中山七里『人面瘡探偵』あらすじとネタバレ感想

中山七里さんの「人面瘡探偵」のあらすじと感想をまとめました。

肩にできた人面瘡のジンさんが探偵役を務めるという一風変わった設定でした。読みやすいけれど入りにくい話という印象でした。ワトソン役を務めるわけでもなく、ただただ事件に流されていく主人公のヒョーロクが私に合わなかっただけかもしれません。

ジンさんは毒舌で良いキャラでしたが、最後に驚きの正体が明かされました。

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「人面瘡探偵」書籍概要

相続鑑定士の三津木六兵の右肩には、人面瘡が寄生している。六兵は頭脳明晰な彼を“ジンさん”と名付け、何でも相談して生きてきた。信州随一の山林王である本城家の当主が亡くなり、六兵は遺産鑑定のため現地に派遣される。二束三文だと思われていた山林に価値があると判明した途端、色めき立つ一族。まもなく長男が蔵で、次男が水車小屋で、と相続人が次々に不審死を遂げていく。これは遺産の総取りを目論む者の犯行なのか?ジンさんの指示を受けながら事件を追う六兵がたどり着いたのは、本城家の忌まわしい歴史と因習深い土地の秘密だった。限界集落を舞台に人間の欲と家族の闇をあぶり出す圧巻のミステリー。「BOOK」データベースより

  • 人面瘡探偵(2019年11月/小学館)

1 むかしむかし

かつては信州きっての山林王として莫大な資産を築いたものの昨今の木材不況によって負債の方が多くなってしまった本城グループ企業の総帥・本城蔵之助が遺言を残さず急死したため、遺産分割協議のための資産の鑑定に相続鑑定士の三津木六兵が呼ばれた。本城家には現在6人の家族が暮らしている。

顧問弁護士の柊によって引き合わせられた長男の武一郎と妻の妃美子は跡取りという自負のためか何事においても傲慢な振る舞いが目立った。次男の孝次は享楽的で、経営に興味はないが金だけは欲しい、三男の悦三は兄弟の誰よりも会社に対して危機感を抱いており経営の勉強を始めているため自分をグループの後継者にしてほしいと望んでいた。また離れには離婚して戻ってきた長女の沙夜子が一人息子の崇裕と暮らしていた。離婚の理由は崇裕が知的障碍者だからだというが、精神的な障害を持つ子どもは家に富をもたらす「福子」と呼ばれる風習があるため、祖父の蔵之助は沙夜子と崇裕を喜んで迎え入れたという。それ以外では住み込みの家政婦の鈴原久瑠美、料理人の沢崎の2人だけだった。

幼い頃についた肩の傷がしゃべる人面瘡となって以降、その人面瘡をジンさんと名付け共生してきた三津木は口悪くヒョーロクなどと呼ばれ日々罵られつつも、博識のジンさんの言うことはたいていが正しいため逆らわず生きてきた。本城家の一室を宿にして翌日から本城家の山に入り鑑定を進めてきたヒョーロクは、ジンさんに言われるがまま地層の土を採取し土壌分析を依頼する。本城家の持ち物のほとんどが二束三文にしかならない中、鑑定に出した土から非常に希少価値の高いモリブデンが含まれていることが分かる。国内ではほぼ採掘が見込めない鉱物のため、山を売り払うより鉱山として稼働させた方が良いとヒョーロクが説明した途端、兄弟の目の色が変わった。経営に興味のなかった孝次も後継者争いに参加する勢いで、弁護士からは新たな火種が生まれたと文句を言われるほどだった。

その夜、本城家の蔵が出火した。焼け跡からは武一郎と妃美子の焼死体が見つかった。

2 最初のタヌキは焼け死んで

相続人が減れば他の相続人たちに分配される遺産が増える。モリブデンを見つけてしまった事を柊だけでなく刑事たちにまで理不尽に非難されたヒョーロクは、ジンさんのアドバイスに従い相続鑑定人である自分しか知りえない情報を提供する代わりに、公開できる範囲の捜査情報を教えてもらうという約束を結んだ。

食事を運んでくれる久瑠美によると、火事の夜はモリブデンの話で盛り上がった兄弟たちは宴席で痛飲して部屋に戻っていき、久瑠美が最後の火の始末や戸締りをした。火事の発見と通報は飲んでいない料理人の沢崎だった。

鑑定の仕事のため山へと入り迷ったヒョーロクは、地元の住民から潰れた犬小屋のような跡がかつて祠だったこと、武一郎がこんなものを作るなと踏みつぶした事を聞く。武一郎の評判は非常に悪く、彼の死を悲しむ者は多くないらしい。女癖も悪く妾の妃美子を家に引っ張り込むと2人がかりで嫌がらせをして正妻を追い出していた。武一郎に辛酸を舐めさせられた者も多くヒョーロクが来た途端武一郎が死んだため、町の住人たちはヒョーロクを「福の神」だと噂しているらしい。

ヒョーロクと秘密の協定を結んだ刑事から、武一郎と妃美子が首を絞められて殺害されたあと蔵に運ばれポリタンクの灯油を撒いて火を付けられたことを知る。蔵には価値のある物はなく普段から施錠されていなかった。

柊によると遺産相続と会社の代表権は別物で、ワンマンだった蔵之助の後続争いにすでに社内が孝次派と悦三派に別れ惨憺たる有様になっているらしい。あけすけな悪口が聞こえてくる葬儀が終わり一息ついたヒョーロクは、久瑠美から武一郎の前妻が子どもが出来なかったのを理由に追い出されたことを聞く。この辺りでは今も昔ながらの家長制度が根強く残っている。ヒョーロクはジンさんに罵られつつ、武一郎が壊したという祠は子授け祈願のものだったと教えられた。

翌日、屋敷から離れた水車小屋で孝次の遺体が見つかった。

3 二番目のタヌキは首を吊り

発見者は水車小屋の管理人。回っているはずの水車が止まっているのを不審に思い、小屋の中で孝次の絞殺体を見つけた。犯人は梁に渡らせたロープを、拘束し猿轡をかませた孝次の首に巻き、水車の力でゆっくりと吊り上げたと考えられる。これ以上巻き上げられないところまで吊り上がり水車が止まった。細工さえすれば誰でも犯行は可能に思えた。ジンさんは、殺害する前に見つかり救出されるリスクがありながらも、なぜ今回の殺害方法をとったのかと疑問を口にした。

事務所の社長に連絡をとったヒョーロクは、モリブデンの調査のためのボーリングに掛かる費用負担について、相続人たち全員から承諾書を取るよう言われる。残る相続人・悦三と沙夜子の所へ行くつもりだったが、艶福家の蔵之助に非嫡出子がいないか調べるよう言われ役場へと向かうが詳しくことは分からず、神社を訪ね人別帳を見せて貰うことになった。本城家は3代ごとに短命の子どもが生まれていることが分かった。つまり崇裕のような福子が一定周期で誕生していたと考えられる。そのことについてジンさんは、近親相姦を繰り返して意図的に障害児を生み出していたのではないかと言った。崇裕の父親について尋ねるようジンさんに突かれたヒョーロクは、悦三から父親の蔵之助が福子を誕生させるのは自分の義務だと公言してはばからなかったことを聞く。悦三の口添えで疑問を直接沙夜子にぶつけたヒョーロク達は、崇裕が蔵之助の子どもであること、自分に似ていないと崇裕を疑った元夫の親子鑑定によって離婚になったことを告白された。

間が悪く久瑠美に立ち聞きされていたものの、久瑠美からは料理人の沢崎が沙夜子に思いを寄せているらしいことを聞き出した。蔵之助の急死についても疑ったヒョーロクだったが、柊により糖尿病だったと否定される。

刑事によると孝次の事件はあまりにも手掛かりが少ないという。だが蔵之助の背徳行為を聞いた刑事は容疑者は絞られていると強気だった。その2日後、更に容疑者が絞られることになった。

4 三番目のタヌキは流されて

蔵之助、武一郎夫妻、孝次と立て続けの葬儀で玉串料も馬鹿にならないというぼやきが聞こえる中、会社は悦三派と沙夜子派に分裂していた。孝次の葬儀の喪主を務め社員の本音を耳に疲れ切ったような悦三に思わず慰めの声を掛けたヒョーロクだったが、それが生きている彼を見た最後になってしまった。葬儀の翌日、「吸い込み滝」と地元民から呼ばれている滝つぼに悦三の遺体があがった。川底に激突した衝撃による頭蓋骨陥没が死因だった。

たった一人になった相続人の沙夜子に話を聞けとジンさんにせっつかれたヒョーロクは、玄関先で出会った柊から疫病神のようだと改めてぼやかれる。柊は兄弟たちが幼い頃から顧問弁護士を務めているため本城家の事情に明るかった。沙夜子にも同情的で彼女と仲の良い悦三を以前より後継者に推していた。これから様々な悪意に襲われるだろう沙夜子親子を弁護するため、彼女に会いに行こうとする柊に同行したヒョーロクは、崇裕が猫の死骸をおもちゃにして遊んでいる場面に出くわした。見守っている久瑠美によると屋敷の周辺でちょこちょこ野良猫が死んでいるのだという。

たった一人の相続人兼容疑者になってしまった沙夜子に同情するヒョーロクに対し、ジンさんは相続人ならもう一人いると言い放った。崇裕だった。その後山に山菜取りに来ていた沢崎とひと悶着を起こしたヒョーロクは、夕食に毒を盛られなくて良かったなとジンさんにからかわれ脅されている最中、部屋に飛び込んできた久瑠美によって沙夜子の食事に毒が盛られた事を知らされた。立て続けの事件により屋敷内に常駐していた警察官らの素早い処置により大事には至らなかったものの、沙夜子は一晩入院することになった。沢崎は容疑者となり、久瑠美も忙しい。その間の崇裕の世話を任されたヒョーロクは、崇裕のお気に入りの絵本「五ひきのわるダヌキ」の存在を知る。地元の絵本作家のものだが、中身を知り愕然とする。最初のタヌキは焼け死に、二番目は首を吊り、三番目は川に流され、四番目は毒を盛られて殺される。見立て殺人だとジンさんは言う。五番目のタヌキは仲間がいなくなったので、よその山へと逃げた(失踪)とある。

ジンさんに言われ崇裕が遊んでいた猫の死骸の鑑定を依頼していた結果がでたらしく、刑事がヒョーロクの所へやってきた。沙夜子が食べたのと同じ毒ゼリが検出されたらしい。犯人は事前に猫を使って毒の効果を試していた。

5 どっとはらい

絵本の作者は純文学を書きたかったものの夢が叶わず童話作家になった。そのためか童話作家に対する誹謗中傷や業界批判を繰り返し自ら仕事を失っていった。「五ひきのわるダヌキ」もほとんど売れず、地元の図書館が4冊購入し、そのうちの1冊を蔵之助に贈ったという。

本城家の事件が全国区になり、ヒョーロクもワイドショーのレポーターに突撃された。事務所の社長からは上手く宣伝すれば何百万円もの広告料分になったのにと愚痴を言われながらも、相続鑑定士という職業が知られたことが良かったと言われ、今後の事務所のためにも相続問題にケリがつくまで粉骨砕身頑張ってこいと命じられてしまう。

警察は毒ゼリ事件を沙夜子の狂言とみなし逮捕・送検するだろうと口にしたジンさんは、もう一人の相続人・崇裕も一連の事件について犯行は可能だという。どう転んでもめでたしめでたしの結末にはならないと言うジンさんに抗議をしていると、事情聴取を終え戻ってきた沢崎が沙夜子親子と一緒に逃走したと刑事がやってくる。毒を持ったのが自分ではないと知っている沢崎が、沙夜子親子が再び標的になるのを危惧し連れて逃げたのではないかとジンさんは推察した。

強引にパトカーに同乗し沢崎たちを追う間、ヒョーロクは刑事の推理を聞く。物的証拠は何もないもののジンさんとほぼ同じ、崇裕が犯人だという説だった。土砂崩れによって道路が封鎖され、ガードレールもない崖っぷちまで逃げた沢崎は興奮して説得に応じる様子がない。ジンさんの推理をそのまま口にする。それは崇裕犯人説とは違う、別の真犯人を名指しするものだった。

後味が悪い結末となったものの、一連の事件は一応の決着を見た。来た時と同様、久瑠美の運転する車でバス停まで送ってもらう間、部屋に食事を運ぶ時ヒョーロクがよく独り言を言っていたという久瑠美に対し、ヒョーロクは初めて久瑠美にジンさんの存在を明かすと彼女に沙夜子の犯行を知っていて見逃していたのではないかと指摘し、バスに乗って去って行った。

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手毬唄や昔からの言い伝えに沿って連続殺人が起きる……の現代版(?)っぽい話でした。余韻もなく次々に殺されていくのと、いつもジンさんに呆れられ叱り飛ばされているヒョーロクの優柔不断さに馴染めないまま読み終わってしまいました。あっと驚くようなどんでん返しが得意な作家さんなので特に何もなく終わってあれ?と首をかしげていたら、最後にちょっとぞっとする結末が待っていました。