中山七里『笑え、シャイロック』あらすじとネタバレ感想

中山七里さんの「笑え、シャイロック」のあらすじと感想をまとめました。

金融モノ、しかも渉外部という不良債権回収モノということで正直苦手だなと思っていたのですが、読み始めるとすぐに引き込まれ、勢いに任せてぐいぐい読み進めてしまいました。不良債権回収のアイデア(回収方法)も面白くて、ミステリー以外の部分でも満足の一冊でした。

章ごとに話が区切られていますが、全て繋がっている長編ものでした。

スポンサーリンク

「笑え、シャイロック」書籍概要

帝都第一銀行に入行し、都内の大型店舗に配属が決まった結城。そこはリーマン・ショック後に焦げついた債権の取り立て部署、上司となるのは伝説の債権回収マンとして悪名高い山賀だった。百戦錬磨の山賀の背中を見ながら、地上げ屋、新興宗教、ベンチャー企業など、回収不可能とされた案件に次々と着手せざるを得ない結城。そんなある日、山賀が刺殺体で見つかる。どうやら帝都第一銀行の闇を山賀が握っていたようなのだ―。“どんでん返しの帝王”が放つ、ノンストップ・金融ミステリー! 「BOOK」データベースより

  • 笑え、シャイロック(2019年5月/KADOKAWA)

わらしべ長者

帝都第一銀行に入行し営業でエリート街道を歩いていた結城真悟は、4年目の春に大型店舗の新宿支店渉外部に配属された。樫山美奈子部長のもと結城の直属の上司となったのが、山賀雄平だった。山賀は全国に名を馳せる凄腕の債権回収の実績を持ち、その容赦のない取り立てから「シャイロック山賀」と揶揄されている人物だった。

山賀の下で最初に向かったのが、自称「わらしべ長者」の柏田の家だった。柏田は早期退職後に退職金を元手に株やデイトレードに手を出した。少ない資金からスタートしどんどんと資産を増やす様子を称してわらしべ長者を名乗っていたが、3年で運用資金は焦げ付き帝都第一銀行で個人ローンの契約をした。それが膨れ上がり今では500万円を超す金が不良債権化しようとしている。パートをしている妻のおかげで何とか生活を維持しているようだが、とても返せるような状態ではなかった。山賀の家は手入れもされず荒れ放題、仕事場と称する自室もジャンクフードや食べ終えた食器などのゴミで溢れ返っていた。返す金の当てがない柏田は開き直り、強気な態度で山賀に対応する。対する山賀はどういう交渉をするのかと思いきや、あっさりと帰っていった。だが山賀には回収の目星がついていた。柏田の家を仮差押えしてまもなく、柏田の司法書士から自宅を売却すると連絡が入った。山賀は荒れた生活を送る柏田の家を観察し、妻に見捨てられ離婚が近いと読んだ。慰謝料を払うためには家を売るしかない。読みは当たり、帝都第一銀行は柏田から利息も含め全額回収となった。必要なのは戦略とタイミングと実行力だと山賀は言った。

次は大田区にある高級スピーカーのユニットを製造している工場だった。昔ながらの頑固で意固地な職人気質の社長は、銀行から融資を受けて職人の技術を結集したユニットを作り上げたものの中途半端な価格帯に設定したのが仇になり、高級志向の客からも安物志向の若者からも見向きもされず借金だけが残った。返す意思があるが金の工面がまるでつかないと言い張る社長に対し、山賀は翌日の正午を期限として破産申し立てをすると告げ、社長の言い訳や懇願に一切の耳を貸さなかった。翌日すっかり憔悴した様子で銀行にやってきた社長に対し、山賀はある提案を行った。それは破産を免れるだけでなく銀行への債務が消えたうえ余裕が生まれる内容だった。社長はその提案を飲んだ。腹案があるのなら最初から出せばよかったと言う結城に対し、山賀は頑固者の社長にいきなり提案したところで受け入れるどころか交渉すらできなかっただろうと返す。社長は山賀に恨み言をいいながらも、経営を疎かにしていた自分を反省し感謝の言葉を述べた。

久しぶりに恋人の当麻友紀と夕食を共にした翌日、開店時間を過ぎても山賀は姿を現さなかった。客のところへ行っているのだろうと気にしていなかった結城だが、正午を過ぎても連絡一つない。不審に思った頃、部長の樫山がオフィスに飛び込んでくると、山賀が遺体で見つかったと告げた。

後継者

諏訪と時沢という2人の刑事に事情を聞かれ、樫山とともに山賀の遺体と対面した結城は、山賀が担当していた案件は全て自分が引き受けると言った。悪名高い山賀だったが、結城にとっては学ぶところの多い人でもあった。そんな結城に対し樫山は、数年後にある銀行との合併を控えていること、粉飾して数字では上がっていないものの隠れた不良債権が山のようにあるという情報(弱み)が合併先の銀行に漏れていること、合併時に相手に主導権を握られないよう隠れ不良債権をきれいにするため新宿支店を本部とした新たな渉外部を立ち上げ一本化する計画があることを話す。結城は、山賀が受け持っていた一筋縄ではいかない難しい隠れ不良債権ごと引き継ぐ決意をした。

そんな結城に諏訪が接触してきた。山賀を殺した犯人を捕まえるという共通の目的のため、結城に顧客のアリバイを聞き出して教えるよう要求する。山賀は午後10時半頃に退社した後、翌早朝公園内で背後からわき腹を刺されて息絶えているのが発見された。離婚して一人暮らしだった山賀はプライベートも仕事に充てているような生活だったため、犯人は山賀が担当した顧客の中にいると警察は考えていた。田舎から山賀の遺骨を引き取りに来たい両親と話をした結城は、彼が銀行員になった理由のようなものを聞く。両親から真っ当な銀行員になってほしいと言われた結城は、海江田物産の本社オフィスへと向かった。相手は2代目社長・海江田大二郎、約20億円もの債権を持ち山賀が担当していた顧客だった。

創業者の父のあとを引き継いだものの海江田には経営者としての才能も心構えもなく、ただ社長という肩書で政治家、スポーツ選手、芸能人などの有名人らとの付き合いを大事にしているような人物だった。海江田は債務の返済どころか、2代目という立場の辛さを訴えるばかりで従業員たちの生活など頭にもない様子で、結城はため息をつきたくなるのを耐えなければならなかった。どうやって20億もの金を回収すればよいのか、頭を悩ませている結城は恋人の友紀の言葉にヒントを得る。そんな時、ロックシンガーの住良木が覚せい剤取締法違反で逮捕というニュースが流れた。住良木は海江田が社長室に並べていた有名人とのツーショット写真の中にもいた。結城の脳裏に天啓のようにあるアイデアが閃いた。

結城の返済のための提案を海江田は渋々といえど呑み込み、債権が回収されたのを確認し落着した。結城はさりげなく5月28日の夜から翌朝にかけての海江田のアリバイを聞き出す。山賀の死亡推定時刻、海江田は住良木と飲み明かしていたのが確認された。

振興衆狂

次の回収先は新興宗教団体・奨道館、窓口は館長の稲尾だった。信者を増やしていく過程で支部の建設費用として帝都第一銀行から20億の融資を受けた。だが信者の数は頭打ちとなり、教祖の本を出版して金を捻出するはずだったが失敗し逆に1億をどぶに捨てる結果になり、返済が滞っていた。稲尾は宗教を盾に取り、帝都第一銀行が債務放棄をしなければ天罰が下るなどと脅してくる始末だった。

稲尾との初の交渉が喧嘩別れに似た形で終わった翌朝、新宿支店には白装束の集団が押しかけると言う騒動が起きた。通報を受けてやってきた諏訪のおかげで事なきを得たものの、その夜、結城は奨道館の信者と思われる連中に襲撃され入院沙汰になる。銀行からは部長の樫山を通じて暗に被害届を出さないよう求められる。反発を覚えるものの樫山の債権回収に対する考え方がかつての山賀と同じだったことから、結城は奨道館から全額回収するある方法を樫山に話した。それは、帝都第一銀行に無事に全額返済がなされる一方、奨道館側には救いにならないやり方だった。

稲尾を説得し奨道館に大量の資金を調達する方法を提案した結城は、無事に奨道館から回収を終えた。同時に反社会的勢力になりうる団体として公安に目を付けられ、資金不足で自滅を期待されていた奨道館に新たな資金調達法を伝授したとして諏訪から非難される。それぞれが信じている物が違うに過ぎないと流した結城は、諏訪に奨道館の連中のアリバイを報告する。稲尾以下、信者たちは5月28日の夜は読経を行っていて外出した者はいなかった。

タダの人

ずっと野党に甘んじていたものの政権を取り幹事長にまでなった椎名武郎だったが、度重なる政治運営の失敗で国民に見放され次の選挙では落選してしまった。今では何の肩書も持たないタダの人となり、選挙資金としてある絵画を質草に融資を受けた10億円も、返済どころか生活にも苦労するありさまらしい。結城の次なる山賀案件は、この元政治家・椎名と唯一となってしまった秘書の玉置だった。挨拶を兼ねた初の交渉は、海千山千の玉置に圧倒されて終わってしまった。

どう頑張っても今の椎名に返済能力はないと踏んだ結城は、質草である絵画の価値を上げることを考えた。絵は現代アートの期待の新人・東山桃李の作品で購入価格は220万だった。なぜそれが10億もの融資の担保になりえたかというと、当選を前提とした政府系金融機関と椎名との密約に帝都第一銀行が巻き込まれたからだった。挙句、落選と同時に梯子をはずされ帝都第一銀行だけが割を食った。

絵画の価値を上げたところで売りに出し、売却した金の中から債権を回収する。そのためには220万の絵画に10億以上の価値を付けなければならない。結城は東山桃李を見出したギャラリーのオーナーに協力を持ち掛け、椎名たちの弱みを利用して質草の絵画を高額で売却することに成功する。諏訪からは政府系金融機関と椎名の関係を暴こうとしていた捜査二課が、今回の件で2者の縁が切れたと恨み言を言っていることを聞かされた。5月28日の夜から翌朝にかけての椎名のアリバイは、椎名の行動を全て覚えている秘書の玉置によって成立し裏付けもとれた。

人狂

山賀案件の最たる難所で、かつ山賀の殺害における最重要人物と目されているのが、指定暴力団のフロント企業「アーカル・エステート」というディベロッパーの社長・柳場だった。大手ゼネコンらがある地域の再開発を計画し、周辺に住む住人や店の地上げをアーカル・エステートが担っていた。バックについているものを承知していたものの、大手ゼネコン絡みということで回収が確実と見込まれたため、帝都第一銀行はアーカル・エステートに55億の融資を行っていた。だがリーマン・ショックを経てゼネコンは再開発から手を引き、アーカル・エステートには借金と売るに売れない中途半端な土地だけが残った。柳場は自分たちが最も大事にしているのが面子であり、返せるものならきっちり返すと言うものの現時点では余力はない。また表帳簿・裏帳簿とも提供するのを拒否し、追い出されるようにして結城は事務所をあとにした。

外に出ると諏訪が待ち構えていた。結城は柳場と会った印象を、顧客としては物騒だが彼らにとって殺人はビジネスとして割に合わないのではないかと伝える。結城はアーカル・エステートの面子を最優先しきっちり資金を回収できる計画を作り上げると、部長の樫山に同行を依頼する。渋る樫山に対しては危険に対する策を立てていることや、今回の案件が渉外部の浮沈にかかわることなどを説明し説得する。当日は諏訪も協力者となった。柳場との交渉の様子を携帯電話を通して待機している諏訪のところへ送るよう準備すると、結城は樫山を伴ってアーカル・エステートを訪問した。

結城の提案は柳場たちにとっては目から鱗の計画だった。驚きつつも乗り気になった柳場は、グループの建設会社に声をかけてみるという。交渉は成功し、喫茶店で会話を聞いていた諏訪も結城の交渉術を称える。そして今回結城に協力したのは、柳場と樫山の関係を確認するためだったと明かす。樫山は渉外部に異動になる以前の審査部時代、柳場から200万を受け取った代わりに便宜を図り55億の融資の稟議書を通していたことが明らかになった。また5月28日の夜から朝にかけては自宅にいたと主張するが、一人暮らしをしているため証人はいなかった。

警察は樫山が柳場から金銭を受け取った事実を山賀に知られたため殺害したと考えた。樫山は金銭の授受を認めた以外何も話さないと諏訪が零す。樫山の銀行マンとしての姿勢や山賀の性格から、結城は樫山=犯人説に違和感を覚えはじめる。そしてある仮説が頭に思い浮かぶと、諏訪に調べてほしいことがあると言った。

 

□□

その後諏訪によって山賀を殺害した犯人が逮捕されました。樫山は犯人ではありませんでしたが、柳場からリベートを受け取った件で懲罰員会にかけられ現場復帰は難しい状況になりました。結城は渉外部のエースとして立派に山賀の後を継いだようです。

”振興衆狂”に出てくる奨道館は「ふたたび嗤う女」の”伊能典膳”の章に登場する奨道館と同じです。エピソードとしては「再び嗤う女」のその後という形になっていました。

404 NOT FOUND | 謎はすべて解きたい
ミステリー小説、推理小説のあらすじや感想を中心に書いています。

作品同士でリンクしているのも読む楽しみの一つですね。中山七里さんで一番最初に読んだのがクラシック系(ピアノ)だったのですが、どんなジャンルでも面白いというのがこの作家さんの凄さだと思います。