岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿1』あらすじとネタバレ感想

岡崎琢磨さんの「珈琲店タレーランの事件簿」のあらすじと感想をまとめました。

京都×コーヒーのミステリーです。小さな事件をいくつか超えつつ、全体を通して隠されていた一つの大きな謎が明かされるという構成になっており、ライトノベル風ながらも読み応えがありました。

「珈琲店タレーランの事件簿」書籍概要

京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。恋人と喧嘩した主人公は、偶然に導かれて入ったこの店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ・切間美星だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かしていく。だが美星には、秘められた過去があり―。軽妙な会話とキャラが炸裂する鮮烈なデビュー作。「BOOK」データベースより

  • 珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を(2012年8月/宝島社文庫)

事件は二度目の来店で

自分の理想とするコーヒーを出す店「タレーラン」のバリスタは切間美星という若い女性だった。初来店時にやむをえず未払いのまま店をでることになり、「僕」は慌てて連絡先の電話番号と携帯メールを書いて渡した。2度目の来店時、美星から「アオヤマさん」といきなり呼ばれ驚く。メールアドレスから名前を推測したらしい。

女性客のナンパに忙しいおじでオーナーの藻川と2人でタレーランを切り盛りする美星は、雨が上がった後、店を出ようとして傘立てからアオヤマの傘が無くなり、代わりに赤い傘が残されていることについて、ある推理をしてみせた。

アオヤマの少し前に出ていった3人組の女性客の誰かが、わざと自分の傘を残してアオヤマの傘を持っていったこと、実はアオヤマがその3人組を知っているのではないかということ。

3人組のうち1人が、アオヤマの傘を持ってタレーランに戻ってきた。

 

「タレーラン」という珈琲専門店が舞台になっていますが、登場人物も珈琲にちなんだ名前になっています。アオヤマ→ブルーマウンテン、切間→キリマンジャロ、藻川→モカ。

戻ってきた女性は、アオヤマの元カノの友人でした。アオヤマを店に引き留め話をするために傘を持って行ってしまったのですが、アオヤマと美星が仲良く話しているのを誤解して、元カノに言いつけてやるとビンタして去っていきました。彼女の方から別れを告げたのに、行動が意味不明でした。

ビタースウィート・ブラック

遠縁の帰国子女で大学生のリカに相談があると呼び出されたアオヤマは、美星の知恵を借りようとタレーランを相談場所に選んだが、リカの依頼は彼氏の浮気調査だった。付き合い始めたがあまり会うことはなく、連絡だけは取りあっている。ある日彼氏のSNSに家で一人でコーヒーを飲んでいるという投稿があったため、サプライズで彼のアパートに向かった。彼氏は困った顔をして部屋には上げられないと言ったが、玄関から部屋をのぞき込んだリカは、テーブルの上に飲みかけのブラックコーヒーがあるのを目にした。ブラックは絶対に飲めないといっていたのにおかしい。他の誰かが部屋にいたにちがいない。

リカは彼氏とのツーショット写真をアオヤマに預けると、祇園祭で彼氏の浮気現場を見つけたら写真に撮っておくよう頼んだ。依頼は祇園祭りで浴衣姿の女性を堪能したい藻川が引き受けた。

アオヤマはリカから見せられた写真の男をカフェで見つけた。話しかけて見ると、男は彼女にベタ惚れで浮気なんてしないらしい。これなら問題ないと思っていたら、藻川が彼氏がリカ以外の女性と親しそうに祇園祭を楽しんでいる写真を撮ってきた。彼氏はクロかシロか、美星はある推理を披露した。

 

日本ではブラックコーヒーというと砂糖もミルクもなしのことを指すのですが、アメリカなどの外国では色のみ(ミルクが入っているかどうか)でブラックコーヒーかどうか判別するそうです。帰国子女のリカの思い違いが発端でした。まぁでも彼氏はクロですね。

乳白色にハートを秘める

美星と向かい合ってコーヒーを飲んでいたところ、窓の外を少年が走っていくのが見えた。泣いていたようだと美星は言う。

その少年は二週間ほど前、スーパーで声をかけてきた。父親がアメリカ人だという見た目が白人のような少年は、流ちょうな日本語を話した。牛乳を買うのなら分けて欲しいという。背を伸ばしたいと理由を話す少年に、僕は紙パックの牛乳をおごった。その後も何度かスーパーの前で牛乳を分けてくれそうな人を物色する少年を見かけ、そのたびにおごってやる。ある日少年が喧嘩でもしたのかボロボロの姿を見せた。家に連絡しようと口にした瞬間、少年は急に怒り出しあっというまに逃げていった。

話を聞き終わった美星がいきなり店を飛び出し、少年を追いかけていった。遊歩道の橋の下で、3人組の少年が給食袋をからかうように仲間内で投げ渡すのを、少年が必死にとろうとしている姿があった。びっくりするような大声で三人組を止めた美星は、給食袋を開けると中からぐったりした仔猫を抱き上げた。

 

うろうろとスーパーの前で牛乳を欲しがっていた少年の謎と、もう一つ叙述トリックが隠されていました。病院で診てもらい元気になった仔猫は、タレーランでシャルルと名付けられ飼われることになったようです。

盤上チェイス

別れたはずの彼女、真美に運命だと声をかけられたアオヤマは逃げた。だが逃げた先で一息ついているといつの間にか真美に追いつかれていた。更に逃げて絶対に大丈夫だと踏んだ「タレーラン」に逃げ込んだ5分後、やはり真美がやってきた。とっさに美星を新しい彼女に仕立てて撃退したものの、怒る美星に事情を話さざるを得ない。まるでアオヤマの行き先をあらかじめ知っていたかのように姿を現す真美の謎を解くため、2人は実際に店の外に出て実験も行った。だがうまくいかなかった。

タレーランへと戻ると謎は解けていた。何のことはない、美星のおじの藻川が、真美の友人(1話目でアオヤマの傘を持ち去った女性)と仲良くなりたいがためにアオヤマの情報を流していただけだった。

 

謎の真相はトリックとは言えないようなものでしたが、おじが情報を流していたと気づく過程に少し推理が入っていました。真美はアオヤマとよりを戻したいようです。

past,present,f*****?

ある大型雑貨店で一目ぼれした少々値段の張るダーツの矢の購入を迷っていたアオヤマは、店員らしきスーツの男性に試射をしてみてはどうかと促される。試射後に購入を決めたものの、さきほどまであった商品が消えていた。一足違いで売れてしまったらしい。店を出たアオヤマは、美星に声をかけられる。彼女も同じ雑貨店で買い物をしていたらしく、手には黄色い袋を提げていた。

一緒に夕食を食べることになり、アオヤマおすすめのおばんざい屋に入った。お酒で乾杯し、いつもとは違いプライベートな話題にも話は及ぶ。トイレに立ったアオヤマが戻ってくると、ウェイターが小さな誕生日ケーキを持ってきた。以前渡した連絡先のメールアドレスから、誕生日を言い当てられていたのを思い出す。誕生日プレゼントだといって渡されたのは、黄色い袋だった。安価で手に入ったというそのプレゼントは、数時間前にアオヤマが買おうとしていたダーツの矢だった。

数日後、カフェでくつろいでいたアオヤマは、ダーツの試射を勧めてきたスーツ姿の男と出くわす。胡内と名乗る男は、美星の知り合いだった。

 

自分の欲しがっていたダーツのことをなぜ美星が知り手に入れることができたのか、アオヤマは胡内と話をしたことで推理しました。

胡内は美星とアオヤマに危険が迫っていると言い、彼女が昔タレーランで誰にでも愛想よくふるまった結果ある一人の男の告白を断ることになり、逆恨みしたその男に襲われた過去があることを話して聞かせました。直前まで美星と一緒にいた胡内の機転により事なきを得ましたが、以降の美星は異性を遠ざけるようになったこと、事件から4年が経ち美星がアオヤマと打ち解け始めたのを見た男が、また動き出すかもしれないと警告していきました。

雑貨店に勤める友人の協力を得てダーツの矢を手に入れたことを認めた美星は、その友人をアオヤマに紹介します。てっきりそれが胡内だと思っていたアオヤマは、紹介された女性を見て驚きます。一方の美星も青ざめました。

Animals in the closed room

台湾の珍しいコーヒーをお土産にもらったという話をするアオヤマに美星がくいついた。店を終了し、すぐにでも飲みにアオヤマの部屋まで行くという。閉店作業を手伝い、美星のカバンを手にして自宅へと案内したアオヤマだったが、コーヒーフィルターを切らしていたことに気づく。

2人がコンビニから戻ってくると、テーブルの上に大きな包みが置かれていた。買い物に出かける前にはなかったものだ。突然現れたプレゼントに、美星はすぐにアオヤマの仕業だと気が付く。そしてすぐにトリックも見破ってしまった。中身は大きめのテディベアだった。だがくまの体は至るところが引き裂かれ、ずたずたになっていた。もちろんアオヤマがやったことではなかった。何者かが施錠して留守になったアオヤマの部屋に忍び込み、ぬいぐるみを裂いたとしか思えない状況だった。

一度はパニックになりかけた美星だったが、落ち着いて推理を進めると、アオヤマにクローゼットをもう一度確認してほしいと言う。荷物がぎゅうぎゅうで人が隠れる隙が無い場所だったが、犯人がそこにいた。

 

タイトルから分かる通り、タレーランの飼い猫・シャルルの仕業でした。美星のカバンの中にいつの間にか潜り込んでいたようです。その美星のカバンはアオヤマが持ったので、意外に重いなと感じる程度で済ませてしまい猫の存在に気づきませんでした。

また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を

アオヤマは美星と別れる決意をした。病院で看護師たちが、何者かに襲われたにも関わらず怪談から落ちたと言い張る入院患者の話をしているのを耳にしたからだ。美星から例の男の脅威を遠ざけるため、アオヤマは動くことに決めた。

夜、男はタレーランを見張っていた。そこにアオヤマがやってきて店内へと入っていった。しばらくしてアオヤマは女性を伴って出てきた。顔が隠れていて分からないが、背格好や髪型から美星だと思われた。自分を傷つけた美星が別の男と歩いている。怒りのまま2人のあとを追った男は、ふたたび美星に襲い掛かった。気が付くと、男は仰向けに倒れされていた。投げ倒れたのだ。自分をのぞき込むアオヤマと美星ーーではない女に、男は悪態をつきながらも意識を失った。女はアオヤマの元カノ・柔道の得意な真美だった。

無事に男を撃退し真美とよりを戻したアオヤマは、美星に別れを告げるためタレーランへと行った。アオヤマに協力する条件として真美が提示したのが、自分との復縁と美星との決別だったからだ。

美星はアオヤマがあえて隠していた事、わざと伝えなかった真実を見抜いていた。初めてタレーランに来た日に残した連絡先を書いた紙を返され、アオヤマはタレーランをあとにした。

 

この本は主人公であるアオヤマの「僕」という一人称でずっと話が進んでいきました。美星との会話でも「青山」と表記されたのは一度だけで、普段はずっと「アオヤマ」表記だったのでここでもそちらの表記を採用しましたが、この「アオヤマ」に物語中最大の謎が隠されていました。

 

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叙述トリックが多く、あからさまなネタバレをしないようにまとめるのが大変な一冊でした。