大倉崇裕『スーツアクター探偵の事件簿』あらすじとネタバレ感想

大倉崇裕さんの「スーツアクター探偵の事件簿」のあらすじと感想をまとめました。怪獣専門のスーツアクター志望の主人公・椛島が、仕事現場で起こる事件を解決していくという短編集です。

相棒と2人で事件を解決していくのかと思っていましたが、相棒は仕事のみの相棒で、基本1人で謎に挑んでいます。

「スーツアクター探偵の事件簿」書籍概要

ひょんなことから、着ぐるみに入って演技する「スーツアクター」としてコンビを組むことになった、樺島雄一郎と太田太一。怪獣映画に夢をかけながらも、とある事故のトラウマから着ぐるみに入れなくなってしまった樺島と、天然ボケにして天性の演技力の持ち主・太田。映画撮影所で次々とおこる事件を、ときにコミカルに、ときにハードボイルドに、相棒同士となった二人が解決する!「BOOK」データベースより

  • スーツアクター探偵の事件簿(2016年6月/河出書房新社)

彷徨うスーツアクター

幼い頃からの憧れだった怪獣専門のスーツアクターを目指す椛島だったが、ある事故でパニックを発症し、着ぐるみの中に入れなくなってしまった。その事故で知り合った男・太田は、とらえどころのないぬぼーとした人間で人前に出るのを嫌がり要領も良くないためすぐにバイトを首になり部屋を追い出されかけていたが、椛島の代理として試しに入れてみた怪獣の動きは素晴らしかった。

嫌がる太田を、部屋に転がり込ませることを条件に怪獣役を引き受けさせた椛島は、太田の世話係として一緒に現場に臨むことになった。

太田が部屋を追い出された経緯を聞いた椛島は首をかしげた。滞納していた2か月分の家賃を払ったにもかかわらず全額返却され出て行ってほしいと言われたらしい。10戸ある部屋のうち埋まっているのは3部屋で、1人は入院中、1人はガラの悪い男、もう1人が追い出された太田だった。ガラの悪い男のボヤ騒ぎを事前に食い止めたり雑誌の整理をしてやったりと、太田と男との関係は意外に良好だったという。だが追い出されたのは太田の方だけだった。

不思議がる椛島だったが、太田が追い出される数日前、強い風が吹いて老木が倒れて道がふさがっていることを聞き、急いで太田のアパートに向かった。ガラの悪い男の部屋から火が出ており、中には気を失った男が倒れていた。

 

再開発の対象になったその地域で、大家は早くアパートを売り払いたがっていましたが、昔からの付き合いがある近所の人間たちは全員再開発に反対だったため、売るに売れず困っていたようです。そこで住人の失火という形でアパートが全焼すれば……浅はかな考えは失敗におわり、大家は行方をくらましたそうです。

笑うスーツアクター

長年続いたものの1992年を最後に引退した「大怪獣メドンシリーズ」の映画監督、伊藤と豆田の名コンビが新たに新作映画「大怪獣バルバドン」の撮影に入り、椛島と太田の2人も現場にいた。バルバドン役で伝説のスーツアクター、椛島の憧れでもある倉持が怪我をして療養を余儀なくされ、代役として太田に白羽の矢が立ったのだ。素人ながら太田は呑み込みも早く、代役を十二分にこなしていた。

だが撮影中、急にバルバドンの動きが悪くなった。上半身が揺れ動きも危なっかしい。間一髪で大事故を防いだ椛島は、バルバドンから出てきた太田に、急に頭がフラフラして動けなくなったと言われる。太田は一人では立ちあがれない状態になっていた。心配してやってきた監督の豆田、通称豆源は椛島から話を聞いた途端顔色を変えその日の撮影を終了させた。

撮影前に太田が飲んだのは、助監督の石原から渡されたペットボトルの水だった。豆源は倉持が事故にあった時の状況が太田にそっくりだとし、倉持が飲んだペットボトルから睡眠薬が出たと話すと、犯人を見つけたほしいと頼んだ。監督の口添えで倉持の家へと向かった椛島と太田は、倉持から事故の状況を聞いた。長年一緒にやってきた仲間を疑いたくはないという倉持だったが、可能性があるとすれば新顔の石原だという。倉持は石原が睡眠薬を常備していることを知っていた。だが石原と話をした椛島は、彼は犯人ではないと結論づけた。

倉持の事故の日、撮影現場にいたライター・冨子から当時の写真を見せてもらった椛島は、倉持の証言と写真との食い違いに気が付いた。撮影前2口しか飲んでいないというペットボトルの水が、半分くらいなくなっていたのだ。そこから撮影時、スタッフの弟だというマニアが見学していたことを掴んだ椛島は、彼に話を聞くことにした。

そこから導き出した真実を豆源に話し、椛島は決着を彼にゆだねた。

 

自己保身に走った犯人の仕業でしたが、映画を完成させ成功に終わらせるためか犯人におとがめはなし、マスコミに漏れることもなく事件自体葬られたようです。

探偵はスーツアクター

目上には従順、目下には横暴、何かあればすぐに周囲に当たり散らす傍若無人を絵に描いたように人望がないものの、スーツアクターとしての実力は確かな男・布施太郎は、椛島を何かと目の敵にしては陰険に絡んできていた。

今回もまた布施が主役の人気特撮番組「ブルーマン」の敵ゴズメス役として太田が抜擢されていた。

ある撮影が休みの朝、太田が居候を決め込む椛島のおんぼろアパートのドアが激しく叩かれた。布施だった。他人にため息をつかせるのが得意な布施が珍しくため息をつき、もうおしまいだと呟いている。喧嘩しつつも何とか事情を聞きだすと、布施が管理責任者になっている部屋からゴズメスの着ぐるみがそっくり盗まれたのだという。助監督が激怒しており、翌日の撮影にまでに取り戻さないと自分の立場も危うくなるらしい。ブルーマンは主役の含めリニューアルの話が持ち上がっており、嫌われ者を自覚している布施は主役転落の危機を感じていた。推理に関してはまるでダメな布施は、椛島が豆源の依頼を受けた事件を解決したことを聞き、ゴズメスを取り返してほしいと少々偉そうに頼んできた。

どう考えても内部犯の犯行だった。もっとも怪しい人物、布施の付き人の男の家へと向かうと、彼は血まみれで倒れていた。公衆電話から通報した椛島は、前回の事件で知り合ったマニアに話を聞くことにした。椛島に対しては冷たいものの布施に会えることを大喜びしたマニアは、布施による脅迫があったものの2人に協力的で、マニアグッズを取引する裏の店を教えてくれた。

無事に店主と接触することに成功した椛島と布施は、布施の付き人と店主とがつながっていたことを知り、付き人経由で盗まれたゴズメスが今晩取引されることを掴んで店主の尾行を開始した。

夜、いかにもテレビに出てきそうな海沿いの倉庫街についた2人は、取引が始まる様子を車内から見ていた……が、我慢しきれなかった布施が椛島の制止の間もなく飛び出していった。

 

椛島と布施のかけあいがテンポよく楽しい短編でした。太田と組むより布施とのコンビの方が正直面白かったです。自分に人望がなく嫌われていると自覚しつつも我が道を行く憎たらしい布施ですが、スーツアクターとしては一流でありそのポジションも努力して掴んだものでした。

相変わらずけんか腰の椛島と布施ですが、この事件をきっかけに関係も良好になったようで、その後の登場では椛島を気遣うシーンも見られます。

消えたスーツアクター

「大怪獣バルバドン」は好評で早くも続編の制作に入っていた。タイトルは「大怪獣最終決戦バルバドン対バルバドン」。黒バルバドンの倉持と新たに登場した赤バルバドンの太田。順調に撮影が進む中、太田のサポートをしていた椛島は、特撮監督の豆源に秘密裡に呼ばれ彼に届いたという脅迫状のコピーを渡され犯人捜しを要求された。「今すぐ映画の製作をやめろ 命の保証はない」という文言だった。

一人で調べていくうち、脅迫状はかつて豆源と伊藤監督のメドンシリーズ第8作「メドン対ナツベロン」のチラシの裏に書かれていたことが分かる。この映画を最後に豆源と伊藤は一度引退していた。当時メドンは倉持、ナツベロンを鈴木という2人のスーツアクターがいたが、鈴木はすでに亡くなっている。椛島はナツベロンの動きから感じた違和感、3人目のスーツアクターが存在しナツベロンを演じていたのではないかという疑問を倉持にぶつける。いったんは否定した倉持だったが、米倉という自分の後輩の存在を認めた。米倉はナツベロンを演じるプレッシャーに潰され製作中に自殺していた。

バルバドンの撮影が急に3日間の休みに入った。豆源のあとを追った椛島は、彼がある病院に入っていくのを見た。がん専門の病院だった。何度もせき込む姿、彼の周囲にいくつもの薬袋があったのを思い出した椛島は、豆源が「バルバドン対バルバドン」を自分の集大成として命を削って打ち込んでいると考えたものの、当の本人はただの風邪だと否定する。

海でのシーン用に水に強いバルバドンの着ぐるみが届いた。「メドン対ナツベロン」も当初海辺でのシーンが完成稿としてあったにも関わらずごっそり削られていたことに疑問を持った椛島は、太田たちの協力のもと豆源を呼び出すと海用のバルバドンを着込み撮影用プールに身を投げた。沈んだまま戻ってこない椛島を見て、豆源が決定的な言葉を漏らすのを期待しての捨て身の作戦だった。計画通り、豆源は米倉の死の真相にせまる言葉を吐き出した。

 

着ぐるみごとプールに落ちて死にかけたことがトラウマになり着ぐるみに入れなくなってしまった椛島でしたが、少しずつ回復傾向にありました。が今回の捨て身の作戦で逆戻り、再び着ぐるみの中に入れなくなってしまったようです。椛島の状態を気にかけていた布施の紹介で心療内科に通うことになったようです。「バルバドン対バルバドン」は無事公開され、脅迫状の送り主の正体は椛島から豆源に伝わり一喝されたようです。

 

□□

スーツアクターとしての才能はあるけれど全くやる気のない太田より、性格はきつくて態度も悪いけれどスーツアクターに関しては努力も実力もプライドも真剣という布施の方が、椛島の良いコンピになる気がしました。