法月綸太郎シリーズ第8弾『法月綸太郎の新冒険』あらすじとほんのりネタバレ感想

前作「法月綸太郎の冒険」に続く「新冒険」のあらすじと感想をまとめました。

発行が1990年代ということで、令和の今読み返すと、ところどころで時代を感じる短編集でした。ネットの普及に伴って時刻表トリックはできなくなりましたし、監視カメラによって顔認証も歩容認証もたちどころにされてしまいます。犯人も探偵もやりづらい時代ですね。

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「法月綸太郎の新冒険」書籍概要

法月綸太郎シリーズ8作目。「背信の交点」「世界の神秘を解く男」「身投げ女のブルース」「現場から生中継」「リターン・ザ・ギフト」の5編を収録している短編集。

  • 法月綸太郎の新冒険(1999年5月/講談社ノベルス)
  • 法月綸太郎の新冒険(2002年7月 講談社文庫)

背信の交点 シザーズ・クロッシング

長野県松本市で開かれた「全国図書館司書のつどい’96」に参加する穂波に同行した綸太郎は、帰りの電車「あずさ68号」の自由席に座っていた。松本駅を過ぎたあたりで、穂波が前の席の様子がおかしいことに気が付いた。急病かと綸太郎が車掌を呼んできた頃にはすでに息絶えた男性がいた。前の席は品野道弘・晶子夫妻が座っており、死んだのは夫だった。烏龍茶の缶の中に致死量のアトロピンが入れられており、車内販売で2本買ったうちの1本だという。妻の晶子は、夫を殺したのは浮気相手である西島あづさだと主張した。夫の「しなの」と浮気相手の「あづさ」、時刻表を調べた綸太郎は「しなの23号」の中に服毒死した女性がいないか調べてほしいと警察に伝える。「しなの23号」の中では同じくアトロピンを飲んで死んだ西島あづさがいた。「あずさ68号」と「しなの23号」は松本駅でおよそ1分間、隣接した状態で停止していたのだ。それにタイミングを合わせて2人は服毒自殺を図り、綸太郎の推理の答え合わせのようにあづさが眼科勤務でアトロピンを手に入れる機会があったこと、死んだあづさの手のひらには「しなの・あづさ」の相合傘が描かれていたことが分かった。

だがあづさにはアトロピンの入った点眼薬を盗む機会があっても、精製する技術がない。綸太郎はある場所を訪れた。

 

鉄道の時刻表トリックです。トリックというか、なぜ死んだ2人が「あずさ68号」と「しなの23号」を選んで死んだのかという謎(時刻表に隠れている)と、本当に2人は心中を図ったのかという謎の2つを綸太郎が解いていきます。犯人については神のみぞ知る犯行でした。鉄道ファンではないですが、時刻表トリックはテレビなどで映像化した時が好きだったので、激減してしまって残念です。

世界の神秘を解く男

いかがわしい番組を作ることで有名なプロデューサーのオカルト番組へのワンカット出演を気軽に引き受けた綸太郎は、あれよあれよというまに「世界の神秘を解く男」にされてしまっていた。オカルトを信じない綸太郎に対するのは、超心理学の権威だという丸山教授と学生の古賀。寝ている時にポルターガイストを起こすという小学生の園山エリカの家に撮影に訪れた番組チームに同行することになった綸太郎だったが、撮影が始まりしばらく経った頃、エリカの部屋の真下にあるサロン室からシャンデリアが落ちるようなもの凄い音が聞こえてきた。

サロン室はボヤ騒ぎがあったらしく丸山教授が入室を封じていた部屋だったが、目撃者の話によると物音の直前に教授自らがそっと入っていったという。サロン室にはシャンデリアに圧し潰されて死んでいる丸山教授がいた。

シャンデリアの吊り具に亀裂が入っていたためのポルターガイストによる事故だろうと言うのに異を唱えたのは、綸太郎だけであった。

 

丸山教授は学問の世界ではうさんくさいと思われ苦しい立場に立たされていました。オカルト番組は自分の主張を裏付けてくれる一発逆転のまたとない機会でした。その教授がなぜ肝心のポルターガイスト現象の撮影真っ最中に席を離れ、こっそりとサロン室へと行きシャンデリアの下敷きになってしまったのか、という謎を解いていきます。

短編の中にかなりのページ数を使ってオカルト関係のうんちくが語られていましたが、私も綸太郎同様興味がないので読み飛ばしました。

身投げ女のブルース

秘密の情報提供者からの連絡を受けて車を運転していた捜査一課の葛城警部は、偶然飛び降り自殺の現場に出くわしてしまう。屋上の柵を乗り越えたところでためらっていた女性を何とか無事に保護し、警視庁へと連れて行った。彼女の名前は鹿島伸子。占いや人生相談を行う小島霊峰の個人事務所「霊峰運命鑑定所」に勤めており、自殺を図る前、職場のVIPルームに盗聴器を仕掛けたと言いがかりをつけて家に乗り込んできた霊峰ともみあいになり、弾みで殴り殺してしまったと告白した。盗聴器については全く心当たりがないという。

その後の調べで、霊峰の死亡時刻と伸子が身投げのために屋上に行った時刻とにズレが生じていることが判明、彼女が部屋を出て行った後に霊峰は一度意識を取り戻し、その後何者かによって殴られトドメをさされたと考えられ彼女はシロとみなされた。一方、霊峰の秘書・三好明雄があやしいと睨んだ葛城は彼を追及するが、三好にはアリバイがありなかなか尻尾を出さずシロと結論づけられた。見込み捜査の失敗を理由に現場を外された葛城のもとに、法月警視と部下の久能刑事が声をかけてきた。

 

他の作品で活躍する葛城警部目線で話が進んでいきます。ずっと綸太郎も法月警視も出てこないと思っていたら、最後に警視と部下の久能警部が登場しました。警察内部での話なので綸太郎自身は推理はしていますが登場しません。この短編の出だしの「一課でも指折りの敏腕刑事にあるまじき大失態を演じてしまう」葛城警部の話です。

現場から生中継

小学生を狙ってバラバラにした凶悪犯が捕まり、犯人が中学生というセンセーショナルな事実に世間中が湧いていた。マスコミ各社が押し寄せ犯人逮捕の中継をするなか、別の場所では須賀こずえという短大生が殺されていた。容疑者と目されるこずえの恋人・墨田成秀は、犯行時刻はちょうどバラバラ殺人の犯人逮捕の現場に野次馬としていたと主張し、警察が録画していた中継画面にもその姿が確認された。また墨田はカメラが野次馬たちを映しているなか2件の電話を掛けたと言い、1件はこずえの自宅の留守番電話、もう1件は親友の中島則夫宛だった。中島はたしかに墨田から電話を受けたといい、その電話で言われた通りテレビをつけ、犯人逮捕のテロップの下にいた墨田を見つけ会話を続けたと証言した。こずえの留守番電話の声も墨田の声紋と一致し、彼のアリバイは隙が無いように思えた。

テレビの中の墨田は身代わりではないかと散々検証した綸太郎だったが、うまくいかない。父親の法月警視に頼んで須賀こずえの部屋へと出向いた綸太郎はあるミスに気が付いた。そして犯人自らボロをださせるため、関係者に協力を依頼し事件当時を再現することにした。

 

まだスマートフォンがない時代の犯罪でした。いまひとつ決め手を欠いているような話で、だからこそ事件の再現という名の罠を仕掛けたのだと思いますが。トリックも謎解きも偶然に頼ったような事件でした。

リターン・ザ・ギフト

27歳のホステスが帰宅後に襲われるという事件が起きた。女性が抵抗したため犯人はすぐに逃走を図ったがその場で捕まった。男の名前は神宮和也、1か月ほど前に起きた殺人事件の被害者・神宮妙子の夫だった。神宮は武藤浩二という人物から交換殺人を持ち掛けられたことを自供する。神宮が襲ったホステスは、武藤の腹違いの姉だった。警察が武藤のアパートへ行くとすでにもぬけの殻だった。また武藤の部屋からは区立図書館で借りた3冊の本が残されており、全て交換殺人をテーマにした推理小説だった。また妙子の殺害に使ったコードから見つかっていた指紋が、武藤のものと一致した。

警察が一連の事件は武藤浩二を主犯とした交換殺人、共犯の神宮は怖気付いてホステスの殺害には至らなかったと結論付けようとした時、父親から話を聞いた綸太郎が待ったをかけた。

 

交換殺人ものですが、犯人たちが交換殺人という方法を選んだ理由が逮捕後のことも想定していてなるほどと思わず納得してしまいました。一番綺麗にまとまっていておすすめです。ただ、解答編の犯人に至る検証の過程が長くてくどいです。

 

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図書館シリーズを継いでいる「背信の交点」と「リターン・ザ・ギフト」が動機や手段などの選択がスマートで甲乙つけがたいです。

5作品とも120ページ前後と少々長めの短編で読み応えがありました。事件の詳細や関係者たちのやりとりはともかく、名探偵綸太郎氏にはもう少しシンプルで簡潔な推理をしていただきたいところです。現場に行かず推理を行うためか、少々理屈っぽいのが今回目立ちました。