法月綸太郎シリーズ第6弾『法月綸太郎の冒険』あらすじとほんのりネタバレ感想

「法月綸太郎の冒険」のあらすじと感想をまとめました。前半が死刑や人肉食を扱っていて読む人を選ぶ内容です。一転後半は図書館で起きるちょっとした謎というライトな雰囲気になっています。

「死刑囚パズル」はタイトルとはギャップのある死刑囚が刑を執行されるまでを描いたもので、読んでいて少し息苦しくなってきます。

「カニバリズム小論」は文字通り人肉食を扱っているので、短い話ですが読みながら頭の中に浮かんでくるビジュアルに食欲をなくします。

軽い話が読みたい人は後半の図書館シリーズ(「切り裂き魔」以降)から読むのがいいかもしれません。

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「法月綸太郎の冒険」書籍概要

法月綸太郎シリーズ6冊目で短編集となっている。「死刑囚パズル」「黒衣の家」「カニバリズム小論」「切り裂き魔」「緑の扉は危険」「土曜日の本」「過ぎにし薔薇は……」と後半に図書館探偵4編を含む計7編からなる。

  • 法月綸太郎の冒険(1992年11月/講談社ノベルス)
  • 法月綸太郎の冒険(1995年11月/講談社文庫)

死刑囚パズル

死刑囚が刑の執行直前に毒殺された。煙草を吸わない彼のために刑務所の所長が用意させたのは和菓子と日本茶。そのお茶を入れるための魔法瓶の中に、致死量のニコチンが何者かによって入れられていたのだ。一体誰が彼を殺したのか、なぜまもなく死ぬことが確実な死刑囚を危険を冒してまで殺害しなければならなかったのか。公にできない事件の真相を知るため法月親子に白羽の矢が立った。

  1. 被害者の死亡時刻は午後2時59分。執行の1分前で首に縄が掛かった状態で苦しみ始め、まもなく死亡した。
  2. 和菓子とお茶を用意するのは当日の朝10時頃に所長が決めて部下に用意させたため、事前に魔法瓶が使われることを知っていた者はいない。
  3. 死刑執行にかかわる18人全員が魔法瓶に近づく機会があり、1人の書記官を除く全員が毒物を処分するだけの機会があった。
  4. 毒物を持ち運んだと思われる容器と使われていない注射器が、刑務所のダストシュートから捨てられており指紋は検出されなかった。
  5. 注射器は刑務所の医務室にはないもので外部から持ち込まれている。ニコチンも医務室にはおいてない劇薬のため、こちらも外部から持ち込まれている。
  6. ダストシュートから投げ捨てられたゴミは毎日焼却処分されるはずだが、焼却炉を新しくするため焼却はせず、週に何度か業者に回収に来てもらっていた

当時の刑務所を取り巻く状況から綸太郎が一つ一つパズルを当てはめていくように犯人像を作り上げていく。

 

誰(フーダニット)が何のために(ホワイダニット)執行直前の死刑囚を殺したのかという2つの謎にチャレンジする話です。犯人当ては綸太郎が行い、犯人自身が動機を語ります。この段階で大っぴらに警察組織を動かせないという制限があって動機から犯人を絞るのは難しいので、論理的に犯人を見つけていく過程を楽しむ話です(テーマが重いので楽しめないかもしれませんが)。読みながら「13階段(高野和明)」を思い出しました。こちらも意外な犯人でした。

黒衣の家

当麻規介の葬儀に親戚一同が集まり、その中に法月親子もいた。当麻家の人間は、家の実権を握っている故人の妻で姑の佐代、喪主で長男の靖規、その妻・朝子、息子の澄雄。嫁に出た長女の真希子夫妻、佐代の実妹で夫を亡くして以降当麻家に身を寄せている矢田世津。佐代と折り合いが悪く結婚を邪魔されて以降実家との連絡を絶っていた次男の克樹、その妻・真由子、娘の真理。

香典を数える席で佐代と克樹が大喧嘩を繰り広げ、周囲のとりなしの甲斐もなく、次にこの家に来る時は佐代が死んだ時だと克樹が捨て台詞を放って妻子を連れて当麻家を退出していった。まもなく佐代は、2階でほぼ寝たきりになっている妹・世津の部屋で一日を過ごすようになった。食事も2階でとるようになり、配膳は澄雄の役目になる。

あるいつもの夕食、澄雄が普段通り2人分の食事を2階へ運んでテーブルへ並べ、味噌汁を佐代に手渡した。それを飲んだとたん佐代は苦しみ始め、そのまま息を引き取った。佐代の味噌汁にのみ大量の農薬が混入していた。

一体誰がどうやって毒物を混入させたのか。小学生の澄雄以外に毒を入れる機会がないという状況で困り果てた警視が、息子の綸太郎にアドバイスを求める。

 

読みながら途中で何となく犯行動機の予想がつきましたが、案の定、動機がサイコパスです。短いのですぐに読み終わります。

カニバリズム小論

※人を食べる表現があるので苦手な方はお気を付けください。

私のもとに友人の法月綸太郎がふらりと訪ねてきた。「大久保信」という名前に憶えがあるかと問い、綸太郎が大学に入りたての頃に親しく付き合っていた人物だと答えると、綸太郎は彼の犯した殺人について語り始める。医学部の大久保は、大学時代に知り合った女性と同棲を始めたが学校を中退しヒモ生活を送っていた。愛想を尽かした女性と喧嘩になり彼女を絞殺してしまったのだ。その後大久保は医学部での解剖経験を生かし女性をバラバラにして冷蔵庫に保管し、数日間に渡ってばらした彼女の死肉を焼いたり煮たりと調理し食べ続けていたという。通報を受けて警察が突入した時は手首を焼いていた最中で、冷蔵庫の中からはラップに包まれた女性の首がごろりと落ちてきたという。

なぜ大久保はそのような行動をとったのかと綸太郎は尋ねてきた。顔を残していたことから、犯行を隠すためではないという。以前カニバリズム(人肉嗜食)を研究していた私は、さまざまなパターンを考えた。

 

短編の出だしから食欲を失う文章が満載でした。犯人もすでに逮捕されているので、謎は「なぜ大久保は被害者の体を食べたのか」になります。一応納得できる理由ではあるものの、感情が追い付いてこない感じです。異常犯罪なので理解できたらダメな気もしますが。

切り裂き魔

区立図書館のリファレンスコーナーで、綸太郎は司書の沢田穂波からある謎を提示された。開架図書のうち、何故か推理小説だけが最初の数ページをきれいに切り取られてしまうという被害だ。普段なら管理保全課の島原課長に頼むところだが、彼は肝臓を傷めて入院中のため、推理作家の綸太郎に頼むことにしたのだという。穂波に頼んで被害にあった本たちの貸し出しリストの中から綸太郎の挙げる条件に当てはまった一人の家を訪ねると、彼・松浦雅人は綸太郎のファンだといい、本のページを切り取ったこともあっさりと認めた。そして切り取りの理由を聞いた綸太郎は、思わず「芸術の破壊行為だ」と叫んでしまった。

 

犯人の松浦の行為は褒められたものではありませんが、気持ちは分かります。そして最後に意外なオチが待っていました。松浦はその後の短編も登場するので、切り取った行為に対する責任をとったあとは放免されたものと思われます。耳に痛い話でした。

緑の扉は危険

ある資産家の末っ子で翻訳家の菅田が、密室状態の書斎で自殺した。彼は生前、自分の死後は部屋を埋める大量の蔵書を図書館に寄贈すると言っており遺言にも書き残していた。だが彼の妻がなかなか寄贈を了承しない。業を煮やした館長が穂波に命じて直々に菅田家に交渉へ行くことになり、綸太郎が同行することになった。

穂波と菅田の妻が平行線の話し合いをしている最中、綸太郎は蔵書のある部屋をのぞいていた。また妻の案内で菅田が亡くなっていた書斎も見せてもらう。寄贈の成果が何一つない省みり、誰もが自殺として受け止めていた菅田の死を綸太郎は他殺だと断言した。

菅田は書斎から外に出ることに出来る「開かずの扉」を緑色に塗っていた。大の男5人が頑張ってもびくともしないその扉について、「自分がこの世を去る時、<緑の扉>が開かれるだろう」と周囲に言っており、それが事件を解くキーワードになっていると綸太郎は言った。

 

ある程度謎が出揃い解決編に差し掛かる頃に、妻の本性が分かります。ですが高価な本が多くある菅田の蔵書の価値が何一つ分かっておらず古書店に売りさばくこともしていない妻が、なぜ寄贈を渋ったのか、犯人はどうやって密室を作り上げたのかという謎に迫る話です。この2つの謎は完全にリンクしており、なぜが解ければ密室はあっさり破ることができるという仕組みでした。

土曜日の本

綸太郎は出版社から出されたアンソロジーのテーマ「50円玉20枚の謎」の執筆に苦しんでいた。土曜日の夕方に本屋へやってきては、毎回本を買うこともなくまっしぐらにレジに来て50円玉20枚を千円札に両替していく男について、各作家が回答編を競作するという内容のものだった。

区立図書館で穂波に弱音を吐いていると、「切り裂き魔」で知り合った松浦が友人の倉森詩子を伴って相談事があるとやってくる。聞けば詩子は本屋でアルバイトをしており、ここ最近変わった客が訪れるようになったという。変わった客というのは、まさに綸太郎を悩ませている「50円玉20枚の男」だった。この謎はアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)では解けないと悟った綸太郎は、詩子の協力を得て松浦とともに土曜日の夕方に出没する男の後を追うことにした。男が変装を解いて帰っていった家は、詩子の家だった。そこで綸太郎はある推理を行った。

 

なぜ男は毎週土曜日に本屋で50円玉20枚を千円札に両替するのか、という謎は解けていません。この謎にまつわるストーリーといったところです。

新刊で入手するのは難しいかもしれませんが、アンソロジー『鮎川哲也と十三の謎’91』(創元推理)で、他の作家さんたちの作品も読むことができるようです。

過ぎにし薔薇は……

司書の穂波から休館日を除いて毎日3冊の本を返して新たに3冊借りていく女性がいるという相談を受けて、綸太郎は彼女の行動を追った。彼女は本の中身ではなく天小口(本を立てた時に上部になる切り口の部分)をチェックして借りる・借りないを決めている様子だった。区立図書館を出た彼女は、そのまま別の図書館でも同じ行動を繰り返していた。つまり毎日9冊返却して9冊借りているのだ。一日に読める本の冊数を超えている気がする。また彼女が返却した本には、「薔薇は薔薇であり薔薇であり薔薇であり」という意味の英語のしおりが付いているという。装丁家の彼女の行動の意味を探る綸太郎は、彼女がとある有名作家との不倫の末に産んだ子が死産(さい帯巻絡)だったショックで失語症に陥っていたことを知る。

その後本屋で彼女が借りていた本を探した綸太郎は、ある事実に気がついた。

 

登場人物は推理作家、図書館司書、装丁家と本に関わる職業のためか謎を解く鍵も本の中にあり、本に関する知識がないと分からないミステリーでした。綸太郎が気づいたある事実というのはスピン(本に付いているしおり紐)が切り取られていたことですが、なぜ失語症に陥った彼女が図書館本のスピンを切り取り続けていたのか、という謎を解く短編でした。

 

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扱う短編の落差が激しい一冊でした。図書館シリーズのようにあまり殺人事件がおこらない日常の謎というのも好きです。