中山七里「犬養隼人」シリーズ第4弾『ドクター・デスの遺産』あらすじとネタバレ感想

中山七里さんの「ドクター・デスの遺産」のあらすじと感想をまとめました。

犬養隼人シリーズは医療系ミステリーで、今回は安楽死を扱った小説となっています。日本の法律は安楽死を認めていませんし延命治療も進歩している一方、穏やかに最期の時を待つホスピスも存在します。

ミステリー小説は基本的にエンターテイメントという位置づけで読んでいるのでどんな凄惨な殺害方法が使われていても平気な方ですが、法律をとるか人道をとるか難しい問題だなと考えさせられる話でした。

「ドクター・デスの遺産」書籍概要

警視庁に入った1人の少年からの通報。突然自宅にやって来た見知らぬ医師に父親が注射を打たれ、直後に息を引き取ったという。捜査一課の犬養刑事は少年の母親が「ドクター・デス」を名乗る人物が開設するサイトにアクセスしていたことを突き止める。安らかで苦痛のない死を20万円で提供するという医師は、一体何者なのか。難航する捜査を嘲笑うかのように、日本各地で類似の事件が次々と発生する…。人気シリーズ第4弾!「BOOK」データベースより

  • ドクター・デスの遺産(2017年5月/角川書店)
  • ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人(2019年2月/角川文庫)

あらすじ

馬籠大地という少年から110番通報があった。父親のもとに死神が現れ、その後まもなく父親が死んだという内容だった。死神は医者の恰好をしていたらしい。父親はがんによる自宅療養中に亡くなったもので不審なところはなかったが、高千穂明日香と犬養は、大地に話を聞きに行くことになった。だがそこでとんでもない話が飛び出した。大地によると自宅に来た医者は2人おり、2人目はかかりつけの主治医だった。母親からは1人目の医者の話は聞かなかった。死因に不審ありとみた犬養は無理やり司法解剖にもちこみ、血中のカリウム濃度が異常に高いという結果を知る。過去に起きた医者による安楽死事件、その死因も急性高カリウム血症による心不全だった。

犬養に問い詰められた母親は、ドクター・デスに20万円で安楽死を依頼したことを認めた。ドクター・デスの異名をとるジャック・ケヴォーキアンの意志を継いだという何者かが、ウェブサイトで安楽死を請け負っていた。だが大地も母親もドクター・デスの顔を覚えていなかった。小柄で見事な禿頭の男だったが、あまりにも特徴のない顔だった為らしい。ドクター・デスは看護師の女性と2人で訪れ、20分ほどで処置を施すと現金20万円を受け取り去っていった。

犬養たちはドクター・デスのサイトにコメントした人間たちの中でも、家族に安楽死を望むような人間がいた者たちをピックアップし話を聞いて回った。ドクター・デスに依頼をしたもの、しなかったものと様々だったが、一様にドクター・デスに感謝しており、法律と家族感情に挟まれた犬養たちは自らの倫理観を揺さぶられながらの捜査となった。ドクター・デスの顔を覚えているものはおらず、亡くなった家族もすでに埋葬されているため、捜査は早々に行き詰った。

腎臓病で長期入院中の娘をおとりにドクター・デスを誘い出そうと画策した犬養だったが、裏をかかれたうえ、偽装していた娘の正体まで暴かれてカリウム入りの点滴溶液を送り付けられるという大敗を喫した。

ドクター・デスはただの快楽殺人者だと断罪する上司の麻生、安楽死の是非に疑問を抱き始める相方の明日香、ドクター・デスに依頼をした遺族たちの思いに共感する犬養と三者三様だが、刑事である以上法を犯すドクター・デスを捕まえないわけにはいかない。

経済界の大物が亡くなった。病苦に苦しんだ末の死と思われたが、犬養たちにより安楽死を望んだ家族の意をくんだドクター・デスの仕業と判明した。ドクター・デスに依頼をした家族は、やはり特徴のないドクター・デスの顔を覚えていなかったが、看護師の女性の顔は覚えていた。作られた似顔絵から、看護師経験のある雛森めぐみという女性が浮かんだ。

めぐみは医者がドクター・デスとは知らずに、月に何度か訪問の手伝いをするアルバイトとして雇われていただけだと話す。患者らに打っていた注射は、痛みを和らげるためのものだと思っていた。ドクター・デスの名前は寺町亘輝というらしい。

鑑識の地道な捜査によりドクター・デスの居所と思われる場所が判明した。河川敷だった。ホームレスの誰かがドクター・デスとして安楽死を請け負っていると考えた捜査本部は、関係者らの証言に近い人物を設置したビデオの中から見つけ出した。ドクター・デスの顔を見たことのある人間たちに確認に回ると、めぐみを含めほぼ全員がドクター・デスに間違いないと証言した。

寺町亘輝は意外なほどあっさりと捕まった。

だが過去の数々の殺人を問い詰められた寺町は、思いもかけないことを言い出す。自分はアルバイトで雇われただけだったと。

 

ドクター・デスは国境なき医師団のメンバーとして中東などのまんぞくに薬もない過酷な医療現場に身を投じ、安楽死という現実を目の当たりにし次第にそれを受け入れていくという過去を持っていました。そしてある事件をきっかけに、自らがドクター・デスになることを決意します。

法律という観点からは犯罪者、死を願うほどの痛みや絶望に苦しむ患者や、それを見守ることしかできない家族たちからすれば恩人、ドクター・デスは犯罪と知りつつも苦しみのない死を望んでいる人間に与えることを選んだ人間でした。

 

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人によって安楽死に対する考え方は違うと思いますが、選べる立場になったらおそらく私は安楽死を選択すると思います。

そう思うくらい身につまされ真に迫った一冊でした。