大倉崇裕「福家警部補シリーズ」シリーズ第2弾『福家警部補の再訪』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「福家警部補の再訪」のあらすじと感想をまとめました。

徹夜が平気でしょっちゅう警察バッジ(手帳)を行方不明にし、見た目も刑事らしくないのに捜査一課のエースという年齢不詳(おそらく30代以上)という福家警部補の活躍を描いた短編集です。彼女の幅広い趣味に毎度驚かされます。

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「福家警部補の再訪」書籍概要

しがない探偵から転身し上昇気流に乗った警備会社社長、一世一代の大芝居を自作自演する脚本家、天才肌の相棒と袂を分かち再出発を目論む漫才師、フィギュア造型力がもたらす禍福に翻弄される玩具企画会社社長―犯人側から語られる犯行の経緯と実際。対するは、善意の第三者をして「あんなんに狙われたら、犯人もたまらんで」と言わしめる福家警部補。百戦不殆のシリーズ第二集。「BOOK」データベースより

  • 福家警部補の再訪(2009年5月/創元クライム・クラブ)
  • 福家警部補の再訪(2013年7月/創元推理文庫)

マックス号事件

豪華客船「マックス号」での1泊2日のクルーズ中、原田明博は川上直巳を殺害するため動いていた。一時はパートナーだったこともあるが、その後の人生は明暗が分かれていた。原田は日本でも有数な警備会社の社長でテレビでも引っ張りだこ、一方直巳は大阪で店を始めたもののうまくいかず借金の取り立てに追われつつ東京に舞い戻っていた。2人が組んでいた頃の探偵と強請で荒稼ぎした証拠をネタに、直巳は原田に5千万円を要求していた。原田に払う気はなく、マックス号クルーズを利用して片を付けるつもりだった。犯人役として身代わりも用意している。すべては原田の計画通りに進んだ。

マックス号の船長は、従業員から殺人事件の報告を受けた。船医がいないため乗客の中から探すものの見つからなかった。だが乗船チケットを持たない密航者を捕まえたという連絡を受けてみると、福家警部補だった。停泊中のマックス号内である事件の証拠品を探していた福家は、出航に気づかず一人で捜索を続けていたらしい。港に着くまで約11時間、船長はたった一人の警察官・福家に協力を仰いだ。

従業員が部屋から飛び出してきた男を目撃し、何気なくそこを覗いたところ、ウイスキーボトルで殴られたらしい直巳の遺体を発見した。ボトルは砕け床に破片が散らばっていた。直巳は抵抗したらしく化粧台の角にへこみがあった。福家は凶器に疑問を持った。へこみができるほど強く殴られたならまずそこでボトルが砕けているはずで、直巳を殴れないことになる。また遺体の状況から先に直巳が床に倒れ、その後ボトルが割られたことが分かった。

また合鍵を持っているはずがない犯人がすんなりと部屋で犯行を行っていることから、福家は顔見知りの犯行と狙いを定める。直巳の手に残っていた跡が何かを握りしめた時についたものだと考え、それがハラダ警備会社のシンボルマークだと思い至る。乗客名簿を確認し原田に話を聞きに行く。原田のネクタイピンは会社のマークを使った特別製だったが、福家に対し原田はぼろを出さなかった。

目撃された男が見つかった。だがメモで呼び出されただけだと犯行を否認する。福家は通常の警察の捜査ができないのを理由に警備会社社長の原田に捜査の協力を頼んだ。慎重な言動の原田は、福家の誘導を巧み避けすきを見せない。

原田が直巳の部屋に行った時、彼女はちょうど爪にマニキュアを塗り乾かしていたところだった。その事を原田は気づかず福家との会話の中で知り焦る。重要な証拠を消すため直巳の部屋へと向かい遺体に火をつけようとした原田だったが、見張りをしていた従業員によって失敗に終わった。福家の登場によって思わぬ綻びが生まれたが、船から降りてしまえばどうにかなる。警察官らが待ち受ける埠頭で勝利を確信する原田だったが、タラップを降りる視界の中に福家がいた。

 

危ない橋を渡り容疑を掛けられつつも慎重に行動していた原田でしたが、最後に消し損ねた証拠が決定打となり逃げ切ることができませんでした。

失われた灯

脚本家の藤堂昌也は、自らを破滅に追い込む男をこの世から消すため計画を立てた。役者志望で藤堂のファンだといって付き纏い続ける三室に、オーディションで犯人役を射止めるために練習をしようと持ち掛け小道具として麻縄などを用意させ、三室の運転で藤堂の別荘へ向かった。別荘では稽古と称し藤堂の書いた誘拐犯の脚本を読ませ、実際に縄で縛らせる。コンビニで三室が買ってきた弁当を食べている最中、上手に三室に席を外させた隙に、藤堂は三室のカレーに三室が医者から処方されている精神安定剤を混ぜ込み眠らせた。眠り込んだ三室を地下に放り込むと、藤堂は自分の事務所に電話をかけ録音しておいた身代金を要求するセリフを流した。

別荘を抜け出した藤堂は、人里離れた所に自宅を構える辻の元を訪れた。骨董品を扱う辻の家はガラクタだらけに見える。酔っ払って出迎えた辻は、藤堂のデビュー作が盗作だったという証拠をネタに大金を強請ってきていた。凶器にと目を付けた仏像で辻を殴り殺し遺体を中心に灯油を撒くと、作業台の上にあったロウソクで火をつけ証拠の原稿ごと燃やし別荘へと戻った。

消火活動が一段落した現場に福家がやってきた。石松警部補が担当の筈だがと訝しがる機動鑑識班の二岡に対し、別件で出てしまい自分しか残っていないと答えると検分を始めた。

別荘に戻った藤堂は再び事務所に電話をかけ三室の声を流すと、目を覚ました三室が地下室から出てくるのを待ち、小道具にと持ってこさせた実弾入りの銃で三室を撃ち殺した。藤堂の事務所で逆探知に成功した石松らの連絡を受けた警官が銃声をききつけて別荘にやってきた。自宅の駐車場に待ち伏せていた三室に誘拐され別荘に連れてこられ、縛られて地下室に閉じ込められていたが何とか脱出したところを三室ともみ合いになり、そばにあった銃で撃った。正当防衛が成立するはずだった。

辻の行きつけのバーへ行った福家は、ゴミ箱に捨てられた辻のメモを手に入れた。そこには「藤堂自宅 夜11時」とあった。藤堂の入院先に電話をかけた福家は、電話を受けた石松から火事で辻が死んだ時間帯、藤堂は誘拐犯に地下室に監禁されていたと返された。

離れた場所で同時に起きた誘拐と火事、犯人は藤堂だと目を付けた福家は三室の遺留品の中からクリーニングの引換券を見つけると話を聞きに行く。役者志望の三室は、近々オーディションを受けるといって勝負服のスーツをクリーニングに出していた。またレンタルショップの会員証から店長に話を聞くと、誘拐が絡む映画ばかり8枚借りていったという。福家は辻の知り合いの古物商から、辻に土蔵の片づけを頼んだという家を見つけ出すと藤堂の犯行動機を探し当てた。だが藤堂に盗作の事実を告げても落ちなかった。

福家は辻の家で焼け残った金庫の中に入っていた何点かの燭台を手掛かりに事件当夜の辻の動きを把握すると、藤堂を追い詰めにかかった。

 

目障りな人間2人を完全犯罪を計画し葬った藤堂でしたが、最終的には自身の失言で罪を認めることになりました。

相棒

しゃべくり漫才コンビ「山の手のぼり・くだり」こと立石浩二と内海珠雄は、コンビ解消で揉めていた。ピンとして活動したい立石に対し、内海は師匠の命日が来るまでの半年間は解消はしないと頑なだった。天才型の内海に対し努力型の立石、それなりにうまくいっていた。人気実力ともにNO1になり師匠の死に目にもあえず、内海が自転車で転倒して大けがを負った時も応急措置だけで舞台に立った。50を目前にして、立石は再びあの頃の栄光を取り戻したかった。そのためにもコンビ解消は必須だった。

立石と内海は稽古場兼隠れ家として別荘を共同で所有していた。雨が降ったり止んだりする中、先に到着した立石は、合鍵をなくしてまだ作っていないと言っていた内海が庭の松の木を上りベランダに手を伸ばすのを見た。すでに内海は飲んでいるらしい。手を貸してほしいという内海の体を、立石はベランダから思いっきり突いた。予想外に軽い手応えの中、内海の体は地面へと落ちていった。

チラシを配りに来たアルバイトが庭に倒れている内海を見つけ通報し、福家が臨場した。庭の植え込みの脇にワンタッチで開くグレーの傘、玄関先には内海のコートとコンビニ袋が落ちていた。また何も書かれていない表札プレートの裏に別荘のものと思われる鍵が張り付けられていた。内海は別荘までタクシーでやってきたらしい。すでに酒を飲んでいたという内海はどこか様子がおかしく、後部シートでぶつぶつと何事か呟いていたと運転手は証言した。相棒の立石によると、ベランダの植木鉢に合鍵を隠しているので、それを取ろうとして誤って転落したのではないかという。

チラシに残されていた足跡、安物の手動で開く傘を所持していた内海のそばにワンタッチタイプの高級傘が落ちていたこと、チーズ全般が嫌いな内海がコンビニでスモークチーズを買っていた事などから、事件当時別荘に誰かいたのではないかと福家は睨む。もちろん別荘のもう一人の所有者・立石のことだった。スモークチーズは立石の好物でもあった。

地道に聞き込みをし推理を進めていった福家は、内海がアルツハイマー(痴呆症)を発症し、しょっちゅう日常生活の記憶をなくしていたこと。それを周囲にひた隠しにしていたこと、病状を悟られないため隠しマイクとレコーダーを使っていたことを突き止めた。内海の症状は深刻だった。レコーダーには事件当時のやり取りも記録されているのではないかと福家に言われた立石は、死ぬまで漫才師と常々口にしていた内海がコンビ解消を自分のぎりぎりまで引き延ばしていたこと、あの日別荘に内海がステージ衣装でやってきたことなどを思い出した。内海がいなくなってから胸に穴が開いたようになっていた立石は、内海の漫才にかける思いを知って打ちひしがれ、自供することに決めた。

 

ステージ衣装を着て立石との待ち合わせの別荘に赴いた内海は、まるで自分がその日死ぬことを知っていたかのようです。というより、相棒に殺されることを薄々感じていたからこその衣装だったと思います。

プロジェクトブルー

フィギュアの製作などを手掛ける「スワンプ・インプ」の社長・新井信宏は自社ビルのロビーで取材を受けていた。取材後、模型塗料メーカーの営業・小寺がやってきて中が見えないよう黒いテープを巻かれた新商品のサンプルを持ってきた。来月発売なのだという。受け取った新井は、深夜、自称造形作家の西村の家へとやってきた。西村は新井が会社を立ち上げる前の学生時代、数が少なく非常に貴重な怪獣の人形を複製し本物と偽って荒稼ぎした事実の公表を盾に大金を要求していた。違法行為に時効が成立しても、世間的な立場が悪くなるのは必至だった。

事故に見せかけて西村を殺した後、証拠となるかつて新井が作った偽物の怪獣人形を手に新井はその場を離れた。途中、ポケットに入れておいたサンプルの塗料瓶を落としたことに気づいて焦ったものの、西村の部屋の中で見つけて事なきを得た。

車で外出しようとした西村は、坂の途中で塗料を忘れたことに気づいて家に取りに帰った。車へと戻る際落とした塗料を拾い集めていたところ不幸にも車止めが外れ、坂を下ってきた車に激突して死亡した。当初は事故と考えられていたが、運転専用の靴が西村に履かれないまま助手席にあったこと、部屋のコンプレッサーのスイッチが入りっぱなしだったことが引っかかり、西村が持っていた雑誌の特集が全て「スワンプ・インプ」だったこと、6枚あった講演会チラシの講師が全部新井だったことを知り、福家は社長の新井に会いに行く。また西村の部屋に残されていたV字に折れた綿棒(塗料をぬぐうのに使ったと思われる)、フィギュア塗装をしている雑誌の新井の写真にも同様の形に折られた綿棒が映っていた。

新井は「ブルーマン」という特撮が来季リニューアルしデザインも新しくなることから、徹夜でリニューアル計画「プロジェクトブルー」のプレゼン用ブルーマンのフィギュアを作っていたという。ブルーマンのデザイン候補は7つあり、西村の事件の夜に決定した。イラストデータが届いてから製作に取り掛かったという新井の主張とフィギュアの進行状態に齟齬はなく、新井の事件当夜のアリバイは証明された。

新井が小寺から貰った新製品のサンプル・青色の塗料は、新しいブルーマンに相応しく鮮やかに発色し、新井のイメージ通りの仕上がりになった。新井は塗料の追加を小寺に頼んだ。

福家は西村の死を殺人と断定し捜査を続けた。そして西村が造形作家だけでは食べて行けず古物商まがいの商売にも手を出し、ある旧家で見つかった怪獣人形をかなりの金額で買い取ったこと、新井が「スワンプ・インプ」を立ち上げようとしていた頃、天才的な技術を持った人間が貴重な怪獣人形の精巧な偽物を作っていたという噂が流れていた事などを掴んだ。

塗料メーカーの小寺にも話を聞いた福家は、彼の口から新デザインではブルーマンの色が変わりゴールドが使われることを聞き、驚くとともに詳しく聞き出した。小寺からことづかったサンプル塗料を手に、福家は新井と直接対決に出向いた。

 

デザインが決定したばかりのフィギュアを徹夜で1から作り造形→色塗りまでこなしたので、西村を殺す時間などなかったという新井のアリバイは、事前に漏れていた7つのデザイン全てにおいて予め造形まで進めておき、決定稿が出たあとに色塗りだけしたという時間短縮トリックによって崩れました。

何より手間暇かけて殺人計画を練ったにも関わらず、間抜けとしか言いようのない証拠で犯行が露見したのは、福家警部補短編史上最も道化師っぽい犯人でした。

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淡々とした表情で確実に外堀を埋めて追い詰めてくる……一度目をつけられたら絶対に逃れられないですね。読んでいる方はすっきりしますが、犯人にとっては死神同然の相手だと思います。