大山誠一郎『アリバイ崩し承ります』あらすじとネタバレ感想

大山誠一郎さんの「アリバイ崩し承ります」のあらすじと感想をまとめました。

7つの短編全てがアリバイ崩しに特化しているという心くすぐられる一冊です。短編なので展開がスピーディーなところも読みやすかったです。

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「アリバイ崩し承ります」書籍概要

美谷時計店には、「時計修理承ります」だけでなく「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。「時計にまつわるご依頼は何でも承る」のだという。難事件に頭を悩ませる捜査一課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ…7つの事件や謎に、店主の美谷時乃が挑む。あなたはこの謎を解き明かせるか? 「BOOK」データベースより

  • アリバイ崩し承ります(2018年9月 実業之日本社)
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時計屋探偵とストーカーのアリバイ

新米刑事の”僕”はある事件の担当をしているが、犯人と思われている人物のアリバイが崩せず捜査は行き詰っていた。そんな時、腕時計の電池交換のためにふらりと入った時計屋には不思議な貼り紙があった。「アリバイ崩し承ります」。アリバイは「時間」と切り離せない、時間を扱う時計屋はアリバイ崩しに適しているという時乃に、公務員法の守秘義務違反を気にしながらも鉄壁のアリバイ崩しのため、事件の概要を話した。

被害者は大学教授・浜沢杏子。3千万円の保険金が掛けられていた。容疑者は元夫・菊谷吾郎。菊谷は杏子につきまとっては金の無心を行っており、事件当日も朝9時頃に大学にやってきて杏子と別室で10分ほど言い争いをしていたらしい。杏子はツイッターをしていた。殺害された日は3件のツイートを行っており、それぞれ弁当、ケーキと紅茶、クリームシチューの写真がコメントともに投稿されていた。杏子の体内には弁当とケーキを食べたと思われるものが残っており、消化の速度から犯行は午後7時頃と考えられている。夕飯用のクリームシチューは手付かずのまま残されていた。また体調がよくなかったらしく、杏子は大好きな土産の塩饅頭を断り、午後3時半過ぎに大学をあとにしていた。

菊谷のアリバイは、友人2人と居酒屋で飲んでいたというものだった。犯行現場と居酒屋は5分の距離で、菊谷が飲んでいる最中に席を外したのは8分だった。友人、居酒屋の人間ともに偽証をしている様子はなく、崩せそうで崩せない菊谷のアリバイに警察は困り果てていた。

話を聞いた時乃は、塩饅頭の素材について質問したあと、菊谷のアリバイは崩れたと言った。

 

鮮やかな推理で時乃は菊谷のアリバイを崩しました。なかなか手の込んだトリックを使っていたようで、時間も必要で精神的にも大変な方法でした。犯人側の目論見が外れ、少し可哀そうな結果になりました。

時計屋探偵と凶器のアリバイ

被害者より先に凶器が見つかるという事件が起きた。午後3時頃、ポストに入れられていた拳銃が郵便物の回収にやってきた局員によって発見された。2発の銃弾が発射されたものと思われる。対立している組関係を洗ったものの、どちらの組からも被害者らしき人物は現れなかった。翌日、太ももと頭を撃たれた製薬会社の社員が発見された。犯人は仰向けで撃ったあと遺体を蹴ったのか横向きになっていた。太ももと床に刺さっていた弾丸から、ポストで見つかった銃を使ったものと断定された。

拳銃はネットで購入したようで管轄内で2丁の購入履歴があり、うち1丁が一致した。だが2丁とも購入した人物の特定はできなかった。捜査上に被害者の上司の名前があがった。モルヒネを暴力団に横流しした疑いがあり、それを被害者に知られたことが犯行動機とみられた。

だが上司には鉄壁のアリバイがあった。犯行時と思われる午後2~3時の間、親戚の会合に出ていたのだ。親戚らも間違いないと保証する。

話を聞き終わった時乃は、上司のアリバイは崩れたと口にした。

 

実際の犯行時間を誤認させるアリバイトリックでした。時乃曰く、細部までよく考えられたアリバイトリックとのことで、確かに先に凶器が発見されたことも含め、目に映るすべてがアリバイ作りのために行われていました。

時計屋探偵と死者のアリバイ

飲酒運転の車が人を撥ねるのを目撃した僕は、ただちに救急車を呼び撥ねられた男性に声をかけた。男は苦しそうな息の下で人を殺したと告白し、被害者の名前とマンションの名前を告げた。男はそのまま息を引き取り、マンションに駆け付けた警察は女性の扼殺体を発見した。

男は身元が分かるものを何一つ持っていなかったが、顔からアリバイ崩しを得意とした推理作家であることが判明した。被害者の女性は作家が付き合っている相手だったが、近頃作家は別の年上女性に心を奪われたらしく、別れ話で揉めていた。

死亡推定時刻と照らし合わせると、自宅近くで車に撥ねられた作家が、被害者のマンションを往復するのは不可能だった。だが作家の頬には引っかかれた後があり、被害者の爪から採取された皮膚片と一致しるため、作家が被害者の首を絞めたのは間違いない。アリバイ崩しが得意な推理作家が、いったいどんなトリックを使って被害者の自宅を往復できたのか。被害者も犯人も証拠も揃っているのにアリバイが崩せないため、捜査は膠着状態に陥っていた。

だが時乃は、作家のアリバイは崩れたと言った。

 

捜査で作家が過去に恩師の運転する車で事故に遭っていたことが分かっています。そのことと、人付き合いが良くなくパーティーや講演を断っていたという作家の性格を組み合わせ、時乃はある仮説を立てました。それを元に車に撥ねられる前後の状況を再構成すると、アリバイはあっさりと崩れ事件の真相が見えました。車に撥ねられるという不慮の事故が、事件を見えにくくしていたようです。

時計屋探偵と失われたアリバイ

ピアノ講師が自宅で殺害された。ピアノに何度か頭を打ちつけられた後首を絞めたらしい。死亡時刻は午前9時~正午の間。10~11時は行きつけのマッサージ店にいたという店主の証言から、帰宅時間を考慮して11時20分~正午が犯行時刻とみられた。容疑者は、被害者と実家の土地の売買を巡ってトラブルを抱えていた妹。バー勤めで実家で一人暮らしをする妹は、その時間帯を含めずっと眠り続けていたという曖昧なアリバイしか持っていなかった。様々な夢を見たあとに目が覚めた妹は、自分の手やパジャマにかすかに血が付いていた事に気づき、夢遊病の発作を起こしたのではないかと不安を抱えていた。

マッサージ店で被害者は1時間のコースを受けていた。最初の30分が店長、20分が新人、残り10分が店長が担当しており、新人もマッサージが気持ちよかったのかよく眠っていたと間違いなく被害者を施術したことを証言した。

18時間以上眠り続けていた事や嘘を吐いている様子がない事から、”僕”は妹の無実を信じ、彼女の失われたアリバイを見つけてほしいと時乃に依頼する。

イレギュラーな依頼だったにもかかわらず、時乃は妹のアリバイを見つけたと微笑む。ついでに犯人も見つけたと。

 

18時間眠っていたという証言から、新米刑事は妹が睡眠薬を仕込まれたと疑いを持っていましたが、その先が続きません。時乃はその先を見事推理しました。犯行動機は男女関係の縺れ、犯人は眠らせた妹を使ってアリバイ作りをしていたのでした。

時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ

時乃は祖父から時計の修理だけでなくアリバイ崩しも教わった。小学生の頃に祖父が自ら実践してみせたあるアリバイについて、僕は話を聞いた。

祖父の誕生日に時乃はハンカチをプレゼントした。喜んだ祖父は、翌日あるトリックを仕掛けると時乃に宣言する。学校から帰ったあと2階で過ごし、3時20分に下に降りてきて振り子時計が動いているのを確認し2階に戻る。10分後の3時30分に再び振り子時計を確認すること。すると時計は3時25分で止っている。だがその時刻、祖父は別の場所にいたという証拠写真を見せる。……いったいどんなトリックでアリバイを作ったのかという謎ときだった。

写真は一駅離れた場所にある壁時計と一緒に映っている祖父だった。時計に数字は書かれていないが、長針と短針の位置から3時25分だと分かる。時乃からもらったハンカチも一緒に映っていることから、別の日に写したものというトリックは使えない。ネガの裏焼きで時計の時間を錯覚させたというトリックも別の物証によってすぐさま否定された。

祖父はどうやって遠く離れた場所にいながら、自宅の振り子時計を止めることができたのか。

時乃は、証拠写真に祖父の足元や左手などが写っていないことが気になった。

 

本文にあるとおり、アリバイトリックの英才教育ですね。祖父の仕掛けたアリバイもさることながら、小学生で定規や分度器を使ってアリバイ崩しをしてみせる時乃も末恐ろしいです。

時計屋探偵と山荘のアリバイ

長引く捜査で体調を崩す人間が続出したため、上層部は交代で休暇を取らせることにした。休暇をスキーに充てるために時計台があるペンションに宿泊した”僕”は、殺人事件に遭遇した。容疑者はアリバイがない中学生ただ一人。管轄外の事件に巻き込まれた彼を救うため、時乃の元へ走った。

雪が降り積もる晩、僕はあてがわれた1階の部屋で将来は警察官になりたいという中学生と語り合っていた。午後11時、蛍光塗料が塗られた時計台の夜景を見るため、部屋の明かりを消して2人で窓の外を見た。すると時計台に向かう被害者の男を目撃した。男は立ち止まって建物を振り返ったあと、時計台へと消えていった。中学生は自室へと戻り、しばらくは外の景色を見ていたものの目が冴えていたため2階にあるバーへ行くことにした。11時10分頃だった。部屋を出ると、隣室の男にばったり出会いともにバーへと向かう。バーにはペンションの経営者夫妻、女性客がおり閉店まで一緒に過ごした。翌朝、時計台で被害者の遺体が見つかった。ペンションと時計台の間には雪が積もっており、残された足跡は3つ。被害者のものと思わしきまっすぐに時計台へと向かうものと、長靴で往復したと思われる2つ。長靴はオーナーのもので、誰かが拝借したらしい。足のサイズから全員が履けた。

凶器はペンションのプレイルームにあった鉄アレイ、”僕”たちの証言から犯行は11時10分以降と考えられ、外部から侵入した足跡がなかったことから、ペンション内で唯一明確なアリバイを持たない中学生に容疑がかかった。被害者の男には裏の顔があり、中学生の祖母が男の特殊詐欺の被害にあい自殺をしていた。動機も十分だと管轄の警察はみていたが、中学生は犯行を否認する。

時乃は、犯人のアリバイは崩れ、中学生の無実も証明できると話し始めた。

 

今回も見えている事象から見えない事象を推理していくという時乃の推理が冴え渡った事件でした。アリバイは故意ではなく、偶然にタイミングなども味方になり、犯人の意図しないうちにアリバイが成立していました。犯行もほぼ正当防衛といえるものでした。

時計屋探偵とダウンロードのアリバイ

一軒家で一人暮らしをしている富岡が殺害された。手入れがされておらず荒れ放題の庭から、近所ではお化け屋敷と呼ばれている家だった。土地の売買を巡って実の姉と争っていた以外はトラブルは特になく、その姉も高齢で車いす生活のため犯行は不可能と見なされた。

三か月後、土地の相続手続きを完了した姉が売却のために庭の手入れを業者に依頼したところ、庭から白骨が出てきた。かつて富岡が社長をやっていた会社の従業員で、13年前に妻子を残して失踪したとされる人物だった。21歳になったその息子・和田に富岡殺しの容疑が向けられることになった。だが和田には、崩せそうで崩せないアリバイがあった。

富岡が殺害された日、和田は自分でプログラミングしたゲームで大学の友人を誘い、家で飲んでいた。友人は月に何度か和田の部屋を訪れているため、三か月前の日付までははっきりと覚えてないという。だがちょうどその日は、ある有名作曲家が学生時代に作った曲が1日限りの期限付きでダウンロードできる日だった。和田は日付が変わりそうになる前にそれを思い出し、友人の目の前でその曲をダウンロードして聞かせた。友人は聞いた曲を覚えていたため、日付の記憶はあいまいながらも富岡が殺害された時刻の和田のアリバイは成立してしまった。

アリバイとは別に、警察は和田のことを調べていた。以前富岡の家に強引にセールスに押し入った雑草駆除業者の風貌が和田に似ているという証言を得たことから、富岡が自分の父親を殺して庭に埋めているのではないかと疑った和田が、富岡の反応を見るために業者を装ったのではないかと考えた。そしてかたくなに警察を呼ぼうとしない富岡の様子に確信し、犯行に及んだ。

脆弱ながらも崩せない和田のアリバイに、時乃はあっさりと崩れたと笑う。

 

心理学を専攻しているという和田によって、計算しつくされたアリバイトリックでした。

人の認識のあいまいさや錯覚を利用した、気の長いアリバイ工作でした。アリバイのために自分を信じてくれる友人を騙したと後悔していた和田は、アリバイを崩されたことに安堵していました。

 

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アリバイづくして非常に読み応えのある短編でした。

アリバイが解かれる前と解かれた後では、事件の見方が180度変わってしまうものもありました。犯人側に同情の余地がある事件も多く、アリバイ崩しによって犯人サイドの思いも全て壊されるのには少し切なさも感じます。

犯罪を肯定するわけではありませんが、エンターテイメントとして読む分には救いの部分も欲しい気がします。もやもやとする分余韻が残る一冊でした。ぜひシリーズ化してほしいです。