中山七里 ヒポクラテスシリーズ続編「ヒポクラテスの憂鬱」あらすじとネタバレ感想まとめ

中山七里さんの法医学ミステリー第2弾です。今回もいくつかの短編でそれぞれの事件を解決しつつ、終盤で一つの大きな事件を解決するという構成になっていて、一話一話が短いながらも読みごたえのある1冊でした。

あらすじとちょっとした感想をまとめています。直接犯人の名前などは書いてはいませんが、あらすじで予想がつくかもしれませんので、ネタバレにはご注意ください。

スポンサーリンク

「ヒポクラテスの憂鬱」書籍概要

「ヒポクラテス」シリーズの2冊目で、「堕ちる」「熱中する」「焼ける」「停まる」「吊るす」「暴く」の6つの短編を通して、「コレクター(修正者)」を名乗る人物による犯行声明ともとれる書き込みの謎を追っていく。

  • ヒポクラテスの憂鬱(2016年9月 祥伝社)

4月から晴れて大学職員として法医学教室の助教になった真琴。傍若無人な教室の主である光崎教授、死体好きを公言する准教授のキャシーのいる浦和医大に、県警の刑事・古手川からコレクターを名乗る人物によるネットの書きこみが持ち込まれる。コレクターは直接手を下すわけではなく、事故死・自然死で処理される案件について、作為を指摘するのだ。この書き込みによって、埼玉県警はすべての事故死・自然死に不審なものがないかどうか疑わなくてはならなくなった。

堕ちる

16歳の女性アイドルが、コンサートの最中に転落死した。その様子はライブDVD作成のために複数のカメラで撮影されており、不自然な個所は無いように思われた。しかし事故死と断定した検視官の鷲見とキャシーの2人から同様の不審点を指摘され、またコレクターの書き込みもあったことから、遺体は浦和医大で司法解剖されることになった。解剖の結果、被害者は妊娠2か月目であり、本人も気づきにくい視覚障害を発症していたことが判明した。

 

事故死が一転、殺人になってしまいました。犯人としてはちょっとしたアクシデントのつもりが、被害者が発症していた視覚障害のため大変な事件へと発展してしまいました。犯人の動機が自己中心的で気持ち悪いです。

熱中する(のぼせる)

コレクターの書き込みがあったと古手川が法医学教室へやってきた。熱中症にからむ死亡事故5件のうち、埼玉県内で起きたものが2件、そのうちの気になる1件がコレクターの指摘する事件ではないかという。被害者はアパートのベランダで遊んでいた三歳女児。ぐったりしていたところを発見した両親が救急車を呼んだが、運ばれる途中で死亡が確認されたという。古手川の追及の結果、内縁の夫から、泣きわめく被害者を炎天下の車内に残したまま2時間余りパチンコに興じていたという自供を引き出した。単なる事故死ではないことが分かり事件が解決したかに見えたが、光崎の要求により司法解剖されることになった。

 

解剖の結果、被害者の空っぽの胃の中から紙片が出てきました。それによって判明した新たな事実が内縁の夫の供述をさらにひっくり返すことになりました。真相はリアルな世界でも普通に起こりそうなことで気持ちがどんよりとしてきます。正直、小さな子どもが被害に遭う事件は、現実社会でも小説の中でもあまり目にしたくないものです。

焼ける

コレクターの書き込みにより解剖件数が増え疲労が増していく法医学教室に、鷲見検視官がやってきた。放火殺人の疑いのある事件の解剖を要請したいが、近頃の解剖件数の多さが気になって様子を見にきたのだという。事件の概要は、キリスト系新興宗教「福音の世紀」で火災が起き、焼け跡からは教祖である黒野の遺体が発見されたというもの。光崎の答えは解剖。教祖の体にメスを入れることを阻みたい教団信者に警察署を囲まれ、思うように動きを取れないなか何とか浦和医大に到着すると、信者の一人が現れて犯行を自供し、自分が証言するので解剖は必要ないと迫る。だが光崎の解剖により、意外な真相が判明した。

 

解剖によって偽装が暴かれました。すべての新興宗教が悪いわけではないと思いますが、カルト的に狂信するタイプは、どんな行動をとるか分からない時点ですごく怖いです。教祖が亡くなっても目が覚めないものなのですね。今回の話は、直接コレクターの書き込みは関わってきていなかったようです。

停まる

余りの忙しさに、コレクターは法医学教室のシステムを改善したい関係者なのではないか、などという冗談交じりの憶測がキャシーと真琴の間で飛び交う中、古手川がやってきた。またもやコレクターの書き込みがあったという。被害者は道の真ん中に倒れていた70歳になる老人。認知症を患った妻が浪費家になり、たびたび彼女からDVを受けていたらしい。また被害者の保険金の額も3倍に掛け替えられているのも怪しいという。光崎の指示で遺体の検分へ行った真琴は、その場で解剖を決める。解剖が始まるが不審な点は特に見つからず、真琴が責任を感じ始めた頃、被害者の体内から動作異常のペースメーカーが出てきた。

 

被害者の年齢や妻の認知症など、老々介護という言葉が重くのしかかってくるような事件でした。この「ヒポクラテス」シリーズでは名前ばかりの登場だった古手川の上司・渡瀬がこの回から登場してきました。こちらはこちらで傍若無人で、渡瀬と光崎に囲まれている古手川刑事が少し気の毒にもなってきますが、人として刑事としての成長は凄く速そうです。

吊るす

銀行員だった姉の若宮涼音が首を吊って自殺した。横領が発覚しそうになったことが原因だと携帯電話に遺書も残っていたが、三か月経った今も納得していない妹の茜は、メールで「コレクター」と連絡を取っていた。その頃、法医学教室を訪れた古手川は、コレクターの書き込みに気づくのが遅れたため火葬された自殺案件が2件あることを話す。2件とも女性銀行員による横領が原因の自殺で、横領されたお金はどちらも見つかっていなかった。また2人ともが亡くなる直前、ある証券会社に勤務する男性とメールのやり取りをしていたことが分かった。証券マンが怪しい、自殺は偽装ではないかと睨む古手川だったが、肝心の遺体もなく証拠も見つからない。手詰まりになった時、法医学教室にかかってきた電話から、真琴がある案を思いつく。

 

光崎に影響されたのか、真琴のとった行動は思い切ったものでした。倫理的にどうかと思いますが、これによって事件の解明に大きく近づくことになります。また古手川も「コレクター」の正体に気づき本人の自白を引き出すことに成功しました。これで一件落着となったようですが……。

これしか方法がなかったとはいえ、「相棒の杉下右京」の手にかかれば逃れられないアウトローなやり方だと思います。全体的にすっきりしない話でした。

暴く

「コレクター」は2件の犯行を自供したが、それ以外はかたくなに否認していた。古手川はコレクターの供述は正しいと信じ、模倣犯の存在を疑っていた。遺体の詳しい書き込みができるという条件を考えれば、模倣犯は警察内部にいる可能性も捨てきれない。そんな時、古手川の同期の女性警察官が寮の屋上から投身自殺した。彼女の人となりを知っている古手川は自殺するような人間ではないと主張したが、彼女が亡くなる直前に堕胎手術を受けていたことが分かった。光崎と渡瀬の多少強引な手段により彼女の解剖を行うことになった。結果、彼女は砒素中毒だった。数か月に渡って砒素を盛られていたらしく、自殺しなくてもいずれ中毒死していただろうと思われた。

 

解剖結果や警察の捜査によって簡単に犯人は割り出せました。彼女の不倫相手でした。慎重で巧妙な知能犯のようでいて決定的な証拠を残すという、案外間抜けな人でした。また陰で動いていた渡瀬により「コレクター」の模倣犯も判明。今度こそ一件落着となりました。犯行の動機があまりにも個人的、自己中心すぎて「そんなことで…」とあきれた気分になったお話でした。

「ヒポクラテス」シリーズはずっと真琴目線で話が進んでいたのですが、最終話は古手川視点となりました。警察内部の事件だったのでそれが自然なのでしょうが、唐突な視点交代で感覚がついていかず、しばらくは戸惑いながら読みました。

 

□□

本人たちは強く否定しているのですが、真琴と古手川刑事、お互いに存在を意識しているようです。このシリーズは面白くて好きなので、続き(ヒポクラテスの試練)も早く1冊にまとまらないかなと待ち遠しいです。

続編でこの二人の仲が進展していく様子も読んでみたいと思っています。

今回は否定的な感想が多いですが、あまりにも幼稚な犯行ばかりだったので仕方ない面もあると思います。中山七里さんの文章に引き込まれてヒポクラテスシリーズの世界に感情まで浸ってしまったのが原因です。