中山七里『死にゆく者の祈り』あらすじとネタバレ感想

中山七里さんの「死にゆく者の祈り」のあらすじと感想をまとめました。

教誨師(きょうかいし)の顕真が主人公の話です。Wikipediaによると教誨師とは受刑者に対して徳性の育成を目的として教育することで教誨・教戒を行う者のことです。死刑囚となっていた大学時代の親友の事件を追ううち、教誨師という一面が剥がれ落ちひたむきに友人を救いたいという思いだけで暴走し続ける熱い人でした。

友人は本当に殺人を犯したのかという謎に加え、死刑執行という時間との戦いもありラストに近づくにつれ手に汗握る展開でした。

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「死にゆく者の祈り」書籍概要

囚人に仏道を説く教誨師の顕真。ある日、拘置所で一人の死刑囚が目に留まる。それは、大学時代に顕真を雪山の遭難事故から救った、無二の親友・関根だった。人格者として知られていた友は、なぜ見ず知らずのカップルを殺めたのか。裁判記録に浮かび上がる不可解な証言をもとに、担当刑事と遺族に聞き込みをはじめた顕真。一方、友として、教誨師として、自分にできることとは何か。答えの見出せぬまま、再び関根と対峙することとなる。想像を絶する、事件の真相とは。そして、死刑執行直前、顕真が下した決断は―。人間の「業」を徹底的に描く、渾身のミステリ長編!

  • 死にゆく者の祈り(2019年9月/新潮社)

教誨師の祈り

個人教誨を受けていた受刑者の死刑執行に立ち会った浄土真宗の僧侶・高輪顕真は、先輩教誨師から翌日の集合教誨の代理を依頼される。40人ばかり集まった囚人達の中に顕真は見覚えのある男の顔を見つける。顔見知りの刑務官・田所に確認すると死刑囚の関根要一だという。関根は、顕真の大学時代の同期で同じ山岳部にいた友人だった。

関根は5年前、すれ違ったカップルに特徴のある鼻を笑われ衝動的に2人を惨殺したとして事件の翌日に自首、一審で死刑判決を受けたのち控訴せずに刑が確定していた。だが関根が鼻の事をコンプレックスどころか長所として捉えていたことを知る顕真には関根が起こしたという事件は腑に落ちない。顕真は田所を通じて関根との面会を希望し、彼の裁判を担当した検察官に裁判記録や判決文の閲覧を申請することにした。

寺に戻った顕真はネットで情報を集めるがやはり犯行の動機に納得がいかなかった。数日後、拘置所で関根と25年ぶりの再会を果たす。関根は家電メーカーで営業職に就いたのち部長になったが家族には恵まれず独身のままだった。些細な理由で衝動的に人を殺すような人間ではないと言う顕真に対し、関根は魔が差したと答える。関根の個人教誨を引き受け短い面会は終了した。冤罪という言葉も浮かんだが、証拠は揃っており本人の自白もある。遠くない将来、顕真は友人の死刑執行を見届ける立場になってしまった。

検察官から裁判の判決文が届いた。被害者の兎丸雅史は3か所、塚原美園は2か所を登山ナイフで刺され、凶器は関根の部屋から見つかった。事件の全貌が簡潔にまとめられていたが、読んでいる顕真にはやはり関根のやったこととは思えなかった。また裁判では殺意の否定をして終始無罪を主張し続け、被害者遺族に対して全く謝罪の態度も見せなかったことから判決は厳しいものとなった。顕真の知る関根とはまるで別人のようだった。また関根がなぜ控訴しなかったのかという新たな疑問も湧いた。

顕真は関根の担当弁護士の事務所を訪ねるが、国選だという服部は熱心な弁護士とは言えず裁判で無罪を主張し続けたのも控訴しなかったのも関根の意志を尊重したのだと話した。

囚人の祈り

事件を担当した検察官と面会し当時の様子を聞いた顕真は、彼から関根には自分の犯した罪の重大さに恐れおののき後悔や罪悪感にまみれながら死刑台に昇ってほしいと皮肉を言われる。関根の初めての個人教誨の日、顕真は関根自身の口から事件の真実を知りたいと望んだが、逆に話の主導権を握られ、次の個人教誨の時に大学時代宗教にまるで興味がなかった顕真の出家の理由と経緯を話すという取引に応じてしまった。やはり関根は顕真の知る関根のままだった。寺に戻った顕真は、門主からやんわりと関根に深入りしすぎないよう注意を受ける。

翌週、顕真は関根の担当取調官だった富山直彦警部補を訪ねたが、対応したのは当時記録係を務めたという文屋刑事だった。途中で顔を見せた富山から当時の捜査にケチをつけにやってきたとみなされけんもほろろに追い返される。文屋によると昔富山は恋人を薬物中毒にされ事故で失って以来、犯罪を犯す人間を相当憎んでいるという。なぜ教誨師が一囚人のことをそこまで気に掛けるのかと文屋が踏み込んでくる。大学時代登山部で関根に命を助けられた相手だと話す顕真に、文屋は取り調べ中に覚えたという違和感を話した。兎丸が刺された数と関根の供述に齟齬があったという。また凶器の形状について「ナイフ」とだけ答えた。どちらも取り調べの中で正しいものへと修正されたというが、山岳部だった関根が自分の登山ナイフの詳細を語れないはずがない。顕真は凶器の写真を見せて欲しいと文屋に頼み込んだ。

救われた者の祈り

大学時代、関根と顕真、同じく山岳部で顕真の恋人だった亜佐美の3人で剱岳に登ったものの天気の急変で亜佐美と顕真は大怪我を負い、怪我人を抱えて山小屋を目指した関根の判断と行動力によって2人とも命を救われた。当時の山の事故の経緯を文屋に話した顕真は、凶器の写真を見て確信した。関根の部屋から見つかったというナイフは関根の物ではなかった。関根が冤罪だとしたら富山や文屋を始めとした警察は非難の対象となり、文屋は仲間を疑った人間として弾劾される。また再捜査をしてやはり関根が犯人だった場合も文屋は検察を疑った人間として白い目で見られる。どちらに転んでもデメリットしかないという文屋に関根を助けたいと頼み込む。根負けした文屋は関根の事件には自分も違和感があったとして、非公式に文屋個人の独断で再捜査することを約束した。

文屋に伴って被害者遺族を訪ねた顕真だったが、対応は違えどどちらも関根に対して消えることない怨嗟を抱いていた。囚人の方ばかり見ていた顕真は遺族たちの行き場のない憤りを目の当たりにして言葉もなかった。兎丸と塚原の勤めていた職場へ行きそれぞれ話を聞くと、塚原には以前「リュウくん」という恋人がいたらしいことが分かる。黒島という苗字らしいがそれ以上のことは分からない。寺に戻った顕真は再び門主から踏み込みすぎるなという趣旨で窘められる。また文屋の方でも勝手に再捜査していると富山から凄い剣幕で怒られたらしい。だが乗りかかった船だと文屋は再捜査の継続を口にした。

隠れた者の祈り

文屋の提案で関根への面会記録を確認することになった顕真は田所に資料を見せてもらうよう頼み込む。教誨師として逸脱していると言いながらも土下座も辞さない顕真に田所が折れる。何とか記録を見ることができた顕真は、公判中「黒島竜司」という人間が一度だけ関根と面会していたのを見つけた。「知人」で面会時間はたった5分。文屋に相談した顕真は、次の個人教誨で関根に黒島について問うことになった。

個人教誨の日、関根との取引により顕真は出家の理由と経緯を話すことになった。剱岳の一件のあと山の事故で右足首を切断し就職内定も取り消された亜佐美と、就職した顕真は結婚し長男の正人が生まれた。正人は高校に入学すると親の縁を切るという亜佐美や顕真の反対を押しきり登山部に入部した。そして1年後、部活動の一環で登った山で遭難し還らぬ人となった。49日を終えた後亜佐美の希望で2人は離婚し、仕事も手につかなくなった顕真は仏門を叩いた。顕真が黒島竜司のことを尋ねた途端関根の態度が変わった。冤罪を晴らしたいという顕真に対し、自分は死刑が確定した人間だと言い放ち取り付く島もなかった。

面会記録から黒島の住居を知った顕真と文屋は、黒島のアパートを訪ねた。ようやく会えた黒島の顔を見た顕真は奇妙な既視感を覚えた。文屋も同じ思いを抱いたらしい。初接近は黒島に警戒され失敗に終わったが、黒島が関根によく似ていたという2人の意見は一致した。黒島竜司は関根の婚外子だろう。文屋の刑事としての流れるような捜査で黒島の事が明らかになってくる。黒島の戸籍の父親欄は空白になっていたが、当時の状況を鑑みて親子関係があると2人は結論づけた。また無辜の人間だと思っていた被害者のうち兎丸が、ある事件に関わっていたかもしれないと分かった。ある女性が運転ミスで小学生の列に突っ込み頭を強く打って死亡するという事件が起きた。その後女性は大麻を吸引して意識が朦朧としたまま運転していたことが分かり、製薬会社勤務の兎丸が売人をしていたのではないかと捜査線上に登った。証拠不十分で立件できなかったものの、捜査員の心証は真っ黒だったらしい。

関根の再審請求のため顕真は刑事事件に強い弁護士を探し始めた。そんな時、田所から内々の電話があった。法務大臣が近日中に6つの死刑執行命令書にサインするらしく、その中に関根も入っているというものだった。サインされれば5日以内に執行される。残された時間は少なかった。

裁かれる者の祈り

再び文屋とともに黒島に会いに行った顕真だが、母親と自分を捨てた関根を恨んでいるという黒島は話を聞く耳を持たない。告げていいものか逡巡したのち顕真は関根の死刑執行が間近に迫っていることを黒島に告げ帰ることにした。これからどうすればいいのか文屋と話し合おうとした時、黒島が追いかけてくると兎丸と塚原を刺したことを認める。ナイフは黒島のものだった。だが殺してはいないと主張する。黒島は2人を一度しか刺しておらず、とどめを刺したのは関根だと言った。

ようやく見つけた江崎弁護士にこれまでの経緯などを話すと、再審請求に非常に前向きで一緒に闘ってくれるという。田所に無理を強いて関根と面会した顕真は、黒島が関根の息子であること、彼がカップルを刺したことを認め警察で取り調べを受けていることを告げた。関根のかつての恋人で黒島の母親だった女性は、出世に目がくらんだ関根から非情な仕打ちを受け姿を消した。黒島を生んだ後も昼夜働き通したものの生活苦から窃盗を繰り返して逮捕され獄死していた。関根は黒島親子に対する贖罪から、黒島の犯行を目撃して罪をかぶり死刑囚となることを決めた。顕真は関根との会話から、彼が刺す前にすでに被害者が息絶えていたことを察する。再審請求をしようという顕真の要望に関根は応えず、死刑判決に従うと言う。関根との面会(個人教誨)を終えた顕真に、田所が5日以内に関根の死刑執行が決まったと教えた。

文屋に連絡すると、関根から聴取してほしいことがあると言われ顕真は強行突破して関根と再び面会する。関根は死体損壊すらしていなかった(誰も刺していない)と分かり文屋に報告すると光明が見えてきたという。黒島は被害者を1回ずつ刺した。だが実際の刺し傷はそれよりも多かった。黒島と関根の間にもう一人誰かがいた。だが時間が足りなかった。寺に戻った顕真に田所から、翌日午前9時に関根の死刑執行が決まったと連絡が入った。教誨師の顕真にはいつも通り少し早めに拘置所に来て欲しいという内容だった。

なすすべもなく執行日を迎えた朝、教誨室で一心に経を唱えている顕真の所に、間もなく刑が執行される関根が刑務官らに連れられてやってきた。関根が最後に希望したのは、顕真の教誨を受けることだった。

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顕真と文屋の尽力により事件の真相は分かりました。全方向が傷つき誰にとって救いがあるのか分からない気が滅入る話でした。寺の仕事も放ったらかして動いていた顕真は破門も覚悟していましたが、門主により引き続き教誨師の仕事も続けることになりました。

出だしが死刑執行シーンという中々読む人を選びそうな息の詰まる始まりで、「13階段」(高野和明著)を彷彿させられました。教誨師としてこの暴走はいかがなものかと思いつつも、最後までページを繰る手が止まらない一冊でした。気は滅入りますが読み応えのある本です。

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