中山七里『騒がしい楽園』あらすじとネタバレ感想

中山七里さんの「騒がしい楽園」のあらすじと感想をまとめました。

都内の幼稚園が舞台のドタバタ?ミステリーです。坂を転がるように事態が悪化していくスピード感に魅せられました。が、この作家さんらしくなく、ラストのあっというようなどんでん返しはなかったような気がします。

スポンサーリンク

「騒がしい楽園」書籍概要

見えない魔の手から子どもたちを守ることができるのか?埼玉県の片田舎から都内の幼稚園に赴任してきた幼稚園教諭・神尾舞子。待機児童問題、騒音クレーマー、親同士の確執…様々な問題を抱える中、幼稚園の生き物が何者かに殺される事件が立て続けに発生する。やがて事態は最悪の方向へ―。12ヶ月連続刊行企画第1弾!

「BOOK」データベースより

  • 騒がしい楽園(2020年1月/朝日新聞出版)
created by Rinker
¥1,650(2020/10/31 11:51:04時点 楽天市場調べ-詳細)

1.デジタルウーマン

埼玉の郊外にある幼稚園に勤めていた神尾舞子だが、経営母体が教職員の大異動を決定したのに伴い都内の若葉幼稚園へと転任が決まった。初日、挨拶に向かった園長室で、事なかれ主義の三笠野園長からは市街地にある幼稚園特有のトラブル、騒音問題と待機児童という問題を抱えていることを伝えられる。前勤務地でも同僚だった池波智樹からは、プロ意識を持って何でもそつなくこなす舞子にトラブルの窓口役として白羽の矢が立つのではと示唆される。

若葉幼稚園は年少・年中・年長が各2クラスずつの合計6クラス、140名ほどの園児を預かっている。舞子が受け持つのは年長のさくら組だった。20人いる園児たちの中で特に目を引くのが5人、天真爛漫で人懐こい火々野結愛、結愛を気に入っているらしい城田悠真、悠真と仲良しで元気が有り余っていそうな紺野大翔、優等生的立ち位置らしい神崎陽菜、この4人を冷ややかな目で眺めている都築陸だった。他人の行動を観察してどう対処するか決めるという陸の様子に、舞子は己自身の行動を重ね合わせた。

屋外での遊戯の時間、舞子は正門の扉に立ちこちらを声高に呼ぶ老人に気づいた。町内会長の上久保と名乗る老人は、園児が外で遊ぶ声がうるさいので室内で運動させろと何度も申し入れを行っている人物だった。舞子の言葉を尽くしての説得にも全く納得しない。幼稚園に対し何度も抗議をしたという実績を作ったうえで最終的に行政に訴えるらしい。具体的な騒音問題を舞子は理解した。

翌日、待機児童問題についても身をもって体験する。入園希望の保護者たちが授業の見学に来たのだ。さくら組の子どもたちよりも多い見学者らの前で授業を進める舞子を邪魔する女性がいた。授業中だというのにお構いなしに質問を浴びせかけてくる。久遠友美と名乗った女性は授業後も舞子に付きまとい、4歳になる息子を保育園に入れようとしたがどこも満員で入れないためすぐにでも若葉幼稚園に入園させたいと強く願っているため、舞子の言葉尻を都合の良いように捉え、息子の入園に便宜を図ってくれたり個人的に授業をしてくれるのかと好き勝手に解釈して迫ってくる。何とか振り切って職員室に戻ると他の先生も毎年舞子と同じ目に遭っていたと分かる。友美の近所では同い年の子どもたちは全員が幼稚園か保育園に通っているため肩身が狭いらしい。

保護者同士の確執も舞子は目撃した。子どもを迎えに来た結愛の母親と悠真の母親が一触即発の喧嘩直前まで行ったのを、舞子が間に入って止めた。その後池波から事情を聞く。結愛の母親・香津美の夫で父親の火々野は人材派遣「スタッフバンク」を経営しており、陽菜と陸の父親は部下になるため母親同士の関係も自然と香津美を頂点とするグループが形成されている。また悠真の母親・早紀の弟はスタッフバンクに登録している社員だったが、派遣先で過労死し裁判沙汰になった。原告側の早紀達は敗訴し、訴えられたスタッフバンクの社長の火々野は世評を落とし都知事選の立候補を断念せざるを得なくなった。お互いに失う物が大きいだけで得るもののなかった一件は、未だに氷解する気配もなく幼稚園のお迎え時の緊張感を高めていた。

2.悪の進化論

5月の連休明け、舞子の元に結愛の父親・火々野の訃報が届いた。結愛と二人で出かけた際、見通しの悪い道路で車に撥ねられた。とっさに父親に庇われた結愛は擦り傷で済んだらしい。園長からクラス担任として葬儀への出席を求められた舞子は、葬儀会場での噂話を耳にする。火々野には兄弟がおらず、全財産と会社の株式は香津美と結愛が相続することになる。が、結愛はまだ幼いためほぼ香津美の総取り状態らしい。喪主となった香津美の隣には必死に泣くのを我慢している結愛と、香津美の実の弟で運転手兼ボディガードの比留間公次がいた。

5月中旬、幼稚園の飼育エリアの小さな池に毒物が投げ込まれ、金魚やメダカが死滅するという事件が起きたのを朝当番の先生が見回りで発見した。前日の夜当番だった池波によると、その時に異状はなかったという。池のそばのフェンスは園児には高いが大人にとっては簡単に乗り越えられる高さだった。またフェンスの金網に手を差し込んで毒物を投げ込むことは誰にでも可能だと思われる。内部でも外部の人間でも可能な犯行でイタズラだと考えられたものの、大事になった時の保護者への説明という配慮で、一応警察に届けることになった。やってきたのは所轄の生活安全課の古尾井と菅田という刑事だったが、あきらかにやる気がなく被害状況や施錠の状況などを聞き取りをすると引き上げていった。扱いは器物損壊になるという。

2日後、舞子が出勤すると再び飼育エリアに先生たちが集まっていた。池の近くに頭を叩き潰されたアオダイショウが落ちていた。連絡を受けてから2時間も経ってからやってきた古尾井達は外で殺してから放り投げたのだろうと推測し、幼稚園で飼育していた動物ではないので軽犯罪に抵触する程度と言った。

3日後、アヒル小屋の前で、首を切られたアヒルの頭が転がっていた。少し離れた所に胴体が倒れており小屋の辺りには夥しい血がまき散らされている。何者かが小屋の閂を開けアヒルの首を切ったのだ。動物の愛護および管理に関する法律に引っかかる。ここにきてようやく本気になったのか、古尾井は外部だけでなく幼稚園の教職員にも容疑をかけ、職員全員の指紋を採取すると伝えた。

更に3日後、舞子が発見者となった。飼育エリアのフェンスの内側に殺害され首を吊られた黒猫がぶら下がっていた。野良猫らしく、外部で絞め殺した後フェンス内に放り込んだらしい。だんだんと悪質になっていくが、飼育していない動物のため再び軽犯罪扱いになると言う。刑事らが帰ったあと、池波は不安を口にした。魚類、爬虫類、鳥類、哺乳類と被害がダーウィンの進化論の順番になっている。だから次は霊長類ではないか。

動物の遺骸が園児たちの目に触れることはなかったが噂は広まる。普段は元気な子ども達もすっかり消沈して大人しくなり、保護者達は園に対して説明会の開催を求めた。最終的に警察に頼らず幼稚園でできる方策をすることになり、職員会議の結果、舞子の反対を権力で押し切る形で教職員たちが順番に夜回りをすることになった。夜10時から深夜0時までの2時間、幼稚園を中心とした住宅街を巡回する。舞子とペアを組んだのは池波だった。決められたコースを1巡すると、2人とも足が速いせいか予定より30分早く終わる。もう一度回るかと口にする舞子に対し、池波はコーヒーを飲もうと提案する。何か内密の話がしたいらしいと察した舞子は了解する。例の進化論の話をして解散した。

終電を逃しネットカフェで過ごした舞子は、翌朝幼稚園の近くまで来て異変に気付いた。数台の警察車両にブルーシートのテント、先に来ていた池上は「霊長類だ」と言った。早朝に正門前で遺体が発見されたらしい。

3.権利と義務と責任と

余った30分をコーヒーショップで過ごしていたことを責める園長と、誘ったのは自分だという池波の声を舞子はどこか遠くで聞いていた。被害者は舞子が受け持つさくら組の結愛だった。茫然自失で己を責める舞子を、保健室に避難させた池波はまだ詳しいことが何も分かっていないから自分を責めるのは早すぎると言った。

やってきたのは捜査一課の細根という刑事で、昨晩夜回りを担当していた池波と舞子からまず順番に話を聞くという。刑事によると結愛は幼稚園が終わった後ピアノ教室へ行き、夕食後に近所の幼児コースの塾に行ったという。塾が終わったのが午後7時、8時を過ぎても帰宅しない娘を心配した香津美が塾に電話すると定時に帰ったと言われる。いつも送り迎えはしていたが、夫の火々野が亡くなって以降会社の事で連日の話し合いが行われたため、ここ3回ほどは送り迎えができず、近所だったこともあり結愛が一人で塾と自宅を行き来していた。香津美と会社役員たちが慌てて結愛を探したものの見つからず、午後9時に捜索願が出された。その後友人の家や幼稚園にも連絡をしたが、夜回りのために少し早めに園を出ていたため留守電になり繋がらなかったという。ここ最近、立て続けに動物が殺される事件が起こっていると舞子が話すと細根は興味を示した。

園長が近々保護者会を開くと言う。ニュースや新聞でも報道され園児たち、とりわけさくら組の子どもたちは強いショックを受けていた。お絵描きの授業で、お父さんやお母さん、隣のお友達など誰でもいいので大切に思っている人の絵を描いてくださいと舞子が言うと、19人全員が結愛の絵を描いた。結愛の告別式に参列した舞子が良かれと思い園児らの描いた絵を香津美に渡すと、彼女は激しく動揺し大声で泣き叫び始め、狼狽した公次から叱責されただただ謝るしかなかった。

保護者説明会では一方的に責められることになる。警察から何の捜査情報も進捗も知らされていと説明した園長は保護者の感情を逆なでし、香津美と対立していた早紀も夜回りをしていた職員は誰かと言い募る。園長の方針で池波と舞子の名前は伏せると決めていたため、2人の名前が明らかになった時は責任逃れだと更に責められる結果になった。池波と舞子に避難は集中し、幼稚園の周りを囲む報道陣は保護者や職員から情報を得ようと必死に食らいついてくる。報道関係者らの地域住民に対する無遠慮な取材やゴミ問題で町内会長も抗議にやってくると、根本的な解決は閉園だと言い始め、抗議する園長に対しでは園児を外で遊ばせないようにと巧みに交渉してくる。

待機児童問題で舞子を悩ませた久遠友美から電話がかかってきた。欠員が出たから募集がかかるはずなので、その前に自分の息子を入園させてほしいという内容だった。あまりに非礼な電話にそっけなく対応したものの気分が悪くなる。帰宅途中、突然現れた無礼なレポーターに対応した舞子の姿は、都合よく編集され逃亡中の容疑者のように仕立てられてお茶の間に流れた。さくら組の保護者からは担任を変えて欲しいと要望が入り、何人かの園児が舞子に連絡するのも嫌がったのか無断欠席した。捜査は一向に好転せず舞子の体も心もすり減って限界に近づいた頃、古尾井が一人で幼稚園にやってきた。そして舞子と池波に対し肩身が狭い思いをしているだろうと話し始めると、一連の動物殺しが今回の殺人事件の前兆だったのに犯人を挙げなかったと警察内部での古尾井の扱いも相当なものになっていると言い、汚名返上のためにと2人に協力を持ち掛けた。

4.ガーディナー

舞子と池波は情報を提供し、実際に捜査をするのは古尾井。だが一方的に情報を提供するだけでは納得できないと池波が交渉し、捜査の進捗を教えてもらえることになった。結愛の死亡推定時刻は午後10時から11時、ちょうど2人が夜回りをしていた時間帯で、細根が実際に巡回コースを歩いて回り舞子と池波には犯行が不可能だと結論づけられていた。死因は大人の手によって首を絞められたことによる窒息死だが、親族にも詳細は告げていないという。捜査本部では5歳の子どもを殺害する動機が見つからず苦労しているらしい。舞子たちは疑わしい人物として、町内会長の上久保、結愛の母親と対立していた城田早紀、待機児童問題の久遠友美の3人を古尾井に教えた。3人全員と話がしやすいからと舞子が古尾井に同行することになった。

上久保は地域住民の中に徘徊老人はいるし幼稚園の騒音に悩んでいる住民もいるが、高齢化が進んでおり口は動くが手足が動かない連中ばかりだと話し、自分たちを容疑者に加えなければならないのなら事件は迷宮入りするかもしれないと嫌味を言った。

早紀は弟の過労死の事件で恨みはあるが、自分の息子の悠真が結愛を好きだったこともあり、子どもに罪はなく結愛に対しては憎しみを持っていないと話した。事件当時のアリバイは家族しか証明できなかった。

友美の家は住宅地とは離れた所にあり都内には珍しく小さな畑もあった。訪問は息子の入園の話だと勝手に思い込んだ友美は友好的で、古尾井に乞われるまま農具の置かれている物置を案内してくれる。ネズミ駆除の薬品があることを確認した古尾井は、友美がどうしても息子を幼稚園に通わせないといけないと考えており殺人の動機があったことを確認すると身分を明かした。家を追い出された後、古尾井は友美に監視を付ける。後日、彼女は任意出頭に応じ、結愛の殺害以外の一連の事件、メダカに始まる動物殺しを認めた。風評被害で何人かの園児が退園してくれるのを期待しての犯行だった。警察で犯行の経緯を古尾井から聞いていた時、容疑者に会わせろと公次を伴って香津美が乗り込んできた。どんな気持ちでどうやって娘を殺したのか直接犯人に聞きたいとなりふり構わず錯乱状態で警察に乗り込む姉を、公次が自分だって犯人が憎く結愛と同じように絞め殺してやりたいが、それは自分たちの仕事ではなく警察や検察、裁判所の仕事だと説得を続ける。言葉を尽くしての説得にようやく落ち着いた香津美は、公次に促されて帰って行った。だから子どもが殺されるのは嫌なんだと漏らす古尾井のそばで、改めて犯人に対する憎しみを募らせた舞子は池波に思いついたことがあると口を開いた。

友美の事情聴取は2日で終わり、殺人の捜査は暗礁に乗り上げた。そんな頃、舞子はある策略を思いつくとメールを送った。夜回りの時に結愛の遺体を幼稚園の正門前に置き去りにするのを見た、その秘密を保持するために金銭を要求するという陳腐な内容だが、受け取った人物にとっては大変なものに違いない。夜、呼び出し現場で待ち構えていた舞子は、背後に人の気配を感じたと思った瞬間、ものすごい力で首を絞められた。遠ざかる意識のなか犯人が捕まえられなかったと結愛に謝る舞子だったが、ふいに首にかかる力が緩み地面に膝をついた。そばに犯人と揉み合う人影があった。

□□

あれと思うほど意外な人物が犯人でしたが、動機などを聞いて納得しました。納得はしましたが、それだけのことで幼い子どもを手にかけようと決めた残忍さにぞっとします。