大倉崇裕「福家警部補シリーズ」シリーズ第3弾『福家警部補の報告』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「福家警部補の報告」のあらすじと感想をまとめました。

相変わらず淡々とひたひたと犯人に迫っていく福家警部補の事件簿です。読むたびに彼女の趣味の幅広さやマニアックな知識が分かって面白いです(ちょっとスーパーマン的になってきていますが)。

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「福家警部補の報告」書籍概要

今や生殺与奪の権を握る営業部長となった元同人誌仲間に干される漫画家、先代組長の遺志に従って我が身を顧みず元組員の行く末を才覚するヤクザ、銀行強盗計画を察知し決行直前の三人組を爆弾で吹き飛ばすエンジニア夫婦―過去数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験は、殺人事件に際しても活かされる。福家警部補はどこに着眼して証拠を集めるのか。三編収録のシリーズ第三集。「BOOK」データベースより

  • 福家警部補の報告(2013年2月/創元クライム・クラブ)
  • 福家警部補の報告(2016年12月/創元推理文庫)

禁断の筋書 きんだんのプロット

かつて河出みどりと三浦真理子は、同じサークルで漫画の同人誌を作っていた友人同士だった。サークルの人気が高まりみどりだけが湧泉社の編集に声を掛けられてデビューした時、2人の間に亀裂が入った。みどりはプロとして順調満帆な道を歩み、真理子は新人賞に入選することもなくアルバイトで食いつなぐ日々。プロを諦めた真理子は編集に転身しめきめきと頭角を現すと、とうとう湧泉社のコミック部門の営業部長になった。みどりと真理子の立場は逆転し、連載は打ち切られ、その後も仕事は来なくなった。

今年に入り、ようやくみどりの次の連載の話が持ち上がってきた。だが真理子がそれを潰そうと画策しているという噂もある。耐えきれなくなったみどりは、真理子の自宅へ向かった。階段から落ちて捻挫したという真理子は杖を使っていた。真理子から屈辱的な扱いを受けつつも交渉をするみどりだったが、真理子はみどりを潰すのが生き甲斐だと高笑いする。みどりが我に返った時、真理子は床に倒れていた。

みどりは意識を失った真理子をバスルームへ運んだ。追い炊きをするつもりだったのか、浴槽には水が張ってあった。そこに真理子の上半身を放り込み、自分が部屋にいたという痕跡を消すとみどりは家を出た。浴槽から跳ねた水はほんのりと花の香りがしたので、着ていたドレスは朝一番にクリーニングに出す。真理子の部屋に置いてあった販促用のみどりのサイン入り新刊のうちの一冊が、表紙や中のページが折れ曲がっていたのでテーブルの上のサインペンで新しくサインしなおすと、傷んだサイン本は証拠隠滅のため持ち去る。真理子の死は事故として処理され、みどりの前には明るい明日が広がっているはずだった。

福家は、真理子の部屋の真下に住む住人から、いつも聞こえてくる杖を突く音が真理子が死んだ時間帯には聞こえなかったことに不審を持ち、真理子が誰かと一緒に帰宅したのではないかと考えた。

編集部へ行った福家は、事件の前日、真理子が部下のミスの尻ぬぐいで徹夜し当日は会議を3つこなし夜には慰労会に参加していたことを聞き出す。みどりと真理子のサークル時代からのファンで2人の確執も知っている福家は、話を聞いた編集と意気投合し、事件の日のみどりは大御所の漫画家のパーティーに出席していたことを知る。

みどりと直接会って話を聞くと、パーティー後は自宅に戻った後散歩に出ていたという。みどりのマンションには指紋認証システムが入っていて記録がとられているので、調べれば時間も分かる。真理子が酔っ払ったまま風呂の追い炊きをしようとして足を滑らせ事故に遭ったとするとバスルームに不自然な状況が生まれる。だがもう一人誰かがいたと考えれば不自然さは解消される。それをみどりにぶつけたものの、するりと逃げられてしまった。

真理子の関係者に話を聞いて回った福家は、彼女の友人のカメラマンが真理子が足を捻挫した知り上海の土産として向こうで調合された湿布薬を渡したことを知る。湿布薬は瓶に入った液体で布に浸して使うもので半年はもつ量だという。だが真理子の部屋には空瓶しか残っていなかった。酔っ払った真理子は使い方を間違え、入浴剤として浴槽に入れてしまったのだろう。浴槽の水からは特殊な成分が検出されていた。

犯行時に服に飛び散ったと思われる特殊な水だったが、ドレスはみどりが既にクリーニングに出してしまい証拠は消されていた。福家はパーティー時に身に着けていた下着やバッグの類もすべて提出してほしいと依頼するが、みどりには令状を取らなければ受け入れられないと拒否し、出直すことになった。

翌日のみどりはホテルで大御所との対談を控えていた。新人賞を取った時に大御所から貰ったお揃いのブローチは、パーティーの時にも着けていたので浴槽の水が付着している。今回も着けないわけにはいかない。対談前に大御所の部屋へと挨拶に行ったみどりは、隙を見て大御所のブローチと自分のブローチを交換した。これで令状があってブローチを提出することになっても証拠は出ない。部屋を出て一息ついたみどりは、令状を手にホテルまで追いかけてきた福家の姿を見つけカッとなった。

 

うまく証拠を消してきたみどりでしたが、福家の方が一枚上手でした。みどりが証拠のブローチを交換することを福家は読んでいました。

少女の沈黙

組が解散し、堅気になった13人の元組員たちの受入先に苦慮している菅原巽は、かつての部下で堅気になることを拒否し別の組に移った金沢から連絡を受けた。組の解散を未だに納得していない次郎が、10歳になる邦孝の娘を攫ったというのだ。邦孝は四代目になるはずだったが、先代である三代目が解散を宣言したため極道の世界とは無関係に生きている会社経営者だった。だが組の復活を目論む次郎は、娘を人質に邦孝にかつて敵対していた飯森組の縄張りへの襲撃を強要しているらしい。

金沢からの連絡を受け邦孝に探りを入れるものの、何も起こっていないと誘拐について口を噤まれる。組のNO2で三代目から解散後を託された菅原は、一人で次郎を始末する決意を固めた。ついでに何かと目障りな金沢ともども。

金沢に武器を用意させ次郎の潜伏先に向かった菅原は、次郎と金沢が誘拐を企てたものの仲間割れし互いに殺し合ったという筋書きで2人を首尾よく始末した。その最中、拘束が解けたらしく部屋から逃げ出した少女に見られてしまったが、計画は遂行した。

廃屋や鉄塔が散らばる地区を警ら中の交番勤務の2人組は、暗闇の中、保養施設の跡地で光が瞬くのを見つけ、誘拐された少女と血の海の中倒れている2人の男を発見した。少女の入院先で邦孝と会った菅原は、身代金目当ての誘拐事件だったと口裏を合わせた。

福家は、2人で共謀して行った誘拐にしては誘拐現場の状況が不自然で、実際は1人だったのではないかと考える。また多額の身代金を要求されていた邦孝が金集めに奔走した形跡が一切ないこと、次郎がクリーニングから戻ってきたばかりのジャケットを着て死んでいたことなど不自然さを指摘する。目上の人間と会う時の礼儀としてジャケットを着用するという。邦孝の異母弟で三代目の子である傍若無人な次郎が礼を取る人間として、福家は菅原に注目した。人目に付きたくない潜伏先で警官に明かりを見られたのも、菅原が少女を助けるために残していった優しさだと言う。

また血の海の現場に立っていたにも関わらず少女の靴に血が付いていないことから、犯行時間帯には誘拐時に目をふさいでいたテープは剥がれ落ちて目が見えていたので、血だまりを避けられたのではないかと考えた。つまり少女は死んだ2人以外の人間を見ている可能性がある。

福家は菅原の名前が出ることを期待して入院中の少女に犯人について尋ねるものの、彼女は口を噤んだままだった。幼い子どもが自分をかばって黙秘しているという精神的負担を考えた菅原は、彼女に話してもいいと伝えると、別の証拠を携えてやってくるだろう福家を待った。

 

菅原は元極道ですが、堅気に戻った元部下たちに心配され庇われて身代わり出頭されるわ、誘拐され怖い思いをした女の子が味方につくわと歴代犯人達の中ではいい人でした。13人の就職先に苦慮していた菅原ですが、今まで拒絶していた邦孝が自分の会社で引き受けると言ってくれ肩の荷が下りたと思います。

女神の微笑

杖を持った後藤秀治は、ある男の跡を追っていた。男が公衆電話の前に立ち手荷物の工具箱を足元に置いたのを確認し、よろよろとぶつかり自分の工具箱と交換した。その後男は、道端に停まるワンボックスカーへと乗り込んだ。煙草を吸いに外に出る男たちの様子を近くから伺っていた後藤は、三人の男たちが車に戻ったタイミングを見計らい、杖に仕込んだボタンを押した。車内に閃光が走り爆発音がした。

死亡した三人の男は、先々週に起きた宝石強盗未遂事件の容疑者たちだった。爆弾を使って金庫を開けようとしたものの威力が弱く失敗、何も取らずに逃げた。どうやら三人は車から少し離れた場所にある銀行を次のターゲットにしていたらしく、銃や見取り図などが見つかった。

周囲の聞き込みを行った福家は、目撃者の似顔絵などから事件後に現場から消えた後藤の存在を突き止め話を聞きに行く。後藤には車いす生活をしている妻の喜子がいた。以前飲酒運転をしていた車にぶつかられ、後藤の息子が死に喜子は車いすが手放せなくなり耳もほとんど聞こえなくなったという。爆発が起こった時、後藤は買い物で近くに来ていたと認める。

化学肥料会社に勤めその後会社を立ち上げた後藤と喜子には、爆弾を作るだけの知識も技術もあった。現場の状況からあっという間に2人の存在に気づき、おそらく犯人としての疑いも持っただろう福家を、喜子は好敵手と認めたらしい。楽しそうに微笑んだ。

福家は被害者のうち爆弾作りを担っていただろう男が、アル中で手の震えのため爆弾が作れなかったという証言を得る。また後藤と喜子の散歩コースである公園で、被害者たちが銀行強盗の相談をしていたという話も聞く。だが同じ公園内でも散歩コースと男たちの相談場所は離れており会話が聞こえたとは思えない。どうやって2人は銀行強盗の計画を知ったのか。

福家の同僚の石松警部補が、後藤と喜子に関する重大な話を持ってきた。2人は今回の爆発が初めてではなく、過去7年で4件の事件を起こし6人が死んでいた。手法はさまざまで決定的な証拠がないまま今に至っているが、状況から夫婦の犯行は明らかだった。2人は法の目をすりぬけた犯罪者をプロ並みの手腕で始末していた。

福家は遺留品をもとに夫妻の犯罪の証拠を積み上げていくが、あと一歩というところで暴力団担当の刑事らが現れ、過去の事件の関係者だからと強引に2人を連れ去ってしまった。犯人を目の前で奪われ事件は宙ぶらりんに終わった。

その後、2人を護送中の警察車両が襲撃され後藤夫妻は姿を消す。福家の携帯に、また会いましょうという喜子からのメッセージが残された。

 

初めて犯人が逮捕されずに終わった短編でした。またいずれ福家に挑戦する形で現れるのでしょうか。

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ずっと福家警部補シリーズを読んでいると、科学捜査も発達した今の世の中で、完全犯罪は難しいだろうなとしみじみとさせらます。