中山七里『帝都地下迷宮』あらすじとネタバレ感想

中山七里さんの「帝都地下迷宮」のあらすじと感想をまとめました。

廃駅オタクの区役所職員が、違法をおして都内の地下にある廃駅へ行くとそこには100人ほどの住人がいて……というちょっと変わった設定でした。引き込まれる文章に舞台設定、人物設定など破綻なくまとめられていてさすが!と思う反面、ミステリー要素は少なく満足度はそこまで高くありませんでした。

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「帝都地下迷宮」書籍概要

鉄道マニアの公務員、小日向はある日、趣味が高じて、廃駅となっている地下鉄銀座線萬世橋駅へと潜り込む。そこで思いがけず出会ったのは、地下空間で暮らす謎の集団。身柄を拘束された小日向に、彼らは政府の「ある事情」により、地下で生活していると明かす。その地下空間で起こる殺人事件。彼らを互いにマークする捜査一課と公安の対立も絡み、小日向は事件に巻き込まれていく。「BOOK」データベースより

  • 帝都地下迷宮(2020年2月/PHP研究所)
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第一章 汽笛一声万世橋を

26歳区役所職員、生活支援課相談・保護係に勤める小日向巧は、鉄道オタクの中でも”廃駅に惹かれる”という廃駅鉄だったが、周囲からの理解を得にくいことは承知していた。生活保護の申請窓口を担当している小日向の役目は、支出を予算内におさめるため毎日殺到する申請者の書類をいかに却下するかだと上司の山形から口酸っぱく言われているものの、申請者の事情などに感情を動かされ通りやすい書類作りの助言を行うこともあり、山形から睨まれていた。

そんなストレスを抱える日々のガス抜きとして、小日向はかねてより思い描いていた計画を実行に移すことにした。東京の地下に眠っている多くの廃駅を訪れようというものだ。許可が得られるわけがないのでもちろん無断で決行する。家で準備を整えた小日向は秋葉原へと向かい、深夜の人の目が途切れるチャンスを見計らい作業着にきがえるとカラーコーンなどで工事中を装い、グレーチングから地下へ降りることに成功した。無音で光も差さない地下空間。萬世橋駅跡を小日向が堪能していると、誰もいないはずの線路の向こう側に光が現れた。ヘッドライトを消し警戒する小日向の前に現れたのは、10代くらいの女の子だった。

お互いに相手を不審者として対峙しながらも、小日向は自分が区役所職員であると明かす。すると彼女は遠城香澄だと名乗り、この地下空間の住人だという。家出少女かと疑う小日向に対し、香澄は違うと答えると家を案内すると歩き出した。映画館や図書館、食堂など小さな町のような場所でくつろぐ人々を小日向は目の当たりにする。その中の一人、永沢という男と香澄に挟まれる形で小日向は、最年長の老人だという久じいの元へ連れて行かれる。小日向の処遇は久じいの判断で決まるらしい。自分たちは殺人鬼集団ではなく穏便な平和主義者だという久じいは、小日向を無事に帰す代わりに地下の住人になれと条件を出す。とはいえ可能な限り地下で過ごせばいいだけで、自宅にも自由に帰れるし仕事もそのままできる。ただ、共犯になれば自分たちの存在を口外することはないだろうという。小日向は了承し、地下住人達の呼び名「エクスプローラー」の特別市民と認められた。

小日向の他に特別市民なのは、彼らのかかりつけ医である間宮だけだった。彼は地上で診療所を構えながらボランティアで100人ほどいるエクスプローラーの主治医をしていた。彼らは、生活に必要な物などを深夜営業している店に順番に買い出しに行って調達していた。この日の当番である香澄が、地上へと向かう途中で小日向を見つけたらしい。小日向がグレーチングを外して地下にくるという力業を使ったと知った香澄たちは、自分たちの存在がバレると怒ると、次からはきちんと出入口から来るよう告げた。

第二章 汽車は煙を噴き立てて

目が覚めると昨晩の出来事は全て夢だったように思えたが、小日向のスマホには香澄の連絡先が登録されていた。彼女に地下へまた行きたいと連絡すると神田駅に地下都市への入口があることを身を持って知らされる。また彼女との雑談の中で、住民たちは地上に「本宅」を持っていることが分かる。再会した永沢に生活保護の担当なのを見込まれた小日向は、久じいの所へ相談に来ていた70過ぎくらいの女性の相談にのることになった。何度も生活保護の申請をしているにも関わらず全てはねられているので、どうにかならないかという内容だった。書類に目を通した小日向は、女性の届出住所は足立区だが住民票が福島県の敦賀市になっているのに気付く。住めなくなったので越してきたが土地も売れずそのままになっているという。貯金を崩しながら生活しているという女性に対し、この土地や家がある限り生活保護申請は却下されるだろうとアドバイスしたが、到底満足いく内容ではなかったらしく女性ともども感謝はされたが久じいの期待に応えることはできなかった。

住民のほとんどが夜間の仕事をやっているらしく、昼間の地下都市はさながらテント村のような有様だった。その中の一人、酩酊している黒沢輝美という女性に小日向は声を掛けられた。廃駅趣味の鉄オタという小日向の自己申告を嘘だと決めつけてくる輝美に対し、小日向は滔々と廃駅に纏わるうんちくを語って聞かせる。普段周囲には話せない分、思う存分喋れるのは気持ちがいい。もういいと輝美に止められるまで小日向は語り続けた。顔見知りになった香澄や永沢になぜ地下で暮らしているのか疑問をぶつけるものの、うまくはぐらかされた分からず仕舞いだった。

週が明けて月曜日、申請者らと対峙する小日向は、地下で生活に困窮している人の役に立てなかったことを思い出し、上司の山形にきつく言い含められていたのを無視してある申請者の書類作成の手助けを行う。当然山形の逆鱗に触れ衆人環視の中叱責されるものの、それを逆手に取り事なきを得る。その勢いのまま小日向はパソコンでエクスプローラーたちについて調べ始めた。帰宅後地下へと赴いた小日向は改めて久じいに頼み、地下として各種申請の相談窓口になることにした。未だ異物として住人たちに認められているとは言い難い小日向だったが、窓口には予想外に多くの人間が列をなした。相談窓口の休憩中、間宮から声を掛けられた小日向は、エクスプローラーに関する疑問を推理も交えて間宮にぶつける。それは、住人たちは全員敦賀市八ヶ部町出身ではないかというものだった。

5年前、八ヶ部町では原発事故が起き事故現場にいた1人の作業員が亡くなった。また退避の警報が遅れた為住人の何十人かが被ばくしている。そして他にも構内で働いていた何百人もの作業員が被ばくし何人かが搬送先の病院で死亡したものの最初の1名以外名前は一切公表されなかった。そしてマスコミが住人らに取材を試みようとしたが、全員が転出していたという。その被ばくし行方をくらませた住人たちが、エクスプローラーの正体ではないかと小日向は考えた。間宮は小日向の疑問は正しいといい、彼らは被ばくにより色素性乾皮症になり(紫外線を浴びると皮膚がんを発症する)太陽の下に出られなくなったと説明した。明らかに原発事故が原因と思われるが、因果関係を立証できないとして国は認めていない。エクスプローラー達が地下で暮らしているのは全くの無許可・無断であるが、国に協力者がいるという。間宮自身、被ばくはしていないものの八ヶ部町で、主治医であると同時にエクスプローラーと協力者との窓口役も担っていた。

第三章 車輪の響き 笛の声

地下で相談窓口を行いながら過ごす事にも慣れてきた頃だった。日付が変わる頃、事件が起きた。輝美がいないと永沢がやってきた。聞きたいことがあると久じいが招集をかけたが見当たらないらしい。外に酒を買いにでたのでは?という小日向に対し、永沢は退出記録はきっちりしているから外に出てはいないと返す。小日向も捜索に加わることにし永沢とともに歩いていると、間宮の往診エリアにきた。植皮手術痕の残る香澄を気遣ってか、彼女の診察中だけ四方をカーテンで仕切っている。だが今香澄は地上に買い出し中のはずだった。そろそろとカーテンを開けて中を覗き込んだ小日向と永沢は、香澄の診察後に居眠りをしてしまったという間宮を見つけた。寝ていたので誰かが通り過ぎたとしても分からないという。間宮も加わり3人で線路沿いに捜索を始めて間もなく、輝美の遺体を見つけたというエクスプローラー達と出くわした。現場へ駆けつけた間宮によると、こめかみを殴られたのが死因だろうという。明らかに何者かによって殺害されたものだった。だが警察の介入は好ましくないという久じい達により、小日向は輝美の遺体を地上へ移動するための知恵を出すどころか、成り行きで永沢とともに運び人を請け負うことになった。

遺体はなるべく早く警察に発見された方がいいと輝美の所持品を確認した間宮は、輝美の正体が警視庁公安課の刑事だったことを知る。輝美は八ヶ部町出身と偽って地下都市に潜入し、酔っ払いを装いエクスプローラー達から引き出した情報を公安に流していた。その輝美を殺したのはエクスプローラーの誰かなのは確実だった。永沢とともに何とか地上へと遺体を運び終えた小日向は、ろくに眠れぬまま朝を迎え出勤のため家を出た。そして輝美が気になって遺体を運んだ現場へと寄り道してしまい、遺体発見の野次馬で賑わうなか警察官に声を掛けられたうえ返答の怪しさで不審人物として目を付けられた。

がむしゃらに仕事をこなした昼休憩、ネットニュースで見つけた女性の遺体発見の一報では、きちんと警察手帳も添えたにもかかわらず身元不明となっていた。その理由について考え込んでいる小日向に、先輩の瀬尾が心配して声を掛けてきた。午後の仕事がはじまってまもなく警察が小日向を訪ねてきた。応接室で小日向を待ち構えていたのは公安課の刑事2人だった。輝美からエクスプローラーを含め小日向自身の情報も流れていると悟った小日向は、輝美の死については知らぬ存ぜぬを押し通す。刑事らは小日向に身の潔白を証明するよう求め、テロ集団と目しているエクスプローラー達の情報提供、つまり小日向にスパイになれと要求した。捜査協力を約束した小日向は、すぐに香澄らに連絡をとると地下都市から逃げるよう伝えるものの逃げる場所なんてないと返される。自分はただの役立たずの廃駅鉄だと自嘲する小日向だったが、都下に眠るさまざまな廃駅について知り尽くしている自分なら、彼らの逃亡を手助けできることに気が付いた。

第四章 汽車をたよりに思い立つ

公安に遅れて捜査一課の刑事も小日向の聴取に訪れた。公安部は思想集団の情報収集が目的だが刑事部は殺人犯の逮捕が目的であり、相互で情報の共有が出来ているとは言い難いと説明し小日向と輝美の関係を聞き出そうとしたが、何とか知らぬ存ぜぬで押し通した。1日に二度も刑事が訪れた小日向は職場で浮き白い目で見られる。それを心配し何かあったのならSOSを出せと言うのは瀬尾だけだった。

公安がエクスプローラー達をテロ集団のように考えていることを伝えたが、久じいが移動(逃亡)に難色を示しているらしい。また他の連中もさほど危機感はないと香澄から聞いた小日向は、久じいを説得するため先に永沢を味方に引き入れることにし、2人を小日向の行きつけの鉄道マニア専用の喫茶店「中野レールウェイ」に呼び出した。顔見知りの常連しか来ないこの店なら小日向に尾行がついていても店内に入って来られないと踏んでのことだ。喫茶店で待ち合わせた小日向は、永沢と香澄に己の立てた廃駅を利用した逃亡計画を話して聞かせる。声を潜めたつもりだったが小日向の声は思いのほか大きかったらしく、喫茶店のマスターや常連客には丸聞こえだったらしい。だが彼らは全員秘密の保持を約束してくれた。

公安が輝美の死を口実にエクスプローラー達を一網打尽にしようとしていることを何とか久じいに理解してもらい移動の話がまとまった。久じいや間宮の話を合わせて考えると、エクスプローラー達を地下に移住させた文科省の役人が、同時に彼らを警戒して輝美に素性を偽わせて潜入させていたことが分かった。廃駅を使っての移動計画は、100人近くいるエクスプローラーをいくつかのグループに分けて少しずつ移すというものだった。小日向のグループ、香澄のグループ、間宮のグループまではうまく中継駅までたどり着けたが、最後の永沢のグループは移動しようとした矢先に公安に挟み撃ちにされ捕まった。

第五章 千里の林 万里の野

国が原発事故の被害者の存在を公に認めていないため、捕まったエクスプローラー達は秘密裡に医療機関に入院することになるが、快適なベッド生活は送れても法的にも死刑囚並に自由はなくなるだろうと間宮は言う。残ったメンバーだけで次の移動をすることになったが、逃亡をやめ警察の管理下に置かれることを選んだ者達もおり、メンバーは50人を切った。残った者を2グループに分け、小日向と香澄、久じいと間宮の先導で次の目的地へ移ることになった。

小日向と香澄のグループが追っ手を撒きながらなんとか目的地に着いた頃、瀬尾から電話が入った。相変わらず心配して手を差し伸べようとする瀬尾に、小日向は今までのことを全て打ち明けた。突拍子もない話だが瀬尾は小日向の話を信じてくれた。自分は何をすればいいかと問う瀬尾に対し、小日向は愚痴をこぼしたかっただけだと答え気にしないでほしいと伝え電話を切った。すぐに間宮から電話があり、公安の急襲でほとんどが捕まったことを知らされる。間宮と久じいを入れた数人だけが逃れられたらしい。間宮にう回路を伝え合流したものの、思った以上に有能な警察組織に計画の変更を余儀なくされる。自分以上の廃駅の知識を求めて「中野レールウェイ」に電話した小日向は、都内の各地下鉄の出入口に警察官がうようよしていることを知らされる。地下に潜んでいる小日向達は袋のねずみだった。

妙案が思いつかないまま時間だけがすぎ、とうとう小日向達は追い詰められることになる。近づいてきたライトの集団のトップにいたのは小日向に事情聴取を行った公安の刑事達だった。全員が病気を抱えており高齢者の多いエクスプローラー達をあくまでもテロ集団として検挙しようとする公安に対し、小日向が罪状が増えても大暴れして一矢報いたいと焦れた頃、背後から別の集団が現れた。捜査一課の刑事達だった。刑事らは公安の理屈よりも殺人犯逮捕という目的の自分達の方が筋が通っていると言うと、ある人物の前に立ち黒沢輝美殺害容疑で逮捕した。犯人逮捕と、瀬尾がSNSで流したエクスプローラー達にまつわる国の陰謀説のおかげで公安は引き、事件は終息に向かった。

輝美の死体遺棄について徹底的に事情聴取を受けていた小日向は、瀬尾たちが募ってくれた保釈金のおかげでひとまず自由の身となると香澄の入院している病院へと向かった。

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香澄との会話で輝美の死の真相が明らかになります。このあたりがどんでん返しと言えるのでしょうが、意表を突く感じではなくあっさりとしたものでした。

黒沢輝美を殺害した犯人は誰か、ではなく、いかに廃駅を利用して追っ手から逃れるかという方に重点があったのでミステリー要素はおまけ扱いという印象です。

地下に人が隠れ住んでいる理由は重いですが、子どもの頃の隠れ家とか秘密基地を彷彿させるワクワク感のある一冊でもありました。