タイトルに偽りなし、貫井徳郎『慟哭』のあらすじとネタバレ感想

貫井徳郎さんのデビュー作「慟哭」を再読したので感想などをまとめました。読み返すのは何年、何十年ぶりだろうというくらい内容を覚えていなかったので、初読みしたも同然です。最後の最後でまた「あっ」と驚かされ、ようやく以前も同じ所で騙されたことを思い出しました。

20年以上前の作品なのでスマートフォンはもちろん携帯電話すら登場せず、連絡は公衆電話がメインという時代の話ですが、そんなことは全然気にならないくらい一気読みしてしまう一冊です。

「慟哭」書籍概要

  • 慟哭(1993年10月/東京創元社)
  • 慟哭(1999年3月/創元推理文庫)
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奇数章が「彼(松本)」が新興宗教に傾倒していく様子、偶数章が連続幼女殺害事件を追う警視庁捜査一課長・佐伯を中心とした警察の捜査と視点を交互に変えながら話が進んでいき、徐々に2つの章の事象が繋がっていく様子を描いている。

奇数章 のあらすじ

娘を返してほしい。彼(松本)の胸の中にはぽっかりと穴が開いていた。仕事を辞め、あてもなく彷徨っている。街の雑踏のなか彼に声をかけてくる若い女性がいた。彼の幸せを祈らせてほしいと言う。1分ほどの短い時間の祈りでは彼に何の幸せも変化も訪れるわけがなかった。だが目の前で幸せそうに笑う彼女の姿は印象的だった。

ふたたび雑踏の中で待っていると若い男性が声をかけてくる。幸せと健康を祈らせてほしいとのことだった。男の勧めで彼の信仰する新興宗教の集会に参加したのち、もっと詳しく知りたいと高額の合宿にも行ってみたが、洗脳ともいえる合宿内容と数時間にも及ぶ執拗な勧誘に騙された思いだった。

その後、書店で手に取った別の新興宗教の本を頼りにその施設を訪れてみると、人当たりが良く宗教色もしつこい勧誘もなく教義も分かりやすい。その上、あの日路上で彼の幸せを祈った彼女がいた。彼は翌日入会した。

そこでは信者は10段階のレベルに別れていて、集会への参加、ボランティアや財施などによりレベルが上がっていくという。ある程度まで上がると直接導師と話をすることができるようになる。教団の設立当初からいるという司摩の案内で特別に導師と話をすることができた松本は、そこで導師から胸に穴が開いていることを指摘された。努力して修行を続ければその穴を埋めることができると導師は言う。彼にとってそれは救いの声だった。

志摩のすすめで多くの財施をした松本はあっという間にレベルを上げ、教団の秘儀だという儀式にも誘われるようになった。カバラをベースにした教義を持つ教団の秘儀は、黒魔術めいたものだった。だがそれこそが彼の求めていたものだった。彼の胸を塞いでくれるもの、彼の唯一の願いは、死んだ娘を生き返らせることだったからだ。

司摩は復活の儀式に使う形代は娘そっくりの人形を用意するといいと言ったが、それでは足りない。娘の魂を宿すにはもっと適した依り代が必要だった。カバラから導き出した娘のディジタル・ルートは4、同じ4を名前に持つ娘と同じくらいの年齢の少女を松本は探した。

1人目、2人目、3人目ともに失敗した。連続幼女殺害事件のニュースを逐一チェックしていた松本は、テレビに映る捜査一課長を目にした。この男にも自分と同じ苦しみを味あわせてやりたい。妙案を思いついた。調べてみると彼の娘のディジタル・ルートは4、まさに運命だった。

偶数章 のあらすじ

一か月前に消息を絶ったまま行方不明となり誘拐されたと思われていた幼児・斉藤奈緒美の衣服が河川敷で発見され、その後遺体が見つかった。所轄署との合同捜査本部が立ち、キャリア警視で警視庁捜査一課長の佐伯が陣頭指揮をとることになった。奈緒美ちゃん誘拐の前にも別の幼女・香川雪穂も行方不明になっていたが、同一犯の仕業かは不明だった。

キャリアで元法務大臣の妾腹の子、警察庁長官の娘と結婚し婿養子となった佐伯にはやっかみも含め敵が多かった。だが自分にも他人にも厳しい佐伯は、そういった声にも耳を貸さず鉄面皮でひたすら事件を追う。一方プライベートでは妻との仲は冷え込み、幼稚園に通う愛娘の恵理子も佐伯に懐かない。自宅とは別にマンションを借りて寝泊まりし、フリーのルポライターの伊津子との逢瀬を重ねる日々だった。

奈緒美ちゃん事件は犯人に繋がる手掛かりが乏しいままで、捜査は徒労のまま捜査本部の面々の疲労が積み重なっていくだけだった。そんな時、別の署から一報が入った。また別の幼女・多田粧子が行方不明となったのだ。その後いくつかの新聞社に粧子を誘拐したと思われる人物からの声明文が送られてくる。送られてきた文書からは手掛かりが得られなかった。二通目が届いた。粧子の写真が同封されており犯人が送って来たものと断定されたが、捜査の甲斐もなく多田粧子の遺体が見つかった。

警察および佐伯らはマスコミや一般市民らの批判にさらされ窮地に立たされた。佐伯は周囲の反対を押し切って、記者会見で犯人に対し挑発ともとれる自首の勧告を行った。

犯人を名乗る人物から佐伯宛に文書が届いた。そして妻から不審者が家の周りにいるという連絡を受ける。その後、娘の恵理子が行方不明になった。ずっと反発が続いていた捜査本部が、初めて一致団結した瞬間だった。

まとめ

このページで書いたあらすじはあくまであらすじなので、作品の本質までは書けないです。ぜひ実際に読んでみてほしい1冊です。

警察に目を付けられない気を配っていた松本ですが、そのうち刑事の影らしきものを感じ始めます。奇数章、偶数章どちらにとっても救いのない最悪の結末となりました。タイトルが慟哭ですし、ハッピーエンドはありません。

気づかずに読んだ方がラストの衝撃が心地良いですが、あちこちにヒントが散らばっているので比較的分かりやすいかと思います。奇数章の彼は、偶数章で登場する人物です。

 

殺害方法などに特別なトリックなどはなく、本文の中にトリックがあります。作者が読者に対して仕掛けるいわゆる叙述トリックというやつですが、そうと分かりつつ読んでも最後はやはり「あっ」と言わされました。本をまるまる一冊使って彼の慟哭が書かれており、まさにぴったりなタイトルでした。

あとがきを読んで一番驚くのが、この本を書いた当時の作者が25歳だったことです。凄いものを生み出しています。