大山誠一郎『赤い博物館』あらすじとネタバレ感想

大山誠一郎さんの「赤い博物館」のあらすじと感想をまとめました。

過去の捜査資料や遺留品を今後の調査・研究・捜査員の教育に用いるという警視庁付属の犯罪資料館という名の大型保管庫に左遷された寺田聡と、キャリア警視の官庁・緋色冴子のコンビが、未解決事件を解決する短編集です。

未解決事件ものというと、テレビドラマの「おみやさん」や「再捜査刑事」を思い出します。純粋に過去の資料と証拠品から矛盾点を見つけ出し、真犯人を推理していくという過程が魅力的な一冊でした。

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「赤い博物館」書籍概要

企みを、看破せよ―!キャリアながら“警視庁付属犯罪資料館”の館長に甘んじる謎多き美女と、一刻も早く汚名を返上し捜査一課に戻りたい巡査部長。図らずも「迷宮入り、絶対阻止」に向けて共闘することになった二人が挑む、難事件。予測不能の神業トリックが冴え渡る、著者初の本格警察小説!! 「BOOK」データベースより

  • 赤い博物館(2015年9月/文藝春秋)
  • 赤い博物館(2018年9月/文春文庫)
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パンの身代金

大失態により捜査一課から犯罪資料館へと左遷された寺田の日々は、過去の証拠品の整理とラベル貼りの毎日だった。ある日冴子から「中島製パン株式会社恐喝・社長殺害事件」の捜査資料を読むように言われる。

事件は15年前、スーパーに並ぶ中島製パンの商品に針を混入され、5億円が要求される事件が起きた。犯人は用心深く手紙にて社長に金を持ってくるよう要求した。社長はお金とともに自らの運転で出発した。その車の後部座席に連絡係として特殊班の鳥井が潜み、周囲の刑事たちと連携をとっていた。

運転中、初めて社長の携帯に犯人から連絡が入った。指定された場所に向かうと2度目の電話が入り、ある廃屋を指定した。鳥井からの連絡により捜査員が廃屋に先回りし犯人が現れるのを見張っていた。社長の車が廃屋に到着し、5億円の入ったトランクケースを手に廃屋へと入っていった。

しばらく待つものの音沙汰がない。50分後、見張りの刑事と鳥井が廃屋へと突入するが、お金の入ったトランクを残し社長は忽然と姿を消していた。その後、防空壕が見つかり、社長は廃屋から防空壕を抜けて二車線道路へと行ったと見なされた。発覚がおくれたため検問は間に合わなかった。

翌午前6時過ぎ、廃屋から30キロ離れた河川敷で、社長の刺殺体が発見された。死亡推定時刻は、社長が廃屋に着いた午後8時半から9時の間とされた。社長の遺体から、ズボンのベルトに装着するホルダーから携帯電話が消えていた。

冴子の指示で寺田は鳥井、社長の弟の現社長・高木と面会した。高木は当時は専務で、被害者と会社の方針で争っており有力な容疑者と見られたが、事件当時、営業部長の安田の自宅で碁を打っており、警察の調べにより犯行は不可能と見なされた。寺田は冴子に言われた通り、高木にどちらが碁の勝負に勝ったのか聞くと、気持ちよいくらいのストレート勝ちをしたと返事があった。

その話を聞いた冴子は、事件の真相について寺田に話して聞かせた。

 

全編を通して、抜群の頭脳を持つがコミュニケーション能力に疑問がある冴子が、捜査一課で鍛えてきた寺田が過去の事件関係者に話を聞いて持ち帰ってくる答えをもとに事件の真相に迫るという流れとなっています。

恐喝事件をカモフラージュにした、とんでもない殺害計画が実行されていました。いずれはと一課に返り咲きを狙っていた寺田ですが、この件で古巣の一課の係長から恨まれ禍根を残した形になりました。

復讐日記

死亡した被疑者の復讐日記を寺田は読んだ。作者の高見は殺された元恋人・麻衣子の復讐に至る経緯を日記として詳細につづっていた。

ある日、別れた麻衣子から相談があると呼び出された高見は、約束の時間に麻衣子の部屋へ行き、彼女が何者かにベランダから突き落とされて死亡したことを知らされた。麻衣子は妊娠三か月、父親は不明だった。麻衣子の母と良好な付き合いのあった高見は復讐心を見抜かれ止められるものの、密かに彼女を殺した犯人を捜していた。

高見が犯人と見なしたのは、自分の指導教官・奥村教授だった。問い詰めた結果犯行を認めた奥村を、高見は殺した。

その後、高見が暮らす学生アパートに窓ガラスを破って侵入するという窃盗事件が起き、後日警察にその時盗まれたと思われる復讐日記

が匿名で送り付けられてきた。捜査員が奥村のマンションへ行くと、死後数日が経った遺体があった。高見のアパートへ行った捜査員の姿をみると高見は逃げ出し、ちょうどやってきたトラックに跳ねられて即死した。

冴子の指示で麻衣子の両親から話を聞いた寺田は、高見が誰かをかばう為に復讐日記をつけたのだと考え、該当しそうな人物・麻衣子の両親に奥村殺しのアリバイがなかったことを報告した。報告を聞いた冴子の出した結論(高見がかばった人物)は、意外な人物だった。

 

復讐日記自体が作為的で何かのトリックだろうなと読み始め、そこまでは合っていたのですが、肝心の高見がかばおうとしていた人物は外れました。トラックに跳ねられず逮捕されても、高見は真犯人をかばっていたと思います。

死が共犯者を別つまで

寺田は大型トラックと乗用車が正面衝突する事故に居合わせた。乗用車を運転していた初老の男性・友部は、かすれがちな声で25年前の交換殺人を告白し息を引き取った。それによると、まず男友部が相手のターゲットを殺し、その一週間後に自分のターゲットを殺してもらったとのことだった。友部の告白に該当する未解決事件は6つ。

  • 9/12 ひき逃げ。被害者は滝井弘。
  • 9/12 刺殺。杉山早雄。
  • 9/15 絞殺。小山静江。
  • 9/19 撲殺。友部政義。犯人は左利きと思われる。
  • 9/22 溺死。三上晋平。
  • 9/26 轢死。斎藤千秋。

友部のターゲットが伯父の友部政義とすると、その一週間前に起きたのは滝井と杉山の事件だった。資料を読み込み検証する寺田に、冴子は2つの事件の容疑者たち、友部の妻に話を聞いてくるよう言いつけた。

事件から25年が経っており、9/19の容疑者たちはのアリバイは不明だった。25年もあれば利き手は矯正できると考えてスルーしていた寺田に対し、冴子は利き手に関して気になることがあるといった。

 

交換殺人に間違いはなかったのですが、友部の事故死により犯人たちが隠しておきたかったことが明るみに出てしまいました。確かに交換殺人のパートナーは運命共同体でした。

偶然雑誌に載っていた若手カメラマン・英美里のエッセイを読んだ冴子は、事件の捜査資料の一つだとして寺田に雑誌のコピーを手渡した。英美里は5歳の時、両親と叔母を殺されて家に火を付けられ天涯孤独になった被害者だった。

幼稚園のお泊り保育で英美里が不在だった日に事件は起きた。両親、叔母の3人は紅茶に入れられた青酸カリで毒殺されたあと、犯人によって家に火を付けられたものと考えられた。火災現場からは歯の治療痕から英美里の父親と判明した男性、妊娠していた女性、その女性とDNAで姉妹関係が認められた女性の遺体が発見された。また胎児のDNAは男性のDNAと親子関係が認められ、英美里のもうすぐ弟か妹ができるという言葉からも、3人は英美里の両親と叔母と確定された。

近所の住民が英美里の母親から、この日、叔母に復縁を迫って付きまとっている元恋人を呼んで4人で話し合いをすることを聞いており、警察は話し合いが決裂した末の犯行と見なした。

だが叔母の元恋人かと思われたものの該当する人物は一向に見つからなかった。

冴子の指示で個展会場に英美里に会いに行き話を聞いてきたものの、寺田にはなぜエッセイが捜査資料になるのかさっぱり分からない。冴子は、犯人が毒殺を選んだのが奇妙だと言う。

 

元恋人のことを警戒していただろう3人が、簡単に青酸カリを飲まされたことを疑問視した冴子により、事件は思わぬところに着地しました。

ほぼ勘で入れ替えトリックは当たりましたが、そこにどうエッセイが絡んでくるのかまでは分かりませんでした。

死に至る問い

26年前の未解決事件とまったく同じ場所、同じ状況で似たような特徴の人間が殺された。顔見知りの捜査一課の連中らが過去の資料を引き取りにやってくるなか、資料の受け渡ししかできない寺田はみじめな思いを抱いていた。そこに冴子と同期の監察官がやってきた。26年前に一般に報道されていなかった事まで今回の犯人は再現しているという。つまり、警察内部に今回の犯人がいるのではないかと疑い、秘密裏に冴子に捜査を依頼した。

冴子に26年前、被害者の袖口についていた犯人のものと思われる血のことがどういう報道の仕方をされていたのか調べるように言われた寺田は国会図書館へ行き、また記者発表の会場へと赴く。

記者らの質問の中で、祖父から孫へ、もしくは親から子へと犯罪が継承されたのではないかという独自の見解をもつ記者がいた。二か月前、犯罪資料館を取材にきたエネルギッシュな女性記者だった。

だが倫理的観点から公にはされていないが、2つの事件の被害者の袖口に付着した血に、血縁関係は認められなかった。

資料館へと戻った寺田に報告を聞いた冴子は、事件の真相が分かったから監察官を呼べと言った。冴子は、26年前を模倣した事件が起きたことで警察が何をしたのかと口にする。

 

なぜ26年前の事件を模倣したのか。非常に回りくどく、けれどこの方法しかないというやり方を犯人は選んで実行に移していました。

犯行動機は逮捕後の犯人の口から語られましたが、本人にしか理解できない理由でした。身勝手な動機で、今回の事件に被害者に選ばれてしまった人間に救いがなさ過ぎました。

 

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「赤い博物館」はシリーズ化しているようで未収録作品がいくつかあるようですので、新刊を楽しみに待ちたいと思います。