中山七里「刑事犬養隼人シリーズ」第2弾『七色の毒』あらすじとネタバレ感想まとめ

「七色の毒」のあらすじと感想をまとめました。この本は1作品が50ページ程と適度に長くて短いのですぐに読めてしまいます。短編それぞれにどんでん返しも仕込まれていて、こうくるだろうなと予想が付いたものもあれば、まるで分からなくて最後にあっと思わされるものがあったりと、まさに色とりどりの毒が含まれた作品でした。

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「七色の毒」書籍概要

女には騙されるけれど男の嘘は見抜いてしまうという犬養隼人刑事のシリーズ2冊目は「赤い水」「黒いハト」「白い原稿」「青い魚」「緑園の主」「黄色いリボン」の6作品に書き下ろしの「紫の献花」を加えた7つの短編で構成されています。

  • 七色の毒(2013年7月/角川書店)
  • 七色の毒 刑事犬養隼人(2015年1月/角川文庫)

赤い水

東京から可児市へと向かう高速バスが事故を起こした。高速道路の防護柵に突っ込み怪我人数名、死者が1名出るという事故で、居眠りが原因だと運転手自らが事故直後にカメラに向かって謝罪していた。運転手の勤務態度はまじめで健康管理も怠っておらず事故当日も仮眠を3回取っていたという。またバス会社が無理な勤務を強いていたこともなく、むしろ法令違反もなく潤滑な勤務ローテーションを組んでいた。本人も認めているとおり運転手の居眠りによる過失致死傷で処理されようとした矢先、テレビで運転手の謝罪を見ていた犬養が異議を唱える。

 

運転手と被害者の間には因果関係があったことを突き止め、事故は計画殺人であったことを犬養が暴くのですが、完全犯罪ですね、これ。犬養によって真相を見抜かれたのですが、司法の手を逃れるという意味では完全犯罪達成です。赤い水は、被害者の血液の他にもう一つ意味がありました。7つの短編中で一番印象深く残る色でした。

黒いハト

親友が母親に遺言と思しき言葉を残して屋上から飛び降りて一週間。学校側はいじめの存在を頑として認めず対応を誤った結果、校長、教育委員会を巻き込んで全国にその醜態を晒していた。都議会議員の親を持ついじめの張本人は今でもふてぶてしく学校に通い、その母親も息子に対する名誉棄損だと主張するなか、亡くなった親友の母親が警察に被害届を提出し、雅也の通う中学校に刑事がやってきた。雅也に相対する刑事の名前は犬養と言った。

 

学校に居ついて白いハトの群れの中に黒いハトが混じっている光景を、事件とリンクさせて象徴的に見せているだけかと思ったら、そのハト自体が事件を解く鍵になっていました。いじめの加害者は未成年者なので逮捕ではなく補導という形をとっていますが、犬養が少年院出所者の再犯率は4割という言葉が最後に重みをもってのしかかってきます。

白い原稿

元ロック歌手が執筆した本がビブレ社の新人大賞を受賞して三千万円を獲得し話題になったが、内容も文章も稚拙であるため出来レースではないかとネットなどで叩かれるという騒動が起きたなか、話題の本人が公園で遺体で発見されるという事件が起こった。胸にナイフが突き刺さっていたという。捜査をすすめるうち、ビブレ大賞の最終選考に残っていたという嵐馬シュウトが自首してきた。だが夏にも関わらず、被害者の死因は凍死だったことが判明する。なぜ嵐馬は自首してきたのか。

 

この新人大賞の騒動、明らかにモデルがいますよね。露骨だなと思いつつ短編内の事件は、被害者は泥酔した状態での凍死、死後にナイフで刺された、刺した本人は自首というものでした。一連の事件にまつわる関係者たちの心理が事件の肝でした。犬養の「被害者だと思っている全員が加害者」という言葉が印象に残ります。

青い魚

釣具店を経営している冴えない中年男・亮に奇跡が訪れた。若くて明るい恵美との結婚が決まったのだ。何でも屋をしているという恵美の兄もやってきての3人での暮らしは思っていた以上に楽しいもので、家を飛び出した弟に注意を促されても亮には聞き入れる理由はなかった。ある日亮は2人をハギ釣りに誘った。この時期のハギはフグよりもおいしいと評判で、船上で釣りたてを捌いて食べてもらうという趣向だった。和気あいあいと釣りを楽しみハギを振るまった後、亮は頭を殴られ海に放り込まれてしまう。海水を飲み沈んでいく中、亮は仲の良い兄弟だと思っていた恵美と兄が夫婦だったと教えられる。

 

事故に見せかけた保険金殺人です。ターゲットに近づいて懐に入り込み、高額の保険金をかけたところで事故に見せかけて始末するというパターンで、以前読んだ西村京太郎さんの短編(十津川警部シリーズ)を彷彿とさせましたが、最後にどんでん返しがきました。どっちもどっちという話でした。

緑園の主

サッカー強豪校のエース・小栗拓真が何者かに殺された。殺鼠剤入りのおはぎを食べたのが原因だという。同時期、ホームレスが家に火を付けられ重傷を負うという事件が起きた。事件前にもホームレスは何度か暴行を受けていて、それらの犯人は拓真を中心としたサッカー部の連中だという。表向き優等生の拓真には裏の顔があったのだ。元庭師のホームレスの家には見事な庭が作られており、ネズミ除けの毒入りおはぎが置かれていた。ホームレスに疑いが向く中、犬養は拓真が死ぬ直前まで練習していたという河川敷のグラウンドそばの住宅を訪問した。そこには認知症を患う妻を介護する夫と、夫妻が丹精込めて育てている菊があった。

 

ホームレス狩り、老々介護をからめた事件でした。一見優等生の少年を襲った悲劇ですが、あまり被害者に同情できない事件でした。むしろ加害者側に共感してしまいました。老々介護という現実は厳しいです。

黄色いリボン

小学生の桑島翔は、学校から帰ると黄色いリボンで髪をまとめた桑島ミチルという女の子に変身する。両親からはミチルの姿で団地内のみ出歩くことを許可されているため、遠くまで行けないけれど翔はこの秘密の生活に満足していた。ある日、ミチル宛に学校教材のダイレクトメールが届いた。ミチルの存在は誰にも知られていないはずなのに……当惑する翔(ミチル)が公園のブランコに座っていると、サングラスとマスクをした怪しそうな男が現れ「”ミチル”と話がしたい」と追いかけてきた。

 

理解のある両親がいる女装癖のある男の子の他愛ない生活、というイメージで読んでいたので、真相を知ったらちょっとしたホラーです。本人が納得して楽しんでいるのならいいですが、翔君自身も被害者ですね。

紫の献花

一人暮らしをしている高瀬昭文が左脇腹の後ろを包丁で刺された状態で亡くなっていた。事件を調べていた榊間は、高瀬の保険金の受取人名を調べて驚く。高速バス事故(赤い水)の被害者の一人で、事故によってオリンピックへの道を閉ざされた樫山有希の名前が書いてあったためだ。高瀬は事故を起こしたバス会社で当時運行管理を担当しており、亡くなる前、事故が原因で廃業した元バス会社社長・菅谷と連絡を取っていたことが分かる。捜査をすすめる榊間のもとに捜査一課の犬養という男がやってきた。

 

「赤い水」の続編みたいな話です。事件自体は単独で起こっているのですが、登場人物などや背景が重複することから「赤い水」を先に読んだ方が理解が深まります。

紫というのは高瀬の家の仏壇の備えられていたレンゲ草を指します。レンゲ草が事件解決の鍵を握るとともに、高瀬の秘められた思いを明らかにするという話でした。

 

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赤から始まって紫で綺麗にオチがついた一冊でした。少年事件が2作品入っているのですが、いじめ問題というのは、現実社会でも小説の中でも内容が具体的になればなるほど嫌な気分にさせられます。