七尾与史『妄想刑事エニグマの執着』あらすじとネタバレ感想

七尾与史さんの「妄想刑事エニグマの執着」のあらすじと感想をまとめました。

”女の勘”で事件を解決に導く捜査一課の江仁熊氷見子と部下でコンビを組む真山が、3つの事件の真相に迫っていきます。どちらかというと主人公コンビより、ライバルでいけすかない刑事とされている木島の方に感情移入しながら読んでしまいました。

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「妄想刑事エニグマの執着」書籍概要

警視庁捜査一課の美女刑事、江仁熊氷見子30歳、通称エニグマ。女の勘…を通り越して、もはやオカルトともいうべき、常人には理解しがたい直感力で事件を解決に導く彼女だが、頭の硬いベテラン刑事たちからはやっかみ半分の嘲笑を受ける日々。相棒で後輩の真山恵介28歳は、戸惑いながらもエニグマに従ううちに…。新感覚警察小説誕生!「BOOK」データベースより

  • 妄想刑事エニグマの執着(2014年11月/徳間書店)
  • 妄想刑事エニグマの執着(2017年2月/徳間文庫)

女刑事の執着

背中にナイフが突き刺さって亡くなっている女性の遺体が発見された。捜査一課で「女の勘」で事件を解決しているため変わり者扱いをされている江仁熊氷見子と毎回コンビを組まされている真山は、右手はグーで左手がパーの状態の女性に、何か意味があるかもしれないと呟く氷見子に対し偶然ではないかと思う。氷見子は星占いや血液型占いなどの非科学的な物は信じないと言いつつ、女の勘のみで突き進む捜査方法をとることで知られていた。捜査の過程も大事にしている刑事たちのなかには、勘だけで結果に繋げる氷見子のことをよく思わない者も多くいた。所轄のベテラン刑事・木島もその一人だった。

氷見子は被害者の着ていたワンピースやネックレス、壊れた腕時計が「23区」というブランドのものであることに注目する。被害者は音川育子、「日参コーポレーション」の事務員をしている23歳の女性だと分かった。凶器のナイフには犯人が彫ったと思われるWの文字が刻まれていた。

捜査本部が立ったものの進展がないまま次の被害者が現れた。同じくWが刻まれたナイフで刺された32歳の清浦圭吾だった。傍には亡くなる前まで飲んでいたと思われる「天然水バナジウムウォーター」のボトルが転がっていた。歴史オタクの鑑識が、漢字は違うが清浦圭吾という内閣総理大臣がいたことを話題に出すと、氷見子は何代目なのかと尋ねてきた。23代目という答えを聞いた氷見子は、バナジウムをスマホで検索しはじめた。被害者のポケットから「Bar Brother」の名刺が出てきたことを知った氷見子は、バーへ行くと言い出す。音川も清浦もバーの常連で顔見知りだったという。マスターは2人が「自分たちは数字に支配されている」という会話をしていたのを耳にしていた。

氷見子は、この事件には「23」という数字が関わっているとして23日に真山を連れて「Bar Brother」へと向かった。

 

日参=23、バナジウムの原子番号が23、Wはアルファベットの23番目、「Bar Brother(兄さん)」=23……とこれ以外のあちこちにも23がばらまかれており、犯人は強度のアポフェニア(無作為の情報の中から規則性や法則性を見出して何らかのメッセージと思い込む)で、23にこだわって犯行を行っていたようです。被害者も強度のアポフェニアとのことです。右手はグー(0)で左手がパー(5)も足して5で2と3に分けられるなどこじつけに近い解釈も多くあります。結果的に犯人は捕まりましたが、めちゃくちゃですね。

女刑事の妄執

事件が解決して短い休息ができた氷見子と真山は、倉庫街にあるという焼き鳥屋を目指した。だが倉庫街には野次馬とそれを押しとどめる警官がいた。どうやら男の遺体が発見されたらしい。事件の担当は、所轄から本庁の捜査一課に異動になった木島の配属された係だった。部外者だと木島に怒鳴られつつも倉庫へと入った2人は、デスクから転がり落ち、苦しみながら亡くなったらしき男と対面する。遺体の周囲にはA4用紙が多数散らばっており、細かい字でびっしりと埋まっている。広辞苑を書き写したものだった。机のそばには大型のシュレッダーがあり中には紙くずがパンパンに詰まっていた。氷見子は、まるでこの部屋は「追い出し部屋」のようだと評した。

亡くなった桐谷は急性の心臓発作によるもので事件性がないと言う木島に対し、氷見子は現場の状況からまるで過労死のようだ、被害者を過労死まがいに追い詰めた殺人だという言うが、「女の勘」をまるで信じていない木島に一蹴され追い出された。

氷見子と真山の係にも次の事件がやってきた。フリーターの水原美由紀が自宅マンションで絞殺体で発見された。通報者は別れた元彼で、合鍵を返しに来たのだという。劇団員の元彼は事件当時稽古中で証言者も多くいたため容疑から外れた。美由紀の隣の部屋に住む住人は、美由紀の部屋に2人の男性がいて争うような声が聞こえたことを証言した。詳しい内容は聞こえなかったものの、美由紀が「私たちはルシファーにされたのよ」と叫ぶ声は聞いていた。また元彼によると、美由紀はポストに投函されていたチラシに応募し守秘義務のある時給5千円のバイトをすると話していたらしい。だが同じマンションでそのチラシの存在を知っている者はいなかった。

一方木島が担当した倉庫の遺体は急性心不全で事件性なしと決まりつつあった。納得のいかない木島は密かに調べ、無職の桐谷がどこかの大学の被験者として時給5千円の高額バイトをやることになったと母親に話していたことが分かった。氷見子と真山は、美由紀が港区のコンビニでしか手に入らないノベルティを持っていたことを突き止める。港区は桐谷が心不全で亡くなった倉庫があった場所だった。また美由紀がレンタルしていた「es」というDVDが部屋から消えているのが分かる。esはスタンフォード大学の監獄実験をもとにした映画だという。氷見子は、桐谷と美由紀たちが倉庫で監獄実験のアルバイトをしたのではないかと考える。監獄実験において、善良な人々がある状況下(監獄など)において残虐な行為に走ってしまう心理作用をルシファー効果という。さしづめブラック企業の追い出し部屋で、桐谷がリストラ対象者、美由紀が管理体制側という役割を振られたというわけだ。

倉庫に近いコンビニのカメラの中に、美由紀と桐谷、美由紀の部屋にいたらしき2人の男を見つけた。2人の身元はすぐに割れ事情聴取が行われる。それによると50代程の小柄な女性がある大学の准教授・木村英子を名乗り、4人の人間を倉庫に集めてブラック企業を模擬的に再現しリストラ対象者の心理状態を調べるという実験を行ったらしい。リストラ社員役はくじ引きで桐谷に決まり、残り3人が広辞苑を延々と書き写す桐谷の粗を見つけ厳しく責め立てていたところ、桐谷は亡くなった。3人は口を噤んだものの、美由紀が自首をすると言い出したため、2人が美由紀の首を絞めたと自供した。

美由紀の事件を片付けた氷見子は、真の犯人・木村英子を追うと言う。無職になる前の桐谷は、何人もの部下を精神的に追い詰め病院送りにしたり退職に追い込むような評判が著しく悪い人物だった。桐谷に追い詰められ会社をやめた人間の一人は、小村井駅構内で包丁を振り回し死者7名、負傷者10名に及ぶ被害の出た大事件を起こしていた。木村英子が小村井駅のアナグラムだと気づいた氷見子は、小村井駅事件の加害者の母親のアパートへと出向いたが、彼女は遺書と思われる文章を残し風呂場で命を絶った後だった。確認のため美由紀を殺害した犯人たちに母親の写真を見てもらうと、どちらも木村英子ではないと首を振った。

木村英子探しは振り出しに戻ったかに見えたが、氷見子は候補はもう一人いると言った。

 

事件は二転三転したものの、木村英子を名乗る人物は捕まりました。目的は桐谷に対する復讐に加え、普通の人間がどこまで残虐になれるかという実験がしたかったとのことです。

女刑事の偏執

足立区で同一犯と思われる放火が相次ぎ落ち着かない中、恵比寿公園で白昼堂々の殺人事件が起きた。被害者は里見竜士、目撃者によるとジャージ姿の男が背後からいきなり駆け寄ってグサッとやったらしい。犯人は包丁を抜き取った後里見の鞄に放り込むと慌てた様子で鞄ごと走り去っていった。こと切れる直前、里見は「ポチ」という言葉を言い残した。里見にペットはいなかった。

会社での里見の評判は芳しくなかった。強請りが常態化しており弱みを握られて金を払った社員も何人かした。生前の里見はまとまった金が入る予定がある、話題の真犯人を知っていると吹聴していた。

木島が所属する係も別の殺人事件を追っていた。被害者は鈴木太一郎、自宅のマンションで首を切られて殺されており、里見とは同じ中学に通う同級生だったという。鈴木には亀井、三良坂という一緒に卒業旅行に行くほど仲の良い学生時代からの友人がおり、亀井によると、里見が殺害された日は3人で三良坂の家に集まって昼食を食べたとのことだった。その時に亀井は鈴木が中学時代里見からポチと呼ばれ酷いいじめを受けた話を聞いた。いじめのせいで鈴木は勉強ができる精神状態ではなくなり、父の跡を継いで医者になるという夢を絶たれていた。昔話と酒が入ったせいもあってか、帰り際の鈴木は危ない目つきをしていたという。

鈴木の部屋から里見の鞄や包丁、血の付いた衣服などが見つかり、中学時代のいじめの復讐のため鈴木が里見を殺害した犯人だと捜査の方向が出た。だが氷見子は納得がいかない様子で、三良坂に話を聞きに行く。亀井から聞いた卒業旅行時にウフィツィ美術館で鈴木が倒れたと言う話を持ち出したが、三良坂は覚えていなかった。その後覚えていないは嘘だと判明する。亀井によると、三良坂も鈴木と同様、不遇な学生時代を過ごしていたこともあったという。評判の悪い高校教師に目を付けられ今でいうパワハラ、アカハラに遭っていたうえ、放火による火災で両親を亡くしていた。辛いのは鈴木だけではないと慰める三良坂に対し、鈴木は仇討ちしてくれた奴がいたからいいじゃないかと返していたのを亀井が聞いていた。

高校時代に三良坂を標的にしていたパワハラ教師は、三良坂と仲の良かった同僚の美術教師に殺害されていたことが分かった。鈴木のいう仇討ちに該当する事件だった。その後、その美術教師と鈴木がスタンダール・シンドロームを発症していたことが分かった。美術品などの鑑賞中に動悸やめまいが起きる疾患で、ウフィツィ美術館で鈴木が倒れたのもこれによるものだった。

スタンダール・シンドロームの美術教師と鈴木、衝動的に殺人事件を起こした2人の共通の知り合いである三良坂、何か気になるという氷見子は、亀井から最後に3人で昼食を取った時の写真を送ってもらう。写真に写っていたある絵画が、2人が三良坂に話を聞きに行った時にはなかったことに気づいた氷見子は、「女の勘」で事件の真相に迫った。

 

三良坂は「呪いの絵」を持っていました。それを使ってスタンダール・シンドロームという美術作品に対する感覚が鋭敏な人間に殺意を抱かせ、自分の邪魔となる人物を排除するよう誘導していたようです。三良坂は里見の言う「話題の新犯人」だったようで、大金を強請られたため、鈴木を使った模様です。ただ殺人を誘導したことも自分の秘密が里見の鞄のPCから鈴木にバレて鈴木を殺害したことも認めず、「話題の真犯人」の部分だけが罪に問われるようです。

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「女の勘」ではなく「江仁熊氷見子の勘」ですね。女は理数系で数字に強いなどよほどのことがない限り、フィボナッチ数列を持ち出して事件を解決しません。

氷見子のキャラもブレが感じられますし、一部分は凄いのに一部分はいまいち……みたいな良くわからない読後感になる一冊でした。