中山七里『ふたたび嗤う淑女』あらすじとネタバレ感想まとめ

「ふたたび嗤う淑女」のあらすじと感想をまとめました。こちらは「嗤う淑女」の続編になっており、前作での設定を引き継いでいるのでいきなりこちらから読むと分からない部分もでてくるかと思います。一言で言うと人が絶望していく様子を楽しむ詐欺師の話です。

今回は5人の人間が次々に被害に遭うのですが、それぞれが破滅していく過程は特にミステリーではありません。なぜ5人の人間をターゲットにしたのか、誰も推理しませんが最後まで読むと自然にその謎が解けているというストーリー展開になっています。

「ふたたび嗤う淑女」書籍概要

「嗤う淑女」の続編で5つの短編を通して読むことによって一つの事件になっているという構成です。時系列に並んだ5人の被害者視点で話が進んでいきます。

  • ふたたび嗤う淑女(2019年1月/実業之日本社)
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藤沢優美

NPO法人「女性の活躍推進協会」の事務局長をしている優美は資金集めに苦労していた。設立当時は勢いがあったものの政権交代とともに寄付金が集まらなくなり、運営資金すら危ぶまれる事態に陥っていた。そしてこのNPO法人には裏の顔があった。衆議院議員・柳井耕一郎の資金団体である。しがない派遣社員からNPO法人の事務局長に大抜擢された優美には、この協会で実績を上げゆくゆくは柳井の私設秘書になるという野望があった。なんとしてもお金を集めなくてはならなかった。

そんな時、採用して間もないスタッフ・神崎亜香里からある人物を紹介される。個人を顧客としたFXトレードで莫大な利益を上げている女性だという。<野々宮トレードオフィス>の経営者・野々宮恭子という女性に半信半疑で預けた優美のお金である20万円は、3週間後には30万円になって手許に戻ってきた。恭子の能力は本物だと確信した優美は、恭子に言われるがまま協会の運営資金・柳井の事務所から借り受けたお金・洒落にならない金融機関などから1億円をかき集めて託した。借りたお金が倍以上になって戻ってくれば柳井も優美を認めるに違いない。

だが8日が経って優美の元に届いた最終の損益報告書の額に目を見張る。1億円余り投じたお金は3万円少々にまで目減りしていた。慌てて<野々宮トレードオフィス>へ駆けつけるが、すでにもぬけの殻だった。ようやく騙されたことに気づくが、恭子とも亜香里とも連絡がとれない。2人はグルだったのだ。警察に被害届を出したものの、恭子のやり方と証拠のなさから例え捕まえても起訴もできないと言われてしまう。

全てを失った優美は、ふらふらと協会のあるビルの屋上へと昇って行った。つまらない人生だったと自分自身で締めくくると、そこから身を投じた。

伊能典膳

藤沢優美の自殺から「野々宮恭子」の名前に引っかかるものを覚えた所轄の刑事は、警視庁の麻生に連絡をとっていた。彼は以前、野々宮恭子を巡る裁判で手痛い目に遭っていたからだ。

新興宗教「奨道館」で副館長をしている伊能の役目は、信者の獲得=資金を集めることだった。伊能は信者の組織票と引き換えに国会議員の柳井とその派閥議員、その後援会らを信者にするという手法で勢力を伸ばしてきたが、政治家の派閥にも限りがあった。また教祖にカリスマ性がなく、不景気も相まって信者の数は頭打ちの状態になっていた。目の上のたんこぶである館長からも嫌味を言われる日々のなか、ある女性信者が伊能に声を掛けてきた。最近入ってきた女性だが、あっという間に館長の従者となった神崎亜香里という人物だった。亜香里は<野々宮ライフプランニングスタジオ>の野々宮恭子を伊能に紹介した。

信者を獲得したいという伊能に対し、恭子が提案したのは「本の出版」だった。1冊1,600円で8万人いる信者に1人あたり10冊購入してもらえば、必要経費を除いても11億円を超える利益が見込め、原稿は文才がある亜香里がゴーストライターになるという。すっかり乗り気になった伊能は、出版に必要な1億円余りの資金のねん出を館長に約束させることに成功した。だが館長もしたたかで、伊能のマンションを抵当に入れ銀行から出版資金を借りると言う。成功間違いなしの事業だからと契約書にハンコをおした伊能だったが、納品された本を見て驚く。確認した時はきちんと経典のような出来だった原稿が、教祖のイカサマな正体と館長の悪口で占められていたのだ。もちろん信者に購入させられない代物だった。怒り狂った館長にその場でマンションを売却させられた伊能は破門となり、奨道館を追い出された。

<野々宮ライフプランニングスタジオ>へ行ってみるが営業時間を終え事務所は閉まっていた。電話をかけても連絡が取れない。

とぼとぼと夜道を歩いていた伊能は、突然白装束の連中に囲まれた。汚れ仕事を請け負う部署の人間たちだ。天誅の言葉とともに暴力に晒され意識が朦朧とするなか、伊能はどこかへ運ばれるのを感じる。だが宙に放り出された一瞬後、恐ろしい衝撃とともに伊能の意識は途切れた。

翌日、恭子と亜香里のいる事務所へ、奨道館の侍従官・久津見が訪ねてきた。伊能がジャンクション近くの陸橋から飛び降りて死んだのだという。これで議員の柳井は選挙で組織票が見込めなくなったと言う。そしてもし2人の目的が柳井耕一郎であるならば、共同戦線を張らないかと持ち掛けた。

倉橋兵衛

柳井耕一郎の後援会長を務めている倉橋は、自分に不動産業を営む才能がないことを知っていた。親の遺産を食いつぶすように暮らしているがプライドだけは高かった。

倉橋の元には柳井の秘書・彩夏がたびたび顔を見せる。若くて優秀な秘書を持つ柳井を羨ましいと思う反面、あんなハリボテに国会議員が務まるのなら自分にできないはずがないという思いもあった。後援会長をしているものの、倉橋が応援していたのは柳井の父・幸之助であって息子にはあまり期待していなかった。そんな頃、柳井と彩夏のスキャンダルがマスコミにすっぱ抜かれた。

鬱屈した思いを抱えていた倉橋は、新たに後援会に入会してきた久津見から凄腕の当選請負人の話を聞く。<野々宮ライフプランニングスタジオ>の代表・野々宮恭子で、彼女と話をしていくうちに倉橋は自らが政治家となる姿を強く描いていく。まずは都議選に出てはどうかという提案に乗り気になった倉橋は選挙資金を作るため、妻の猛反対を押し切って恭子の言うがままとある土地の売買に手を出すことにした。不動産業を営む倉橋にとって土地売買はホームのようなものだ。恭子の説明にも瑕疵は見当たらない。意気揚々と2億円の借金をして土地の売買契約を済ませた倉橋は、登記の変更へ行った会計士からの連絡で騙されていたことを知らされた。書類は偽物だったのだ。

慌てて恭子の事務所へ向かったが既に部屋はもぬけの殻だった。恭子や久津見、スタッフの亜香里とも連絡が取れない。会計士と2人で警察へ届けたが、典型的な地面師の仕事で詐欺として受理するが期待しないでほしいと言われただけだった。

帰宅後、騙されたことを知った妻と大喧嘩になり、倉橋は妻を黙らせるため暴力に訴えた。血を流す彼女を放置し早いピッチでウィスキーを傾けていた倉橋は、ふいに背後に人の気配を感じた。

振り返った倉橋が最後に見たのは、クリスタル製の灰皿を大きく振りかぶる妻の姿だった。

咲田彩夏

彩夏は自分が支えるボス・柳井耕一郎の愛人だった。仕事に不満はないが30をとっくに過ぎてしまった年齢のことを考えると、柳井の妻の座に収まる初美に対して複雑な思いを抱いてしまう。このまま日陰の身に甘んじていては、結婚や出産の可能性がどんどん遠ざかっていってしまう。だが柳井には離婚する意思はなく、彩夏は何事もないかのように秘書の仕事に忙殺され続けるしかなかった。

柳井の後援会は、会長の倉橋が妻に撲殺されて以降空中分解に近い状態だった。だれも会長になりたがらない。なにせ後援会長というのものは細々とした仕事が多いうえ多少の持ち出しも覚悟しなければならないポジションなのだ。彩夏はよく働く久津見に会長職の打診をするが、久津見は分不相応だからと遠慮する。多少の無理を押しつつ話を進めていくうち久津見に彩夏の鬱屈した思いを見抜かれてしまう。

久津見が相談があると議員会館にやってきた。面会した彩夏は、久津見から後援会の一人が偶然撮ったという写真を見せられる。一組の男女がラブホテルへ入っていくところだった。後ろ姿だけでは確定とはいえないが、男は柳井と対立する野党議員の畑田、女は柳井の妻・初美に酷似していた。この写真を見せれば柳井の初美に対する心境に変化が現れるかもしれないと一握の期待を込めつつ柳井に報告すると、驚きはしたものの何かあった場合の畑田に対する攻撃材料になるとしか考えていなかった。彩夏が精神的に疲弊していることを見抜いた久津見が、彩夏を<野々宮ライフプランニングスタジオ>の野々宮恭子に引き合わせた。

恭子の人当たりの良さと落ち着いた物腰、説得力のある話術にすっかり心を許した彩夏は、政治家に一番必要なのは道徳心ではないという言葉に落とされ、初美を妻の座から追い落す計画に乗ることになった。

例の後援会の一員が撮ったように装い、初美に変装した彩夏と畑田が密会中の隠し撮り写真をマスコミにリークするというものだった。畑田と初美に非難が集中し柳井に同情票が集まる、うまくいけば柳井と初美も離婚し、彩夏が後釜に収まる可能性も出てくる。作戦はうまくいったかに思えた。

だが週刊誌に載ったのは初美に見せかけた彩夏の後ろ姿ではなかった。初美に変装した彩夏の横顔のアップ写真だった。顔がはっきりと見える形だった。彩夏は騙されたのだ。自分の政策秘書が敵陣営の議員と密通していた、大恥をかいた上に秘書の管理能力もない人間だと信用も人望も失ったと柳井は激怒し、その場で彩夏を解雇した。

荷物をまとめ議員会館を出た彩夏はふらふらと歩いていた。あまりの展開にもう何も考えられなかった。自分が歩いているのが、歩道か車道かすら分からない。派手なクラクションが鳴り響き、背後からの衝撃とともに彩夏の体は宙に舞った。

久津見は恭子の事務所で、学生時代の柳井の悪行を語っていた。久津見の娘は柳井に騙されて暴行され電車に飛び込んで自殺したのだ。妻もまた娘の後を追うように電車に飛び込んで亡くなった。柳井耕一郎は妻と娘の仇。久津見の最終目的な何だと尋ねる亜香里に、柳井を政界から抹殺すること、可能ならこの世からも消すことだと答えた。

柳井耕一郎

藤沢優美が死んで資金源が断たれた。伊能典膳が死んで組織票がなくなった。倉橋が殺されて後援会は機能不全に陥っている。咲田彩夏が死んで選挙戦や政界工作が危うくなった。4人ともが柳井の重要な支援者だった。それが揃って消えた。まるで誰かの悪意によって四肢を断裂されたかのようだった。

柳井の元に神崎亜香里という女性が訪ねてきた。伊能が副館長を務めていた「奨道館」で館長の侍女をしていたという亜香里は、柳井にとって有益な情報を持ってきたと屈託なく話す。倉橋亡き後の後援会会長代理を務めている久津見は、以前奨道館の侍従官をしており、久津見の娘・麻理香が「ウルトラフリー事件(柳井の学生時代の悪行)」の被害者の一人であり事件の主犯格が柳井だと考えていること、久津見は伊能・倉橋・咲田の3人だけでなく藤沢優美とも関係していることなどを手始めに喋り、柳井はその情報を100万円で買った。彩夏は4人が死に至った経緯を詳しく語って聞かせた。自分を陥れた黒幕を知り、柳井は何も知らないふりをしつつ反撃に転じることにした。

学生時代に入手し隠し持っていた拳銃の処分を依頼するというネタで、柳井は<野々宮ライフプランニングスタジオ>を訪ねた。そこには恭子と亜香里、久津見がいた。久津見の顔をじっくりと観察するが、手に掛けた女性が多すぎて麻理香のことは思い出せなかった。30万円で銃の処分を引き受ける取引が成立し、柳井は議員会館に保管している銃の引き取りを久津見に依頼して事務所を出た。罠の仕掛けは終了した。

約束通り柳井の事務所を訪れた久津見は、柳井のもくろみ通り受け取った銃を柳井へと向けた。だが柳井は落ち着いていた。銃には細工がほどこしてあり、引き金を引けば暴発する仕組みになっていたからだ。久津見は引き金を引く瞬間、柳井に突進し彼の口内に銃口を押し込んだ。柳井は久津見に罠を仕掛けたつもりだろうが、久津見はそれを見抜いていた。

柳井の頭部は部屋中に飛び散り、妻子の仇は死んだ。久津見の右手も犠牲になったが構わなかった。事件が発覚する前に議員会館を出た久津見を、亜香里が車で待ち構えていた。恭子の正体があの悪名高い「蒲生美智留」だと知らされた久津見は、病院へ行かなくてもいいのかと尋ねる亜香里を事務所へと向かわせた。

まとめ

藤沢優美から始まる柳井耕一郎にまつわる一連の死は、柳井自身の死をもって一応の幕を閉じました。腕を無くした久津見自身もまた無事ではありませんでした。

そして藤沢優美の事件以降、再び表舞台に姿を現した野々宮恭子=蒲生美智留事件を追っていた所轄署の刑事と警視庁の麻生は、今回もまた間に合いませんでした。

 

嗤う淑女シリーズは徹底的に救いのない話を描き切っているので、好き嫌いが別れる話だと思います。この話の中でいい思いをしているのが、詐欺まがいの手口で他人を不幸のどん底に陥れ死に至らしめる悪女、野々宮恭子ただ一人というのが何とも後味がよくないのですが、恭子自身に一片の良心も見られないので「それはそれでありなのかな」とうやむやに納得させられる感じもします(作者の手腕というやつです)。

本で読む分には全く構いませんが、絶対に身近にいてほしくはない人間です。

 

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中山七里さんはいくつかの短編を通して一つの大きな事件を描く、というのが多い気がします。今回もそのパターンでした。最後の最後で今回の一連の事件を引き起こした動機が書かれるのですが、頭でも感情でも理解できませんでした。他人を陥れることに喜びを感じる人間の動機が理解できなくて幸いです。