大倉崇裕「福家警部補シリーズ」シリーズ第1弾『福家警部補の挨拶』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「福家警部補の挨拶」のあらすじと感想をまとめました。

同業者からも刑事に見られない現場責任者・福家警部補が、犯人の残した些細な痕跡をもとに犯人を追い詰めていく…という短編集です。いわゆる倒叙もので、まず犯人が事件を起こすシーンが描かれ、その後探偵役の福家警部補が登場し犯人を追い詰めるというパターンばかりです。古畑任三郎形式というのが分かりやすいでしょうか、重箱の隅を突く様な追い詰め方は、テレビドラマ「相棒」シリーズの杉下右京も彷彿させます。

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「福家警部補の挨拶」書籍概要

本への愛を貫く私設図書館長、退職後大学講師に転じた科警研の名主任、長年のライバルを葬った女優、良い酒を造り続けるために水火を踏む酒造会社社長―冒頭で犯人側の視点から犯行の首尾を語り、その後捜査担当の福家警部補がいかにして事件の真相を手繰り寄せていくかを描く倒叙形式の本格ミステリ。刑事コロンボ、古畑任三郎の手法で畳みかける、四編収録のシリーズ第一集。「BOOK」データベースより

  • 福家警部補の挨拶(2006年6月/創元クライム・クラブ)
  • 福家警部補の挨拶(2008年12月/創元推理文庫)

最後の一冊

江波戸図書館の館長・天宮祥子は、雨の夜図書館へとやってきた。そこには、亡くなったオーナーの息子で現在の図書館オーナー・宏久が飲食禁止の館内で缶ビール片手に寛いでいた。祥子が大事にしている図書館や本の価値など一切分からない宏久は、赤字続きの図書館を売り飛ばすつもりでいた。多額の借金を抱えていたからだ。当面の資金として、祥子は図書館の本が盗難に遭ったとして保険金を宏久に渡す約束しており、この夜は2人で共謀して本を盗み出すことになっていた。だがそれはフェイクで、祥子は自分のテリトリーである図書館を利用して宏久を殺害するつもりでいた。

祥子の指示に従って何の疑いもなく動く宏久を首尾よく殴り倒すと、本棚を倒し事故による圧死に見せかける細工を施した。宏久が残した空き缶などの痕跡を消し祥子は図書館を後にした。翌朝、出勤した事務員によって遺体が発見された。

一見こっそりと本を盗みに入った宏久が運悪く死んだと思われる現場だったが、倒れた本棚が数日前に移動されたこと、廃棄する本を祥子がわざわざその書棚に並べるよう指示していたこと、床の血だまりのでき方が不自然なこと、書棚が倒れて死んだはずなのに血しぶきが飛んだあとが本に残っていることなどから、福家はじわじわと周囲を固めつつ祥子を追い詰めていく。

 

最終的に亡くなったオーナーと祥子の悲願だった稀覯本の全集を完成させるための最後の1冊が、祥子の命取りになりました。本と図書館に対する執念が事件を起こしました。

オッカムの剃刀

復顔術が専門で科警研を辞めたあと大学の講師になった柳田嘉文は、池内国雄助教授(准教授)の研究室へと向かった。ある弱みを握られ強請られていたからだ。金を渡しこれで最後にしてほしいという柳田に対し池内は聞く耳を持たない。殺意を押し隠し、池内の眼鏡とたばこ、予備の未開封のたばこを2箱隠し持つと、柳田は研究室を出て行った。

夜、定例の教授宅での勉強会へいく道の途中で池内を待ち伏せていた柳田は、彼が歩いて来るのを待ち手にした金属バッドを振りかぶった。倒れ伏す池内のポケットから研究室の鍵を取ると、封が明けられたばかりのたばこを盗み取った使いさしのたばこと新品のたばこに交換した。メガネも現場に残すとその場を離れた。

現場は近頃立て続けに4件の強盗事件が起きていた。5件目でとうとう死者が出たという機動鑑識班の二岡に対し、被害者の池内の専門が復顔術だったこと、同じ大学に柳田がいることを知ると、福家は現場を二岡にまかせ大学へと向かった。

過去に16件の復顔を手掛け13件の解決に導いた元犯罪捜査のプロだった柳田に対し、福家は地道に証拠を積み上げていく。池内がメガネを盗まれたせいで車が運転できずタクシーを利用したこと、吸っていたたばこが珍しい銘柄で売っている店が限定されていたため途中でタクシーを降りてその店へ行き、徒歩で教授宅へと向かうなどの行動が犯人には読めていたことをぶつけていく。だがこの日のために、人を使って4件の強盗事件を起こさせその人物の口封じも済ませた柳田は、福家に対し証拠と動機が重要だと一蹴する。

池内の遺留品の中に赤と黒の2本のライターがあったことに気が付いた福家は、柳田を追い詰める突破口が見つかったと言った。

 

全てを完璧に終えたと自負する柳田でしたが、2本のライターに足元を掬われました。動機は科警研時代の未解決に終わった復顔にありました。根っからの犯罪者でした。

愛情のシナリオ

小木野マリ子は、柿沼恵美の自宅へと赴いた。マリ子と恵美は女優デビュー時からのライバルで、現在はある映画の脇役の座を争っていた。恵美の部屋は荒れていた。コーヒーメーカーは壊れワインのコルクはボロボロと砕け、キッチンのガスコンロは電池が切れているのか火がつかない。たばこの火を借りようとして使ったガスライターは火力の調整ができずマリ子は親指をやけどしてしまった。潔癖症で水道水が使えないマリ子は仕方なく置いてあったペットボトルの水で冷やした。

恵美の要件は脇役のオーディションからマリ子が降りること。そのための脅迫の材料として、マリ子の不倫現場の写真を用意していた。また主役を狙っている吉野利香のスキャンダル写真もあり、今回の映画の脇役に恵美は再帰を掛けていた。

恵美が掛かってきた電話に出ているすきにコーヒーに睡眠薬を混ぜたマリ子は、彼女が眠るのを確認すると、自分の作ったシナリオを実行すべく部屋に細工を施していった。

車のエンジンを切り忘れたことにより排気ガスが家中に充満し、一酸化炭素中毒による柿沼恵美の死亡が確認された。事故死に思われる状況だが福家は納得していないらしく恵美の部屋の捜索を行っていた。亡くなる少し前、恵美がコンビニで買った物のうち乾電池だけが車の中から見つかり、2Lのペットボトルの水が空になって捨てられているのを見つけた。

福家は、恵美とそのマネージャーが親指をやけどしていたこと、マネージャーに恵美に電話するよう焚きつけたのがマリ子であったことなどから、マリ子に狙いを定める。マリ子の親指にもやけどの傷がありたばこを吸うこと、恵美はお酒を一滴も飲まないがマリ子は酒を飲むこと、潔癖症で水道の水が使えないことなどをさりげなく確認する。

恵美がマリ子の素行調査を行っていたことが分かり、福家は脇役の座を巡った争いが犯行の動機だと投げかけてみたものの、結局その役は別の人間が持って行ってしまいマリ子が脇役欲しさに恵美を殺害したという動機自体も消えてしまった。

その後マリ子と利香のスキャンダル写真を撮ったカメラマンを見つけ出した福家は、マリ子が自分が調査されていることを知っていたという事実を確認し、ようやく彼女の犯行動機に思い至った。

 

脇役の座を争って恵美から脅迫を受けて殺したというのは、真の目的を隠すためのマリ子の書いた筋書きでした。

月の雫

佐藤酒造は金にあかせてコンピューター制御で日本酒の大量生産を行い、腕の良い杜氏を力づくで引き抜いたものの質の悪い酒を造り続けるため業績は悪化していた。谷元酒造は昔ながらの酒造りを続けているためか数が作れず、日本酒離れが続く状態で苦しい経営が続いているもののファンに支えられている。佐藤酒造は谷元酒造の目玉商品「月の雫」を我が物とするため谷元酒造の卸先に圧力をかけたりと営業妨害をし続けて更に経営を悪化させたため、酒蔵を守るため谷元酒造の社長・谷元吉郎は佐藤を殺すことを決意した。

深夜過ぎ、佐藤酒造との合併話に乗ったフリをして佐藤を「月の雫」の酒蔵までこっそりと連れてくると、水を張った醸造タンクの中に突き落とした。

佐藤が深夜に谷元酒造の酒蔵に入り込んでもろみを盗もうとしたところ、足を滑らせてタンクに落ちて死亡した。そう思われていたものの、福家は真っ暗な夜道をヘッドライトもつけずに運転してきた佐藤が慣れていないと駐車が難しい場所に、塀に擦ることも他の営業車にぶつかることもなく車を止めていたことに不審を持つ。

話を聞いた谷元によると、佐藤がこの酒蔵に来たのは何年か前に一度だけだという。また佐藤酒造の警備員によると、ドライブが趣味の佐藤は車を2台所持していた。だがよく違反切符を切られるため免停にリーチが掛かっており、一週間後の免許更新を控えて特に慎重になっていたという。佐藤の死亡現場で見つからなかった免許証は、使われなかった車の中で見つかった。

また谷元酒造では、佐藤が酒蔵で発見された日にクビになった従業員がいた。酒の研究のため佐藤酒造の新作の酒を取り寄せ、深夜こっそりと死角になる場所で飲んでいたのが社長にバレたせいだという。

その話を聞いた福家はある仮説を立て、谷元社長を追い詰めていった。

 

クビになった従業員が飲んでいた酒は、コネを使って手に入れた発売前の酒でした。その日その場所でしか飲まれなかった酒のことを谷元が知っていたという事実が、谷元が佐藤を殺害した決定的な証拠となってしまったようです。

良い日本酒を作り続けたいだけという思いが、悪い方向へと行ってしまった事件でした。

 

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追い詰め方が古畑任三郎、杉下右京にそっくりです(重箱の隅を突く、しつこい、犯人を油断させてからひと言等々)。ワンマンタイプの捜査官というのは似るものなんでしょうかね。