中山七里「岬洋介シリーズ」第3弾『いつまでもショパン』あらすじとネタバレ感想

中山七里さんの「いつまでもショパン」のあらすじと感想をまとめました。

ショパン・コンクールの参加者の一人、ヤン・ステファンス視点で話が進むため、主軸がピアノコンクール、それに時々事件が混じるといった構成になっています。岬も出てきますが他の本に比べ存在感もミステリー度も薄い印象です。

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「いつまでもショパン」書籍概要

難聴を患いながらも、ショパン・コンクールに出場するため、ポーランドに向かったピアニスト・岬洋介。しかし、コンクール会場で刑事が何者かに殺害され、遺体の手の指十本がすべて切り取られるという奇怪な事件に遭遇する。さらには会場周辺でテロが頻発し、世界的テロリスト・通称“ピアニスト”がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。岬は、鋭い洞察力で殺害現場を検証していく!「BOOK」データベースより

  • いつまでもショパン(2013年1月/宝島社)
  • いつまでもショパン(2014年1月/宝島社文庫)
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Preludio プレリュード

2010年4月10日のロシア西部上空で、ポーランドの大統領夫妻を乗せた専用ジェット機のエンジン部が何者かによって仕掛けらた爆弾により破損、何度か着陸を試みるも墜落し、政府関係者、軍幹部らを含む搭乗者96人全員が死亡した。

Ⅰ.Molto dolente ~きわめて沈鬱に~

ポーランドのステファンス家は代々優れた音楽家を輩出していた。18歳のヤンの曽祖父はショパン高等音楽院の校長を務め、祖父はワルシャワ音楽協会の会長、父親のヴィトルドはワルシャワ音楽院の教授をしている。ポーランド出身の作曲家ショパンの名を関した国際ピアノコンクール、ショパン・コンクールはポーランドの人々にとっては別格のコンクールであり、ステファンス家にとっても父親ヴィトルドにとっても、ヤンがショパン・コンクールで1位の栄誉を取ることは当たり前のこととしていた。

ヴィトルドの苛烈な期待やそれに伴う厳しい指導に反発心を抱くヤンは、気分転換のためによく近所のワジェンキ公園に行っていた。公園には小さな友人、マリーがいる。公園近くの花屋で母親が働いている間、マリーはいつも公園で遊んでいるのだ。マリーと別れ公園にあるショパン像を見上げていたヤンは、アダム・カミンスキに声を掛けられる。カミンスキはヤンが10歳から昨年まで師事していたピアノ教師で、現在はワルシャワ音楽院の学長に就任していた。ヴィトルドのようにショパンに拘りすぎるのはどうかという悩みを吐露するヤンに応えたカミンスキは、最後にヤンの対抗馬となる2人のコンテスタントの名を挙げた。どちらも日本人で、一人は盲目の天才とうたわれる榊場隆平、もう一人が岬洋介だった。

コンクールの一次予選は81人、6日間かけて行う選考で36人が選ばれて二次予選へと進む。大統領専用機事故の追悼の喪章が会場の入り口に飾られ、テロ対策の警察官が多数動員される異常事態の中、2日目の出場に決まったヤンは初日の会場に足を運んでいた。最初のガガリロフ、次のオニールの演奏はヤンの心に引っかかった。

多くの人命が危険に晒されるのを承知でショパン・コンクールの開催を決めた文化庁に対し、アントニー・ヴァインベルク主任警部は毒づいていた。4月の大統領機墜落のあと、5月にはワルシャワ市街地での車の爆破、7月の聖ヤン大聖堂でのパイプオルガンの爆破で多数の犠牲者がでている。こんな情勢でのコンクールは、会場に爆発物を仕掛けてくれといっているようなものだったからだ。ヴァインベルクのもとに元部下で、現在はテロ特別対策本部にいるピオトル刑事が姿を見せた。大統領機爆破と市街地爆破で使われた爆破装置が一致した、つまり同一人物の犯行で、FBIに照会したところロンドン多発テロにも一枚かんでいるという有名な人物だと分かった。だが正体は不明でコードネームで「ピアニスト」と呼ばれているらしい。

コンクール2日目、ヤンは自分の演奏に手ごたえを感じた。3日目は演奏を聴き疲れたこともありマリーに会いに公園へと向かった。マリーの側には一人の青年がいた。岬洋介と名乗った青年は、自分もコンテスタントの一人だといい、ヤンの演奏を「ポーランドのショパン」のようだと評した。「ポーランドのショパン」はポーランド人が抱いている伝統的なショパン解釈である。それを東洋人にも関わらず自然にとらえる岬に興味を覚えたヤンは、コンクールに岬を推薦した人物の一人が世界的にも名を知られるピアニスト・柘植彰だと知り、カミンスキのアドバイスをもっと真剣に受け止めるべきだったと思った。

一次予選最終日は、榊場が登場する予定だった。会場に足を運んだヤンは3番目の奏者である榊場の演奏を待っていた。だが異変が生じた。2人目の演奏が終わった後、事故でこの後の予定はすべて中止、演奏は後日に延期するというアナウンスが流れたのだ。仕方なく出口に向かったヤンはごった返すホールでカミンスキの姿を見つけた。混雑で通りすがりに誰かに引っ掛けられたと右手の甲に血をにじませたカミンスキは、控室で何者かによって男が一人殺されていたのが警備員によって発見されたとヤンに話す。被害者はピオトルという刑事で、胸を一発撃たれていた。そして10本の手の指すべてが第二関節から切り取られていたと話した。

Ⅱ.Senza tempo ~厳格に定めず 自由に~

ピオトルは即死だった。その後現場に残されていたニッパーで指を切断された。銃からもニッパーからも指紋は検出されなかった。ヴァインベルクは、ピオトルが「ピアニスト」を追っていると話していたことから、「ピアニスト」と対峙し返り討ちにあったと考える。コンクール期間中、会場控室への出入りは運営委員、審査員、コンテスタント達に配られるIDカードによって管理されているが、ICチップは共通のものなので入室者の特定はできないという。またコンテスタントの集中力を乱すという理由でカメラは設置されていなかった。遺体の第一発見者は榊場隆平だった。盲目であるため目撃情報は得られなかったが、異臭がしたという。榊場の通訳に呼ばれた岬は、榊場が控室に入った時、硝煙と血の匂いがしたという。誰かいるのかと声をかけたが室内に人の気配は感じず、恐る恐る手を伸ばしたところ人体らしきものに触れたが反応がなかったため急病かと思い外に出て人を呼んだらしい。

二次予選初日、アメリカ出身のオルソンを甘く見ていたヤンは、その陽気な演奏に衝撃を受けた。一般客でごった返す1階を避け、関係者特典で2階フロアへと向かったヤンは、岬がオルソンと握手しながら英語で何かを伝えているのを目にした。岬は榊場の演奏は自分たちとは別格だとヤンに言う。そして榊場の演奏を聴いたヤンは彼の圧倒的な演奏を前にして、岬が口にした「榊場の演奏が一番ショパン的」だという意味を理解した。榊場の演奏を聴いた今、ヤンは自分のピアノは矮小だと打ちのめされた。

ワルシャワ市内のホテルで爆破が起き、犯人グループの一人アズハル・オマールが逮捕された。聴取の中でアズハルは、「ピアニスト」はいつも単独行動でチームは組まないと言った。計画を立てるのも実行するもの一人で行うため、誰も「ピアニスト」の素顔を知らないという。「ピアニスト」というあだ名は、ある幹部が「ピアニスト」と会った際、「ピアニスト」が気晴らしのように弾き始めたピアノを「趣味にしてはレベルが高い」と褒めたところ「本職だ」と返ってきたことから付いたという。①ピオトルが殺害された時会場にいた者、②ロン=ティボー国際コンクール終了の翌日に爆破事件が起きたことから、その日フランスにいた者、③本職がピアニスト、の3つの条件全てに当てはまる人物が「ピアニスト」候補となるとヴァインベルクは考えた。容疑者は7人で全員がコンテスタント、その中にガガリロフ、オニール、オルソン、ヤン、榊場も含まれていた。残り2人はフランス在住のエリアーヌと、中国人のチェンだった。

二次予選のヤンの演奏は、榊場に圧倒されていたためか冴えないものだった。ヤンは自分の後に演奏したエリアーヌに話しかけ、お互いの演奏について評価しあい打ち解ける。エリアーヌは未だに岬の演奏を聞いたことがないというヤンに、榊場と岬は三次まで勝ち上がってくると思うと断言した。自宅では相変わらずヴィトルドがショパン・コンクールについてヤンに口うるさく言ってくる。その中でヤンは、カミンスキが順調に出世していきゆくゆくはショパン・コンクールの審査員に名を連ね点数に影響を与えることになると考えたヴィトルドが、ヤンの教師としてカミンスキを選んだことを知る。ショパン・コンクールが中止になることもないしヤンが爆発騒ぎに巻き込まれることもないと言うヴィトルドは、心置きなくピアノを弾くようヤンに命じた。

Ⅲ.Con fuoco animoso ~熱烈に 勇敢に~

三次予選へと進んだヤンだったが家で練習をする気になれずワジェンキ公園へと向かうと、いつもの場所にマリーと岬がいた。岬が三次予選へ進んだのは審査員全員に握手を求めているというロビー活動の賜物かと嫌味を言うヤンに対し、岬はピアニストの手に興味があるからだと返し審査員全員に加え他のコンテスタントとも握手をお願いしていると言う。岬との会話で落ち込んだ気分のままヤンはコンサートが開かれるラクチンスキー宮殿へ入った。演奏者がステージに登場し椅子に座った時だった。客席の中央でいきなり立ち上がり「アラー、アクバル」と叫んだ男の体が爆発した。会場は一瞬で地獄と化す中なんとか会場を抜け出たものの、ヤンの体は他人の血で汚れ鼻腔には肉や爆薬の匂いがまとわりついていた。帰宅しバスルームで肌が真っ赤になるほど何度も体を擦って人心地ついた時、テレビではカミンスキが記者会見を開いていた。ヤンが居合わせたテロで18人もの人間が命を落としたらしい。警察は正式にショパン・コンクールの中止を申し入れたが、ショパン協会はノーと回答したとカミンスキは話す。カミンスキの毅然とした会見は多くのポーランド国民に支持され、ショパン・コンクールは続行が認められた。

三次予選は3日間の予定で12人が演奏する。ヤンの目当ては岬だった。ステージに立つ岬は、普段の穏やかで飄々とした雰囲気が消え異様な存在感を醸し出していた。そしてまたヤンは岬の演奏に圧倒され翻弄された。ファイナルへは8人が進み、そのうち6人が入賞する。ヤンはもちろん、ガガリロフ、オルソン、オニール、エリアーヌ、榊場、岬もファイナリストに名を連ねていた。家へ帰ればヴィトルドと顔を合わせなければならないので、ヤンは音楽院のレッスン室で練習することにした。隣室は岬だった。漏れてくるピアノについ聞き入っていると、突然不協和音が鳴り響いた。驚いて隣室をノックしたヤンは、岬が突発性難聴を患っていることを知る。かれこれ10年の付き合いだという。そんな病気を抱えながらコンクールのステージに立つのはリスキーであり、治療に専念しなければ聴力を失うことになりかねないとヤンが言うものの、岬は一歩も引かなかった。

パキスタンの国境に近いアフガニスタン南部にアメリカ部隊のハロルド・オルソン少佐がいた。3年前、パキスタン国境に近い村で妊婦や子供を含む村人8名を殺害したとしてポーランド兵7名が訴えられる事件が起きた。7人はタリバンへの反撃と主張したものの、虐殺を止めようとしたポーランド兵1名も村人と一緒に殺害されたことが公になると戦争犯罪として報道され、ポーランド軍は世界中から非難を浴びることになった。現地からの支援部隊への不信感が強まる中、オルソン少佐たちはタリバンに包囲された大型バス2台に食料や生活必需品を詰め込んだキャラバン隊を救出しなければならなかった。バスの中には女子供を含めた24人が乗っており全員が人質同然の状態だった。ひとまずの危機を脱出したオルソン少佐は持参したパソコンであるサイトにアクセスした。弟がファイナリストとして参加しているショパン・コンクールの中継だった。

「ピアニスト」がドアを開けると、ヴァインベルク警部が立っていた。先日のコンサート会場での爆破事件で進展があったので報告に来たという。ヴァインベルクは先日「ピアニスト」が殺害したピオトルの事件を追い、とうとう「ピアニスト」の正体を突き止め部下の仇を討つため一人で「ピアニスト」の部屋に乗り込んできた。だが「ピアニスト」の方が上手だった。あっさりとヴァインベルクの息の根を止めると、その遺体を有効活用すべく頭を働かせた。

Ⅳ.Appassionato dramatic ~熱く迫力をもって~

ショパン・コンクールの決勝を翌日に控えた日、ワジェンスキ公園のベンチにヴァインベルクの遺体が置かれ、足元の黒い鞄の中ではタイマーが静かに時を刻んでいた。ヤンがいつもの散歩コースを歩いているとマリーと岬と出会う。3人で話しているとき遠くでざわめきが聞こえた。よく見るとショパン像のあたりに人だかりができ、パトカーや警官の姿も見える。好奇心旺盛なマリーはそちらへと駆け出して行った。何かが起きたようだとヤンと岬が話していると、突然ヤンの視界に閃光が走った。続いて突風と爆発音、パトカーや人間がおもちゃのように吹き飛ぶ姿が目に映る。またテロが起きたのだ。岬とヤンは現場へと向かい、大勢の犠牲者の一人にマリーが含まれているのを知った。体の一部を欠損し眠るような顔でマリーは亡くなっていた。テロリストに対する憎しみを抱え家に戻るとヴィトルドがいた。どうせなら岬や榊場が巻き込まれれば良かったというヴィトルドは妄執ともいえる執念でヤンのコンクール優勝を口にする。家を飛び出したヤンは音楽院のレッスン室にこもり思いのたけをピアノにぶつけ続けた。

決勝二日目のヤンの演奏は拍手と大歓声に包まれた。これほど一つの曲に全身全霊を込めて弾いたことは今までになかった。審査員たちがどう評価しようともヤンは満足だった。三日目は岬が演奏する。ファンとして彼のピアノを聴きたいとヤンは客席に座った。ホール中の注目を集める中岬の演奏が始まったが、その途中、ヤンの危惧した通り突発性難聴の発作が起きた。岬の演奏は中断し、もうまともに弾ける状態ではない。オーケストラも演奏をやめ水を打ったように会場内が静まり返る中、岬が動いた。課題曲ではない難易度の低いノクターンをゆっくりとしたテンポで弾き始める。なぜいきなりそんな曲をと訝しんだヤンだったが、すぐに思い当たった。ノクターンはマリーがリクエストしていた曲だった。岬は亡くなったマリーの追悼のためにノクターンを弾いているのだ。

バスを人質に取られタリバンとのじりじりと緊迫した状況の中、オルソン少佐は次にどう動くべきか頭を働かせていた。バスまで600mと近づきつつあるものの、バスのすぐ後方にはタリバンがすぐにでもバスを破壊できる位置にいる。パソコンでは演奏を終えた弟が観客に向かって笑顔を振りまいている。どう動くべきか、考えるオルソン少佐の耳に突然ノクターンが流れてきた。なぜか胸の内に故郷の生家が思い浮かんでくる。側にいた大尉が妙に人恋しくなるピアノだと漏らした。ふいにオルソン少佐は上層部に話せば一笑に付されそうなアイデアを閃いた。敵の無線に侵入してこのノクターンを流すと作戦を伝える。作戦はすぐに実行され、爆煙のあがる戦場のあちこちにノクターンが流れる。風に乗って聞こえてくるノクターンを耳にしながらオルソン少佐はその違和感に気が付いた。さきほどまで聞こえてきた銃声や砲撃が一切途絶えているのだ。ノクターンが流れる中、バス2台がゆっくりと動き出し、銃声が途絶えた約5分のあいだに24人は全員無事に脱出した。

全ての演奏が終わった後、8人のファイナリストはステージ袖に集められ、カミンスキによる入賞者発表が始まる。6位から順番に名前を呼ばれ、2位は榊場隆平、1位はヤンの名前が読み上げられる。信じられなかったが冗談ではないらしい。岬に促されヤンはステージ中央へと向かった。岬は入賞すらできなかった。翌日、入賞者たちはワジェンキ公園内の特設会場にいた。授賞式と入賞者コンサートが行われるからだ。物々しい警備の中ヤン達が待機していると、ヤン達に賞を授けるべく大統領一行が登場する。入賞者ではなかったが榊場の付き添いとして岬も同行していた。授賞式が始まる。カミンスキが壇上に立ち口を開きかけた時だった。突然会場の彼方で爆発音が響いた。警官隊らが爆発音の方へと一斉に駆けだしていく中、カミンスキが授賞式の進行していく。盛大な拍手に迎えられ大統領が壇上にあがりカミンスキと握手を交わす。いよいよだとヤンが背を伸ばした時、ヤンの背後から何者かが猛スピードで壇上へと駆け上がりカミンスキに襲い掛かった。SPが大統領から離れた一瞬のスキをついての出来事だった。カミンスキを組み伏せた人間の正体を見たヤンは悪夢だと思った。

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その後、会場にいた岬によって「ピアニスト」の正体が明らかにされ、なぜピオトルの指が切断されていたのかという謎も解明されました。岬がコンクール関係者に握手をして回ったのも理由があったと分かります。「ピアニスト」がテロを起こし続けた理由はとても個人的なものでした。すべてが終わった後、ヤンは父親のもとから離れることに決め、ポーランドを発つ岬の見送りのため空港へと行きました。岬と別れた後ヤンはロビーの大型モニターで、パキスタン大統領が人質が全員無事に脱出できたとノクターンを弾いた岬に当てて感謝の緊急メッセージを流すのを見ました。

 

岬洋介シリーズの続編で登場する「ショパン・コンクールでの5分間の軌跡」が描かれている一冊でもありました。入賞はしませんでしたが、これにより岬洋介の名前は世界的に有名になりました。予想もしていなかったでしょうが、結果的に試合に負けて勝負に勝ったといったところでしょうか。