中山七里『静おばあちゃんと要介護探偵』あらすじとネタバレ感想

「静おばあちゃんと要介護探偵」のあらすじと感想をまとめました。

こちらは「静おばあちゃんにおまかせ」の探偵役・高遠寺静と、「さよならドビュッシー前奏曲 要介護探偵の事件簿」の探偵役・香月玄太郎がコラボした短編集になっています。

どちらもご高齢にもかかわらずお元気で、頭脳も冴え渡っています。まるで年齢を感じさせない勢いのある小説なので、あっという間に読み終わってしまった一冊でした。

「静おばあちゃんと要介護探偵」書籍概要

大学でオブジェが爆発し、中から遺体を発見。詐欺師を懲らしめるため2人は立ち上がった。父が認知症で悩む男性の相談に乗ったら…。同級生が密室で死亡。事故か、他殺か、自殺か。高層ビルから鉄骨が落下、外国人労働者が被害に。『さよならドビュッシー』でおなじみ、玄太郎おじいちゃん登場。介護、投資詐欺、外国人労働者…難事件を老老コンビがズバッと解決!

日本で20番目の女性裁判官で、80歳となった今も信望が厚い高遠寺静。お上や権威が大嫌いな中部経済界の怪物、香月玄太郎。2人が挑む5つの事件。「BOOK」データベースより

  • 静おばあちゃんと要介護探偵(2018年11月/文藝春秋)

 

二人で探偵を

裁判官を退官して20年、後進の育成に力を入れている高遠寺静が、名古屋の法科大学院の依頼で講演を行っていると、車いすの老人が揶揄するような言葉をかけてきた。地元の有力者・香月玄太郎だった。傲岸不遜を絵に描いたような老人の、金と権力に物を言わせるような振る舞いに静は迎合できない。講演後の立食パーティーの最中、会場の外で爆発音がした。

大学の職員に無理やり案内させ現場へと赴いた玄太郎と静は、ある芸術家の作ったオブジェが爆破されているのを見た。そして爆発の衝撃で壊れたその大理石の台座から、人体が覗いていた。被害者の男は櫛尾。オブジェの製作者だった。

人ひとりの力ではとても持ち運べない台座に人を詰め込むには、設置時しかチャンスがない。オブジェが設置されたのは5年前、だが櫛尾が殺害されたのは一昨日の夜から昨日にかけてだった。

警察の捜査に土足で踏み込むような行動をする玄太郎に眉をひそめつつも、成り行きで行動を共にすることになった静は、櫛尾が死亡する前、同業者と飲んだ際に同業者が大学に依頼されて描いた壁画の話を聞いた途端に顔色を変えたことを聞いた。

玄太郎は大学にオブジェの発注書を提出させるよう警察に求めさせたが、記録は残っていないという返事だった。すると何を思ったか、玄太郎は大学からの依頼を受けて櫛尾にオブジェを発注した建設会社へと単身乗り込んでいった。警察から玄太郎の暴走を泣きつかれた静も建設会社へと向かう。玄太郎はある人物と対峙し自首を強要していた。意味が分からないと首を捻る横で、静もまたその人物が犯人だろうと同意した。

 

要介護探偵としても名が知られる玄太郎と様々な犯罪者と法廷で対峙してきた静、両方共がほぼ同時に犯人が誰か知ることになります。玄太郎が犯人を追い詰める(糾弾する)係、静が解説係といった役割に自然と別れるようです。

大学から壁画の発注を受けた同業者の報酬を聞いた櫛尾は、自分がオブジェ製作で受け取った金額との差異に驚きます。仲介していた建設会社が中抜き(報酬のピンハネ)をしていることに気づいたのです。金銭トラブルによって櫛尾は殺害されました。

また、オブジェの爆破はプロの仕業だと見抜いた玄太郎によって犯人とオブジェを爆破した人間は異なることも分かりました。

5年前に設置されたオブジェの台座から遺体が発見されたトリックは、種明かしをされれば意外でも何でもないものでした。

鳩の中の猫

地域の金を持った老人達を説明会に集め、催眠商法まがいのやり方で大金を巻き上げる詐欺グループがいた。だが警察に届けようにも、やり方が巧みで詐欺罪が成立しにくいと言われてしまう。何人もの被害者がいると相談を受けた静は、取りまとめ役を立てて被害者団体を作ってはどうかと提案する。取りまとめには町内会長などが良い。静に相談してきた男性の住む地域の町内会長は、香月玄太郎だった。

静の話を聞いてもあまり乗り気ではなかった玄太郎だったが、美代という老婦人も訪ねてきて詐欺被害にあったことを聞くと、急にやる気になった。会社名を新たにして同様の詐欺をやらかそうと撒いていた説明会のチラシを手に入れた玄太郎たちは、客として説明会会場へと乗り込む。詐欺グループの用意したお粗末な決算資料の粗を徹底的についてボロを出させようという作戦だった。もちろん地元の警察を出動させ、ひそかに会場を見張らせていた。

だが説明会当日、投資アドバイザーの小酒井が控室で倒れているのが発見された。背後から何者かに首を絞められたらしく息はあった。控室に鍵はかかっていなかったものの、会場の建物の出入口は警察官が見張っており、出入りはなかった。窓は大人が出入りできる隙間はなかったものの、こちらも美代の息子である警察官が見張りを務めていた。

意識が戻った小酒井の証言で、誰も控室には入ってこなかったこと、ドアと向き合う位置のソファに座っていたがドアも開かなかったこと、いきなり何かが動いたと思ったら物凄い力で首が絞められたことが明らかにされた。まるで透明人間の仕業かのようだった。その後小酒井は、ソファの下のラグマットが捲れ上がったと思った瞬間首を絞められていたとも証言した。

玄太郎と静は、犯人が何らかのトリックを使って小酒井の首を絞めただろうと見て、控室を調べ始める。

 

トリックが分かると犯人もすぐに特定されました。その人物以外には不可能なトリックだったからです。

警察から追及を受けた小酒井は、詐欺グループの仲間を白状し始めたようです。

邪悪の家

玄太郎の恩人の昭三が認知症を患い、行きつけの店で万引きを繰り返すと息子から相談があった。だが盗って行くものは自分では食べない弁当や総菜、サイズの異なる服などだった。

縁があって昭三、玄太郎とともに名古屋名物の味噌カツを食べることになった静は、昭三の認知症が本物で、自分の万引き行為を覚えていないことを知る。昭三と同居している息子の家の庭には、コンテナが置かれていた。貸コンテナ業を営んでいるものの経営は芳しくないらしい。昭三が盗ってきた品物をコンテナの中に持ち込み、息子から怒られる姿を静たちは目の当たりにした。コンテナ内部は、腐った弁当や着古したような服でゴミ箱のようになっていた。

だがそのコンテナと昭三の行動を見たことで、玄太郎と静はある仮説を立てた。息子たちに支払い能力がないとみると、玄太郎は自分が世話をするといって昭三を強引に施設に入れたあと、しばらくは静観していた。2週間ほど経った頃の深夜、息子の家にコンテナ車がやってくるのを警察、入国管理局とともに静たちは確認した。

 

違法な外国人労働者が急増しているのを受けての今回の事件でした。密入国したあとの滞在先などが掴めないでいましたが、これで一部解明したようです。認知症の昭三は、わけが分からないままであっても、人助けのために食料品や衣類を調達しようとしていたのでした。

菅田荘の怪事件

静の女学生時代の親友・美千代が、自宅である菅田荘で夫とともに死んでいるのが見つかった。親戚の連帯保証人になって退職金などすべてを失い、認知症を患う夫の介護をしながら慎ましく暮らす美千代に、警察は老々介護疲れによる自殺という見方もしていたが、四半世紀経つ今も女学生の頃のままの性格の美千代が自殺をするとは到底静には信じられなかった。

また自身の両親の借金を負った美千代夫妻から責められるどころか、両親が亡くなった後は親代わりになってくれたという甥は、彼らは人から恨まれるような人物ではないと言い切った。

遺書もなかったため、旧式の湯沸かし器が不完全燃焼を起こした一酸化炭素中毒、つまり事故か過失という方向に落ち着きそうだった。

一方、玄太郎の会社「香月地所」では、手掛けた住宅の火災警報器が誤作動するというクレームが頻発していた。徹底的に調べたものの住宅に瑕疵は見当たらない、警報器メーカーの調査でも機器に異常はなかった。興味深いのは、同じ時期に建てた同じ警報器を使った住宅でも、誤作動を起こすのは決まってある地域の住宅だけだった。クレームの最中、とうとう死者がでた。一酸化炭素中毒によるもので、亡くならないまでも具合を悪くする人も続出した。

香月地所以外が建てた住宅からも同様の被害が出たため、問題の矛先はガス会社へと向けられたが、慌てて調査を行ったガス会社の見解は「異常なし」というものだった。ガス会社社長とは商工会でも顔を合わせることがあり、あくどい商売をしていることを知っている玄太郎はその回答に「売られた喧嘩は買う」と目を輝かし、問題の起こった地域のアルファルトを剥がし始めた。

 

経年劣化とアスファルトからの荷重でガス管が上下にずれ、そこから漏れたガスが下水道管を伝って住宅へと侵入していったようです。保守点検を怠ったガス会社の責任でした。

菅田荘は問題の起きた地域のすぐそばに建っており、自然現象の偶然から運悪く菅田荘まで漏れがガスが行ってしまったというのが警察の最終見解となりました。

ただ納得のいかなかった静は葬儀の際に美千代の甥に面会し、ひそかに真実を知ることとなります。

白昼の悪童

香月地所が手掛けるランドパーク建設地でベトナムからきた外国人労働者が死亡するという事件が起きた。歩いていたところに屋上クレーンから落ちてきた鉄骨が直撃したものだった。全身が潰された遺体は、医師らの手で修復が施されており縫合痕だらけだった。その中で古い縫い跡を玄太郎と静は確認した。ヘソの下を一直線に縫ったようなもので、不審に思った玄太郎が無理やり解剖させると手術痕がどこにもないことが分かった。またクレーンを操縦した人物が誰かは不明のままだった。

被害者を派遣していた会社は賃金のほとんどをピンハネしているヤクザのフロント企業で、被害者の実家が分かるような記録は残っていないという。入国管理局へ出向いた玄太郎と静は、過去に同じ派遣会社のベトナム人が死亡した事件があることを知る。その被害者の腹にも同じような縫合痕があった。

腹部に覚せい剤を隠して入国し、税関を通ったあとに取り出す。その後は日本への渡航費用という借金をカタに働かせて賃金を吸い上げる。家族を人質に取られている労働者たちは口をつぐんで言いなりに働くしかない。それに反旗を翻したのが、殺された2人ではないかと警察・入国管理局ともども玄太郎たちは推測した。だが証拠がないと警察は何もできない。

証拠となる覚せい剤を見つけるため、玄太郎は自分が足が不自由であることを利用し、かなり強引で無茶苦茶な手段を使ってヤクザの自宅へと殴り込みをかけた。

 

普通に考えればかなりの違法行為ですが、無理やり理屈をつけてやり通してしまうのが玄太郎さんで、目論見通り無事に覚せい剤の発見に至りました。歩いている被害者めがけて上空から鉄骨を落とすという荒業の殺害方法でしたが、トリックがあることが判明しました。凝ったミステリーではなく、とても現実的な方法でした。

 

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無理が通れば道理が引っ込むを地で行くような玄太郎と、元判事という経歴上違法行為には口を挟まずにはいられない静のコンビでした。

戦後をたくましく生き抜いてきた人たちの巻き起こす騒動ってすごくパワフルですね。口だけでなく行動も伴っているのがまた爽快でした。