大倉崇裕『樹海警察』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「樹海警察」のあらすじと感想をまとめました。

樹海で見つかる遺体の処理専門部署という特殊な舞台設定でありながら、市子野(いちごの)や万剛(まんごう)、水家(すいか)、八作(はっさく)など主要な登場人物や脇役に果物の名前が入っているというちょっと爽やかさも混じる一冊です。メインキャラ4人ともが一癖も二癖もある人物で、樹海という鬱蒼とした雰囲気の中にコミカルさも入り、読み応えのある本でした。

スポンサーリンク

「樹海警察」書籍概要

初任幹部科教育を終え、警部補になった柿崎努は、山梨県警上吉田署という辺鄙な場所、しかも聞いたこともない部署へ配属となった。署長に挨拶も行かず署員からおもむろに渡されたのは、カーキグリーンの軍用ベストやズボン、そして登山靴―。さらに連れて行かれた場所はなんと樹海…!?栗柄巡査、桃園巡査、そして事務方の明日野巡査長と共に、樹海で見つかった遺体専門の部署・地域課特別室に勤務することに…! 腐乱死体から事件の匂いをかぎ取る!!書き下ろし樹海警察小説登場。「BOOK」データベースより

  • 樹海警察(2017年10月/ハルキ文庫)
created by Rinker
¥748(2020/10/29 06:11:03時点 楽天市場調べ-詳細)

栗柄慶太の暴走

警察庁に入庁し初任幹部科研修を終えた柿崎警部補は、山梨県上吉田署の地域課特別室なる聞いたこともない部署へ異動となり、赴任初日、河口湖駅前で待ちぼうけを食っていた。そこへ迎えに来たのが初老の明日野(あけびの)巡査長だった。上司である柿崎の言葉を遮りマイペースに運転する明日野は、全く何も知らされず赴任してきた柿崎に臨場要請があったので直接現場に向かうと言いある食堂での着替えを促す。軍用ベストやGPS、登山靴などおよそ思ってもいなかった内容に柿崎の苛立ちは頂点に達し、スーツのままで現場へ行くと意地を張る。

到着した現場は富士の樹海だった。水家や市子野など制服警官に哀れみの視線を向けられながら汗だくになり何とか明日野に案内されたのは、遊歩道から離れた場所、首吊り死体がぶら下がっている現場だった。地域課特別室は、毎年樹海で多くの遺体が発見されその処理に忙殺され手を焼いた警察が、樹海の遺体処理専門として創設し一切の面倒事を押し付けて出来た部署だった。首吊り遺体を目にし吐き気に襲われる柿崎に対し、明日野は事務方を担当しており普段は現場には行かないらしい。代わりにと到着した二人の部下・栗柄(くりから)と桃園(ももぞの)を紹介された。新たに室長となる柿崎の前任者は、あっという間に精神と体調を崩し長期休養の末退職したという。柿崎は自分が上司から退職を促すような部署に配属されたことを知った。

栗柄と桃園もマイペースに遺体の検分を始め、柿崎の言う事には耳を貸そうともしない。己が何をすればいいのか全く分からず疎外感を感じる柿崎だったが、自殺として処理するには問題が残るという桃園と、遺体から約2m離れた場所に落ちていた本人の財布(免許証、クレジットカード、小銭が入っている)を見つけた栗柄に引きずられ、首吊り死体の発見者に話を聞きに行くことになった。

発見者は自殺志願者の山本崇。死に場所を求めて歩いていたところで遺体とぶつかった。驚いて気絶し、目を覚ました後めちゃくちゃに走り遊歩道に辿り着いたと話した。気が動転していて通報時の事は覚えていないという山本だが、栗柄は山本に対する目撃証言や樹海に入る自殺志願者は身分証やお金を持たないという特徴を挙げると、山本のポケットに入っていた金が首吊り死体の財布から盗まれたものだと断定した。同様に首吊り死体が財布を持っていたこと、歩いて首吊り現場まで行ったにしては服などが綺麗すぎたことから、別の場所で殺害されたあと樹海に運ばれたと言い柿崎を驚かせた。

殺人事件なら捜査一課に連絡し引き継ぐべきだという柿崎に、栗柄と桃園は連絡を一任すると自分たちは現場保存に向かうといいさっさと現場へ行ってしまった。殺人の連絡を受け捜査一課などが大挙してやってくると思っていた柿崎だったが、来たのは課長の牛島一人だった。おまけに牛島は自分たちは忙しいので殺人の根拠が乏しいものを捜査一課に連絡してくるなと嫌味を言い帰っていく。

人脈が自慢という明日野の情報によると、首吊り死体は東京に住む太田弘。身寄りはなく天涯孤独だという。上司の柿崎をスルーする格好で、桃園は太田がどうやって樹海まで来たのか、栗柄と柿崎は地元のタクシー会社を当たることに決まった。太田を目撃した運転手は2人。一人目の小石は、4日前富岳風穴前を過ぎたカーブでふらふらと道に出てきた太田を轢きそうになったものの回避したという。その時太田は白い紙袋を提げていた。2人目の原田も4日前道の端をふらふら歩いている太田を見たが手ぶらだったと言った。温泉客のわけがなく観光客でもなさそうな様子の太田だが、最近は樹海の近くを歩く人間も多く特に不審に思わなかったと証言した。その後の桃園の調べで、太田は東京からバスでやってくると駅で自転車を盗み、小石と原田が目撃した場所まで行ったことが分かる。また明日野の調べで太田が詐欺で2回逮捕されているチンピラであったこと、骸骨の刺青を入れていたことが分かる。それを聞いた栗柄は、明日野に太田の詐欺の内容が当たり屋であったこと、持っていた陶器の壺が割れた等で因縁をつけていたことを聞くと、犯人の所へ行くと言い立ち上がった。

 

特別室が犯人を捕まえると色々面倒なことになるため、最終的には自首を促し一件落着となりました。柿崎が最初に連れて行かれた古い食堂は「下り坂」といい女将が経営している明日野の行きつけの店でした。

桃園春奈の焦燥

樹海に来て約2か月、10回を超える臨場で柿崎の体型もたくましくなりフル装備も身に付いてきた。今回は毎年同じ時期に樹海で一泊の合宿を行っている大学の探検部の連中が、宿泊地で拳銃自殺体を発見したというものだった。右手に銃を持ってこめかみを撃ち、弾は頭を突き抜けて近くの岩にめり込んだ。反動で銃は飛んでいったらしく岩陰で見つかった。遺体の古傷などから暴力団構成員とみられる。一見自殺と思われる状況だが、血と毛髪のついた遺体の物と思われるメガネのレンズが砕けていたことから、死後別の人間が踏んで壊した=他殺の線が濃いと栗柄と桃園は判断した。柿崎の赴任初日、捜査一課の牛島が自殺と判断した首吊りが他殺だったと判明したことから牛島は上司から叱責を受け、より特別室と柿崎に対し敵意を抱いているが、自分たちはきちんと手順を踏んでおり間違ったことはしていないと平然と捜査一課に連絡をし鑑識の出動を要請した。

前回で懲りたのか捜査本部が立ちすぐに容疑者が確保された。遺体の身元は東京の暴力団・波瀬組の構成員の筒井。組の金を横領したのがバレ、一千万円を持って逃走、潜伏先の女に裏切られ彷徨った挙句樹海で自殺しようとやってきたものの、何者かに射殺され一千万は奪われたと考えられた。容疑者は地元で自殺防止運動をしてるボランティア団体「STOP」の代表・古田元だという。私財を投じて活動している古田が資金難の末犯行に及んだと捜査一課は考えていた。古田自身は全面否認している。古田の名を聞いた途端、桃園は彼が犯人ではないと主張する。大学の探検部は何かあった時の為、事前に日時や場所等の計画書を警察と古田に送っている。学生たちが合宿する見つかりやすい場所で殺害するはずがないというのだ。柿崎は、捜査一課に情報を伝える一方、特別室で独自に調査に乗り出すことにし、桃園と一緒に古田の関係者を回ることにした。

古田の妻・匡子は憔悴しきっていた。嫌がらせの電話は落ち着いたがメールはひっきりなしに届き、旅館・星乃屋からは敷地内の一等地に建ててある自殺防止の看板を撤去したいと連絡が入った。古田家を出た桃園は波瀬組の構成員らが古田が筒井を殺害し一千万を奪ったと考え匡子を見張っていることを知る。また明日野から事件のあった夜、筒井から公衆電話を通じて連絡があった古田が、自殺を思い留まらせるため車で会いに行ったという情報を得る。だが途中でパンクし古田は星乃屋に寄ってタイヤ交換をしていた。その後待ち合わせ場所に行ったものの結局筒井と会えずじまいだった。

栗柄に呼び出されて星乃屋へ向かった柿崎と桃園は、5日前より浪瀬組の構成員らが全室借り切っていることを知る。目的は筒井が持ち逃げした一千万だ。柿崎らは改めて店の主人が古田のタイヤ交換を手伝ったことを確認した。店の主人の弟で旅館を手伝っている昌明は、筒井のせいでヤクザが旅館を借り切っているため普通の客が泊まれず迷惑している、常連の団体客の予約も入っているので彼らを叩き出したい、どうせなら自分が自殺した筒井の発見者になり拾った銃を構成員らに突き付けたいなどと激しく憤っていた。話を聞いた栗柄と桃園はしばらく考え込んだ後、それぞれが調べたいことがあるといい柿崎を旅館に置き去りにしたまま行ってしまった。

翌日、明日野の車で警察署から隔離された特別室本部へと向かいながら、柿崎は桃園と古田の関係を尋ねる。激務の中学教師だった桃園の夫は遺書を残して樹海に入り現在も行方が分かっていないという。捜索の過程で桃薗は古田と知り合い、色々相談に乗ってもらった恩人となる。本部には匡子を尋問する栗柄がいた。私生活を犠牲にし、つましい生活に耐えられなくなった匡子が筒井から一千万を奪い、夫の古田に罪を着せるため犯行に及んだのだと言う。匡子が反論している時、栗柄と柿崎の携帯が写真を受信した。地域課の尾和元(びわもと)が星乃屋の全景を撮ったものだった。それを見た栗柄は、柿崎に本部の裏口にタクシーを呼んであるので急いで桃園と合流するよう言った。行き先は運転手に伝え済みらしい。

古田の家で桃薗と合流した柿崎は、古田家の庭を掘り返しおそらく一千万の金が入っている鞄を手にした構成員らと対峙することになる。犯人は匡子だったと口にする柿崎を桃園は一蹴すると、構成員らに一千万がこの家に隠してあることをどうやって知ったのかと尋ねる。彼らの答えは「誰かは分からないが、公衆電話から庭に金が埋めてあると連絡があった」だった。

 

構成員らを駆けつけてきた捜査一課が一網打尽にした後、栗柄と桃園によって筒井殺害の真犯人が暴かれました。堅物の正義感で想像力も推理力もない柿崎ですが、対捜査一課長(牛島)相手では素晴らしい手腕を発揮し、部下達からの信頼を得ているようです。

明日野雄一郎の執念

明日野の運転で柿崎が樹海に着いた時、自分達より牛島を始めとする捜査一課らが先着するという珍しい光景を目にすると同時に、彼らを押しとどめている栗柄と桃園を見つけた。三体の遺体が見つかったという現場に自分たちを入れないのは柿崎の命令かと激昂する牛島を正論で黙らせた柿崎は、事務方の明日野を除く特別室の面々で現場に向かう。遺体の発見者はホラー作家とその編集者、取材のため遊歩道を外れて樹海の奥深くに入り出くわしたらしい。二体は完全に白骨化しており身元・性別ともに不明、残る一体は木にぶら下っている死後二週間ほどの男性だった。ぶら下がった遺体の右手だけに直径数センチほどの丸い穴が開いているのに気付いた栗柄と桃園は、面倒なことになりそうだと呟いた。明日野に知られてはまずい話らしい。

かつて明日野は捜査一課のエースだった。同級生に素行の悪い小荷田という男がおり傷害や詐欺で何度も逮捕されているが、上司の忠告にも耳を貸さず付き合いはずっと続いていた。その小荷田が10年前忽然と姿を消した。警察は通り一遍の聴取で済ませたが、明日野は当時一課の刑事だった牛島と対立しながらも独自に小荷田の行方を捜査し続けた。結局死体も出ずうやむやになった一年後、樹海近くで人の右腕を咥えた犬が捕獲され、指紋から小荷田のものだと判明した。小荷田は自殺と警察が結論づけた一方、明日野は発見された右手にあいた丸い穴に注目した。特別室に異動した明日野は今も一人で黙々と何かを調べている様子だと栗柄たちは語った。今回発見された遺体について柿崎から明日野に話すと意見がまとまり本部へ戻ると、明日野の姿が消えていた。

首吊り遺体の身元が割れた。チンピラの味元琢也で、同棲していた女のマンションへ向かうと既に別の男と暮らしていたようで、柿崎達が来る前にやってきた警察官にボコボコにされたと男ともども怒っていた。おそらく明日野の仕業だ。栗柄は少々乱暴なやり口で、女が味元に愛想を尽かし10日程前にマンションを叩き出した事、その時味元は狂犬と綽名される岸川という暴力団構成員の女に手を出し、やばいと怯えていたことを聞き出す。3人は早速岸川の所へと向かう。栗柄と桃園が岸川の居所を知っているということは情報通の明日野ももちろん知っている。岸川の寝ぐらでは用心棒と思われる2人の男が血を流して倒れており、建物の裏手ではナイフで喉を抉られて絶命している岸川と、同じく血まみれで瀕死状態の明日野がいた。栗柄と抱きかかえ桃園が救急車を呼ぶ。意識を失う直前、明日野が「45」と告げるのを柿崎は聞いた。

集中治療室に入った明日野に付き添う3人の所へ牛島と腰ぎんちゃくの土佐がやってくると、明日野が大変な事をしでかした(岸川の殺害)、味元は自殺だと神経を逆なでする事を言い放ち、特別室は解散、メンバー全員はクビだと嬉しそうに言い柿崎に諫められると壁を蹴って帰って行った。土佐はさすがにやりすぎと思ったのか、壁の汚れを拭き柿崎らに深々と礼をして去って行く。自分たちはこれからどうするのかと問う柿崎に対し、栗柄は明日野の無実を証明すると返した。

病院を出て本部へ向かう柿崎達を尾行する車がいた。牛島に命じられた捜査一課の連中らしい。本部に着いたところで来客があった。柿崎達を尾行している土佐だった。味元の件を自殺で終わらせる牛島に納得のいかない人間も捜査一課内には多くいると、処分を命じられた味元殺害に関するファイルを特別室に託す。それによると味元は岸川らに拉致された可能性が非常に高い。だが殺害は出来ても樹海の奥深くに遺棄できない。味元を樹海に捨てに行ったと推測される時間帯、岸川と用心棒は海外にいたことが証明されてからだ。様々な状況から考えて明日野が岸川を殺したのではと言う土佐に対し、栗柄は明日野のある秘密を明らかにし、状況的に彼が犯人ではないと主張した。

桃園が明日野のデスクの鍵を開け、彼が今まで調べていた資料を全員で見ていく。いくつかあるファイルの共通点は、事件性を疑われながらも被害者と思われる人物が行方不明となり遺体も発見されずうやむやになっているという、小荷田の事件と似ている事だった。その後何件かは行方不明者と特徴の似ている遺体が発見されており、その中の遺体写真の一つに右手に穴が開いているものを見つけた。穴の意味は分からないと言う栗柄たちに、自分以外も聞いていると思って言わなかったと柿崎が何気なく明日野の「45」という言葉を伝えると、大げさなほど大きく反応があった。三体の遺体発見現場から、45と書かれた小さなプレートも発見されていたのだ。プレートから検出された血液は、味元のものとは断定できないが血液型は一致している。栗柄は、今回の事件の背景には遺体の遺棄を引き受けている人物が存在し、己の仕事の証拠として番号を振ったプレートを付けている、右手の穴はプレートを付けるためのものだと推理する。つまりその人物は味元までに44体の遺体を樹海に遺棄しており、その中に明日野が調べていた事件で行方不明になっている人物が含まれていると言った。遺棄した人物は樹海に詳しく定期的に見回りができる人間と推察される。

栗柄と桃園がそれぞれ動き始める中、柿崎は彼らが自由に動けるよう捜査一課(牛島)の理解を得る役割を追い、樹海のそばに住みたくないという家族の意向で単身赴任をしているという彼の家へと向かった。だが話し合いは平行線に終わり牛島の家を辞そうとした柿崎は、牛島の言葉に引っかかるものを感じ問い質そうとした瞬間、後頭部に激しい衝撃を受け意識を失った。どのくらいの時間が経ったのか、目を覚ました柿崎は身分証も財布も携帯も何もない状態で樹海のどこかに置き去りにされているのに気が付いた。

 

目印も何もなくパニックに陥った柿崎ですが、少々摩訶不思議な幻覚に誘導され無事に救出されました。明日野も無事意識を取り戻したようです。救急車で運ばれる前、柿崎は栗柄から事件の真相と顛末を聞かされました。

□□

キャリアの柿崎vs栗柄たちという構造を想像しながら読み始めましたが、意外なほど4人の関係はうまくいっており凸凹ながらも絶妙なチームワークを発揮しているのが非常に面白かったです。3話目で柿崎の赴任3か月目とのことなので、満了の9か月目までの続編も読みたい一冊でした。