大倉崇裕「福家警部補シリーズ」シリーズ第4弾『福家警部補の追及』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「福家警部補の追及」のあらすじと感想をまとめました。

今回は山での滑落事故と恋人による殺人を偽装したものという少し長めの事件が2つです。福家警部補の超人ぶりもパワーアップしています。

「福家警部補の追及」書籍概要

「この勝負、絶対ゆずれない」食い下がる犯人をとことん追い詰める!手加減しない名刑事、今日も徹夜で捜査する。「BOOK」データベースより

  • 福家警部補の追及(2015年4月/創元クライム・クラブ)
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未完の頂上 みかんのピーク

世界の名立たる山々を制覇してきた登山家の狩義之の悲願であるチャムガランガ登頂の夢は、息子の秋人に引き継がれた。登頂許可が下り秋人の準備も万端に整え気力体力ともに充実している。だが秋人の最大のスポンサーである大手不動産会社「中津川不動産」の相談役・中津川が事業から手を引くという。中津川は秋人が見つけてきたスポンサーで、今まで数々の支援を続けてきた。中津川自身、秋人のことを息子のように可愛がっており、秋人の影響で中津川自身も山登りをはじめたほどだった。

だが中津川は、チャムガランガ登頂は秋人の名前を借りた狩自身の事業であり、未踏峰の山へと命をかけた挑戦は自殺行為だと言い切り、秋人をそんな場所に送り込むわけにはいかないと言う。週明けにも役員会で後援の中止を決定すると宣告した中津川を、狩はリュックに隠し持っていた石で殴打して殺した。金曜の夜のことだった。

遺体を登山用に服に着替えさせると、中津川が使っている赤い布が巻かれたトレッキングポールも忘れずに持ち、中津川の車で倉雪岳へと向けて出発した。午前3時過ぎ、遺体を背負子に乗せて背負うと狩は山を登り始め、途中の崖で遺体を落として下山した。駐車場で中津川に着せたのと同じ登山服に着替えると、狩はしばしの休息に入った。

午前7時過ぎ、始発のバスが登山口に到着した。自分の後ろ姿が登山客らの視界に入るのを確認すると、狩はトレッキングポールを手に登山を開始した。いつにないスピードで頂上まで行くと、登頂記念のカードを手に取り山小屋まで戻り玄関脇に設置してある日付スタンプをカードに押した。山小屋の主人と目が合ったので赤い布が印象に残るよう杖を振っておいた。帰りは通常のルートを外れ一気に下る。途中始発バスの客たちが通常ルートを登っていくのを隠れてやり過ごすと、中津川を落とした場所まで戻りポールやザックなどをまとめて放り投げた。下山を終えた狩は中津川の車を残し、バス停まで歩いた。

中津川の秘書だという女性が警察に駆け込んできた。相談役の中津川と連絡が取れないので探してほしいという。だが連絡が取れなくなってから半日ほどしか経っていない。幼い子どもならまだしも大の大人が…と対応に困っているところに、ある事件の捜査本部を解散したばかりの福家が通りがかった。秘書は、相談役は狩義之に殺されたに違いないと訴えた。

中津川不動産によると、会社のトップが危険な山登りをすることに周りがいい顔しなかったため、中津川は誰にも行き先を告げずに日帰りか1泊で山へ行くようになったといい、あまり心配はしていなかった。また相談役になってからは実務からも手を引き、役員会も委任状で欠席が続いていた。だが中津川の意見は役員会での決定事項となるくらい、影響力は強いままだった。

福家が狩の会社の社長室を訪ねると、金曜の夜に中津川と会ったことは認めたものの行方は知らないという返事が返ってきた。

月曜の午前9時半頃、登山口の駐車場に停めてある車の主が山で遭難しているかもしれないという要請を受けて捜索を開始した山岳会によって、中津川の遺体が崖下で発見された。リュックにあった登頂記念カードの日付などから、下山時に足を滑らせて滑落したと思われた。

中津川がはめていた軍手に汚れが付いていなかったことから、福家は事故の可能性を否定する。足元が不安定な場所で登山客ならば手すり代わりに設置している鎖に掴まるはずで、鎖の汚れは手袋に移るのが通常だったからだ。また山小屋の主人は、赤い布の杖のことは覚えていたが、顔までははっきり覚えていないことも確認した。

中津川の事故を知り追悼のために滑落した場所へ登るという狩についていきながら、福家は軍手の汚れについてぶつけてみるが、慣れている人間なら手すりは必要ないと一蹴されただけだった。また登山グッズをぞんざいに扱う中津川がリュックの服を綺麗に畳んでいたという疑問点やカーナビに関する不自然さをぶつけても、狩は平然としていた。

月曜の役員会で秋人の支援継続が決定した。役員によると、中津川は支援中止の方向に考えが変わっていたが、早々に委任状が届いて継続が決まった。もし中津川が出席していたら鶴の一声で中止になっていたと話す。

福家は狩が中津川を事故に見せかけて殺した場合、もっと適した山があったのになぜ倉雪岳を選んだのかに着目した。おそらく他の山だと見晴らしがよく遺体の発見が早まり、会議そのものが中止になっていた。中止になると支援の流れが変わる恐れもあった。月曜の役員会での議決が終わった頃に発見されるのにちょうどいいのが倉雪岳だった。

金曜日の夜に秋人のアリバイがないことが分かった。新たに見つかった証拠とともに、秋人が犯人でも犯行が可能だったことを福家は狩に説明して聞かせる。秋人が犯人ではないと考えていながらも、執拗に秋人犯人説を持ち出す福家の意図を狩は悟った。秋人を守りたいがために中津川を手にかけた狩に、自供させるためだ。中津川の死に酷くショックを受けている秋人をこれ以上傷つけないため、狩は降参した。

 

事故でない証拠がボロボロでてきて追及されるも落ちない犯人でしたが、どんな手を使ってでも狩の逮捕を決めているらしい福家にやはり軍配が上がりました。犯人逮捕のためとはいえ今回は少しやり方がえげつない気もします。

幸福の代償 しあわせのだいしょう

佐々千尋は、ミニチュアダックスフントを連れて血のつながらない弟・健成の部屋を訪れた。悪徳ブリーダーの健成のクライアントがミニチュアダックスを欲していたのと、千尋が店を開いている土地を売るという健成との交渉のためだ。ケージから出された犬は怯え健成の来ているローブに噛みつく。初めから千尋のやることは決まっていた。健成の部屋にあった犬の像で何度も殴りつけて殺すと、遺体からローブをはぎ取った。床に広がる血を持参したスポンジに吸わせると、千尋は部屋を出た。

次に向かったのは片岡二三子の部屋だった。預かっている合鍵を使って入ると、二三子は酒に酔っていた。彼女は健成の恋人で、健成の気を引くために千尋と一緒に狂言自殺を計画していた。手書きの遺書も用意しバスルームも目張りを済ませていた。千尋は二三子のグラスに睡眠薬を入れると、眠り込んだ彼女をバスルームに運んだ。浴槽にはもったいないくらい並々と水が張られていた。風呂場の床に二三子を転がすと、健成の血を吸ったスポンジを二三子の手に押し付け、血が飛んだ服を寝室に放り込む。仕上げに彼女が購入していた2種類の洗剤を混ぜ合わせると、鍵を閉め部屋を出ていった。

健成の部屋で福家が捜査を始めたところ、健成のスマートフォンに着信が入った。画面には片岡二三子と表示されていたが、電話をかけたのは機動鑑識班の二岡だった。二三子は硫化水素を発生させ自殺を図ったと見られ、現場には血の付いた服と遺書があるという。

関係者に話を聞いた福家は、健成が飼っていた犬が事件が起きた時間帯に吠えなかったことに注意した。被害者が犬の世話や躾を放棄していたため、毎日夜中でも吠えてうるさかった犬が大人しかった。犬を鎮めることができる人間が健成の部屋へやってきたと考えられた。該当するのは二三子だったが彼女は大の犬嫌いだった。また二三子はおおらかな性格だったようで、5本の合鍵を隣人や借金取りなどに渡していた。4本までは持ち主を特定できたが5人目が見つからない。合鍵を持っていれば、自由に二三子の部屋に入り自殺に見せかけて殺した後施錠して出ていける。

福家は戸籍上は健成の姉で、両親の土地にペットショップをオープンしている千尋に話を聞きに行った。だが千尋は健成とは絶縁状態で弟の家には行ったこともないと主張した。手が付けられないほど狂暴な健成の犬の世話を頼むと、千尋は簡単に犬を鎮めた。昔から自然とできていたと言う。

千尋は、動物愛護団体の人間らとともに健成が拠点としていた施設へ向かった。時間をかけて調査した結果、そこにいる動物たちの環境は目を覆うほど酷いものだった。健成が死んだ今不法侵入に問われても構わないと弁護士の反対を押し切り、千尋は動物たちの救出を優先した。施設の犬たちの半分はやせ細って死に、かろうじて救出できた犬も全てが酷く回復には長い時間がかかると思われた。

健成の部屋に封を切られた犬用のジャーキーがあった。帰宅前にコンビニで購入したものと思われる。状況からみて福家は、犯人は犬連れだったのではないかと考える。動物愛護団体のリーダーのところに、最近千尋が動物を持ち出したことがなかったかと福家から問い合わせがあった。

健成が二三子以外の人間に殺されたこと、二三子も健成と同じ人間に殺されたことを確信している福家は、じわじわと千尋の包囲網を狭めていく。千尋は、借金を抱えていた健成がペットショップの建つ土地を売ろうとしていた事は事実だが、売り先は千尋の経営理念に賛同している人間なので、形態が共同経営に代わるだけでむしろもっと事業が展開する可能性を示唆し、自分には健成の殺害動機はないという。

千尋のことを犯人だと考えていると言い切った福家は、動物を守ること、健成の施設で今にも死にそうな動物たちを救出することが動機だと返してきた。

これ以上付きまとうなら正式に抗議をするという千尋に対し、福家は殺害現場に犬がいた証拠だと言って、健成の太ももに動物に引っかかれたような傷が見つかったと写真を見せてきた。

 

最後の写真が秘密の暴露を期待した千尋を落とす罠でした。悲惨な環境を強いられていた犬たちを救い出し、後悔はしていないそうです。

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短編というより中長編ですね。捜査の過程が微に入り細に入り……なので、読みごたえはありますが長編2本読んだくらい疲れました。