大倉崇裕「福家警部補シリーズ」シリーズ第5弾『福家警部補の考察』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「福家警部補の考察」のあらすじと感想をまとめました。

初出の頃から年数も経っているので多少は性格などにも変化が現れるのかと思いきや、初登場時とほぼイメージが変わらないまま、事件に対する嗅覚も変わらず凄いです。

「福家警部補の考察」書籍概要

地位と愛情を天秤にかける医師の誤算(「是枝哲の敗北」)、夫の企みを知って機先を制する料理好きな妻(「上品な魔女」)、身を挺して師匠の名誉を守ろうとするバーテンダー(「安息の場所」)、数年越しの計画で恋人の仇を討つ証券マン(「東京駅発6時00分のぞみ1号博多行き」)…『福家警部補の挨拶』に始まる、倒叙形式の本格ミステリ第五集。「BOOK」データベースより

  • 福家警部補の考察(2018年5月/創元クライム・クラブ)

是枝哲の敗北

聖南総合病院の皮膚科部長・是枝哲は、顔なじみのMRである鈴木に雑誌の処分を頼んだ。そして届いたばかりの論文の校正原稿を手に病院を抜け出し、鈴木の車に身を潜めた。積み上げられた雑誌が死角となって是枝は誰に気づかれることもなく立体駐車場まで来ることができた。避難器具収納庫で論文の校正を行いながら、是枝は足立郁美がやってくるのを待った。

郁美は女を武器に実績を挙げる大手製薬会社の凄腕MRだった。是枝が今の病院に移る前の顔なじみで、5年前、郁美が聖南総合病院近くの医療センターの担当になったことで再開し関係が続いていた。是枝との関係をバラすという郁美は脅威だった。

夜10時前、駐車場に停めた自分の車のところへと郁美が戻ってきた。酒を飲んでいる郁美は、いつも一服して酔いを醒ます。是枝は郁美の隙を突いて非常階段から突き落とし用意していた鉄棒を何度か頭上に振り下ろした。血が広がり始め絶命を確認する是枝の耳に救急車のサイレンが聞こえていた。郁美の左手首には何か文字が書かれていた。電話を受けた時のメモらしい。携帯しているルーペで確認すると是枝とは関係のないメモだった。是枝は郁美の右手の手袋を外して指輪を抜き取ると、買っておいた缶コーヒーの中身を階段にぶちまけ、踊り場から鉄棒を放り投げた。音に驚いた警備員が詰所から飛び出してくると北階段へと走っていく。その隙に詰所の前を通り過ぎ、是枝は病院へと戻った。

酔いを醒まそうとした郁美が北の非常階段へと向かい、落ちていた空缶に足を滑らせて転げ落ちた。警備員もよく郁美が一服する姿や車の中で寝ているのを見ていたため、事故死だと思われたものの、福家は封を切ったばかりの煙草の1本だけ口紅にがついていたこと、右手の手袋だけ脱いでいることを気にした。郁美は、駐車場から聖南総合病院までの道筋を示した地図を持っていた。担当ではない病院の地図をなぜ持っているのかと福家は疑問を口にした。

部長室でネットのチェスをしていた是枝のもとに鈴木から郁美の訃報の連絡がきた。電話を終えると、いつの間に来ていたのか部屋に福家がいた。郁美の地図の案内表示をたどってきたら皮膚科に着き、明かりの点いていた部屋を覗いたら是枝がいたというのだ。福家は是枝が煙草を吸うかどうか確認し、是枝は嫌煙家だと答えた。

夜が明け、再会した是枝になぜ予定もない郁美が駐車場へ行ったのか、なぜ右手の手袋を外していたのかと疑問を口にすると、是枝はスマートフォンを操作するためではないかと答える。だが郁美の手袋は着けたままでも画面操作ができるタイプのものだった。また口紅の残る煙草から、郁美はいったん口にくわえた後に戻した。つまり駐車場で誰かと約束をしており、その相手が嫌煙家だったため煙草を吸うのをやめたという可能性を福家は示唆する。そして知り合いの死を知らされた是枝が、冷静にチェスの対戦を続けチェックメイトしたことに驚いたといい、病院内の患者に紛れて消えていった。

立体駐車場で実験が行われていた。物音に驚いた警備員が北階段へ走り郁美の遺体を見つけて詰所へ戻ってくるまでの時間が46秒。その隙を縫って犯人が逃げることが可能か実際に試していた。監視カメラを避け警備員と鉢合わせないために、犯人は南階段を利用したと思われる。だが遠回りのルートは何度やっても1分を切ることができなかった。

福家はたびたび是枝のもとに足を運ぶものの、是枝はぼろを出さない。よほど余裕があるのか福家の首筋の虫刺されの跡に気づき、オリジナル配合のステロイド軟膏を塗ってくれる。

郁美の遺体を発見した警備員から連絡があった。駐車場近くに住みついたホームレスが情報を持っているというものだった。事件当時、南側をねぐらとしていたホームレスは頭上で何かが落ちる音を聞いたらしい。

全ての謎と事象が繋がり物証も得た福家は、是枝を駐車場へと呼び出した。

 

タイトルの「敗北」は、福家に対してではなく郁美に対してだったことが最後に判明しました。

上品な魔女

立ち上げた会社が上手くいかず借金を抱えた中本誠は、ある計画を立てていた。自宅の屋根にソーラーパネルを設置し、日々屋根に登って記録を取り続けている。中本が家にいない時は妻のさゆりがその役をこなす。屋根には6本の足掛かりをつけていた。そのうち1本のねじが緩み、足と体重をかけたとたん足掛かりが外れ、はずみで屋根から転落死する。妻の死亡保険金、それが中本の狙いだった。

翌日は出張の予定を入れているので妻が屋根に登る。一番体重がかかる4番目の足掛かりのねじを緩めるため、3番目の足掛かりに足を乗せた時だった。なぜか外れた足掛かりとともに中本は地面へ向かって落ちていった。

夕飯の支度をしていたさゆりは、庭に何かが落ちていく音に意外とあっけない幕切れだとため息をつき、玄関から庭先へと向かうと悲鳴を上げた。

福家は、暗くて庭の様子がよく見えなかったというさゆりが119番ではなく110番したこと、すぐに庭に飛び出したというさゆりが実際にはわざわざ玄関を回って庭へ行ったこと、レタスを洗っていて濡れていたはずの手でスマートフォンのロックをすんなり解除できたことに疑問を持つ。また隣家の女性から昼間に屋根に登る人物を見たという証言を得られ、それがさゆりだと思われるものの決定的な証拠がない。何より中本には保険が掛かっておらず、保険金目当ての殺人が通じなかった。

福家はさゆりの大学時代の友人から、人当たりが良く朗らかで男からもてていたさゆりだが彼女と関係した人物は不幸な死を迎えることが多く、陰で上品な魔女と呼ばれていたことを聞く。友人は福家と話をした直後に事故にあった。

何度もしつこくやってきては自分のペースを乱す福家に、さゆりはオレンジジュースを振舞った。中本の書斎の冷蔵庫にあった外国のジュースで、中本自身が買ってきたものだった。強引に飲むよう促したさゆりは、福家が1/3ほど飲むのを確認したあと福家を迎えに来たという二岡を出迎えるため玄関に向かった。二岡を伴ってリビングに戻ると、体をくの字に折り曲げて倒れている福家がいた。

 

倒れていたのは福家の演技でした。中本の書斎を調べていた福家は、毒の入ったジュースを普通のジュースと交換していました。ジュースは中本が立てたさゆり殺害計画の一つでした。中本のパソコンを見て計画を知ったさゆりが、それを利用して中本を殺害、福家にも知らずに毒ジュースを飲ませてしまったと言い逃れるつもりでした。

安息の場所

バーテンダーの浦上優子は、尊敬する師匠の教えを守りながらカウンター席だけの小さなお店を一人で切り盛りしていた。BARソリティアは優子にとって大切な場所だった。だから4年前に病気で亡くなった師匠の秘密を探り優子を強請ってきたバーテンダー崩れのライター・久義を許すことはできない。協力者から1発だけ弾の入った拳銃を手に入れると、常連客を利用してアリバイを作り久義を抹殺することにした。計画は全てうまくいった。久義がくじ引きで当てたという師匠が好きだったウイスキー、酒を捨ててはいけないという師匠の言葉を思い出し、優子はバックバーに置いた。同じウイスキーが3本になった。

久義が受けた銃弾はわずかに急所を外れた。逃げようとして5mほど這い息絶えたらしい。すぐそばにはうってつけの鉄棒が3本落ちていたのに、なぜ犯人はとどめを刺さなかったのか。銃声で通報されるのを恐れたためではないかという声をスルーして福家は捜査を開始した。

事件の通報は翌朝だった。久義は深夜1時過ぎに銃声とともに殺されたにも関わらずなぜ事件の発覚が遅かったのか、理由は不良たちが公園で爆竹を鳴らしていて銃声が聞こえなかったせいだった。リーダー格の高校生に話を聞いた福家は、彼らに爆竹が買えるほどのお金をさりげなく渡していた優子の存在を知る。

優子の店は午前1時に閉店する。その日は常連客がいつものようにシングルモルトを3杯飲んでいた。常連客は、0時半頃に眠りこみ閉店だと優子に起こされた時に確認した携帯電話は1時だったと証言した。閉店後は優子と2人で別のバーで3時まで飲んでいた。だがいつもはシングルモルト3杯では眠らない、目が覚めたあと3杯目を飲み干すと水っぽい気がしたとも証言する。優子の店は時計を設置していないこと、水っぽかったのは氷が全て溶けていたせいだと知った福家は、そこに優子のトリックがあると考えた。

殺された久義の部屋はめちゃくちゃに荒らされていた。床に散らばった本や雑誌類を、過去に久義が部屋で撮った写真のとおり棚に戻してみると、原町というバーテンダーの本が2冊消えていることに気が付いた。原町がかつて営んでいた店には、優子と同時期に久義も弟子入りしていたこと、厳しい教えについていけなかった久義が原町に恨みをもって調べていたこと、暴力団担当の元刑事が用心棒として店で働いていたことも突き止めた。拳銃の入手や部屋を荒らしたのはこの男だと福家は考える。

なぜ鉄棒でとどめを刺さなかったのか、どうやってアリバイ作りをしたのか、なぜ久義を殺したのか……様々な疑問の答えと犯行の証拠を携え、福家は優子の店へと行った。

 

バーテンダーの命ともいえる手首を痛めたくないので鉄棒を振り回せなかったようです。ぼったくりバーで働いていた経験のある久義は、くじ引きで当たったウイスキーにある仕掛けを施していました。師匠の教えに従って酒を捨てられなかった優子にとって、そのウイスキーが犯行の決定的な証拠となってしまいました。

東京駅発6時00分のぞみ1号博多行き

外資系大手証券会社のトップ営業マン・蓮見龍一は、恋人のゆきの復讐のため、別会社の証券マンである上竹を夜の埠頭に呼び出した。蓮見を尊敬しているらしい上竹はピカピカに磨いた靴でやってきた。その靴で水たまりの泥水を歩かせて少しだけ留飲を下げたあと、逃げる上竹の背中に銃弾を撃ち込んだ。銃は、やくざ上がりの自称コンサルタントの朝倉から手に入れたものだ。蓮見が儲けさせてやっているので朝倉はいいなりだった。呼び出した朝倉も撃ち殺すと、蓮見は東京駅へと向かった。京都である式典に出席するためだった。本国のCEOも来るせいか、秘書課からモーニングコールも入る念の入れようだった。

蓮見が乗る「のぞみ」は入線が遅れていた。待合室では朝のニュースを流しており、例の埠頭を背景に中継が行われていた。待合室には地味な服装の小柄な女性がいたが、のぞみが入線してきた時にはもういなかった。

蓮見の指定席は8号車の窓側、隣の席は待合室に座っていた女性だった。名前を福家と名乗り、名刺代わりに警察バッジを見せ捜査一課に所属していると言った。

敵の多かった朝倉が埠頭で何者かに撃たれ、運悪くそれを目撃した上竹が逃げようとして射殺された。捜査にあたる日塔警部補と二岡のところに福家から着信が入った。福家は京都へ向かっているはずだった。しばらく福家と話をしていた日塔は、二岡に捜査状況をすべて文字化して福家にメールしろと命じる。電話でいいのではいう二岡に対し、日塔は、福家の隣に殺人犯がいると答えた。

福家にうまく誘導されたのか、気が付けば蓮見は朝倉と上竹が殺された事件について福家と検討する羽目になっていた。福家が挙げる疑問点を、証券マンという視点から蓮見が考え答える。蓮見は、無能だと見せかけている福家が、朝倉・上竹の事件と蓮見を結び付けて考えていることを感じていた。

緊張感のある攻防に耐えようやく京都が近づいてきた。福家は蓮見の手荷物を見せてほしいという。復讐はまだ終わっていないため銃は手放していない。そのことを知っている福家は、証拠となる凶器を見つけ出そうと考えているようだった。自分たち警察は諦めないし訴訟されても構わないと言い募る福家に、蓮見は持っていたバッグを渡す。銃は見つからなかった。表情のない福家の手からバッグをひったくり、蓮見はホームに降りた。

京都で使いたかったが銃は諦めてのぞみに残すしかない。そう考える蓮見の耳に、自由席車両の方からガーンという乾いた音と泣き叫ぶ子どもの声が聞こえた。わき腹を赤く染めた母親らしき女性が倒れており、すぐそばには蓮見が銃を隠しておいた鞄が荷物棚から落ちていた。銃の暴発……慌てて鞄の中身を改めた蓮見は、中に黒く光る銃を見た瞬間、取り返しのつかない過ちをしたのに気が付いた。目の前に福家が立っていた。

 

倒れた母親は、名古屋駅から乗り込んできた女性警察官の演技でした。福家は待合室でニュースを見ている蓮見の表情が気になり、わざわざ交渉し蓮見の隣に席を確保したそうです。怖い人です。

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福家警部補は人事交流で3か月京都で過ごすそうです。次の舞台は京都になりそうですね。楽しみです。