大倉崇裕『死神刑事』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「死神刑事」のあらすじと感想をまとめました。

無罪判決が出た事件を再捜査する警察組織では浮いた存在の儀藤が、その都度相棒を変えつつ真犯人を見つけ出すと言う短編集です。身内に協力者がほとんどいないなか、逃げ得は許さないというスタンスで事件を追い続ける姿はなかなか格好良いです。

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「死神刑事」書籍概要

一年前に起きた『星乃洋太郎殺害事件』で、逮捕された容疑者に無罪判決が下された。時を同じくして、当事捜査に加わっていた大塚東警察署刑事課・大邊誠のもとに一人の男が現れる。男の名は、儀藤堅忍。警視庁内にある謎の部署でひとり、無罪確定と同時にその事件の再捜査を始める男だ。警察組織の敗北に等しい無罪判決。再捜査はその傷を抉り出すことを意味した。儀藤の相棒になる者は組織から疎まれ、出世の道も閉ざされることになる。その為、儀藤に付いた渾名は“死神”。大邊は、その相棒に選ばれ、否応無しに再捜査に加わることに―(「死神の目」より)。新感覚警察小説。「BOOK」データベースより

  • 死神刑事(2018年9月/幻冬舎)
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死神の目

一年前に起きた星乃洋太郎殺害事件の容疑者・甥の礼人に無罪判決が出た。警察には無罪が確定すると同時に再捜査に動き出す”死神”なる人物の噂があった。死神は再捜査の際、当時の事件関係者の中から一人相棒を選ぶ。署長室に呼ばれ風采の上がらない男から「警部補・儀藤堅忍」という名刺を渡された大邊は、自分がその死神の相棒に選ばれたことを知った。

星乃洋太郎は一人暮らしをしていた資産家で、両親を事故で亡くした甥の礼人、姪の佐智子の面倒を見ていた。洋太郎の家からは当時あったとされる現金500万円が消えており、直後に礼人が借金の一部を返済していたことから、金のために彼が育ての親を殺したとされた。その金は借金を抱えている婚約者がいる佐智子に渡すため、洋太郎が用意したものだったらしい。いったん殺害を認めたものの、公判で礼人は自白を撤回した。

事件をおさらいした儀藤は、大邊を引き連れ当時の関係者らに話を聞いて回る。500万円は事件の朝、洋太郎からの依頼を受け担当の銀行員が自らの手で数えて家まで届けたものだった。そして礼人が借金をしていたという怪しげな金融会社に乗り込み、当時渡されたと言う現金500万円を証拠品として借り受けることに成功する。500万円は礼人の代理人という男が持ってきたが、帽子とマスクで人相は分からなかった。その後、儀藤と大邊は佐智子の所へと向かったがその道中で礼人の行方が分からなくなっていることを知る。

佐智子は当時の婚約者と結婚していた。佐智子の家は芳香剤の瓶を割って換気中らしく、柑橘系のきつい匂いに包まれていた。また通された部屋もワイングラスが倒れポタポタと床に染みを作り続けている。洋太郎の資産で夫の借金は返済したものの、生活にゆとりがあるわけではないらしい。だが兄の無罪を信じ腕の立つ弁護士を依頼したのは佐智子だった。兄が戻ってきたので旅行に行くといいレンタカーの申込用紙が置いてあった。その後の儀藤の捜査で、500万円は洋太郎に依頼された佐智子の夫が変装して金融会社に渡しに行ったことが判明した。洋太郎の殺害のタイミングで借金が返済されたのは偶然だと分かる。

再び佐智子の家へと向かった儀藤と大邊は、彼女の部屋の状態からある可能性を考える。そして預かった500万円とその封筒から佐智子の夫の指紋しか検出されなかったことを踏まえ、儀藤は洋太郎を殺害した真犯人を見つけ出し、一連の事件に真の決着がついた。

 

芳香剤もワインの染みもあるものを隠すための細工でした。洋太郎殺しは遺産狙いの殺人事件とみられていましたが、強盗殺人に修正されました。儀藤と組んだ警察官はその後の出世の道を絶たれるという噂ですが、儀藤自身によりかなりきわどいフォローがされていました。

死神の手

交通課の三好若奈が以前応援に行ったひき逃げ事件で無罪判決が出た。無罪になったのは被害者・波多野一の妻の百合恵。その話を課長としていたところ、若菜は所長室へと呼ばれた。待っていたのは死神こと儀藤堅忍、若菜は波多野一殺害事件再捜査の相棒に任命された。

事件は朝起きた。不用品を運搬するため友人から借りていた車を何者かに乗って逃げられた波多野は、車を追いかけて自宅近くの道に飛び出し、ちょうど闇雲に走っていたその車と出合い頭に衝突し亡くなった。ブレーキ痕はなく波多野の遺体は顔面陥没に全身骨折と無残な状態だった。通報は2人の人間によって行われ、一人は衝突の音を聞いて現場に駆け付けた百合恵、もう一人は公衆電話からで通報者は不明だった。当初は車の窃盗とひき逃げと見られていたものの、タイヤの下から百合恵の結婚指輪が発見されたことから最終的に殺人へと切り替わった。儀藤から当時の百合恵の印象を聞かれた若菜は、有罪だと思ったと答えた。

事件を捜査していた羽生警部補からも当時の捜査の様子などを聞く。百合恵が離婚に応じない波多野をひき殺したのではないかと警察は考え彼女を逮捕した。儀藤の質問に羽生も夫を殺害した犯人だと思うと百合恵の印象を語った。次に儀藤は百合恵の担当弁護士・三宅に話を聞きに行く。三宅は死神の存在を知っており対談を面白がっていた。正義感が強く敏腕だが軽薄な印象を受ける三宅に、若菜はあまり良い印象を抱かなかった。百合恵の無罪を信じ法廷で戦った三宅だが、彼女の共犯者の存在については察していた。だが三宅の仕事は百合恵の無罪を勝ち取るところまでなので、その先については儀藤たちの領分だという。

最後は波多野に車を貸した友人、彼も百合恵は濡れ衣を着せられただけだと考えていた。また波多野が不用品を売ろうとしたのは、百合恵の結婚指輪のサイズが合わなくなっていたのでリフォームする金を作りたかったからだと言う。友人は、波多野と百合恵の夫婦仲はそれほど悪くなかったと思っていた。

有罪VS無罪が2:2になったところで儀藤が、公衆電話で通報した人物を特定した。事件現場付近でアルミ缶拾いをしていたホームレスだった。彼の証言で工事車両や大きな荷物で人がやっと通れるほどふさがった道から波多野が”飛び出す”のは不可能だと分かった。百合恵の証言に矛盾が生じた若菜は儀藤に百合恵は有罪か無罪かと尋ねる。考え込んだ後、儀藤は両方に半分ずつだと答えた。

 

百合恵は夫をひき殺した犯人ではありませんでした。ですが殺人事件の共犯者でした。一事不再理で百合恵に対し夫をひき殺した事件については何も問えなくなっていますが、殺人事件の方ではしっかりと罪を問われることになりそうです。

初めは良い印象のなかった三宅ですが、最終的には若菜と意気投合しそうな雰囲気でした。

死神の顔

柔道の稽古では無敵だが試合になると勝てず「宝の持ち腐れ」と何度となく言われてきた榎田悟は、その体躯などから期待され大門第二駅前交番に配属されたものの、見掛け倒しの臆病者とみなされたのか現在は奥多摩の駐在勤務になっていた。そこに死神と名高い儀藤堅忍が訪れ、榎田をある事件の再捜査の相棒に指名した。

儀藤が調べているのは、榎田が大門にいた頃に起きた痴漢事件。無罪になったのは容疑を否認し続けていた正岡柳次郎。彼は電車の中で女子高生の上野由希子に痴漢行為を働いたとして、乗り合わせた二人の男性、小田と涌島に取り押さえられ交番に突き出された。再捜査を始める儀藤に対し、榎田は正岡が無罪になっただけで誰も困っていない、改めて捜査する意味はあるのかと問う。だが儀藤は本当に誰も困っていないのかと返した。

被害者の由希子は、正岡が無罪となったことで冤罪をでっち上げたとして非難の対象となり、ネットなどで個人情報が晒されていた。大学受験を控えた現在、家からでることもままならないという。儀藤と榎田は、正岡の弁護を務めた東の所へと向かった。東達弁護団がまとめたという当時の電車内の詳細な位置図を参考に話を聞いていくが、何人もの目撃者がいる「黒い服を着た小柄な男」の正体は分からずじまいだった。儀藤は当時の関係者らに話を聞いて回った。

無罪判決を受け、由希子の父親は憔悴していた。彼は母親の再婚相手で由希子とうまくいってなかったものの、痴漢事件を受けて多忙だった会社から転職し家族のそばにいることにしたという。涙ながらに最後まで由希子は嘘をついていないと訴えた。小田と涌島は冤罪事件の一端を担ってしまったと責任を感じ苦しんでいた。儀藤の根気よい問いかけにより、柄が悪くボクサー崩れで到底力では敵いそうもないと思っていた正岡が、あっけないくらい無抵抗に取り押さえられたことに違和感を感じていたことを教えてくれる。東弁護士は警察の仕業だと言っていたが、当時の正岡はろっ骨にひびが入り痛みを訴えていた。黒い服を着た男もそばにいたが、巻き込まれるのが嫌で逃げたのだろうと証言した。

儀藤は由希子、正岡、小田、涌島のそばにいた女性・菅明美にも話を聞くべく東弁護士経由で連絡を取った。待ち合わせは深夜のホテル、儀藤は榎田に対し、事件についてあらゆる可能性を考える必要があり、それがどんなに人の道から外れるものであっても榎田は耐えて正面から向き合わなければならないと言う。それができないのは榎田に怒りが足りないからだと言い切った。

ずいぶんと待たされた後、明美とは彼女が宿泊しているホテルの部屋で話を聞くことになった。儀藤のそばに立ち彼が明美と話すのを普通に話を聞いていたが、ときおり明美の様子がおかしいのに榎田は気づく。捜査資料の中からある写真を取り出した儀藤は、正岡に罪を着せるため由希子に痴漢をしたのは明美ではないかと言い出す。途端に明美は豹変し、トイレから黒い服の男が出てきて榎田達に襲い掛かってきた。

 

明美も黒い服の男も、ある人物に依頼され痴漢事件を起こしていました。その動機も、由希子や正岡がターゲットになった理由も自己中心的すぎてあきれ返るばかりです。今回の事件を通し一皮むけた榎田は精神的にも成長し、強い警察官へとなっていくようです。

死神の背中

米村誠司は警察を退職し、元警察官だった妻・楓子の介護をする生活を続けていた。訪問診療医の箱田とは相性も良く、認知症を患った楓子が米村を拒絶した時も箱田とは信頼関係を築いていた。大病院での地位と給与を捨てて地域医になった箱田だが、最近は寄付をしてくれる人も増えたといい、車いすのまま乗車できるワゴン車を新たに購入していた。

河田統良君誘拐事件で逮捕された小木曽に無罪判決が出た。この事件は米村も捜査員として関わっていたものの、河田とのご近所トラブルが起きていたことから米村自身が容疑者の一人と目され捜査から外された事件だった。同じ事件を追っていた人間から取り調べを受けるという屈辱的な思いを味わった事件だったが、まもなく何者かのタレコミにより小児性愛の傾向があり強盗などのいくつかの前科のあった小木曽に捜査の目が向いたことで解放された。

米村の家に儀藤堅忍が訪ねてきて、警視庁特別捜査官として採用されたと告げる。誘拐事件の再捜査をする”死神”だった。当時小学校6年生だった河田統良が誘拐され自宅に身代金5千万円を要求する電話があった。河田夫妻は新興宗教の教祖として唸るほどの金を持っていたため、犯人の指示に従って警察に届けることなく身代金を用意して指示通り動いた。密告の電話で警察が誘拐の事実を知った時には既に金は奪われた後で、後日犯人に金を渡されたという統良はタクシーで戻ってきた。奪われた5千万のうち半分の2千5百万が小木曽の家で見つかった。25年前のことだった。

小木曽が無罪になったことで、当時彼を陥れた人物がいると分かった。その人物を見つけ出すと儀藤は言った。誘拐事件後河田家の生活は一変していた。父親は詐欺まがいの整体、息子の統良自身は生気が抜けたような様子で子ども用の避難シェルターでボランティアをしていた。当時捜査一課におり現在は所轄の刑事をしている有馬からも儀藤は話を聞き出す。彼らの話をまとめると、誘拐された統良は視界も動きも拘束されていたため犯人は分からず、河田家の事情や地の利があった米村に疑いの目が向くと密告により小木曽が容疑者となったという、当時の状況をおさらいしただけの気がした。ただ統良は米村に対し、誘拐された時に嗅いだのと同じ匂いがしたと言った。警察官になった頃に先輩から勧められて以来、米村は家でサンダルウッドのアロマディフューザーを使い続けている。服などに染みついているその匂いのことを統良は指摘したのだ。偶然だろうかと儀藤が呟くのに、米村はその場に立ち尽くした。

儀藤からの連絡が途絶え家でぼんやりする米村に、楓子の診察に来た箱田が診ようかと声をかける。疲れがたまっているだけだと断った米村は、事件が解決するかもしれないと箱田に零す。捜査の進捗については特に口止めされていなかったため、事件当時は自分はまだ13歳だったなどと箱田と会話する。箱田が帰ったあと儀藤から連絡が入り、ヘルパーを派遣したので今からいうところまで来てほしいという。儀藤と落ち合ってすぐ、ある男がタクシーで銀行の前に乗り付け、バッグを抱えたまま慌てた様子で行内へと飛び込んでいくのを米村は見た。米村も良く知っている人物だった。

 

儀藤に指摘されるまでもなく米村は統良君誘拐事件の真犯人を知ることになります。25年の歳月が経っているため真犯人は手の届かないところへ行き、銀行へやってきた男も逃亡しました。また無罪になった小木曽ですが、誘拐とは別の事件で捕まったようです。

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再捜査をする=警察の傷口を抉る行為なので、死神の相棒に指名された人物はその後の出世の道を絶たれるそうです。が、短編に登場した相棒たちは儀藤の裏技的なフォローもあり、したたかに警察官を続けているようです。儀藤のセリフ「逃げ得は許さない」がぴったりな一冊でした。こちらもシリーズ化してほしいです。