貫井徳郎『烙印』(迷宮遡行)あらすじとネタバレ感想

貫井徳郎さんの「烙印」のあらすじと感想をまとめました。こちらの本はその後「迷宮遡行」として改題、リライトされています。今回は「烙印」の感想です。ある日突然自殺してしまった妻のことを調べるうちに意外な過去が分かって…という内容です。ミステリー要素もありますが、ジャンルとしてはハードボイルドです。

「烙印」書籍情報

  • 烙印(1994年10月/東京創元社)
  • 迷宮遡行(2000年10月/新潮文庫)
created by Rinker
¥693(2020/10/27 07:38:28時点 楽天市場調べ-詳細)

「烙印」あらすじ

置き手紙を残して消えた妻が、失踪から1か月ほど経った頃遺書めいた手紙を寄越し、伊豆で遺体となって発見された。「なぜ妻は黙って自殺をしたのか」警察を辞めた迫水は生前妻と関係のあった人物らに話を聞いて回ることにした。

綺子との出会いは新大久保の路上だった。防犯課の警察官だった迫水は日頃から売春行為などに目を光らせていた。その日も路上で絡まれているところを助けた女性が綺子だった。気が強く美人の綺子は水商売をしている女性で、周囲から祝福されないなか同棲を始めた。迫水は結婚する予定だったが、綺子が籍を入れるのを嫌がったのだ。半年ほど円満に続いた新婚生活は、突然の綺子の失踪と自殺によって終わりを告げた。

綺子が元勤め先のキャバレーで仲が良かった女性に綺子の過去を尋ねるものの、自分のことを語る人ではなかったらしく何も知らなかったが、彼女を店に紹介したという新井というバーテンの存在を教えてくれる。店を出たあと、迫水は数人のチンピラに因縁を付けられ暴行を受ける。やってきた制服警官によって事なきを得たが、その時眉に傷のある男を見かけた。

綺子について知りたいというと、新井はなぜか迫水から逃げようとした。追いかけるとあんたたちが知りたいことは何も知らないといい、綺子の夫だと身分を明かす迫水に対し人違いをして逃げたと釈明した。新井からは何の収穫も得られないまま、新井は消えた。警察官時代のツテを頼って新井のマンションに侵入した迫水は、新井の元妻と元愛人の存在を知る。またどこかは分からない電話番号を入手した。

新井は元妻、元愛人の両方に匿ってほしいと連絡をしどちらからも断られていた。新井の行方は分からなかったが、元愛人があるカフェで綺子のそっくりさんに会った話を聞いた。新井宅で入手した電話番号は電話口での対応からヤクザの番号だと判明したが、電話を切った直後に相手からかかってきて、迫水の素性はすっかり相手に知られていることが判明した。

数日後、神奈川で新井の遺体が発見された。死因は病死だったが、亡くなる前に集団で暴行を受けたらしい。迫水は元同僚の後東を頼り捜査4課の人間を紹介してもらう。彼らの持つ暴力団の顔写真の中に眉に傷のある見覚えのある男を見つけた。渡辺組の幹部・貴島だという。

渡辺組は危機を迎えていた。組長が襲撃されボディーガードほか跡取り息子が死んだのだ。組長も予断を許さない状況だという。狙撃した犯人は元自衛官で、妹が渡辺組に暴行を受けた復讐だった。崩壊しそうな渡辺組を取りまとめているのが、組長の若い愛人・財前紗季子と貴島だった。

綺子がかけていた保険会社の人間を名乗る人物から綺子の妹の存在を知った迫水は、カフェにいた綺子のそっくりさんの存在を思い出す。カフェのオーナーに話を聞くと、彼女はカフェで働いていた佐久間育子を探していることが分かった。育子は渡辺組襲撃犯の妹だった。育子の恋人がギャンブルでヤクザに借金を作って逃げ回ったため見せしめに育子が狙われたのだ。育子の行方を追ううち、保険会社を名乗った人物は渡辺組と対立する神和会の人間だと分かった。神和会、渡辺組の両方から、これ以上探りを入れるなと脅しをかけられた。

迫水の元に北海道から新井の妹・麗子が訪ねてきた。兄の死が納得できないといい迫水について回った。麗子は迫水が一番知りたがっていることを知っていると宿泊先のホテルに案内し、兄の新井から送られてきたという手紙と小包を見せた。手紙には、新井と綺子が以前一緒に暮らしていたこと、綺子が台湾人であること、元台湾マフィアのボスの愛人で命の危険を感じていたため、ボスが取引のため日本に来た際に同行し、覚せい剤を持ち逃げしたこと、そのため日本と台湾のヤクザに追われていたことなどが書かれていた。その後ある刑事と出会い一緒に暮らし始めたが、台湾マフィアが再び来日し見つかってしまったこと、自分が死ねば丸く収まると話していたこと、自分(新井)の身も危なくなったため逃げることなども綴られていた。小包の中身は覚せい剤だった。

綺子の自殺の理由はほぼ分かった。育子も見つかった。だが神和会から麗子をさらったという連絡が入った。迫水が持っている覚せい剤と交換だという。単身で乗り込む予定だった迫水だが、中身を言わず覚せい剤を預けていた後東の協力のもと、神和会との取引現場に出向いた。

 

□□

その後、ハードボイルドな展開ののち警察が到着し迫水は無事だったのですが、後東は逃げる途中に見つかり殺されていたことが分かります。ひたすらいい人だった後東さんの死は、読んでいるこちらは結構な衝撃だったのですが、ストーリー上も迫水も割とあっさりと流していたのが引っかかりました。内縁の妻に関しては仕事を辞めて2組のヤクザに狙われてもなおしぶとく食らいつくのに、自分のせいで殺された親友に対してはその程度なのかと迫水の自己中ぶりに正直がっかりというか呆れました。

最終的に渡辺組の組長襲撃事件も絡んできて、ミステリー要素も飛び出す意外なラストを迎えるのですが、最後まで迫水は綺子綺子なので壮大なストーリーが台無しです。

ハードボイルドって、他人に迷惑をかけてまで失った女性を追いかけることなんでしょうか。

リライト版の「迷宮遡行」では、主人公の迫水は元警察官ではなく会社をリストラされた小心者になっていました。