法月綸太郎シリーズ第9弾「法月綸太郎の功績」あらすじとほんのりネタバレ感想

法月綸太郎さんの本は頭を使う長編ものが多く、疲れている時などは割と気合を入れてからでないと読めないのですが、短編は比較的手に取りやすいです。

ミステリーものだけあって殺人事件を扱っているのですが、謎解きはパズル的な物が多く凄惨な雰囲気はあまりないので、猟奇的な物が苦手な人にもおすすめです。

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「法月綸太郎の功績」書籍概要

「法月綸太郎」シリーズ9冊目で「イコールYの悲劇」「中国蝸牛の謎」「都市伝説パズル」「ABCD包囲網」「縊心伝心」の5編で構成されている短編集である。

  • 法月綸太郎の功績(2002年6月/講談社ノベルス)
  • 法月綸太郎の功績(2005年6月/講談社文庫)

イコールYの悲劇

坂崎夫妻の住むマンションで、留守を預かっていた妻の妹が殺害された。通報者は隣の住人で、預かってもらっていた宅配便の荷物を引き取りに行き事件に遭遇した。被害者はミニコミ誌の編集をしており、原稿をチェックしている最中に襲われたらしく手には2色ボールペンを握っていた。だがインクが詰まって使えない黒のボールペンの芯が出されている。そばにあったメモ帳の一番上が破り取られたあとがあり、筆圧痕から「=Y」という文字らしきものが読めた。

翌日、公園で女性の絞殺体が発見された。彼女は前日、友人である坂崎の妻に電話をかけていたことが判明し、事件当日の食事の予定を留守番をしていた妹にことづけたものと思われた。

 

夫は仕事で出張中と思いきや予定を早めに切り上げて愛人のマンションへ直行、夫の浮気を薄々感じていた妻は妹が留守番をしてくれるあいだ愛人宅を張り込み。妹の殺害はこの間に行われたもので、夫婦、愛人、第三者の証言が一致していることから関係者のアリバイは成立しました。ダイイングメッセージを解くことで犯人が判るのですが、編集者ならではのメッセ―ジですね。

解くまでの過程が長かったせいか、死ぬ間際にそんな複雑なことができるかなと思っていました。この短編は「Yの悲劇」をテーマにした競作なので、「Yを使ったダイイングメッセージ」という縛りがあったからでしょうが、縛りさえなければもっと単純にダイレクトに犯人を示せると思います(それだと作品としての面白みに欠けますが)。

 

「Yの悲劇」競作・有栖川有栖さんの「あるYの悲劇」の感想はこちら

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中国蝸牛の謎

以前対談を行った人気作家・鹿沼隆宏の編集から呼び出されて鹿沼家へ出向いた綸太郎は、居るはずの鹿沼の部屋は施錠され中からも応答がないことから、編集と2人で窓を割って部屋へ押し入った。するとそこは本やパソコン、カレンダーなど何もかもがあべこべ(逆さま)にされており、床にはねじ込まれた吊り金具に首吊りロープと思われるものがくくり付けられ、とぐろを巻いていた。あべこべという状況から真下の部屋へ確認へ行った綸太郎は、裏返しの着衣姿で鹿島が天井から首を吊ってぶら下がっているのを発見する。

鹿沼のパソコンからは新作ミステリーのメモが見つかり、全てがあべこべの部屋という綸太郎が遭遇した部屋と全く同じ状況の構想が残されていた。

 

密室トリックなのに、密室の外に死体があるという不可解なミステリーに挑むことになった綸太郎は、鹿沼の残した構想メモから自分が第一発見者に選ばれたことを知ります。発見者に気づかれないよう最後の仕上げをどう施すのか、鹿沼のメモには書かれていない部分を解いていく話です。犯人当てではなくトリックを解明するのが主題です。

たった一つの枝を隠したがために巨大な森を作らなければならないミステリー作家は大変ですね。

都市伝説パズル

マンションの一室で男子大学生が殺された。午後11時から翌午前1時頃の犯行という。その日は同じサークルのメンバー7人で、被害者の部屋で夜11時頃まで飲んでいたらしい。一旦全員が帰った後、忘れ物を取りに部屋へ戻った女性によると、鍵はかけ忘れたらしく開いており部屋は真っ暗だったので被害者は寝ているものと思い、電気もつけず忘れ物だけを取りそっと帰ったとのこと。遺体発見時、壁には血でこう書いてあった。「電気をつけなくて命拾いしたな」。つまり犯人は、忘れ物を取りに来た女性のすぐそばで息をひそめていたという都市伝説そっくりの状況だった。警察によるとメッセージは通り魔にみせかけた手の込んだ細工だという。犯人はサークルメンバーの誰かだった。

 

現場には出向かず、父親の法月警視から犯行時刻の全員の動きなどを聞き、一人ひとり容疑者を絞っていき犯人を突き止めるというアームチェア・ディテクティブものです。

都市伝説そっくりの状況で行われた犯行ということで、すっかりミスリードされました。表題作にしてもいいのではないかというくらい、鮮やかなミステリーです。

ABCD包囲網

犯人逮捕が間近な事件、自殺と断定された事件、自殺か他殺か分からない事件……虫も殺せないような風貌の男が、なぜか犯行を自供しに警視庁へやってきては明らかに雑誌や新聞で得た情報をしゃべり法月警視の部下・久能に追い返される。不審がる久能のところへ車いす姿の男の妻がやってきた。男の書類として持参した中に、3つの事件が一直線に繋がっている地図があった。直線の先にあるのは夫婦の住むマンション。男の目的は妻の殺害なのか。話を聞いた綸太郎がある提案を思いつく。

 

妻を殺すために3つの事件をオオカミ少年よろしく自分の犯行だと嘘を言って回り、4つ目で本当に自分が手を下す、という単純な話では当然ありません。裏がありました。

どこまで思い描いていたのかは分からないのですが、妻の殺害を止められるところまで計画に入っていたのなら、この冴えない男はなかなかの策士です。

縊心伝心

一人暮らしの女性が不倫相手にこれから自殺すると電話を掛けた。男が慌ててマンションへ駆けつけると女性が首を吊っているのが発見された。一見問題ないかに思えたが、女性の死因は頭を殴打したことによる頭蓋骨陥没で、頭を打ったと思われる場所は首を吊った場所から2メートル以上も離れたワードローブだった。つまり何者かに殺された後、首吊りに偽装されたのだ。当然不倫相手の男が疑われるが、男には非の打ちどころのない完璧なアリバイがあった。

 

密室でもない、大がかりな仕掛けも何もない、オーソドックスな謎解きでした。彼女の居住空間で見つかったちょっとした不自然さ、ひっかかりから事件の謎を解いていくという推理小説らしい推理小説です。普通の人が見逃してしまうささいな事象に気づくというのは、探偵には必要な能力なのでしょう。私には無理でした。

 

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ロジックを大事にしているような話が多いせいか犯行動機などは後付け感が強く、パズル的な頭を使う短編ですが、飄々とした雰囲気の主人公(綸太郎)のせいか雰囲気は重苦しくなく、面白く読み終わってしまうシリーズです。