新郎の友人たちは新郎が二股をかけていたことを知っており、元カノには結婚のことを知らせないようにしていたにも関わらず当日突撃してきたらしい。その後着替えを終えた佐江子と靜香に会うが、佐江子は靜香が佐貴子と同じ目に遭っていい気味だと思っているんだろうと加奈に対してヒステリーを起こして去って行った。結局この日、式を挙げる2組ともが中止になってしまった。

後日靜香が改めて竹中家に挨拶にやってきた。周囲に気を使われるので仕事を辞め県外の親せきを頼ってそちらで一人暮らしを始めるという。佐江子は姉の結婚相手を寝取ったという当時のことを思い出し、自分の因果応報で靜香を巻き込んだと塞ぎ込んでいた。そして今回の破談で佐江子のしたこともチャラになったと靜香に慰められていた。これで今回の一件も片が付いたように思われるが、靜香が帰った後、杉村は竹中夫人相手に自分の推理を話して聞かせる。それは2組の破談について、新婦2人があらかじめ組んで計画していたことではないかというものだった。

 

大勢の人間を巻き込み迷惑をかけてまで破談にしなければならなかった2人の事情には納得できるものがあります。ですが話題にのぼるだけでほとんど登場シーンのなかった佐江子の身勝手さにはまるで同情できません。普通なら絶縁状態が解消されるのがハッピーエンドでしょうが、絶縁したままの方が小崎家も幸せに暮らせる気がします。

昨日がなければ明日もない

杉村が間借りしている竹中家の長男夫婦の妻と中学生の娘の有紗が事務所にやってきた。小学校時代のクラスメイトに朽田漣という少女がいた。漣とシングルマザーの美姫はとにかく問題ばかり起こしており、クラスの備品や友達の持ち物を盗む、いじめをでっち上げて被害者ぶる、先生に注意されると母親が学校に押しかけてきて騒ぐ、好きな男子に纏わりつき嫌いな女子の悪口をSNSに書き込む、給食費は払わずそれを自慢するととにかく関わりを持ちたくない親子だったらしい。先日有紗の母が美姫に声を掛けられた。竹中家にある探偵事務所(杉村のこと)に頼みたいことがあるから予約を取ってほしいと。場所を貸しているだけなので直接連絡してほしいと断ったので、そのうちトラブルメーカーが依頼に来るかもしれないという事前連絡だった。

漣を連れて美姫が杉村探偵事務所にやってきた。依頼内容は小学生の息子・竜聖が殺されかけたという物騒な物だったが、あちこちに飛ぶ話をまとめるとこういうことだった。若くして漣を生んだ美姫は、幼稚園の運動会で姪の応援にきていた鵜野一哉に出会い付き合い始めた。一哉は漣にも優しく付き合いは良好で結婚話も持ち上がったが、一哉の両親は大反対した。そのうち美姫の妊娠が発覚したことで一哉は親の反対を押し切って結婚し、竜聖が生まれた。だが一哉の給料では満足しなかった美姫があちこちで借金を重ねサラ金に手を出しどうしようもなくなった。一哉の両親は借金を肩代わりする代わり2人の離婚を命じた。美姫は竜聖を引き取らないといい、一哉は竜聖を手放したくないといったので竜聖は鵜野家で育てられることになった。実家に戻った美姫は新しい恋人・串本ができて今に至る。一方鵜野家では竜聖を引き取りたいという親戚に養子に出す方向で話が進んでいたが、鵜野家の遺産目当ての美姫が「母親」の権利を振りかざして養子縁組を邪魔していたところ、登校中の子どもたちにブレーキとアクセルを踏み間違えた車が突っ込むという事故が起きた。美姫は竜聖を邪魔に考えた鵜野家(元義理の母親)が竜聖の命を狙ったのだと言い張る。杉村は、現在入院中の竜聖の健康状態や生活の様子などを確認するという内容で調べることになった。

鵜野一哉は人当たりも人も良い人物だった。離婚に際しても弁護士を立て法的にきちんと手続きをしたにもかかわらず美姫には通じず身勝手な言い分をまくし立て鵜野家に未だに金を要求してくることにも、要求を受け入れないにしても諦めている様子だった。竜聖と里親候補との関係は良好らしく交通事故は陰謀でも何でもない不運な出来事だった。竜聖もその時の気分で怒鳴り出す美姫よりも里親の方に懐いているらしい。一哉との面会の場に、美姫の実の妹・朽田三恵が途中から同席した。容姿や背格好が美姫によく似ているが言動は天と地ほども違った。三恵は一哉を始めとする鵜野家や美姫のわがままで動いている杉村に申し訳ないと頭を下げ、竜聖と竜聖をかばって一緒に入院している友達に、趣味で作っているスノードームをプレゼントすると言っていた。一哉は美姫はともかく彼女に振り回されている漣が不憫だと言うが、既に親子関係が切れてしまった以上気に病んではいけないと杉村は諭した。2人に会い美姫が金を無心することにどん欲なことが分かった。

一哉たちは周囲の協力を得て何かあった場合美姫に対抗する術を整えていた。杉村も協力を得て関係者に話を聞き竜聖の元気な様子をビデオに収め美姫への報告の一部とする。調査報告書を作成している最中、美姫から進捗を訪ねる電話が掛かってきた。杉村が先方の弁護士らと話をしたことを知ると激昂して切ってしまった。報告書は美姫の実家に送ったがそれっきり連絡がない。代わりに三恵から報告書のおかげで父親と二人がかりで美姫を説得することができたというお礼の手紙と調査料の振り込みがあった。

竹中家に食事に招かれた杉村は、有紗の母から近所のスーパーで美姫を見たという話を聞く。美姫は服装も化粧も見違えるほど大人しくなっていたらしい。それは妹の三恵だろうと杉村が訂正すると、有紗たちは漣の言動が酷くてびっくりしたと追加した。美姫(三恵)相手に反抗期なのか、あれ買えこれ買え、けち臭いなどと憎々しそうに言い募っていたらしい。一方の三恵は何を言われても黙って目を逸らすだけだった。その様子に不自然さを感じ取った杉村は、美姫と漣が串本と一緒に暮らしていたというマンションに向かった。荷物を引き上げにきていた串本は、貸した金を返して貰わないといけないのに美姫と連絡が取れないという。仕事を辞めると連絡したきりバイト料を取りに来てもいない。

翌朝、朝食を取りに行きつけの喫茶店へ行った杉村は、知り合い未満の刑事がいつの間にか常連になっていることに驚いたが、人が死んでいる事件が起こっていると告げ警察の介入を求めるとレンタカーを借りて刑事を乗せ、美姫の実家へと向かった。

 

犯人の方に同情する事件でした。事件自体が警察に発覚していないため、刑事の配慮で正しい意味での自首という形になりました。

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改めて杉村三郎シリーズは私立探偵になって以降の方が好きだと思いました。婿養子時代は窮屈そうで読んでいて息が詰まる感じがしたものです。