中山七里『静おばあちゃんにおまかせ』あらすじとネタバレ感想

「静おばあちゃんにおまかせ」のあらすじと感想をまとめました。

警察が手掛ける難解な事件というミステリーをメインにしつつも、若手刑事の葛城公彦と女子大生・高遠寺円の恋愛も同時進行するという、いつもの作風よりだいぶ甘酸っぱい仕上がりになっています。他のシリーズでおなじみのキャラが出てきたりと、ファンには嬉しいサービス満点の一冊でもありました。

「静おばあちゃんにおまかせ」書籍概要

元裁判官の祖母と孫娘が難事件を次々解決!
警視庁の新米刑事・葛城は女子大生・円に難事件解決のヒントをもらう。円のブレーンは元裁判官の静おばあちゃん。イッキ読み必至。

「BOOK」データベースより

 

  • 静おばあちゃんにおまかせ(2012年7月/文藝春秋)
  • 静おばあちゃんにおまかせ(2014年11月/文春文庫)
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静おばあちゃんの知恵

警視庁捜査一課の刑事・葛城公彦は、3日間の休暇を取り神奈川県警を訪れていた。警視庁から異動した元上司・椿山警部の殺人容疑を晴らすためだ。彼には犬猿の仲である久世警視を拳銃で撃ち殺した容疑が掛かっていた。しゃがみこんだ状態の久世に斜め上の近距離から銃を発射、弾丸は心臓を打ち抜き内臓を破壊し体内に留まった。発見者は現場である横浜港埠頭の港湾関係者で、発見時久世はうつ伏せ状態だった。弾丸から使われた拳銃は椿山のものと断定、椿山は勾留された。だが椿山からは硝煙反応は出ておらず、回収した拳銃にも弾丸は適切に残っていた。

神奈川県警にはヤクザとの癒着が古くから噂されており、久世は積極的に関係を持ち、自身の立場を利用してヤクザへの便宜を図ることを良しとするタイプだった。警察内部にも恩恵を受ける人間は多く、組関係からも重宝がられていた久世を殺して得をする人間はいなかった。

警官による警官殺しという不祥事をかき回すかのような葛城を神奈川県警は敵視し、情報がなかなか得られない。葛城は元上司の無実を信じ私的に調査をして回るものの行き詰ってしまった。そこで思い出したのが、以前の事件の聞き込みの最中に出会った女子大生・高遠寺円だった。

円の祖母・静は日本で20人目となる女性裁判官だった。退官して長いものの、頭脳や洞察力など未だに衰える事はなく、円はいつもお小言を食らいつつも包容力がある静を尊敬していた。

葛城から話を聞いた円は、帰宅し祖母にも話して聞かせる。すい臓がんに冒されていた久世が組織を守るため、積極的にヤクザの摘発を行う椿山を道連れに自殺を図ったという説もあったが、静は久世の発見時の状態から犯人の意図を読み、これは簡単な消去法だと告げた。

 

元判事の安楽椅子探偵ものです。葛城が歩き回ってかき集めてきた情報をもとに、静はたちどころに事件を解決してしまいました。静から円へ、円から葛城へと伝わった情報は、神奈川県警の捜査本部で披露され無事に犯人は捕まりました。

なぜ久世はうつ伏せで見つかったのか、どうやって椿山の拳銃から発射された弾丸を久世の体内に残すことができたのか(椿山の体から拳銃が離れたことはない)、それらが可能な人間は限られており、順序だてて考えていくことで一人に絞られました。

静おばあちゃんの童心

美緒の祖母・喜美代はド派手なファッションで近所中の関心を集める存在だった。ある日一人暮らしをしている喜美代を訪ねると、ちょうど生協の配達日だったらしく配達員が困ったように玄関先にいた。空き箱を回収したのだが声をかけても応答がないのだという。合鍵を使って中に入った美緒と配達員は、花瓶で頭を殴られ息絶えている喜美代を見つけた。

喜美代の死亡推定時刻は午前10時から午後1時の間。午前10時過ぎ、ヒョウ柄スパッツに虎のTシャツ、金一色のつば広帽子という派手な格好で外出する喜美代を近所の人間が見ており、その後銀座界隈の5か所で11時50分を最後に金色帽子姿の喜美代の姿の目撃証言が集まった。

銀座から町田の喜美代の自宅まで約1時間、12時50分から美緒と生協配達員が発見する13時頃という短い時間が犯行時刻と見られた。玄関の鍵は締まっていたが裏口は開いていた。

資産家の喜美代は非常に金にうるさくケチで、財産を食い潰す身内を寄生虫と言い表すなど良好とはいえない間柄だった。容疑のかかる喜美代の5人の親族のアリバイは、一人暮らし中の無職の長男はハローワーク、多摩市に住む長女夫婦2人はホームセンターで買い物(レシート有)、その息子は大阪の大学に進学したため不在、亡くなった次女の娘の美緒は高田馬場で食事(レシート有)と全員が証明された。容疑者全員が鉄壁のアリバイがあり捜査に行き詰った葛城は、円の知恵を借りるため再び彼女に連絡を取った。

話を聞いた円は、捜査のために新たに用意した金ぴかのつば広帽子を被り、事件前に喜美代が辿ったとされるルートを歩くことにした。

自宅へと情報を持ち帰った円から話を聞いた静は、喜美代が殺害された時刻に容疑者全員に鉄壁のアリバイがあり、そのアリバイが正しいのだとしたら、現象の方に虚偽があると言った。

 

つまり、派手な格好で銀座を歩き回っていたという目撃証言は犯人による偽装(喜美代が生きていたと思わせるなりすまし)であることが、実際に金色の帽子を被って歩いた円の女性ならではの視点により判明しました。犯人は犯行時刻を誤認させたかったようです。

喜美代と似た背格好に扮装できる人物、という絞り方から犯人はあぶり出されました。

静おばあちゃんの不信

警察庁の部長の娘が新興宗教団体に入信してしまった。上司である管理官経由で父親からの依頼を受け、葛城は秘密裏に亜澄の無事の確認と脱会を引き受けることになった。宗教雑誌記者として取材を申し込み、亜澄と話をすることができた葛城は、彼女から教祖の奇跡を聞かされる。

独立した建物である祈祷所内で教祖が息を引き取った。亜澄も含めた7人の世話係によって、手首の脈や心音、瞳孔の拡大などで死亡は確認された。祈祷所に教祖の亡骸を残して外に出ると、教祖の妻の弓子の主導によって厳かに信者らの読経が始まる。その後再び祈祷所に入った亜澄は、いるはずの教祖がこつぜんと消えているのを目の当たりにした。復活のために一度自ら体を消滅させたのだと弓子は言う。以前も同じように復活した。数日後、再び教祖が復活し姿を現すはず……亜澄はすっかり感服し、脱会する様子はなかった。

祈祷所を作った大工によって、抜け道などはないことは証明されている。いんちきだと思うものの、密室状態の部屋から人間が姿を消すという謎が解けない葛城は、例によって円に相談を持ちかけた。これは簡単な人間消失マジックだと見破った静の言葉を証明して亜澄の目を覚まさせるため、円は体験入信を口実に単身で宗教団体「至福の園」へ乗り込んだ。

 

錯覚などを利用した人間消失トリックでした。ただ1度目はうまく行ったものの、今回は消失をしてみせたあと、不摂生のツケがきた教祖は本当に死んでしまったようです。

人間消失のやり方も見事でしたが、それよりも亡くなった教祖の死体遺棄方法が気持ち悪くて、せっかくのトリックも台無しになるほどの読後感の悪さでした。

静おばあちゃんの醜聞

完成すれば世界一となる電波塔の建設現場で、クレーンを操作中の作業員が刺殺された。現場は地上から400m上空の狭い運転室内で、地上の管制室のモニターを通じて作業員と通信ができる。監督を務める土岐たちが見守る中、モニターに異変が起きた。被害者の男が急に苦しみだしモニター画面を覆うように倒れた。土岐が作業用のエレベーターを使って被害者のところまで行ってみると、わき腹に作業用の大型カッターナイフが突き刺さっていた。

容疑者は別のクレーンを操作していたブラジル人労働者・パウロ。カッターナイフに指紋が付いていた事、被害者とパウロ以外は地上にいた事、作業前この2人が争っていた事などが理由として挙げられたが、パウロは否認を貫いていた。

葛城は、円の両親が車に轢かれて亡くなった事故を調べていた。それは円が中学生の頃の事件で、円は両親を轢いた人間からは酒の匂いがしたと主張したものの、捕まった犯人からはアルコールは検出されず、なぜか両親側に過失があったかのような流れになり犯人は裁判で執行猶予を勝ち取っていた。両親を轢いた人間は、現役の警察官だった。

管理官の財部に呼ばれた葛城は、外国人労働者問題が絡む建設現場での事件において、パウロが犯人だと言う証拠を早急に見つけ出すよう言われ、管轄署の刑事と組むことになり驚いた。葛城の相方は、円の両親を殺した男・三枝だったからだ。

パウロという犯人ありきの捜査の進め方に危険を感じた葛城は、直接パウロと話をし彼の無実を信じた。円に助けを求め、現場検証のため400m上空にも登った。捜査の過程で民間人を介入させたと憤慨する三枝と円が鉢合わせたものの、円は三枝の正体を知っても「両親の事故現場で見た犯人とは違う気がする」と首をかしげていた。

起訴をされたら何が何でも有罪に持ち込まれる。裁判官時代、自らの判決で冤罪を作り無実の人間の命を奪わせてしまった事を深く後悔している静は、パウロという新たな冤罪被害者が作られようとしている今、時間との闘いだといい上空400mでの衆人環視のもとに行われた殺人事件について、2つのことについて調べるよう円に言う。

 

静おばあちゃんの裁判官時代の醜聞・不動産業夫婦強盗殺害事件での冤罪については、その後の顛末もまとめて「テミスの剣」で詳しく読むことができます。結構重い話です。

真犯人はあるトリックを使って、モニターでの衆人環視の中、被害者を殺害していたことが分かりました。

静おばあちゃんの秘密

パラグニア大統領夫妻が来日し、宿泊中のホテルでは厳重な警備体制が敷かれていた。貸し切りのフロアでは、廊下を挟んで右側の奥から大統領夫人、大統領、大佐の部屋があり、左側の3部屋にはそれぞれ中佐と少佐が入り、出入り口のドアを全開にして寝ずの番で大統領夫妻を警護することになっていた。

午後10時半、警視庁警備課の藤堂は、大佐の部屋に呼ばれ警備体制の打ち合わせをしていた。

午後10時40分頃、客室係は、中佐と少佐から依頼されて3人分の食事を運び配膳した。

午後10時45分頃、フロント係は、大統領夫人からの電話で、プーゲ海で獲れたオマール海老のリゾットを用意しろという無理難題を言われていた。

午後11時、大統領の部屋で銃声が響いた。客室係のマスターキーで部屋に入った大佐と藤堂は、額を拳銃で撃たれて死んでいる大統領を発見した。床には拳銃、ベッドには大統領のものと思われる携帯電話があった。犯人の姿はどこにもなかった。

藤堂はすぐさま部下たちに命じホテルの出入り口を全て塞いだが、犯人らしき人物は見つからず仕舞いだった。窓ははめ殺しで枠ごと取り外した形跡はない、部屋のドアは3人の兵士(中佐と少佐)と客室係の目があったが、誰も出入りはしなかった。フロアにいた人間全員に確固たるアリバイがあるなか、まるで煙のように犯人は姿を消した。

国際問題に発展しかねない事件の解決を葛城は命じられた。管理官の財部たちは、葛城の背後にいる円の推理力(実際は静)に期待していた。

パラグニアは数年前、殺された大統領によりクーデターが起こされ、強力な独裁政治が敷かれていた。情報も遮断されるなか国連がようやく内情を把握したときには、大統領と軍部に金を吸い取られ経済的に困窮し疲弊した国民が多く飢えに苦しんでいた。恐怖政治により全員が口を揃えたように大統領を称えてはいるものの、実際は大統領の死を喜ぶ国民の方が多いというのが現状だった。

円経由で話を聞いた静は、今回の事件は誰が犯人であってもあまり関係がないと言った。

円と先輩刑事の犬養の協力により大佐達の帰国前に事件は解決し、日本も何とか面子を保つことができた。

葛城から内々に円の活躍を聞いていた管理官の財部と警備部長の釘宮(「静おばあちゃんの不信」の亜澄の父親)、捜査一課長の津村は、様々な事件解決の謝辞を述べるため高遠寺宅を訪れることになった。円の家にはなぜか三枝も呼び出されており、6年前の円の両親が遭った車の事故について、真犯人を指摘するための最後の幕が開けようとしていた。

 

国民から憎まれていた大統領の殺害事件と、円の両親を轢き殺した事件の2つが解決する短編でした。三枝は真犯人により罪をかぶせられていました。今でいうパワハラですね。ですが出世の道が頭をよぎり濡れ衣を着ることを良しとしたのですから、三枝も同罪です。

轢き逃げの真犯人が高遠寺宅で断罪され、今まで多くの謎を解いてきた静おばあちゃんの正体も明らかになりました。

 

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静おばあちゃんの話はこれで終わりかなと思っていましたが、「静おばあちゃんと要介護探偵」で再登場しました。

こちらは裁判官を退官して20年が経った静さんと、傍若無人唯我独尊がトレードマークのような香月玄太郎がコンビを組んだ(?)短編集となっています。

こちらもテンポが良くて面白いので、おすすめです。